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<22・七不思議の真実>
しおりを挟む前回のあらすじ
中年、感情の赴くままに壁を蹴る。
①
「どちら様でしたっけ?」
尾方は完全に見覚えのある悪魔に向かっておどける。
その際、さり気なくドローンに向かって静止の合図の手の平を向ける。
葉加瀬は無言でそれを受け取り、返事の代わりにドローンを尾方の後方に動かす。
「あら、もう一度自己紹介の機会をくれるなんて太っ腹ね? じゃあ折角だから、しっかりとした自己紹介をさせて頂こうこうかしら」
そう言うと搦手は、両手をおもむろに開く。
すると周りにポンポンと人形や玩具が所狭しと現れる。
それをバックに搦手は両手を広げる。
「睦首劇団(むつくびげきだん)の副団長、手中の悪魔、搦手 収よん。以後ご贔屓に♪」
口上を聴いて、尾方は警戒の色を強める。
「副団長...て言うのは初耳だね。僕が知ってる頃の睦首劇団の副団長は違う人だった筈だけど。世代交代?」
「殺しちゃった♪」
搦手は屈託なき笑顔を浮かべて言う。
尾方は失笑する。
「睦首って折角勢力は大きいのに内輪揉めばっかりしてるイメージが僕の中であったんだけど、間違っちゃいないようだね」
「ウチは自由がモットーですからん。そういうのが好きな面子が集まってるんだもん当然よねん♪」
搦手はむしろ誇らしげである。
「それで、そんな団の副団長様がこんな所に何用ですか? 自分で言うのもなんだけど、ここ何にもないよ」
「あら、それは謙遜ね。元メメント・モリのアジトってだけでここには多大な付加価値があるじゃない? それに私が用があるのは場所じゃなくて、人。貴方よ、屈折の悪魔さん」
搦手が手を開くとそこにはA4サイズ程の紙がポンと出てくる。
「はい、これ。ウチの団長から」
目にも止まらぬ速さでその紙を紙飛行機にした搦手は尾方の方へそれを飛ばす。
尾方はその紙飛行機をキャッチして言う。
「ええー...ボスの書状を紙飛行機って...自由って言うか怖い物知らずって言うか...」
ブツクサ言いながら尾方は紙飛行機を開こうとする。が、上手く広げられない。
「......えい」
引っかかった上の紙部分を破り、尾方は無理やり紙飛行機を開いた。
「いや、怖い物知らずはどっちよ」
搦手が思わずツッコミを入れるが全くその通りである。
「えーっと、なになに...ふむふむ...ぬくぬく...あぷああ...っと...」
「なんでハワイの魚が出るのよ...緊張感ゼロね貴方...」
どっちもどっちである。
一通り手紙に目を通した尾方は視線を搦手に戻す。
「掻い摘ん一言で言うと『吸収合併』の招待状かなこれは?」
「あらやだ違うわよ。同盟のお願いよん、お・ね・が・い♪ 貴方達、組織的に行動してるんでしょう? 是非その力を私達に貸してくれないかしら?」
尾方は紙をヒラヒラをはためかせて返答する。
「この組織差でお願いなんて言われても信用出来ないよ。それにそっちのメリットも見えない。正直言って不気味」
「あら、メリットなんて決まってるじゃない?」
「...聴いても?」
尾方が先を促す。
「情報よ。情報。『一番先』に消された四大組織の生き残り。この流れで見逃せる筈ないじゃない?」
「一番先...?」
尾方は怪訝そうな顔をする。
「あら、気づいてないの? ここ最近の天使側の動きの正体。二つ目からは露骨だったじゃない?」
「......」
