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<22・First>
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最初に動いたのは、ミリアの方だった。
「天駆ける方舟の使徒よ!我名の元に命を受けよ、“洗脳”!」
彼女が簡易魔法書を掲げて宣言すると、繁みの中から二つの影が飛び出してきた。
メイド頭のシェリーと、年若い執事の少年・ギルバートである。ふたりとも、異様なほどギラついた目で朝香を睨んでいる。その手にナイフと剣を構えて。その目は到底、仕えるべき主を見るそれではない。
「お嬢様、酷いですよ。俺達のこと家族だって言ってくれてたの、信じてたのに。……お嬢様がまさか、この家を滅茶苦茶にして乗っ取ろうとするウィルビー家の敵だったなんて」
悲痛な表情で告げるギルバートの手には、レイピア。
「お嬢様、幼い頃から何度も何度も教育して差し上げましたよね。この家の後継ぎとしての誇りを忘れることなきように、その力で一人でも多くの弱き者を救う使命を背負うようにと。それを忘れてしまった貴女はもう、我が主ではありません。私達は弱者を、ミリアを守らないといけませんから……悪魔のような、貴女の手から」
ナイフを構え、断言するシェリー。この屋敷では基本的に、執事は長剣か銃、メイドはナイフの訓練を受けるのが普通だった。何故メイドがナイフでの格闘術を基本とするのかは、彼女らが最悪の場合暗殺を依頼されることも見込まれてのことである。また、服に隠すことができる小ぶりのナイフはあらゆる場で持ち込みやすく、また女性の腕力でも扱いやすい。近接戦闘を主軸とすることで、基礎体力の底上げも図る意味がある――とかなんとか。
シェリーはメイド頭なので、その技は熟練クラス。ギルバートも、レイピアの腕はピカイチだとフィリップに高い評価を受けていたはず。そのまま戦うにはあまりにも分が悪い相手である。
――なるほど。再度詠唱することで、予め与えた命令をさらに強化できるってわけなのか。
恐らく彼女も、ジュリアンが婚約破棄書にサインできなかったことは知っているはず。簡易魔法書で人を操っても完全ではないことの証明である。本人の意思の強さもさることながら、簡易魔法書の魔法そのものが完璧なものではなかったということだろう。元々魔法とは本人の魔力で奇跡を起こすべきもの。それを無理矢理本に込めた魔力でどうにかしようというのだから、綻びが出るのも当然ではあるだろう。
「私を追い出すんじゃなくて、殺す方向にシフトしたわけ?」
「まあ、そんなところね」
フン、と鼻で笑う、ミリアの顔をした転生者。
「人間、いじめられること以上に、いじめの罪を着せられるって精神的にクるもんだもの。あたしも学校でそういうの経験したからよーく知ってるのよね。だから、あんたに身の程を思い知らせてやるためにも……途中から、殺すんじゃなくて悪役令嬢に仕立て上げてジュリアンに婚約破棄させたあげく、家から追い出してやるのが一番いいと思ったんだけどさ。失敗だったわ。あんたがここまでタフだとは想像してなかったもん」
お褒めに預りどーも、と朝香は心のなかで思う。実際は少し気持ちが折れそうになる瞬間もあったが、どうにか敵にバレてはいなかったらしい。
自分を支えてくれたのは、ジュリアンの電話。それから、この状況でなお信じてくれたフィリップのような人間がいたことだ。ひょっとしたら、フィリップか此処にいないのも必然なのかもしれない。本来なら召使いたちの戦闘能力のツートップはシェリーとフィリップだったはず。確実に朝香を殺したいなら、負傷しているギルバートよりフィリップの方が確実だったはずだ。
ひょっとしたら簡易魔法書の魔法は、魔法が使える人間には効果が薄かったりするのだろうか、と分析する。よくよく考えてみれば、他人を操作するような術は、サシの勝負の場合相手にかけてしまえば終わりになるのだ。あとは自害させるなり、自分の足で家から出て行かせるなりなんなりすればいいのだから。
――それなのに、今のところ輪転の魔女が、私に洗脳をかけてくる様子がない。……やらないんじゃなくて、できない可能性は大いにあるな。
勿論油断はできない。なんせ、自分はあの簡易魔法書でどのように人を操るのか、その仕組みを完全に理解しているわけではないからだ。
ただ、一見して三対一に見えるこの状況であっても、勝算がないわけではないのは事実である。何故なら成り代わりれているミリア以外の二人は、あくまで簡易魔法書で操られているだけ。術が解ければ解放される。そうなれば一気に形勢逆転だ。
――結論。狙うは、あいつの魔法書!
