5 / 30
<5・生きる者の覚悟>
しおりを挟む
よくある話。
アニメやライトノベルの主人公が、トラックにぶつかって不慮の死を遂げ、突如異世界に転生。そして新しい世界で異世界ライフを満喫する、というのは現在の人気の趣向であるのだろう。今までの退屈な自分を捨てて、新しい自分に生まれ変わりたい。そう思う人がいるのは理解できるし、そういう不思議な世界での新しい人生に憧れる気持ちもわからないことではないのだ。大抵異世界転生モノでは、チートな能力を持たされて無双できる展開がセットとなっているから尚更であろう。
しかしカンナは。たとえチート能力を持たされることがあったとしても、転生した自分を受け入れることなどできないのである。何故、元の自分の記憶も人格もしっかり残っているのに、全く別の“カロリーヌ”として生きていかなければならないのか。何故、元の世界の自分に戻る方法があるというのに、それを捨てて全く文化の違う世界で生きなければならないというのか。
何よりも。自分をかばって死んだ大切な人を取り戻す方法があるというのなら、迷う理由などないのである。例え敗北した結果、堕とされるという地獄とやらがあるのだとしても、だ。
「私は元の世界の自分がある、記憶がある。それを全部なかったことにして、異世界で生きるなんて考えられない!」
カンナの言葉に同調したのだろうか。やがて、他の者たちからも声が上がった。私も、俺も、という声にスピーカーの向こうの存在はどう思ったのだろうか。
『……良いでショウ。では、赤のカロリーヌ、青のキャサリン、黄のミラ、桃のマリー、黒のジャック。皆様全員ご参加ということで、よろしいでスネ?』
やはり、このプレートの名前が、この世界に生まれ変わった自分達の名前であるらしい。誰からも異論は出なかった。偽の名前で呼ばれるのも癪ではあるが、本名を見ず知らずの他人のバラすというのも極めて危険に違いないのである。この中の何人かは、一緒に元の世界に戻る可能性もあるのだから。
『わかりまシタ。それでは……まずは予選を始めたいと思いマス』
「予選?」
『そうデス。……先日の罪喰いの事件。同じ日に亡くなった人間は、日本でも三桁以上の数に上りマス。その全員で同時にゲームをすることは不可能ですし、一回だけで決着をつけるのも非常に難しいであろうと女王陛下はお考えデス。貴女がたのように、多くの者達は此処で生きるより、元の世界に戻りたいと考え、ゲームへの参加を希望しているのですカラ。……ゆえに、予選を行いマス。よろしいでスネ?』
よろしいですね、と言われても。自分達に拒否権はないのだからどうしようもない。
しかし、その予選とやらはどう行うつもりなのだろう。今更になって思うが、今この場には五人しか人間がいないのである。五人でも人狼ゲームはできないわけではないが、少々少ないような気がするのは気のせいではあるまい。五人でやれる配役は、あまりにも限られているのだから。
――6Cとか6Bとかやるのかな。あれ、ここだと初日犠牲者どうなるんだろ。ていうか、サーバーによって人狼ゲームって微妙にルールや対処が違うから、そのへん見極めないといけないんだけど……。
それともここにいるメンバーでゲームを行うわけではないのだろうか。そんなことをカンナがつらつらと考えていた時だった。
『予選は……“ワンナイト人狼”で行うものとしマス』
聞こえてきたのは、予想外の言葉。
ワンナイト。この少人数なら、有り得ないことでもなかったが。
「ワンナイトって、縄が一本しかないんですよね?狼吊らないと負けだし、平和村もありえるし」
桃のマリーが、おずおずと手を挙げる。
「とっても難しそう。できるかな……」
「まあ、狼を一晩で吊り上げたら村の勝ち。吊れなかったら狼の勝ち。実にシンプルでわかりやすい村ではあるな。基本的に、朝一で全員COするのが望ましいだろう」
マリーの言葉に続けたのは、黒のジャックだ。
COというのは、カミングアウト。自分の役職はなになにです、と皆に発表することである。基本的には“占い師CO”などといって使うことになる。占い師はCOと同時に、占い結果も一緒に公表するのがテンプレートだ。