尾方は眉をひそめて話を聴く。
「そう、天使は悪魔の四大組織を解体しようとしている。という仮説に、ウチの団長は行き着いたわけ」
「...ちょっと話が飛躍しすぎじゃない? 天使優勢たる昨今の情勢を考えると四大組織の地位が危ぶまれてるってのは分かるけどさ。それに、天使側なら四大組織の打倒は言うまでもなく行って然るべき事柄でしょう?」
尾方はあくまで見解に対して否定的な意見を並べる。恐らくカマをかけているのだろう。
それを見透かしているのかいないのか。搦手は笑顔で応える。
「注目すべきは『してる』か『してないか』じゃないでしょう? 手段よ、手段。手口が違いすぎるのよ、一つ目と二つ目の。まるで焦ってるみたいじゃない? ねぇ?」
「...焦ってる?」
尾方は言葉尻を捕まえて先を促す。
「内緒でこっそりやろうとしたのを諦めた様に焦ってる」
「内緒で...こっそり...」
尾方はハッとして口を開く。
「まさか、全部ウチと同じ様に...?」
答え合わせをしていた教師のように、搦手は大げさに口角を上げる。
「正解。本当は天使側はメメント・モリと同じ様に全ての四大組織を秘密裏に消そうとしていた可能性があるの。その方法がなんであれ、各組織に『爆弾』が仕掛けられている可能性は高い。それを知るためには、一にも二にもまず情報。ウチは爆弾抱えたまま戦争出来ないのよ」
「......」
尾方は間合いを計るように搦手を注視して半身に構える。
「そっちの意思はわかった。けどそれならこの前、僕が一人でいる時に誘わなかったのは何故かな?」
「慎重ね、それは簡単よ。貴方が組織的に動いているのか個人で動いているのか知りたかったから。個人なら縛り上げて吐かせた方が楽じゃない? 組織なら同盟組んでwin-winが理想的じゃない?」
「...うん、理には適ってるかな。物騒なのは置いておいて」
尾方は納得したように頷く。そして
「相談タイム」
手で搦手を制して尾方は言い放つ。
「いいわよ。じゃあ私その間ずっと踊ってるから急いで頂戴ね♪」
「うん、他に人がいない廊下で踊るオカマと二人きりって状況に耐えられそうにないから急ぐよ」
尾方はそういうとドローンに顔を近づける。
「...どう思う?」
「ガリ...ガリ...シャク...モグ...」
「......」
どう聞いてもスナック菓子の咀嚼音。
尾方はグッと様々は感情を押さえ込んでテイク2に移行する。
「......どう思う?」
『...ごくん。...どうもなにも怪しすぎるッスよあのオカマさん。言ってる事は的を得ているッスけど、どれも予測の域を出てないッスし...なにより今のウチで同盟って成り立つんスか?』
葉加瀬がそう言った後、後ろから身を乗り出すような音がして姫子が通話に割って入ってくる。
『ワシは悪くないと思うぞ。機会って言うのは巡り合わせじゃから組める手は組んでおけっておじじ様も言っておった』
「いや、組みに来てる手が悪意に満ちてそうって話なんだけど...」
『その時は尾方が組み合って突っ伏せれば良い』
「良くない良くない」
尾方はチラッと後ろを見る。
搦手は本当にキレッキレにダンスを踊っていた。なんかアカペラで歌いながら。
なんだこの空間。
「ねぇ、おじさんご存知の通りなにか決めるってすごく苦手なんだけど。GOサイン出して貰っていい?」
『よい! 何かあればワシがなんとかしてやる! GOじゃ!』
「ラジャ!」
『え!? いいんスか!? 絶対なんの根拠もないッスよ!?』