「死人に口なしっていうでしょ。それが一番楽だって気づいちゃった」
ニヤニヤと笑いながら、少女は言う。
「あんたを殺したあとで、術の残りを使って好きなように事実をでっち上げさせてもらう。ジュリアンもしぶとかったけど……あたしへの恋心は既に植え付けてあるもの。もう一度術をかけ直せば、さすがに折れるでしょ」
「虚しいね。人の心を操って、無理矢理愛の言葉を引き出して、悲しくないの?」
段々と憐れになってくる。思い出すのは、瑠子を交えた数名の友人達と女子会をしたときの会話だ。
異世界転生するとしたら、どんなチート能力が欲しいか?
たまたまテレビでその手のアニメをやっていたせいで、なんとなくそんな話題が出たのである。誰かが言った。最高の美少女になって、イケメンたちに溺愛されて取り合いされたい!と瑠子をはじめとした夢女子勢はその意見に賛同していた。夢小説のテンプレートだからだろう。実際多くの夢小説においては、夢ヒロインは素晴らしい美少女で、イケメンたちに何故か口説かれまくるという補正がかかるからである。
朝香も彼女らの心情をわかっていたので、曖昧に笑って流したけれど、心の中では思っていたのだ。――そんなチート能力がなければ誰からも愛されない。そんなのあまりにも悲しくならないか、と。そもそも、それは相手の心を都合よく書き換えることと何が違うのか、と。
「夢は夢だからこそ、意味があるんだよ」
辛くて退屈な現実から、逃れたいと思ってもいい。
でも、夢は夢で、現実は現実なのだ。その境界線を飛び越えることなど本来あってはいけないのである。自分たちがそのありうべからざる境界線を超えて、ゲームの中に転生などしてはならなかったように。
「誰かに愛されたいなら、まず自分を磨きなよ。愛されるための正しい努力をしなよ。自分だけじゃなくて、誰かの幸せをちゃんと願いなよ。……それをしようともせずに、自分を愛してくれない相手に価値はないなんて思うなら。都合よく愛してくれる相手をただ待つってんなら。……断言するよ、そんな人間、死んでも誰も愛さないってね!」
「黙りなさいよ、このクズ女!」
どうやらこの魔女、かなり沸点が低いらしい。わなわなと真っ赤になった顔で唇を震わせ、簡易魔法書を持った手を突き出して見せたのだ。
「あんたの綺麗事なんか聞きたくない!シェリー、ギルバート!思い知らせてやりなさい!」
ミリアの言葉と同時に、召使い二人が動いた。時間稼ぎも流石に限界か、と朝香は魔力を集中させる。
――はっきり言って、真正面からシェリーとギルバート、ミリアをまともに相手にして勝てるとは思えない。
ギルバートは先日の落馬の件での怪我が治っていない。肋骨が折れていることもあり、かなり動きが鈍っている。だがシェリーは万全な上、この家のメイドの中でも随一の戦闘能力を持っている。はっきり言って、彼女一人でも相手にするのは至難の業だ。魔法を使えないから弱いなんて、そんなことはないのである。
さらに、向こうは殺す気で向かってくるのに対して、こちらは二人を傷つけたくないのが本心。もっと言うと、洗脳が解けた後のことを考えるなら二人に“コーデリア”を傷つけさせるのも嫌なのだ。無傷で勝利し、ミリア以外の手駒になるべくダメージを与えない。まるでラスボスを相手にするかのようなハードミッション――いや、実際これは朝香にとってのラスボス戦に違いはないのだが。
――でも、戦いようはある。こっちもただ手をこまねいてたわけじゃない!
