人狼女王

はじめアキラ

文字の大きさ
上 下
6 / 30

<6・ワンナイト人狼、開始>

しおりを挟む
 いよいよ、ゲーム開始となる。
 カンナはごくりと唾を飲み込んだ。人狼やてるてる陣営になりたくない――そう思ってしまうのはワガママだろうか。
 目の前の参加者達に恨みはないのだ。中には実年齢がどうであれ、年下の少女に見える相手もいる。自分が勝ったら、負けた陣営の者達はみんな地獄行きになってしまうというのだ。ならば、勝利人数が多い陣営になりたい、なんて思ってしまうのはどうしようもないことだろう。

「ワンナイト、殆どやったことないんです。自信ないなあ……」

 桃のマリーがしょんぼりと口にする。可愛らしい二つ結びの髪がしゃらん、と揺れた。その隣で、黒のジャックが彼女の背中を撫でていた。

「何、なるようにしかならないさ。私もそこまで秀でているわけではないが……なんなら君をサポートしてもいい。一緒に頑張ろう」
「そう言って貰えるのは嬉しいですけど、ジャックさん……ですっけ。貴方が同じ陣営になる保証はないじゃないですか……」
「まあ、それはそうなのだがね」

 そんな様子を見て、ミラはイライラと貧乏ゆすりをしている。美人だが、気が強いのが見て取れる彼女が正直カンナは苦手だった。厳しい物言いをしてしまうのは、単に本人の癖かもしれないが。さっきから、少し仲が良さそうにも見えるマリーとジャックのことをじっと睨んでいるのが恐ろしい。まるで、目の敵にでもしているかのよう。
 此処にいるのはみんな、赤の他人であるはずだった。それとも、マリーとジャックは前世でも知り合いであったとか、そういうことなのだろうか。それで嫉妬している、としたらどうにもやりきれない。気持ちはわからないでもないけれど。
 残る参加者の一人であるキャサリンは、じっとタブレットの視線を下ろしたまま動かない。一番美人で、一番何を考えているのかがわからないのが彼女だった。先ほどの質問からして、人狼ゲームにはそこそこ強そうな印象を受けるが。

――私が占い師になったら、キャサリンさんみたいな人を占った方がいいのかな?なんだか人狼ゲーム、強そうだし。こういう人が味方なのかわからないっていうのは、怖いのも事実だもんな。

 しかし、ワンナイトの占い師は欠け役職を占うこともできる能力者である。そちらを占った方が、有益な情報が出るということもあるだろう。
 特に、平和村か、てるてるがいるかいないかを即座に知ることができるというのは大きい。ワンナイト人狼では特に、いるかどうかもわからない人狼とてるてるに怯えてゲームがカオスになることも少なくないからである。

――ダメだ、考えても全然答えが出ない。占い師になる前から、自分が占いになった時のことなんか考えても意味がないんだけど……!

『ゲームが開始しますと、夜時間は全員が別室に転送されマス』

 段々と部屋が暗くなっていく中、アナウンスが入った。

『狼は、夜会話が可能デス。別室から音が漏れる心配はありませんので、そこで存分に作戦会議を行ってくだサイ。全員タブレットで、夜と昼と昼の残り時間を知ることができマス。狼は必ず、残り時間が20~10秒の間に噛みを実行してくだサイ。それでは、行ってらっしゃいマセ』

 ばふん、と何かが弾けるような音と共に。カンナの体はふわりと浮き上がり、さっきよりも明るい別の部屋の椅子の上に着地していた。

「わっ」

 ゲームが始まったようだ。自分の役職は、とカンナはタブレットを見――すぐに胸をなでおろした。
 村人。
 いきなり難しい役職を引き当てなくて良かった、と思うのは臆病なことだろうか。

――狼2、占い1、怪盗1、てるてる1、村2……がこの村の配役だったな。私が村人ということは、村人二人が欠ける展開にはならなかったということ。……つまり、必ず他の役職が一人か二人いなくなってるってことだ。

 昼の短い時間に欠けを見定め、そして村に潜む人外を見定めなければいけない。タブレットをぎゅっと握り締め、カンナは深呼吸した。
 村人は、夜の時間にじっくりと一人で考えることができるのが最大の強みだ。あらゆるシュチュエーションを想定し、何が起きても冷静に対応できるようにしなければならない。
 狼は何を騙ってくる?一人残っているか、二人残っているかで大きく戦略が変わるはずだ。
 てるてるはどう動く?潜伏してくるか、それとも役職を騙ってくるか?