ちなみに、役職の中にはギリギリまで伏せておきたいものもいる。狩人、猫又などは時が来るまでは伏せておきたい役職だろう。狂人、人狼も当然潜伏しなければならないのでCOはしない(騙りCOはするだろうが)。つまり、基本的に二日目の朝から全役職COが求められる配役というものは、そうそう多いものではないのである。
今回はワンナイト。一晩で決着がついてしまう村だ。狩人もいないので村人も村人COして問題がないし、むしろ役職を伏せていると疑われて吊られてしまうことになる。普通の村であるならば村人は吊られても困らないことも多いが、ワンナイトではそうもいかない。自分が吊られたら即村の負けになるので、吊られないように必死でアピールしなければならないのだ。
そして狼は、当然のように狼以外を騙って自分が吊られないようにしなければならない。基本的に狼が騙るとするならば、村人や占い師といった村の役職になるだろう。尤も、これがカンナの知る“ワンナイト人狼”であるならば、斜め上のCOも戦略として充分ありえることになるわけだが――。
「どんな戦略を取るかは、配役次第になるわね。……って、ここまで貴女達の話を聞いていて思ったんだけど。ここにいる人達って、みんな人狼知ってるわけ?」
ミラが率直な疑問を口にした。それはカンナも思っていたことだ。少なくともマリー、ジャックからは当然のように人狼の専門用語が飛び出した。全くの初心者でないことは明らかである。
「そもそも、何故異世界の勝負が人狼ゲームなのかも気になるわ。そこの説明はないの、案内人さん?」
『言い忘れておりましたネ』
つっけんどんな彼女の言葉に気を悪くするでもなく、スピーカーは応えた。
『確かに、もともとこの世界に人狼ゲームはありませんでシタ。しかし、ある時に女王様が救出した“罪喰い”の犠牲者が、このゲームをこの国に広めたのデス。およそ百年ほど前のことでショウカ。娯楽が少なかったこの世界に、これは実に刺激的なゲームとして広まりまシタ。女王様も大層気に入り、以来勝負事を行う際にはこれらのゲームが採用されるようになったのデス』
「ここにいるメンバーが、みんな人狼ゲームを知っているっぽいのも偶然じゃないのか?」
『勿論デス。被害者の中から、ゲームにそれなりに精通した方のみを集めておりマス。人狼ゲームについてほとんど知識のない方々には、別にゲームを用意してチャンスを与えておりますヨ。幸いにして、今回の被害者の方には、このゲームに詳しい方が非常に多かったので助かっておりますガネ……』
なるほど、異世界=現代日本から持ち込まれたというのならば納得である。とすると、さっきからずっと沈黙している青のキャサリンも、このゲームに詳しい人物であるということか。
彼女はゆっくりと顔を上げ、鋭い視線をテーブルに向け手きた。
「話は理解した。説明を続けて欲しい。ここには五人の人間がいるが、初日犠牲者はどうなる?初日犠牲者を入れて六人村、ということになるのか?それと“怪盗”“てるてる”のような特殊役職は入るのか?」
その言葉が出てくるあたり、キャサリンも人狼には相当精通しているのだろう。華奢な体のわりに大きな胸が思い切りテーブルに乗っているが、気にならないのだろうか。
――ていうか、あの人本当に綺麗だな。なんとなく、誰かさんに似てる気がするんだけど……。
まさかね、と首を振った。
いくら絆が女顔でも、彼は男だ。あんな誤魔化し用のない巨乳がくっついているはずもない。いや、転生して自分達はみんな多少なりに姿が変わっているのは理解しているが。
『青のキャサリン、貴女の言う通りデス。初日犠牲者は、私GMが努めマス。よって初日を含んだ六人村。てるてる、怪盗といった役職も含まれておりますよ』
「うわあ……」
マリーが露骨に嫌そうな顔になる。気持ちはわかる。てるてる、怪盗はワンナイトでお馴染みの役職だが――嫌がる人は嫌がるのだ。
何故か。この役職が入ると、村はカオス展開になりかねないからである。