「GO!!」
尾方もこの空間に長く居たくないのか。それとも選択を迫まれる場面が嫌なのかゴリ圧しする。
キレッキレに踊る搦手の方を振り返り、尾方は言う。
「ボスに確認とれたよ。組んでいいってさ」
搦手は踊りをピタっと止め、ウィンクをする。
「交渉成立って事ね。話しが早くて助かるわん♪」
満面の笑みである。やっぱりめちゃくちゃ怪しいと思うんだけどいいんだろうか。
「じゃあ交渉内容の確認ね。ウチが欲しいのはさっき言った通り情報。そっちにはそうね。戦力が妥当でしょうね。後でウチの適当なの取繕って送るわん。後はそうね。不可侵の約束も付けちゃおうかしら。そうすれば安心でしょう?」
「ああ、うん。まだ信用しきれてない所あるからね。頼むよ」
「うんうん、少しづつ仲良くなって行きましょう♪」
そう言うと搦手は手の平を開き、なんとなしに宙から紙を取り出す。
「はいこれ契約書、形式上必要でしょう。履行内容を纏めて書いてあるからサイン頂戴な」
流石にこれは紙飛行機にせずに搦手は尾方に直接受け渡す。
「あいあい、後日確認してから送付するわ」
尾方は面倒そうに契約書を受け取る。
「失くさないでね? ...ところでだけど」
搦手は尾方の後ろのドローンに目を移す。
「少しでいいからそっちのボスとお話し出来ない? 存在証明というか、本当に組織だって動いてるのか不安なところあるし」
その提案に、尾方はバツが悪そうに頭を掻く。
「あー...っと、それはー...ですね...」
余りにも露骨な態度に搦手も不安げになる。
「あからさまに困ってるわね...まさか本当に一人なんじゃ...?」
「いや、違うよ。本当にいるんだよ? いるんだけどさぁ...」
その時、
『よい尾方! ここはしっかりワシが話をつけよう!』
後ろのドローンから声が響き渡った
予想の数百倍高い声耳に入ってきた搦手は、目を点にして尾方を見る。
尾方は苦笑いで頷く。
恐る恐るドローンに近づく搦手、
すると、ドローンのOGフォンの部分のモニターに電源が入り、姫子の姿が映し出される。
『うむ! ご足労であった睦首劇団の使者よ! ワシが現メメント・モリが長! 悪道総司が孫娘! 悪道姫子である!』
これでもかと誇らしげに姫子は宣言する。
あ、そっか。外に向けての宣言とかしたことないもんね。したかったんだね。
尾方は色々悟った表情をする。
「......」
搦手は完全に呆気にとられている。
まぁ当然である。同盟先のボスが年端も行かない少女なんて誰も考え――
その時、搦手は目にも止まらぬ速さで尾方からさっき渡した契約書を奪い取る。
「...へ?」
突然の事に完全に意表をつかれた尾方の目の前で搦め手は契約書をビリビリに破る。
「お、おいおい...ちょっとちょっと?」
尾方は動揺半分警戒半分に身構える。
そして手を開くとそこに小さな機械が現れる。
その瞬間、OGフォンの映像が乱れる。
俯いた搦手の肩がわなわなと震えている。
「......けん...な」
「...へ?」
かすかに震えた唇から漏れた声を尾方が聞き返す。
今度は唇ではなく、大きく喉を揺らし、搦手は怒鳴る。
「――ふざけんじゃないわよ!!! あの娘がボスだって!!!!?」
完全に怒髪天を衝いている。
状況を呑みこみ尾方は臨戦体勢をとる。
次の一言と共に攻撃が来る――――
「めっっっっちゃくちゃカワイイじゃない!!!!! ズルいわよ!!!!!!」
「は?」
――は?
