恋とオバケと梟と

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中

文字の大きさ
上 下
13 / 30

<13・君ありて幸福>

しおりを挟む
 バルテルが持ち込んだ酒で盛り上がる古龍シェンは、酔うに従って外見が変化した。頭の上にツノが飛び出し、続いて肌に鱗が現れる。最終的には長い尻尾が揺れ始めた。バルテルの話だと、酔い潰れたら龍に戻るそうだ。

 本体が龍なので、正体不明になると元の姿になるのだ。その辺は魔族にも似たようなのが居たから分かる。

「ところで、ツノ……じゃなくて、えっとシドウ殿」

 シェンは多少怪しい呂律で僕を呼んだ。両手で干し肉を掴んで齧る琥珀の膝の上に転がる僕は、『なんですか』と尋ねた。声を出さないと聞いてるか、分からないだろうし。

「当代の魔王殿が勇者に倒されたとすると、数十年は動かぬであろう。なぜベリアルが彷徨いておるのか」

 ああ、なるほど。普段なら魔王が斃れると数十年は閉じこもって回復に魔力を注ぐ。その間は他の魔族も大きな動きはしない。なぜなら魔王はひとつのシステムだった。魔族の魔力は魔王の能力に比例する。魔王が玉座にいなければ、その間は魔族の能力が格段に落ちるのだ。

 掻い摘んでその話をすると、シェンは驚いた様子で目を見開いた。あれ? これって周知の事実で秘密じゃないよな?

「そのような事情、初めて聞いたぞ」

『そう、なのか? 皆知ってると思ってた』

 素で返した僕の右側で、バルテルが唸る。

「それであの魔族、ベリアルだったか。あいつも強気に出られなかったのか」

 威嚇はしたが、最終的には契約を持ち出した。つまり森人の集落を相手取って戦うのは不利で、今後に差し支えると判断したのだろう。

「バルテル、魔族を滅ぼすぞ」

「そうだな。盟約を破ろうとしたことだし、琥珀に危害が及ぶ。何より、こんなチャンスは二度とない」

 魔族……そんなに嫌われてたんだ。好かれる要素は見当たらないけど、滅ぼすほど憎まれてるとは知らなかった。

「他に何か情報はないか」

『逆に質問してよ、答えるから』

 僕としては琥珀が最優先だ。数百年に及ぶ孤独を癒してくれたし、僕を初めて人扱いした友達だった。幼子だから、今後は彼の成長を助ける庇護者でありたい。持っている知識や知恵が役立つなら、大いに活用して琥珀を守ってくれ。

「魔王に他に弱点はあるか」

『今の魔王は数十回の再生に耐えたから、もう交代時期だと思う。もしかしたらツノが折れたのも、そういう事情だったりして』

 今まで魔王の頭上にいて、何度か攻撃を当てられたこともある。だが一度も折れなかった。先が欠けたことはあったけど、あれもついこの間の話だ。弱体化している可能性があった。数十回も再生と破壊を繰り返せば、強靭な魔族の体も脆くなるはずだ。

「なるほどな……」

 考えられる。鍛治を行う森人バルテルは、己の経験に照らして納得した。

「新しい魔王が誕生する条件を知ってるか?」

『確か、魔力量だっけ』

 今の魔王を凌ぐ魔力を持つ、魔族が魔王を消滅させることで、次の王が生まれる。戦いは魔力をぶつけ合うシンプルな戦いで、故に魔力量だけが重要視された。技術や魔法の扱い方は要らない。

「そうだ。ならば、ツノのシドウ殿を持つコハクが次の魔王だな」

 シェンはにやりと笑った後、後ろにぐらりと倒れた。いびきをかいて寝ている。酔いが限界に達したらしい。

「おい、逃げるぞ」

 まだ肉を齧る琥珀を急かしたバルテルは酒瓶を掴み、反対の手で琥珀の手を握って走り出した。右手に肉を持つ琥珀が伸ばした左手に掴まれ、僕もかろうじて一緒に離脱する。

 ぐがぁああ! 大きな寝言が響いたと同時、洞窟の半分を埋める巨大龍が出現した。完全に酔うと元に戻るって、本当だったんだな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*

gaction9969
ライト文芸
 ゴッドオブスポーツ=ボッチャ!!  ボッチャとはッ!! 白き的球を狙いて自らの手球を投擲し、相手よりも近づけた方が勝利を得るというッ!! 年齢人種性別、そして障害者/健常者の区別なく、この地球の重力を背負いし人間すべてに平等たる、完全なる球技なのであるッ!!  そしてこの物語はッ!! 人智を超えた究極競技「デフィニティボッチャ」に青春を捧げた、五人の青年のッ!! 愛と希望のヒューマンドラマであるッ!!

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

金字塔の夏

阿波野治
ライト文芸
中学一年生のナツキは、一学期の終業式があった日の放課後、駅ビルの屋上から眺めた景色の中に一基のピラミッドを発見する。親友のチグサとともにピラミッドを見に行くことにしたが、様々な困難が二人の前に立ちはだかる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...