二人共洗脳されているだけなので、洗脳を解けばもとに戻る。つまり、ミリアの持っている簡易魔法書を破壊すれば、それで戦闘終了となるのだ。
そしてもう一つのアドバンテージ。それは、この場所にミリアを呼び出したのが朝香の方だということ。そう、このコーデリアがかつて使っていた花壇の跡地。こんな場所に呼び出したのは、当然理由があるわけで。
「大地の精霊よ、その魂を土塊に込めよ!“小地震”!」
習ったばかりの土属性の初級魔法を、地面に向かって放った。本来ならば大地震をも起こすことができる土属性だが、初級魔法の場合はそこまでのことはできない。精々、地面の表層を揺らして小さな揺れを引き起こすことくらいなものだ。
が、その魔法が、柔らかい土に覆われたこの場所では思わぬ効果を呼ぶのである。土が流動することで、今まさに朝香に襲いかかろうとした二人が揃って足を取られたのだ。
「!」
転倒し、動きが止まるシェリーとギルバート。勿論、大したダメージではないのですぐに起き上がるが、その数秒程度の隙があれば十分だ。朝香はさらに魔力を集中し、畳み掛ける。
「風の宴よ、我が名を讃えて吹き荒べ!“小竜巻”!」
朝香は現在、一部の初級の攻撃魔法しか教わっていないし使えない。しかし、初級クラスの威力の弱い魔法にはあるメリットがあるのである。
それは消費魔力が少ないことと、一度放ってから次を放ってまでの速射性。威力が弱い分、素早く連発することが可能なのだ。案の定、土を抉りながら走った竜巻は、シェリーとギルバートを揃って離れた場所まで吹き飛ばした。
威力は低いので、ダメージは少ないはずだ。でも。
「失敗だったね、魔女」
悔しげに顔を歪ませるミリアに、朝香は告げる。
「本当に私を殺したいなら、遠距離攻撃できるやつを呼んでくるべきだったよ」
全員近距離戦闘要員。こうして距離を強制的に取らせれば、向こうのレイピアもナイフも当たらない。
――最初のターンは、成功。
さあ、敵はどうしてくるか。
相手が朝香の仕掛けた罠にどこで気付くか――勝負の分かれ目は、そこにある。
「天駆ける方舟の使徒よ!我名の元に命を受けよ、“洗脳”!」
彼女が簡易魔法書を掲げて宣言すると、繁みの中から二つの影が飛び出してきた。
メイド頭のシェリーと、年若い執事の少年・ギルバートである。ふたりとも、異様なほどギラついた目で朝香を睨んでいる。その手にナイフと剣を構えて。その目は到底、仕えるべき主を見るそれではない。
「お嬢様、酷いですよ。俺達のこと家族だって言ってくれてたの、信じてたのに。……お嬢様がまさか、この家を滅茶苦茶にして乗っ取ろうとするウィルビー家の敵だったなんて」
悲痛な表情で告げるギルバートの手には、レイピア。
「お嬢様、幼い頃から何度も何度も教育して差し上げましたよね。この家の後継ぎとしての誇りを忘れることなきように、その力で一人でも多くの弱き者を救う使命を背負うようにと。それを忘れてしまった貴女はもう、我が主ではありません。私達は弱者を、ミリアを守らないといけませんから……悪魔のような、貴女の手から」
ナイフを構え、断言するシェリー。この屋敷では基本的に、執事は長剣か銃、メイドはナイフの訓練を受けるのが普通だった。何故メイドがナイフでの格闘術を基本とするのかは、彼女らが最悪の場合暗殺を依頼されることも見込まれてのことである。また、服に隠すことができる小ぶりのナイフはあらゆる場で持ち込みやすく、また女性の腕力でも扱いやすい。近接戦闘を主軸とすることで、基礎体力の底上げも図る意味がある――とかなんとか。