来たのは攻撃ではなく糾弾の声であった。
余りに予想の範疇の外の発言が飛び出すものだから、尾方は言葉の内容を理解する事が出来ない。
呆気に取られる尾方を他所に、搦手は話しを進める。
「悪魔になって苦節10と数年、私はついに見つけたわ!! 私が遣えるべきボスを!!!」
興奮の余りか搦手はその場でクルクルと回る。
「悪魔として好き勝手自由にしたい! 趣味のプリチーと接していたい! その両方の夢を叶える組織がこんな所にあったのね!!」
感極まったように搦手は両の手を天に掲げる。
唖然とする尾方。すると搦手は急に尾方の方を見る。
「あんないたいけで素晴らしいボスを危ない目に合わしちゃ駄目よ! しっかりしなさい!」
突然叱咤され尾方は疑問符を増やす他ない。
「え...っと? なにが...?」
「同盟の話よ!! もっと警戒なさい!! あの契約書は縦読みで『乙(メメント・モリ)の一切の権限を丙(睦首劇団)に譲渡します』って書いてあるの!! 戦力だって適当な捨て駒一般戦闘員を向かわせるつもりだったわ!! そしたら危険に晒されるのは貴方だけじゃなくあの子もなのよ!!!」
「え...? えー...?」
とんでもないネタ晴らしである。しかもなんか怒られている。
尾方が状況を上手くの飲み込めずにあくせくしていると、「全く」っとフンと鼻を鳴らして搦手が手を閉じて小さな機械をしまう。
すると、モニターの映像が元に戻る。
『んん? なんじゃったんじゃ? なんか映像が乱れてしまったのだけれども』
姫子がカメラを覗き込んでいる姿が映る。
すると、さっきの興奮どこ吹く風よ。冷静を装った搦手が姫子に語りかける。
「あら、ごめんなさい。少し電波が悪いみたいねん♪」
あっけからんに言ってみせる。
『おお、そうか。大事ないならいいんじゃ。さっきの話の続きなんじゃが...』
「大丈夫、ちゃんと聴こえてたわ。現メメント・モリのボス。悪道姫子ちゃんね。ご丁寧にどうもありがとう。立派ね」
『い、いやー、それほどでもー? ないがのー?』
ウチのボスが著しくチョロい。
尾方がそんな目線を向けている。
「ところで提案があるの、さっき言ってたウチからの派遣戦力。私じゃ駄目かしら?」
突然の提案に尾方はまたも目を丸くする。
『おお、それは願ってもない事じゃが。いいのかの? お主副団長なのだろう?』
「いいのいいの。それだけそちらとウチの組織が仲良くしたいって事なのよ。貴方みたいな新進気鋭なボスがいる組織だもの」
『そうかの? そうかのー? そういうことなら喜んでお受けしようかの? わはは』
わはは、じゃないが。
尾方は頭を抱えている。
『では契約書を見せて貰ってよいか? 一応目を通したいのじゃが...』
「さっきの契約書は...半印が漏れてたから、今度私が直接持っていくわ。『一緒』に確認しましょ?」
『おお、そうか。ワシはまだまだ契約関連には疎いゆえ、大変助かるぞ』
「いいのいいの。私達もう、仲間じゃない?」
『うむうむ、心強いのう』
尾方は冷静装う搦手に冷たい視線を送る。
後ろに回した手を血が滲むほど握り締めてるんだけれども。
悶えようとしてるの我慢してるんだけども。
これは姫子に近づけていいものか...。
尾方は一種の危機感を感じて苦笑いをする。
『じゃ、私はたった今からメメント・モリの作戦に参加するわねん♪ 朗・報、期待してて♪』
そういうとカメラに手を振ってドローンから離れる。
「という事だから、以後よろしくねん」
「いや無理無理無理無理無理。出来ないよよろしく出来ない」
「なんでよ? 貴方一人じゃ姫子ちゃんを任せられないからお手伝いしてあげるって言ってんの。快諾してよん♪」
搦手はご機嫌である。