『お前がご主人様がご主人様だとわかっていて黒を出すのならそれも作戦だ。今回問題だったのは、“身内切り”ではなく“誤爆”になってしまったことだな。もう少し、昼の議論に気を配った方がいい。占い騙りの狂人は、昼も夜もたくさんやることがあるのはわかっているが』



――昼の議論を、じっくりと観察する。自分の発言に気を使いながら。……絆。私……やるよ。絶対に勝って、君を取り戻してみせる!



 わおーん、という狼の遠吠えが聞こえた。同時に、再びカンナの目の前の景色が切り替わる。昼の時間になったのだ。自分達はさっきまでと同じように、丸テーブルを取り囲んで、自分の名前が書かれたプレートの前に座っていた。
 さあ、始めようではないか。運命を賭けた、人狼ゲームを。

――まず、私が最初にするべきことは決まってる!

 挨拶など必要ない。様子見厳禁、ワンナイトならば即座にCOするのが吉だ。

「村人COだ!」

 勿論、自分が村人であってもCOしないで様子見した方がいいケースはある。例えば、騙りが自分を占っていた時。あるいは怪盗COで自分と役職を交換していると言い出した時。向こうの占い、交換結果が正しいのかどうかでラインが繋がるか切れるかを見ることができるのだ。
 たとえばカンナが村人であるにもかかわらず、怪盗COした人間が“カロリーヌと交換して占いでした”なんて言ったら、その怪盗は偽物ということになる。同時に、占い師が“カロリーヌを占って怪盗でした”みたいなことを言ってもラインが切れるという寸法だ。こちらが先二に村人COしてしまうと、直前で騙りに利用されてりまうこともあるのである。

――でも、COが遅いとそれだけで疑われる原因になる。今回は騙りのラインよりも、自分に疑いの目が向くのを避けることを優先する!

 どうやら、今回はこれで正解であったらしい。ほぼ同じタイミングで、別の人物がCOを宣言したからである。

「占いCOだ。カロリーヌは村人だった」

 青のキャサリンである。彼女も様子見する気配がなかった。自分を占った、というのは恐らく本当だろう。勿論イチかバチかで適当な占い結果を言ったらそれが当たっていた、なんて可能性もあるが。

「俺も村人COだ」

 ほとんど遅れず、ジャックがCOをする。

「怪盗CO、キャサリンは占い師だったわ」

 さらに、ミラが怪盗CO。ここまでは、さほどおかしなCOではない。ミラの怪盗COは少し遅れていたので、キャサリンが占いCOしたのを見てから怪盗CO宣言をした可能性もなくはないが。
 問題は。

「ま、待って!ミラさんは偽の怪盗です!」

 桃のマリーだった。彼女は焦ったように立ち上がって叫ぶ。よりにもよって、とんでもないCOを。



「私が本物の怪盗です!ミラさんは人狼でした!吊るべきはミラさんですよ!!」



 お分かり頂けるだろうか。このCOは、本来有り得ないということを。

――何を言ってるんだ、この子……!

 カンナは目を見開いた。場がしん、と静まり返る。マリーだけが意味がわからないようで、「え?どうしたの?」ときょろきょろしているのが不憫だった。理由は単純明快。
 彼女はたった今、自分が狼だと自白したも同然なのである。

――もし、マリーが本物の怪盗だったとしたら。このCOは絶対してはいけないものだ。何故か?……怪盗が人狼を盗んでしまったら、その時点でその人物が新しい人狼になってしまうから。

 つまり、マリーが本当に怪盗であるならば。人狼をミラから盗んだので私が今は人狼です、と言ったも同然なのである。本来ならば、これは絶対してはいけない自殺行為だった。そう。
 もし、てるてる、という存在がなかったのだとしたらの話であるが。

「へえ、貴女が人狼なのね。貴女を吊れば私達は勝てるってこと?楽勝じゃない」

 にやり、と笑ってミラは告げた。まだマリーは意味がわかっていないらしく、首を傾げている。ミラは呆れたような顔をしながらも、自分のタブレットに文字を書いて説明を始めた。

「初心者のうっかりミスかしらね?だとしても、もうCOは取り消せないだけど。今のCO状況をまとめてあげたわ、感謝なさいな」



<占い師CO>
 キャサリン→カロリーヌ村人

<怪盗CO>
 ミラ→キャサリン占い師
 マリー→ミラ人狼

<村人CO>
カロリーヌ
ジャック



「怪盗はね、人狼を盗んだ時点で自分が人狼になるのよ。人狼を盗みましたって言ってる時点で、貴女は自分が人狼だと自白しているようなものなの」
「え」
「まあ、私が本物の怪盗だから、それも嘘なんだけど。貴女、私を人狼に仕立てあげたいなら、占いCOしておくべきだったわね。まあ、キャサリンとカロリーヌでラインが繋がっている今、貴女が信用で勝つのは難しかったでしょうけど。……どうやら他のスケープゴートを仕立て上げて吊り逃れしたい人狼さんだったと見て、間違いないみたいね」
「え、え……」