シェリーはメイド頭なので、その技は熟練クラス。ギルバートも、レイピアの腕はピカイチだとフィリップに高い評価を受けていたはず。そのまま戦うにはあまりにも分が悪い相手である。
――なるほど。再度詠唱することで、予め与えた命令をさらに強化できるってわけなのか。
恐らく彼女も、ジュリアンが婚約破棄書にサインできなかったことは知っているはず。簡易魔法書で人を操っても完全ではないことの証明である。本人の意思の強さもさることながら、簡易魔法書の魔法そのものが完璧なものではなかったということだろう。元々魔法とは本人の魔力で奇跡を起こすべきもの。それを無理矢理本に込めた魔力でどうにかしようというのだから、綻びが出るのも当然ではあるだろう。
「私を追い出すんじゃなくて、殺す方向にシフトしたわけ?」
「まあ、そんなところね」
フン、と鼻で笑う、ミリアの顔をした転生者。
「人間、いじめられること以上に、いじめの罪を着せられるって精神的にクるもんだもの。あたしも学校でそういうの経験したからよーく知ってるのよね。だから、あんたに身の程を思い知らせてやるためにも……途中から、殺すんじゃなくて悪役令嬢に仕立て上げてジュリアンに婚約破棄させたあげく、家から追い出してやるのが一番いいと思ったんだけどさ。失敗だったわ。あんたがここまでタフだとは想像してなかったもん」
お褒めに預りどーも、と朝香は心のなかで思う。実際は少し気持ちが折れそうになる瞬間もあったが、どうにか敵にバレてはいなかったらしい。
自分を支えてくれたのは、ジュリアンの電話。それから、この状況でなお信じてくれたフィリップのような人間がいたことだ。ひょっとしたら、フィリップか此処にいないのも必然なのかもしれない。本来なら召使いたちの戦闘能力のツートップはシェリーとフィリップだったはず。確実に朝香を殺したいなら、負傷しているギルバートよりフィリップの方が確実だったはずだ。
ひょっとしたら簡易魔法書の魔法は、魔法が使える人間には効果が薄かったりするのだろうか、と分析する。よくよく考えてみれば、他人を操作するような術は、サシの勝負の場合相手にかけてしまえば終わりになるのだ。あとは自害させるなり、自分の足で家から出て行かせるなりなんなりすればいいのだから。
――それなのに、今のところ輪転の魔女が、私に洗脳をかけてくる様子がない。……やらないんじゃなくて、できない可能性は大いにあるな。
勿論油断はできない。なんせ、自分はあの簡易魔法書でどのように人を操るのか、その仕組みを完全に理解しているわけではないからだ。
ただ、一見して三対一に見えるこの状況であっても、勝算がないわけではないのは事実である。何故なら成り代わりれているミリア以外の二人は、あくまで簡易魔法書で操られているだけ。術が解ければ解放される。そうなれば一気に形勢逆転だ。
――結論。狙うは、あいつの魔法書!
「死人に口なしっていうでしょ。それが一番楽だって気づいちゃった」
ニヤニヤと笑いながら、少女は言う。
「あんたを殺したあとで、術の残りを使って好きなように事実をでっち上げさせてもらう。ジュリアンもしぶとかったけど……あたしへの恋心は既に植え付けてあるもの。もう一度術をかけ直せば、さすがに折れるでしょ」
「虚しいね。人の心を操って、無理矢理愛の言葉を引き出して、悲しくないの?」
段々と憐れになってくる。思い出すのは、瑠子を交えた数名の友人達と女子会をしたときの会話だ。
異世界転生するとしたら、どんなチート能力が欲しいか?