尾方は深く溜息をする。
「まま、取り合えず状況を教えて頂戴よ? 久々に張り切っちゃうんだから♪」
ウィンクをする搦手。
尾方は観念したように頭を垂れると。
歩き出しながら言う。
「じゃあ、道すがら説明するから着いて来てよ。ついでに少しだけ情報もあげるから」
「あー、そういえばそうだったわね。じゃあ一応貰っておこうかしら」
ついででいいのかよ。
尾方は口を尖らせるとアジトを奥へと足を進める。
その後に続くは思わぬ形で仲間になった悪魔。
信頼の真反対に位置する二人は、足を並べて戦地へ赴いていった。
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑬」END
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑭」へ続く
中年、感情の赴くままに壁を蹴る。
①
「どちら様でしたっけ?」
尾方は完全に見覚えのある悪魔に向かっておどける。
その際、さり気なくドローンに向かって静止の合図の手の平を向ける。
葉加瀬は無言でそれを受け取り、返事の代わりにドローンを尾方の後方に動かす。
「あら、もう一度自己紹介の機会をくれるなんて太っ腹ね? じゃあ折角だから、しっかりとした自己紹介をさせて頂こうこうかしら」
そう言うと搦手は、両手をおもむろに開く。
すると周りにポンポンと人形や玩具が所狭しと現れる。
それをバックに搦手は両手を広げる。
「睦首劇団(むつくびげきだん)の副団長、手中の悪魔、搦手 収よん。以後ご贔屓に♪」
口上を聴いて、尾方は警戒の色を強める。
「副団長...て言うのは初耳だね。僕が知ってる頃の睦首劇団の副団長は違う人だった筈だけど。世代交代?」
「殺しちゃった♪」
搦手は屈託なき笑顔を浮かべて言う。
尾方は失笑する。
「睦首って折角勢力は大きいのに内輪揉めばっかりしてるイメージが僕の中であったんだけど、間違っちゃいないようだね」
「ウチは自由がモットーですからん。そういうのが好きな面子が集まってるんだもん当然よねん♪」
搦手はむしろ誇らしげである。
「それで、そんな団の副団長様がこんな所に何用ですか? 自分で言うのもなんだけど、ここ何にもないよ」
「あら、それは謙遜ね。元メメント・モリのアジトってだけでここには多大な付加価値があるじゃない? それに私が用があるのは場所じゃなくて、人。貴方よ、屈折の悪魔さん」
搦手が手を開くとそこにはA4サイズ程の紙がポンと出てくる。
「はい、これ。ウチの団長から」
目にも止まらぬ速さでその紙を紙飛行機にした搦手は尾方の方へそれを飛ばす。
尾方はその紙飛行機をキャッチして言う。
「ええー...ボスの書状を紙飛行機って...自由って言うか怖い物知らずって言うか...」
ブツクサ言いながら尾方は紙飛行機を開こうとする。が、上手く広げられない。
「......えい」
引っかかった上の紙部分を破り、尾方は無理やり紙飛行機を開いた。
「いや、怖い物知らずはどっちよ」
搦手が思わずツッコミを入れるが全くその通りである。
「えーっと、なになに...ふむふむ...ぬくぬく...あぷああ...っと...」
「なんでハワイの魚が出るのよ...緊張感ゼロね貴方...」
どっちもどっちである。
一通り手紙に目を通した尾方は視線を搦手に戻す。
「掻い摘ん一言で言うと『吸収合併』の招待状かなこれは?」
「あらやだ違うわよ。同盟のお願いよん、お・ね・が・い♪ 貴方達、組織的に行動してるんでしょう? 是非その力を私達に貸してくれないかしら?」
尾方は紙をヒラヒラをはためかせて返答する。