『狼2、占い1、怪盗1、てるてる1、村2という内容になりマス。あまり馴染みのない方もいらっしゃるかもしれませんので怪盗とてるてるを含んだ上でご説明させていただきマス』
まず、ワンナイト人狼の趣旨の説明から始まった。
ワンナイト人狼は、一回の吊りで狼を吊ることができるかどうかの勝負である。占い師が占いができるタイミングは一回のみ。村人が吊りを決める相談をできるタイミングも一回しかないという寸法だ。ゆえに、早急に決着がつくことでも知られている。
まず一日目の夜に、占い師が能力を実行。狼は初日犠牲者への噛みを実行。
一つ気をつけるべきことがある。それは、初日犠牲者は一人なのだが、役職は実際二人欠けることになるということである。そして普通の村とは違って、狼が初日で欠けることもあるのだ。狼2、占い1、怪盗1、てるてる1、村2――実際の六人よりも与えられている役職の数が多いのは。この欠ける人数を踏まえてのことであるのである。
つまり、二日目の昼を迎えた時に。村で生き残っている人間は、この七人分の役職の中の五人分ということになるのだ。時には占い1、怪盗1、てるてる1、村2なんてこともあるかもしれない。二日目昼の段階で、狼が一匹もいない平和村ということもあるのである。
この場合は、“平和な村”であることを村は見極めなければならない。平和村である時に誰か吊ってしまうと、てるてるが吊られた場合を除き全員の敗北になってしまうからだ。全員が相互投票し同票とすることで、全員勝利を目指さなければいけないのである。
そして一度しか占いができない占い師は、普通村よりも強力な能力を持っている。それは、“欠けた役職を占うことが可能”であること。同時に“占った人間の役職を正確に知ることができる”ということである。欠けた役職を占った場合は、欠けた二人分の役が何であったのかがわかる。生存者を占った場合は、相手がてるてるなら“○○さんはてるてるです”という占い結果を得ることができるのである(普通の村では、人狼ですor人狼ではありません、ということしかわからない)。
――平和村が来る可能性もある。……それを、二日目昼でしっかり見極めないといけないってことだな。
説明の段階で、全員の手元にはタブレットが配布されていた。何やら不思議な力が働いているらしく、案内人が指示した途端手元にタブレットが現れたのである。どうやらこでメモを取れということらしい。同時に、全員の会話ログもこれで記録され、見ることができるのだそうだ。
『では、次に怪盗とてるてるの説明に入りマス』
案内人による説明が続く。
怪盗。それは、夜の間に別の誰かと役職を交換することのできる村役職である。今回は、初日犠牲者との交換は不可。必ず生存している自分以外の者と交換しなければいけず、交換するまで相手の元の役職がなんであったのかを知ることはできない。
そして、占いと交換しても、占い能力を実行することはきない(正確にはその日の夜から占い能力が使えるのだが、その前にゲームが終わってしまうので意味がないという意味である)。
さらに、怪盗はうっかり狼と交換して、自分が狼になってしまうこともあるから注意が必要である。その場合はその時点で元怪盗は人狼陣営になってしまうため、自分が吊られたら人狼陣営として敗北することになってしまうのだ。
もう一つ、厄介な役職はてるてるである。これは実にシンプルな勝利条件を持っている。つまり、己が吊られたら勝ち、だ。てるてるは、自分が吊られるように動かなければいけないのである。てるてるが吊られたら、てるてるのみ勝ち。他の村・狼は全員敗北ということになる。
――狼が何匹村に残ってるか?そしててるてるはいるのか?それが勝負の分かれ目ということになるのか。
カンナは膝の上で拳を握り締める。普通村と比べてワンナイトは経験が少ないが――やると決めたのは自分だ。なんとしてでも勝たなければいけない。なんせこの勝負には、絆の命もかかっているのだから。
『説明は以上となりマス』
そして、長い話を終え、案内人は告げる。
『何か質問はございまスカ?なければ……このまま始めさせていただきますヨ?』
