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<7・ボケてツッコんですっころび。>
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数日後。
カフェに呼び出された高校時代からの友人、和歌子は――千鶴の顔を見るなりにんまりと笑って言ったのだった。
「おめでとう!これで処女卒業ね!」
「してるわ!一応処女じゃないわ!つか何言わせんだアホ!」
「あれ、そうだっけ?」
「だ、大学の時に一人だけ付き合ったってば!すぐ別れたけど!」
「あーあったねー、なんて言ってフラレたんだっけ?」
「ニマニマしながら人の傷抉るでない……!」
長いウェーブした茶髪が美しいバリバリのキャリアウーマンな美女は、明らかに千鶴の修羅場を面白がっている様子である。いや、相談したいとお願いしたのはこっちである手前、強いことは何も言えないのだが!
「うふふふふふ、ごめんねえ。やっと千鶴がまともに恋をしてくれたと聞いて、あたしは心の底から嬉しいのよ」
テラス席に着席するなり、一言。
「だから前祝ってことで、ここのストロングベリーハイパーミラクルデラックスハッピーメリーチョコレートパフェを奢って頂戴!」
「何かの呪文!?」
「ここのやつすっごく美味しいって評判で、でもながなか手が出なくってえ」
この駅前のオシャレなカフェ、指定してきたのは和歌子の方である。何か奢ってくれるならば相談に乗ってやる、と言って彼女がこの店の名前を出したのだ。
そのゲームの呪文のようなパフェはどこにあるのだ、とメニュー表を捲った千鶴はひっくり返りそうになった。
「ぱ、ぱ、パフェ一個で、さ、三千五百円……?」
しかも自分は知っている。こいつは絶対パフェを頼むだけで終わらない。何度も一緒にご飯をしているから知っている。――こいつは絶対お酒も飲む。
ついでにアルコールの欄も覗いてみた千鶴は意識が遠ざかった。美味しそうなキラキラしたワインの瓶がズラズラと並んでいる。それも結構なお値段で。
――お、お財布にいくら入ってたっけ……。
万札で足りるのだろうか、と真剣に考えてしまった千鶴だった。
***
何人かいる“相談候補”の中でも和歌子を選んだ最大の理由は、彼女が恋愛に関して熟練者であるからである。
親の転勤祭りは小学校の時が一番激しく、高校になる頃には流石に落ち着いていた。というか、流石に高校は受験して入るものなので、おいそれと転校することはできない。高校一年から三年までは同じ学校に通うことができたし、それは大学も然り。そして高校一年生の時同じクラスだった友人こそ、この長谷川和歌子はせがわわかこという人物なのだった。
とにかく高校生離れした大人っぽい外見の美人だった彼女。背も高く性格もアネゴ肌で、ほいほい釣られた童貞ボウヤたちがたくさんいたというわけである。そして、見事にドM調教されて帰っていったらしい――というのはどこまで本当なのかは知らないが。とにかく高校の時にはすでに男をとっかえひっかえが普通で、どうやらそのヘキは中学のころからだというのだ。
『ていうか、あたしが一番最初に男と付き合ったの幼稚園の時だし』
『幼稚園児ぃ!?』
『処女は小学校六年生の時に……』
『あかんあかんあかんあかんあかんあかんってえええええええ!』
『あ、ちゃんと避妊したからそこは大丈夫よ?』
『そういう問題じゃねえわ!』
という恐ろしい会話を繰り広げた日のこと、今でも覚えている。とぶかく、大学に入ってから一人付き合っただけ、そこで辛うじて処女を捨てただけの千鶴より遥かに上級者であるのは間違いないのだった。やや貞操観念や恋愛観はぶっとんでいるが、男性については千鶴よりもよくわかっているのは間違いないだろう。
「はっきり言って、恋愛的な意味で好きなのかどうかはわからないんだよ……」
現時点では、遥があのレイヤードになっていた、ということは現時点ではまだ伏せている。ひょんなことから再会した幼馴染が超かっこよくなっていた上、付き合ってくれと突然言われたがどうすればいいのか――みたいなことをぼんやり話しただけだ。和歌子を信頼していないわけではけしてないのだが、いかんせん万が一にも“あの”レイヤードのスキャンダルになりかねない話題が第三者に広まるのは防がなければいけない。