「この組織差でお願いなんて言われても信用出来ないよ。それにそっちのメリットも見えない。正直言って不気味」
「あら、メリットなんて決まってるじゃない?」
「...聴いても?」
尾方が先を促す。
「情報よ。情報。『一番先』に消された四大組織の生き残り。この流れで見逃せる筈ないじゃない?」
「一番先...?」
尾方は怪訝そうな顔をする。
「あら、気づいてないの? ここ最近の天使側の動きの正体。二つ目からは露骨だったじゃない?」
「......」
尾方は眉をひそめて話を聴く。
「そう、天使は悪魔の四大組織を解体しようとしている。という仮説に、ウチの団長は行き着いたわけ」
「...ちょっと話が飛躍しすぎじゃない? 天使優勢たる昨今の情勢を考えると四大組織の地位が危ぶまれてるってのは分かるけどさ。それに、天使側なら四大組織の打倒は言うまでもなく行って然るべき事柄でしょう?」
尾方はあくまで見解に対して否定的な意見を並べる。恐らくカマをかけているのだろう。
それを見透かしているのかいないのか。搦手は笑顔で応える。
「注目すべきは『してる』か『してないか』じゃないでしょう? 手段よ、手段。手口が違いすぎるのよ、一つ目と二つ目の。まるで焦ってるみたいじゃない? ねぇ?」
「...焦ってる?」
尾方は言葉尻を捕まえて先を促す。
「内緒でこっそりやろうとしたのを諦めた様に焦ってる」
「内緒で...こっそり...」
尾方はハッとして口を開く。
「まさか、全部ウチと同じ様に...?」
答え合わせをしていた教師のように、搦手は大げさに口角を上げる。
「正解。本当は天使側はメメント・モリと同じ様に全ての四大組織を秘密裏に消そうとしていた可能性があるの。その方法がなんであれ、各組織に『爆弾』が仕掛けられている可能性は高い。それを知るためには、一にも二にもまず情報。ウチは爆弾抱えたまま戦争出来ないのよ」
「......」
尾方は間合いを計るように搦手を注視して半身に構える。
「そっちの意思はわかった。けどそれならこの前、僕が一人でいる時に誘わなかったのは何故かな?」
「慎重ね、それは簡単よ。貴方が組織的に動いているのか個人で動いているのか知りたかったから。個人なら縛り上げて吐かせた方が楽じゃない? 組織なら同盟組んでwin-winが理想的じゃない?」
「...うん、理には適ってるかな。物騒なのは置いておいて」
尾方は納得したように頷く。そして
「相談タイム」
手で搦手を制して尾方は言い放つ。
「いいわよ。じゃあ私その間ずっと踊ってるから急いで頂戴ね♪」
「うん、他に人がいない廊下で踊るオカマと二人きりって状況に耐えられそうにないから急ぐよ」
尾方はそういうとドローンに顔を近づける。
「...どう思う?」
「ガリ...ガリ...シャク...モグ...」
「......」
どう聞いてもスナック菓子の咀嚼音。
尾方はグッと様々は感情を押さえ込んでテイク2に移行する。
「......どう思う?」
『...ごくん。...どうもなにも怪しすぎるッスよあのオカマさん。言ってる事は的を得ているッスけど、どれも予測の域を出てないッスし...なにより今のウチで同盟って成り立つんスか?』
葉加瀬がそう言った後、後ろから身を乗り出すような音がして姫子が通話に割って入ってくる。
『ワシは悪くないと思うぞ。機会って言うのは巡り合わせじゃから組める手は組んでおけっておじじ様も言っておった』
「いや、組みに来てる手が悪意に満ちてそうって話なんだけど...」
『その時は尾方が組み合って突っ伏せれば良い』
「良くない良くない」
尾方はチラッと後ろを見る。
搦手は本当にキレッキレにダンスを踊っていた。なんかアカペラで歌いながら。
なんだこの空間。