アニメやライトノベルの主人公が、トラックにぶつかって不慮の死を遂げ、突如異世界に転生。そして新しい世界で異世界ライフを満喫する、というのは現在の人気の趣向であるのだろう。今までの退屈な自分を捨てて、新しい自分に生まれ変わりたい。そう思う人がいるのは理解できるし、そういう不思議な世界での新しい人生に憧れる気持ちもわからないことではないのだ。大抵異世界転生モノでは、チートな能力を持たされて無双できる展開がセットとなっているから尚更であろう。
しかしカンナは。たとえチート能力を持たされることがあったとしても、転生した自分を受け入れることなどできないのである。何故、元の自分の記憶も人格もしっかり残っているのに、全く別の“カロリーヌ”として生きていかなければならないのか。何故、元の世界の自分に戻る方法があるというのに、それを捨てて全く文化の違う世界で生きなければならないというのか。
何よりも。自分をかばって死んだ大切な人を取り戻す方法があるというのなら、迷う理由などないのである。例え敗北した結果、堕とされるという地獄とやらがあるのだとしても、だ。
「私は元の世界の自分がある、記憶がある。それを全部なかったことにして、異世界で生きるなんて考えられない!」
カンナの言葉に同調したのだろうか。やがて、他の者たちからも声が上がった。私も、俺も、という声にスピーカーの向こうの存在はどう思ったのだろうか。
『……良いでショウ。では、赤のカロリーヌ、青のキャサリン、黄のミラ、桃のマリー、黒のジャック。皆様全員ご参加ということで、よろしいでスネ?』
やはり、このプレートの名前が、この世界に生まれ変わった自分達の名前であるらしい。誰からも異論は出なかった。偽の名前で呼ばれるのも癪ではあるが、本名を見ず知らずの他人のバラすというのも極めて危険に違いないのである。この中の何人かは、一緒に元の世界に戻る可能性もあるのだから。
『わかりまシタ。それでは……まずは予選を始めたいと思いマス』
「予選?」
『そうデス。……先日の罪喰いの事件。同じ日に亡くなった人間は、日本でも三桁以上の数に上りマス。その全員で同時にゲームをすることは不可能ですし、一回だけで決着をつけるのも非常に難しいであろうと女王陛下はお考えデス。貴女がたのように、多くの者達は此処で生きるより、元の世界に戻りたいと考え、ゲームへの参加を希望しているのですカラ。……ゆえに、予選を行いマス。よろしいでスネ?』
よろしいですね、と言われても。自分達に拒否権はないのだからどうしようもない。
しかし、その予選とやらはどう行うつもりなのだろう。今更になって思うが、今この場には五人しか人間がいないのである。五人でも人狼ゲームはできないわけではないが、少々少ないような気がするのは気のせいではあるまい。五人でやれる配役は、あまりにも限られているのだから。
――6Cとか6Bとかやるのかな。あれ、ここだと初日犠牲者どうなるんだろ。ていうか、サーバーによって人狼ゲームって微妙にルールや対処が違うから、そのへん見極めないといけないんだけど……。
それともここにいるメンバーでゲームを行うわけではないのだろうか。そんなことをカンナがつらつらと考えていた時だった。
『予選は……“ワンナイト人狼”で行うものとしマス』
聞こえてきたのは、予想外の言葉。
ワンナイト。この少人数なら、有り得ないことでもなかったが。
「ワンナイトって、縄が一本しかないんですよね?狼吊らないと負けだし、平和村もありえるし」
桃のマリーが、おずおずと手を挙げる。
「とっても難しそう。できるかな……」
「まあ、狼を一晩で吊り上げたら村の勝ち。吊れなかったら狼の勝ち。実にシンプルでわかりやすい村ではあるな。基本的に、朝一で全員COするのが望ましいだろう」
マリーの言葉に続けたのは、黒のジャックだ。
COというのは、カミングアウト。自分の役職はなになにです、と皆に発表することである。基本的には“占い師CO”などといって使うことになる。占い師はCOと同時に、占い結果も一緒に公表するのがテンプレートだ。