たまたまテレビでその手のアニメをやっていたせいで、なんとなくそんな話題が出たのである。誰かが言った。最高の美少女になって、イケメンたちに溺愛されて取り合いされたい!と瑠子をはじめとした夢女子勢はその意見に賛同していた。夢小説のテンプレートだからだろう。実際多くの夢小説においては、夢ヒロインは素晴らしい美少女で、イケメンたちに何故か口説かれまくるという補正がかかるからである。
朝香も彼女らの心情をわかっていたので、曖昧に笑って流したけれど、心の中では思っていたのだ。――そんなチート能力がなければ誰からも愛されない。そんなのあまりにも悲しくならないか、と。そもそも、それは相手の心を都合よく書き換えることと何が違うのか、と。
「夢は夢だからこそ、意味があるんだよ」
辛くて退屈な現実から、逃れたいと思ってもいい。
でも、夢は夢で、現実は現実なのだ。その境界線を飛び越えることなど本来あってはいけないのである。自分たちがそのありうべからざる境界線を超えて、ゲームの中に転生などしてはならなかったように。
「誰かに愛されたいなら、まず自分を磨きなよ。愛されるための正しい努力をしなよ。自分だけじゃなくて、誰かの幸せをちゃんと願いなよ。……それをしようともせずに、自分を愛してくれない相手に価値はないなんて思うなら。都合よく愛してくれる相手をただ待つってんなら。……断言するよ、そんな人間、死んでも誰も愛さないってね!」
「黙りなさいよ、このクズ女!」
どうやらこの魔女、かなり沸点が低いらしい。わなわなと真っ赤になった顔で唇を震わせ、簡易魔法書を持った手を突き出して見せたのだ。
「あんたの綺麗事なんか聞きたくない!シェリー、ギルバート!思い知らせてやりなさい!」
ミリアの言葉と同時に、召使い二人が動いた。時間稼ぎも流石に限界か、と朝香は魔力を集中させる。
――はっきり言って、真正面からシェリーとギルバート、ミリアをまともに相手にして勝てるとは思えない。
ギルバートは先日の落馬の件での怪我が治っていない。肋骨が折れていることもあり、かなり動きが鈍っている。だがシェリーは万全な上、この家のメイドの中でも随一の戦闘能力を持っている。はっきり言って、彼女一人でも相手にするのは至難の業だ。魔法を使えないから弱いなんて、そんなことはないのである。
さらに、向こうは殺す気で向かってくるのに対して、こちらは二人を傷つけたくないのが本心。もっと言うと、洗脳が解けた後のことを考えるなら二人に“コーデリア”を傷つけさせるのも嫌なのだ。無傷で勝利し、ミリア以外の手駒になるべくダメージを与えない。まるでラスボスを相手にするかのようなハードミッション――いや、実際これは朝香にとってのラスボス戦に違いはないのだが。
――でも、戦いようはある。こっちもただ手をこまねいてたわけじゃない!
二人共洗脳されているだけなので、洗脳を解けばもとに戻る。つまり、ミリアの持っている簡易魔法書を破壊すれば、それで戦闘終了となるのだ。
そしてもう一つのアドバンテージ。それは、この場所にミリアを呼び出したのが朝香の方だということ。そう、このコーデリアがかつて使っていた花壇の跡地。こんな場所に呼び出したのは、当然理由があるわけで。
「大地の精霊よ、その魂を土塊に込めよ!“小地震”!」
習ったばかりの土属性の初級魔法を、地面に向かって放った。本来ならば大地震をも起こすことができる土属性だが、初級魔法の場合はそこまでのことはできない。精々、地面の表層を揺らして小さな揺れを引き起こすことくらいなものだ。
が、その魔法が、柔らかい土に覆われたこの場所では思わぬ効果を呼ぶのである。土が流動することで、今まさに朝香に襲いかかろうとした二人が揃って足を取られたのだ。
「!」
転倒し、動きが止まるシェリーとギルバート。勿論、大したダメージではないのですぐに起き上がるが、その数秒程度の隙があれば十分だ。朝香はさらに魔力を集中し、畳み掛ける。
「風の宴よ、我が名を讃えて吹き荒べ!“小竜巻”!」
朝香は現在、一部の初級の攻撃魔法しか教わっていないし使えない。しかし、初級クラスの威力の弱い魔法にはあるメリットがあるのである。
それは消費魔力が少ないことと、一度放ってから次を放ってまでの速射性。威力が弱い分、素早く連発することが可能なのだ。案の定、土を抉りながら走った竜巻は、シェリーとギルバートを揃って離れた場所まで吹き飛ばした。
威力は低いので、ダメージは少ないはずだ。でも。
「失敗だったね、魔女」
悔しげに顔を歪ませるミリアに、朝香は告げる。
「本当に私を殺したいなら、遠距離攻撃できるやつを呼んでくるべきだったよ」
全員近距離戦闘要員。こうして距離を強制的に取らせれば、向こうのレイピアもナイフも当たらない。
――最初のターンは、成功。
さあ、敵はどうしてくるか。
相手が朝香の仕掛けた罠にどこで気付くか――勝負の分かれ目は、そこにある。
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