「ねぇ、おじさんご存知の通りなにか決めるってすごく苦手なんだけど。GOサイン出して貰っていい?」
『よい! 何かあればワシがなんとかしてやる! GOじゃ!』
「ラジャ!」
『え!? いいんスか!? 絶対なんの根拠もないッスよ!?』
「GO!!」
尾方もこの空間に長く居たくないのか。それとも選択を迫まれる場面が嫌なのかゴリ圧しする。
キレッキレに踊る搦手の方を振り返り、尾方は言う。
「ボスに確認とれたよ。組んでいいってさ」
搦手は踊りをピタっと止め、ウィンクをする。
「交渉成立って事ね。話しが早くて助かるわん♪」
満面の笑みである。やっぱりめちゃくちゃ怪しいと思うんだけどいいんだろうか。
「じゃあ交渉内容の確認ね。ウチが欲しいのはさっき言った通り情報。そっちにはそうね。戦力が妥当でしょうね。後でウチの適当なの取繕って送るわん。後はそうね。不可侵の約束も付けちゃおうかしら。そうすれば安心でしょう?」
「ああ、うん。まだ信用しきれてない所あるからね。頼むよ」
「うんうん、少しづつ仲良くなって行きましょう♪」
そう言うと搦手は手の平を開き、なんとなしに宙から紙を取り出す。
「はいこれ契約書、形式上必要でしょう。履行内容を纏めて書いてあるからサイン頂戴な」
流石にこれは紙飛行機にせずに搦手は尾方に直接受け渡す。
「あいあい、後日確認してから送付するわ」
尾方は面倒そうに契約書を受け取る。
「失くさないでね? ...ところでだけど」
搦手は尾方の後ろのドローンに目を移す。
「少しでいいからそっちのボスとお話し出来ない? 存在証明というか、本当に組織だって動いてるのか不安なところあるし」
その提案に、尾方はバツが悪そうに頭を掻く。
「あー...っと、それはー...ですね...」
余りにも露骨な態度に搦手も不安げになる。
「あからさまに困ってるわね...まさか本当に一人なんじゃ...?」
「いや、違うよ。本当にいるんだよ? いるんだけどさぁ...」
その時、
『よい尾方! ここはしっかりワシが話をつけよう!』
後ろのドローンから声が響き渡った
予想の数百倍高い声耳に入ってきた搦手は、目を点にして尾方を見る。
尾方は苦笑いで頷く。
恐る恐るドローンに近づく搦手、
すると、ドローンのOGフォンの部分のモニターに電源が入り、姫子の姿が映し出される。
『うむ! ご足労であった睦首劇団の使者よ! ワシが現メメント・モリが長! 悪道総司が孫娘! 悪道姫子である!』
これでもかと誇らしげに姫子は宣言する。
あ、そっか。外に向けての宣言とかしたことないもんね。したかったんだね。
尾方は色々悟った表情をする。
「......」
搦手は完全に呆気にとられている。
まぁ当然である。同盟先のボスが年端も行かない少女なんて誰も考え――
その時、搦手は目にも止まらぬ速さで尾方からさっき渡した契約書を奪い取る。
「...へ?」
突然の事に完全に意表をつかれた尾方の目の前で搦め手は契約書をビリビリに破る。
「お、おいおい...ちょっとちょっと?」
尾方は動揺半分警戒半分に身構える。
そして手を開くとそこに小さな機械が現れる。
その瞬間、OGフォンの映像が乱れる。
俯いた搦手の肩がわなわなと震えている。
「......けん...な」
「...へ?」
かすかに震えた唇から漏れた声を尾方が聞き返す。
今度は唇ではなく、大きく喉を揺らし、搦手は怒鳴る。
「――ふざけんじゃないわよ!!! あの娘がボスだって!!!!?」
完全に怒髪天を衝いている。
状況を呑みこみ尾方は臨戦体勢をとる。
次の一言と共に攻撃が来る――――
「めっっっっちゃくちゃカワイイじゃない!!!!! ズルいわよ!!!!!!」
「は?」
――は?
来たのは攻撃ではなく糾弾の声であった。
余りに予想の範疇の外の発言が飛び出すものだから、尾方は言葉の内容を理解する事が出来ない。
呆気に取られる尾方を他所に、搦手は話しを進める。
「悪魔になって苦節10と数年、私はついに見つけたわ!! 私が遣えるべきボスを!!!」
興奮の余りか搦手はその場でクルクルと回る。
「悪魔として好き勝手自由にしたい! 趣味のプリチーと接していたい! その両方の夢を叶える組織がこんな所にあったのね!!」
感極まったように搦手は両の手を天に掲げる。
唖然とする尾方。すると搦手は急に尾方の方を見る。
「あんないたいけで素晴らしいボスを危ない目に合わしちゃ駄目よ! しっかりしなさい!」
突然叱咤され尾方は疑問符を増やす他ない。
「え...っと? なにが...?」
「同盟の話よ!! もっと警戒なさい!! あの契約書は縦読みで『乙(メメント・モリ)の一切の権限を丙(睦首劇団)に譲渡します』って書いてあるの!! 戦力だって適当な捨て駒一般戦闘員を向かわせるつもりだったわ!! そしたら危険に晒されるのは貴方だけじゃなくあの子もなのよ!!!」
「え...? えー...?」
とんでもないネタ晴らしである。しかもなんか怒られている。
尾方が状況を上手くの飲み込めずにあくせくしていると、「全く」っとフンと鼻を鳴らして搦手が手を閉じて小さな機械をしまう。
すると、モニターの映像が元に戻る。
『んん? なんじゃったんじゃ? なんか映像が乱れてしまったのだけれども』
姫子がカメラを覗き込んでいる姿が映る。
すると、さっきの興奮どこ吹く風よ。冷静を装った搦手が姫子に語りかける。
「あら、ごめんなさい。少し電波が悪いみたいねん♪」
あっけからんに言ってみせる。
『おお、そうか。大事ないならいいんじゃ。さっきの話の続きなんじゃが...』
「大丈夫、ちゃんと聴こえてたわ。現メメント・モリのボス。悪道姫子ちゃんね。ご丁寧にどうもありがとう。立派ね」
『い、いやー、それほどでもー? ないがのー?』
ウチのボスが著しくチョロい。
尾方がそんな目線を向けている。
「ところで提案があるの、さっき言ってたウチからの派遣戦力。私じゃ駄目かしら?」
突然の提案に尾方はまたも目を丸くする。
『おお、それは願ってもない事じゃが。いいのかの? お主副団長なのだろう?』
「いいのいいの。それだけそちらとウチの組織が仲良くしたいって事なのよ。貴方みたいな新進気鋭なボスがいる組織だもの」
『そうかの? そうかのー? そういうことなら喜んでお受けしようかの? わはは』
わはは、じゃないが。
尾方は頭を抱えている。
『では契約書を見せて貰ってよいか? 一応目を通したいのじゃが...』
「さっきの契約書は...半印が漏れてたから、今度私が直接持っていくわ。『一緒』に確認しましょ?」
『おお、そうか。ワシはまだまだ契約関連には疎いゆえ、大変助かるぞ』
「いいのいいの。私達もう、仲間じゃない?」
『うむうむ、心強いのう』
尾方は冷静装う搦手に冷たい視線を送る。
後ろに回した手を血が滲むほど握り締めてるんだけれども。
悶えようとしてるの我慢してるんだけども。
これは姫子に近づけていいものか...。
尾方は一種の危機感を感じて苦笑いをする。
『じゃ、私はたった今からメメント・モリの作戦に参加するわねん♪ 朗・報、期待してて♪』
そういうとカメラに手を振ってドローンから離れる。
「という事だから、以後よろしくねん」
「いや無理無理無理無理無理。出来ないよよろしく出来ない」
「なんでよ? 貴方一人じゃ姫子ちゃんを任せられないからお手伝いしてあげるって言ってんの。快諾してよん♪」
搦手はご機嫌である。
尾方は深く溜息をする。
「まま、取り合えず状況を教えて頂戴よ? 久々に張り切っちゃうんだから♪」
ウィンクをする搦手。
尾方は観念したように頭を垂れると。
歩き出しながら言う。
「じゃあ、道すがら説明するから着いて来てよ。ついでに少しだけ情報もあげるから」
「あー、そういえばそうだったわね。じゃあ一応貰っておこうかしら」
ついででいいのかよ。
尾方は口を尖らせるとアジトを奥へと足を進める。
その後に続くは思わぬ形で仲間になった悪魔。
信頼の真反対に位置する二人は、足を並べて戦地へ赴いていった。
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑬」END
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル⑭」へ続く
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隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

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