ちなみに、役職の中にはギリギリまで伏せておきたいものもいる。狩人、猫又などは時が来るまでは伏せておきたい役職だろう。狂人、人狼も当然潜伏しなければならないのでCOはしない(騙りCOはするだろうが)。つまり、基本的に二日目の朝から全役職COが求められる配役というものは、そうそう多いものではないのである。
今回はワンナイト。一晩で決着がついてしまう村だ。狩人もいないので村人も村人COして問題がないし、むしろ役職を伏せていると疑われて吊られてしまうことになる。普通の村であるならば村人は吊られても困らないことも多いが、ワンナイトではそうもいかない。自分が吊られたら即村の負けになるので、吊られないように必死でアピールしなければならないのだ。
そして狼は、当然のように狼以外を騙って自分が吊られないようにしなければならない。基本的に狼が騙るとするならば、村人や占い師といった村の役職になるだろう。尤も、これがカンナの知る“ワンナイト人狼”であるならば、斜め上のCOも戦略として充分ありえることになるわけだが――。
「どんな戦略を取るかは、配役次第になるわね。……って、ここまで貴女達の話を聞いていて思ったんだけど。ここにいる人達って、みんな人狼知ってるわけ?」
ミラが率直な疑問を口にした。それはカンナも思っていたことだ。少なくともマリー、ジャックからは当然のように人狼の専門用語が飛び出した。全くの初心者でないことは明らかである。
「そもそも、何故異世界の勝負が人狼ゲームなのかも気になるわ。そこの説明はないの、案内人さん?」
『言い忘れておりましたネ』
つっけんどんな彼女の言葉に気を悪くするでもなく、スピーカーは応えた。
『確かに、もともとこの世界に人狼ゲームはありませんでシタ。しかし、ある時に女王様が救出した“罪喰い”の犠牲者が、このゲームをこの国に広めたのデス。およそ百年ほど前のことでショウカ。娯楽が少なかったこの世界に、これは実に刺激的なゲームとして広まりまシタ。女王様も大層気に入り、以来勝負事を行う際にはこれらのゲームが採用されるようになったのデス』
「ここにいるメンバーが、みんな人狼ゲームを知っているっぽいのも偶然じゃないのか?」
『勿論デス。被害者の中から、ゲームにそれなりに精通した方のみを集めておりマス。人狼ゲームについてほとんど知識のない方々には、別にゲームを用意してチャンスを与えておりますヨ。幸いにして、今回の被害者の方には、このゲームに詳しい方が非常に多かったので助かっておりますガネ……』
なるほど、異世界=現代日本から持ち込まれたというのならば納得である。とすると、さっきからずっと沈黙している青のキャサリンも、このゲームに詳しい人物であるということか。
彼女はゆっくりと顔を上げ、鋭い視線をテーブルに向け手きた。
「話は理解した。説明を続けて欲しい。ここには五人の人間がいるが、初日犠牲者はどうなる?初日犠牲者を入れて六人村、ということになるのか?それと“怪盗”“てるてる”のような特殊役職は入るのか?」
その言葉が出てくるあたり、キャサリンも人狼には相当精通しているのだろう。華奢な体のわりに大きな胸が思い切りテーブルに乗っているが、気にならないのだろうか。
――ていうか、あの人本当に綺麗だな。なんとなく、誰かさんに似てる気がするんだけど……。
まさかね、と首を振った。
いくら絆が女顔でも、彼は男だ。あんな誤魔化し用のない巨乳がくっついているはずもない。いや、転生して自分達はみんな多少なりに姿が変わっているのは理解しているが。
『青のキャサリン、貴女の言う通りデス。初日犠牲者は、私GMが努めマス。よって初日を含んだ六人村。てるてる、怪盗といった役職も含まれておりますよ』
「うわあ……」
マリーが露骨に嫌そうな顔になる。気持ちはわかる。てるてる、怪盗はワンナイトでお馴染みの役職だが――嫌がる人は嫌がるのだ。
何故か。この役職が入ると、村はカオス展開になりかねないからである。
『狼2、占い1、怪盗1、てるてる1、村2という内容になりマス。あまり馴染みのない方もいらっしゃるかもしれませんので怪盗とてるてるを含んだ上でご説明させていただきマス』