 マリーは目に見えて真っ青な顔になっている。確かに、この状況だとマリーのCOに信憑性がなく、仮に本当だったとしたら人狼なのは彼女ということになる。ミラのCOがキャサリンより少し遅かったのは気になるが、それでも彼女とキャサリンでラインが繋がったことになるのは間違いないのだから。

「ゲームは開始前から始まってるのよ、お分かり?……貴女、ゲーム開始直前に、そこのジャックに随分慰められてたじゃない。しれっとワンナイト初心者もカミングアウトしてた。初心者なのに人狼が来ちゃって焦ったんじゃなくて?」
「そ、そんな」

 ミラの言葉には、一見すると筋が通っているようにも見える。見える、のだが。

――確かに、彼女が人外なのはほぼ確定している。でも、このままマリーを吊って本当に大丈夫なのか?

「待て、ミラ!君が言いたいこともわかるが、もしそれが本当ならば彼女は迂闊すぎだろう……!」

 庇いに入ったのは、村人COをしているジャックだ。

「彼女は、うっかり人狼を自白した、別の人外という可能性はないのか?それこそ、てるてるである可能性を疑うべきだ。ワンナイトならば、てるてるがいるせいで“人狼CO”も“てるてるCO”も戦略としてありえる!今のは彼女の遠まわしの人狼CO……自分を吊って、てるてる勝利を目指している可能性が高いぞ!」

 それは、まさにカンナも考えていたことである。マリーがてるてるである可能性が拭えない以上、本当に彼女を吊るのが正しいのかは怪しい。
 そして人狼が仮に二匹残っていたとしたら、マリーよりも別の人狼を吊った方がいいのでは?という考えになるのも自然だ。
 ただ、そうなると怪しいのは――。

「その理屈で行くと、お前も人狼候補になるんだがな」

 占いCOしているキャサリンが静かな声で告げた。相変わらず、可愛らしい見た目でありながら男性的な喋り方をする娘である。

「私の中での確定情報は、私が占い師でカロリーヌが村人であるということだけだ。残る君達三人の中身はまったくわからない。何が欠けているのかもだ。怪盗COした二人が二人共偽ということもあるし……極めて無難に村人COに逃げたジャック、お前も充分怪しいということになる。あるいは、そうやって必死でマリーを吊り庇うことによって、自分が吊られたがっているてるてるという可能性もな」
「お、おれは本当に村人だ!ただ、マリーがてるてるの可能性を疑っただけで何故そこまで言われないといけないんだ!?」
「私こそ可能性を言ったまで。随分と慌てるんだな、図星を突かれたか?」

 ワンナイトの二日目は、喋らなくてはいけないと誰もが思いながらも、雑なぐりで終わることが少なくない。
 少なくない、はずなのだが。まさかここまで情報が多く、殴り合いが白熱することになるとは思ってもみなかった。カロリーヌことカンナは、思わず沈黙してしまう。キャサリンの占いのおかげで自分は疑われにくい立場にはなったが、だからといって議論に参加しなくていいなんてことはないはずだというのに。

――ど、どうしよう。……この様子だと、多分平和村ではないけど。でも、だから誰が狼かなんて、全然わからない……!狼を吊らないと、即座に負けてしまうのに!

 混乱に次ぐ混乱。このまま思考を放棄してしまいたいとさえ思う緊張感。
 だが、自分には使命がある。この試合に絶対勝たなければいけない理由があるのだ。――ここで、逃げ出すわけにはいかないのである。

――落ち着け、私。頭回すんだ。……全員が死ぬ気で勝利を目指してる。なら全ての言動に、必ず意味があるはず……!ゲーム開始前のログから、しっかり見直して考えるんだ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

王都交通整理隊第19班~王城前の激混み大通りは、平民ばかりの“落ちこぼれ”第19班に任せろ!~

柳生潤兵衛
ファンタジー
ボウイング王国の王都エ―バスには、都内を守護する騎士の他に多くの衛視隊がいる。 騎士を含む彼らは、貴族平民問わず魔力の保有者の中から選抜され、その能力によって各隊に配属されていた。 王都交通整理隊は、都内の大通りの馬車や荷台の往来を担っているが、衛視の中では最下層の職種とされている。 その中でも最も立場が弱いのが、平民班長のマーティンが率いる第19班。班員も全員平民で個性もそれぞれ。 大きな待遇差もある。 ある日、そんな王都交通整理隊第19班に、国王主催の夜会の交通整理という大きな仕事が舞い込む。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

処理中です...