それこそ彼のこと、現在進行形でストーカーに遭っていてもおかしくないから尚更に。
「だって、小学校の時……一年同じクラスいただけ、の子だよ?弟みたいな存在で、私が守ってあげなきゃってずっと思っていたような子なんだよ?そんな子が……大人になったらかっこよくなってて、結構有名人になっててさ。小学校の時の憧れのまま……ずっと好きでした、なんて言ってくる。これどうすればいいの?」
「付き合っちゃえばいいじゃん、とりあえず」
「そういうわけにはいかないよ。相手が真剣なら、私も真剣で返さないと。友情しか抱けないかもしれないのに、彼女になりますなんて言ったら……そんなのは遥に失礼すぎるじゃんか……」
正直、“友達からではだめだろうか”というのも似たような返しだった気がしないでもないが。それはまだ、こっちに彼への恋愛感情がないかもしれない生まれないかもしれない――という保険をかけていることは伝わっているだろうからましだと思うのだ。無論、下手な期待をかけさせてしまっていたら非常に申し訳ないが。
「それがあたしは分からないのよ……ってきたきたきたあ!」
注文したパフェが運ばれてくる。あまりの巨大さに、千鶴は眩暈がしそうになった。ウェイトレスが台車で運んできたあたり、よっぽど重かったということだろう。巨大な丸いグラスに、これでもかと七色のクリームとアイスが詰め込まれている。そして上にはメロン、苺、バナナ、ブドウ、スイカと季節感も何もかもを無視したフルーツが大量投入され、しかも上から大量のチョコソースがぶっかけられているのだ。
でもって、それをテーブルに置かれると顔の顔が隠れるほどなのだ。高級パフェおそるべし。というか、その量を一人で食べきるつもりなのだろうか。大食いの千鶴に言われたくないだろうが、こう見えて自分はデザートなどの甘いものはそんなに入らないタイプである。
「ででででででっか……でかすぎ。一人で食べんのそれ!?」
「あ、千鶴も食べてみたい?ちょっとあげるよ?」
「ああうん一口貰う……ってそういうことじゃなくてね!?すっご、大きさすっご……」
「実際これ四人分なんだってー」
「でしょうね!」
和歌子は、食事量は平均的なのにデザートだけはやたら食べるタイプなのだ。強すぎやしないか、と冷や汗をかいていると、さっきの続きだけどお、とスプーンをパフェに突き刺しながら言う和歌子。
上手に食べないと土砂崩れを起こしそうではらはらしてしまう。
「あんたは、遥クンのことは元々好きなわけだ。ただし、恋愛感情ではない、友情としてのスキだと思っていたと。再会した彼のことはすごくかっこいいとは思っているけれど、恋愛感情を抱けるかどうかはまだわからないし、その状態で付き合うのは失礼にあたると思っている……と」
「そうだけど……」
「あのね、それ当たり前だから。いくら二十年近く過ぎてるって言われても、心はそう簡単に変えられない……千鶴の中の“可愛い弟みたいな遥クン”の認識は。いくらイケメンでキュンとしたからって、本当に恋愛感情なのかなーって悩むのはフツー。だって、相手の現在のことも、千鶴の現在のことも、お互いなーんも知らないわけだからね」
そう、そこなのだ悩んでいるのは。
今の自分達のことをもう少し知ってから好きだのなんだのという話を進めたいのに、いきなり一足飛びで告白されてしまったからどうすればいいのかと思っているのである。無論、それほどまでに彼が小学校の時から強い想いを抱いてくれていたのだろうということは想像に難くないし、嬉しくないわけではないのだが。
「友情と恋愛って、何が違うのか私にはよくわからなくて」
はあ、と千鶴はため息をつく。こっちが頼んだチーズケーキはまだ出てこない。
「ちゃんと恋愛だって自覚してからお返事したいし、それができなかったら付き合う前にさよならした方がいいと思うの。ただ……」
「振る、ってなったら友達でもいられなくなる?」
「それが嫌なんだよね。……なんかドラマとかでさ、いい雰囲気の男女がいるのにいつまでも恋愛関係に発展しないの、なんかわかっちゃった気がするよ。告白して失恋ってなったら、それまでの関係も全部壊れちゃうってのが怖いんだよねきっと。まさか自分が当事者になるとは思ってもいなかったけど」
彼を傷つけたくないし、せっかく再会した幼馴染――しかも推し実況者に嫌われるなんて論外だ。絶対に避けたい。
けれど、リアルな千鶴の全てを彼に知られて、それでも好きていて貰えるかどうかなんて自信がない。いや、自分のことが嫌いとかネガティブに考えているわけではないけれど、幼い頃ほど何もかもまっすぐに信じて突き進むことなんてできないのだ。
千鶴は大人なのだから。
少なくとも年齢の上では、大人にならなければいけない立場なのだから。
「言いたいことはわかるけど」
ぱく、とアイスを頬張りながら和歌子が言う。
「友情と恋愛感情の境目ってやつは、結構曖昧なもんよ?あたしみたいに、友達としか思ってない相手ともフツーにベッドに行ける女もいるくらいなんだから……性欲なかったら友情ですとも言い切れないし。なんなら友情結婚って言葉もこの世の中にはあるわけ。友達同士で、お互い納得して籍を入れるっていう。恋愛感情はないけど子供は欲しいとか、家族を安心させるためとかいろんな理由でね」
「うう……ますます混乱してきた」
「はい落ち着け―。だから、結局その境目をはっきりさせなくていいやってなってる人も少なくないの。無理やりボーダーラインで区切ろうとする方があたしは間違ってるんじゃないかなあと思うわけです、おわかり?」
言いたいことはわからなくはない。けれど、だったらどうすればいいのだろう。向こうははっきり、恋愛感情があると言ってくれているというのに。
「今のお互いをしっかり知る前に、答えなんかそもそも出せないの。だから、まずはご飯食べにいくような友達から始めましょうってのはけして間違ってないとあたしは思うわよ」
ただし、と和歌子は千鶴にスプーンを突き付けてくる。
「恋愛感情があるなあ、と思ったらちゃんと口にして言うこと。友達なのか恋人なのかわからない関係をずるずる続けないこと!相手はあんたがはっきり言ってくれるまで、ずーっとヤキモキしながら待つことになるんだからね」
カフェに呼び出された高校時代からの友人、和歌子は――千鶴の顔を見るなりにんまりと笑って言ったのだった。
「おめでとう!これで処女卒業ね!」
「してるわ!一応処女じゃないわ!つか何言わせんだアホ!」
「あれ、そうだっけ?」
「だ、大学の時に一人だけ付き合ったってば!すぐ別れたけど!」
「あーあったねー、なんて言ってフラレたんだっけ?」
「ニマニマしながら人の傷抉るでない……!」
長いウェーブした茶髪が美しいバリバリのキャリアウーマンな美女は、明らかに千鶴の修羅場を面白がっている様子である。いや、相談したいとお願いしたのはこっちである手前、強いことは何も言えないのだが!
「うふふふふふ、ごめんねえ。やっと千鶴がまともに恋をしてくれたと聞いて、あたしは心の底から嬉しいのよ」
テラス席に着席するなり、一言。
「だから前祝ってことで、ここのストロングベリーハイパーミラクルデラックスハッピーメリーチョコレートパフェを奢って頂戴!」
「何かの呪文!?」
「ここのやつすっごく美味しいって評判で、でもながなか手が出なくってえ」
この駅前のオシャレなカフェ、指定してきたのは和歌子の方である。何か奢ってくれるならば相談に乗ってやる、と言って彼女がこの店の名前を出したのだ。
そのゲームの呪文のようなパフェはどこにあるのだ、とメニュー表を捲った千鶴はひっくり返りそうになった。
「ぱ、ぱ、パフェ一個で、さ、三千五百円……?」
しかも自分は知っている。こいつは絶対パフェを頼むだけで終わらない。何度も一緒にご飯をしているから知っている。――こいつは絶対お酒も飲む。
ついでにアルコールの欄も覗いてみた千鶴は意識が遠ざかった。美味しそうなキラキラしたワインの瓶がズラズラと並んでいる。それも結構なお値段で。
――お、お財布にいくら入ってたっけ……。
万札で足りるのだろうか、と真剣に考えてしまった千鶴だった。
***
何人かいる“相談候補”の中でも和歌子を選んだ最大の理由は、彼女が恋愛に関して熟練者であるからである。
親の転勤祭りは小学校の時が一番激しく、高校になる頃には流石に落ち着いていた。というか、流石に高校は受験して入るものなので、おいそれと転校することはできない。高校一年から三年までは同じ学校に通うことができたし、それは大学も然り。そして高校一年生の時同じクラスだった友人こそ、この長谷川和歌子はせがわわかこという人物なのだった。
とにかく高校生離れした大人っぽい外見の美人だった彼女。背も高く性格もアネゴ肌で、ほいほい釣られた童貞ボウヤたちがたくさんいたというわけである。そして、見事にドM調教されて帰っていったらしい――というのはどこまで本当なのかは知らないが。とにかく高校の時にはすでに男をとっかえひっかえが普通で、どうやらそのヘキは中学のころからだというのだ。
『ていうか、あたしが一番最初に男と付き合ったの幼稚園の時だし』
『幼稚園児ぃ!?』
『処女は小学校六年生の時に……』
『あかんあかんあかんあかんあかんあかんってえええええええ!』
『あ、ちゃんと避妊したからそこは大丈夫よ?』
『そういう問題じゃねえわ!』
という恐ろしい会話を繰り広げた日のこと、今でも覚えている。とぶかく、大学に入ってから一人付き合っただけ、そこで辛うじて処女を捨てただけの千鶴より遥かに上級者であるのは間違いないのだった。やや貞操観念や恋愛観はぶっとんでいるが、男性については千鶴よりもよくわかっているのは間違いないだろう。
「はっきり言って、恋愛的な意味で好きなのかどうかはわからないんだよ……」
現時点では、遥があのレイヤードになっていた、ということは現時点ではまだ伏せている。ひょんなことから再会した幼馴染が超かっこよくなっていた上、付き合ってくれと突然言われたがどうすればいいのか――みたいなことをぼんやり話しただけだ。和歌子を信頼していないわけではけしてないのだが、いかんせん万が一にも“あの”レイヤードのスキャンダルになりかねない話題が第三者に広まるのは防がなければいけない。
それこそ彼のこと、現在進行形でストーカーに遭っていてもおかしくないから尚更に。
「だって、小学校の時……一年同じクラスいただけ、の子だよ?弟みたいな存在で、私が守ってあげなきゃってずっと思っていたような子なんだよ?そんな子が……大人になったらかっこよくなってて、結構有名人になっててさ。小学校の時の憧れのまま……ずっと好きでした、なんて言ってくる。これどうすればいいの?」
「付き合っちゃえばいいじゃん、とりあえず」
「そういうわけにはいかないよ。相手が真剣なら、私も真剣で返さないと。友情しか抱けないかもしれないのに、彼女になりますなんて言ったら……そんなのは遥に失礼すぎるじゃんか……」
正直、“友達からではだめだろうか”というのも似たような返しだった気がしないでもないが。それはまだ、こっちに彼への恋愛感情がないかもしれない生まれないかもしれない――という保険をかけていることは伝わっているだろうからましだと思うのだ。無論、下手な期待をかけさせてしまっていたら非常に申し訳ないが。
「それがあたしは分からないのよ……ってきたきたきたあ!」
注文したパフェが運ばれてくる。あまりの巨大さに、千鶴は眩暈がしそうになった。ウェイトレスが台車で運んできたあたり、よっぽど重かったということだろう。巨大な丸いグラスに、これでもかと七色のクリームとアイスが詰め込まれている。そして上にはメロン、苺、バナナ、ブドウ、スイカと季節感も何もかもを無視したフルーツが大量投入され、しかも上から大量のチョコソースがぶっかけられているのだ。
でもって、それをテーブルに置かれると顔の顔が隠れるほどなのだ。高級パフェおそるべし。というか、その量を一人で食べきるつもりなのだろうか。大食いの千鶴に言われたくないだろうが、こう見えて自分はデザートなどの甘いものはそんなに入らないタイプである。
「ででででででっか……でかすぎ。一人で食べんのそれ!?」
「あ、千鶴も食べてみたい?ちょっとあげるよ?」
「ああうん一口貰う……ってそういうことじゃなくてね!?すっご、大きさすっご……」
「実際これ四人分なんだってー」
「でしょうね!」
和歌子は、食事量は平均的なのにデザートだけはやたら食べるタイプなのだ。強すぎやしないか、と冷や汗をかいていると、さっきの続きだけどお、とスプーンをパフェに突き刺しながら言う和歌子。
上手に食べないと土砂崩れを起こしそうではらはらしてしまう。
「あんたは、遥クンのことは元々好きなわけだ。ただし、恋愛感情ではない、友情としてのスキだと思っていたと。再会した彼のことはすごくかっこいいとは思っているけれど、恋愛感情を抱けるかどうかはまだわからないし、その状態で付き合うのは失礼にあたると思っている……と」
「そうだけど……」
「あのね、それ当たり前だから。いくら二十年近く過ぎてるって言われても、心はそう簡単に変えられない……千鶴の中の“可愛い弟みたいな遥クン”の認識は。いくらイケメンでキュンとしたからって、本当に恋愛感情なのかなーって悩むのはフツー。だって、相手の現在のことも、千鶴の現在のことも、お互いなーんも知らないわけだからね」
そう、そこなのだ悩んでいるのは。
今の自分達のことをもう少し知ってから好きだのなんだのという話を進めたいのに、いきなり一足飛びで告白されてしまったからどうすればいいのかと思っているのである。無論、それほどまでに彼が小学校の時から強い想いを抱いてくれていたのだろうということは想像に難くないし、嬉しくないわけではないのだが。
「友情と恋愛って、何が違うのか私にはよくわからなくて」
はあ、と千鶴はため息をつく。こっちが頼んだチーズケーキはまだ出てこない。
「ちゃんと恋愛だって自覚してからお返事したいし、それができなかったら付き合う前にさよならした方がいいと思うの。ただ……」
「振る、ってなったら友達でもいられなくなる?」
「それが嫌なんだよね。……なんかドラマとかでさ、いい雰囲気の男女がいるのにいつまでも恋愛関係に発展しないの、なんかわかっちゃった気がするよ。告白して失恋ってなったら、それまでの関係も全部壊れちゃうってのが怖いんだよねきっと。まさか自分が当事者になるとは思ってもいなかったけど」
彼を傷つけたくないし、せっかく再会した幼馴染――しかも推し実況者に嫌われるなんて論外だ。絶対に避けたい。
けれど、リアルな千鶴の全てを彼に知られて、それでも好きていて貰えるかどうかなんて自信がない。いや、自分のことが嫌いとかネガティブに考えているわけではないけれど、幼い頃ほど何もかもまっすぐに信じて突き進むことなんてできないのだ。
千鶴は大人なのだから。
少なくとも年齢の上では、大人にならなければいけない立場なのだから。
「言いたいことはわかるけど」
ぱく、とアイスを頬張りながら和歌子が言う。
「友情と恋愛感情の境目ってやつは、結構曖昧なもんよ?あたしみたいに、友達としか思ってない相手ともフツーにベッドに行ける女もいるくらいなんだから……性欲なかったら友情ですとも言い切れないし。なんなら友情結婚って言葉もこの世の中にはあるわけ。友達同士で、お互い納得して籍を入れるっていう。恋愛感情はないけど子供は欲しいとか、家族を安心させるためとかいろんな理由でね」
「うう……ますます混乱してきた」
「はい落ち着け―。だから、結局その境目をはっきりさせなくていいやってなってる人も少なくないの。無理やりボーダーラインで区切ろうとする方があたしは間違ってるんじゃないかなあと思うわけです、おわかり?」
言いたいことはわからなくはない。けれど、だったらどうすればいいのだろう。向こうははっきり、恋愛感情があると言ってくれているというのに。
「今のお互いをしっかり知る前に、答えなんかそもそも出せないの。だから、まずはご飯食べにいくような友達から始めましょうってのはけして間違ってないとあたしは思うわよ」
ただし、と和歌子は千鶴にスプーンを突き付けてくる。
「恋愛感情があるなあ、と思ったらちゃんと口にして言うこと。友達なのか恋人なのかわからない関係をずるずる続けないこと!相手はあんたがはっきり言ってくれるまで、ずーっとヤキモキしながら待つことになるんだからね」
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