まず、ワンナイト人狼の趣旨の説明から始まった。
ワンナイト人狼は、一回の吊りで狼を吊ることができるかどうかの勝負である。占い師が占いができるタイミングは一回のみ。村人が吊りを決める相談をできるタイミングも一回しかないという寸法だ。ゆえに、早急に決着がつくことでも知られている。
まず一日目の夜に、占い師が能力を実行。狼は初日犠牲者への噛みを実行。
一つ気をつけるべきことがある。それは、初日犠牲者は一人なのだが、役職は実際二人欠けることになるということである。そして普通の村とは違って、狼が初日で欠けることもあるのだ。狼2、占い1、怪盗1、てるてる1、村2――実際の六人よりも与えられている役職の数が多いのは。この欠ける人数を踏まえてのことであるのである。
つまり、二日目の昼を迎えた時に。村で生き残っている人間は、この七人分の役職の中の五人分ということになるのだ。時には占い1、怪盗1、てるてる1、村2なんてこともあるかもしれない。二日目昼の段階で、狼が一匹もいない平和村ということもあるのである。
この場合は、“平和な村”であることを村は見極めなければならない。平和村である時に誰か吊ってしまうと、てるてるが吊られた場合を除き全員の敗北になってしまうからだ。全員が相互投票し同票とすることで、全員勝利を目指さなければいけないのである。
そして一度しか占いができない占い師は、普通村よりも強力な能力を持っている。それは、“欠けた役職を占うことが可能”であること。同時に“占った人間の役職を正確に知ることができる”ということである。欠けた役職を占った場合は、欠けた二人分の役が何であったのかがわかる。生存者を占った場合は、相手がてるてるなら“○○さんはてるてるです”という占い結果を得ることができるのである(普通の村では、人狼ですor人狼ではありません、ということしかわからない)。
――平和村が来る可能性もある。……それを、二日目昼でしっかり見極めないといけないってことだな。
説明の段階で、全員の手元にはタブレットが配布されていた。何やら不思議な力が働いているらしく、案内人が指示した途端手元にタブレットが現れたのである。どうやらこでメモを取れということらしい。同時に、全員の会話ログもこれで記録され、見ることができるのだそうだ。
『では、次に怪盗とてるてるの説明に入りマス』
案内人による説明が続く。
怪盗。それは、夜の間に別の誰かと役職を交換することのできる村役職である。今回は、初日犠牲者との交換は不可。必ず生存している自分以外の者と交換しなければいけず、交換するまで相手の元の役職がなんであったのかを知ることはできない。
そして、占いと交換しても、占い能力を実行することはきない(正確にはその日の夜から占い能力が使えるのだが、その前にゲームが終わってしまうので意味がないという意味である)。
さらに、怪盗はうっかり狼と交換して、自分が狼になってしまうこともあるから注意が必要である。その場合はその時点で元怪盗は人狼陣営になってしまうため、自分が吊られたら人狼陣営として敗北することになってしまうのだ。
もう一つ、厄介な役職はてるてるである。これは実にシンプルな勝利条件を持っている。つまり、己が吊られたら勝ち、だ。てるてるは、自分が吊られるように動かなければいけないのである。てるてるが吊られたら、てるてるのみ勝ち。他の村・狼は全員敗北ということになる。
――狼が何匹村に残ってるか?そしててるてるはいるのか?それが勝負の分かれ目ということになるのか。
カンナは膝の上で拳を握り締める。普通村と比べてワンナイトは経験が少ないが――やると決めたのは自分だ。なんとしてでも勝たなければいけない。なんせこの勝負には、絆の命もかかっているのだから。
『説明は以上となりマス』
そして、長い話を終え、案内人は告げる。
『何か質問はございまスカ?なければ……このまま始めさせていただきますヨ?』
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる