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<13・つかまる。>
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もう何もかも終わりなんだろうな、とチェルクは思った。
それを悲しいだなんて思う権利は自分にはない。最初から、全ては決まっていたこと。しかもその引き金は、チェルク自身で引いてしまったのだから。
『ルゥ、ルゥ。泣かなくていいのよ。お前は何も悪くないのだから』
恐らく多くの森の住人達と違うだろうことは――チェルクが、仲間達や家族から追放されたわけではないという点だろう。
昔から変身が苦手で、何に変身しても青色になってしまったり、質感が奇妙なものにしかなれなかったチェルク。スライムとしては致命的な欠陥だ。自分達は、何かに化けることで身を隠し、外敵から身を守って生きてきたのだから。一部の強いスライムは変身することで変身した生き物の戦闘能力をも再現できるが、チェルクはその能力さえない。ほんの一部のものだけ、技や能力のまねっこができるだけだ。それも、オリジナルに遠く及ばない程度に。
それでも両親や兄は、そんなチェルクを嫌ったりいじめたりしなかった。同じスライムの仲間達も同様だ。青くなってしまうのも、変身が得意ではないのも、チェルクの個性なのだと認めてくれた。それがどれほど、自分にとって救いであったことだろうか。
かつて群れでは、ルゥという愛称で呼ばれていた。家族、友達、親戚のおじさんやおばさん。とある小さな林で、スライムの家族は仲睦まじく、として慎ましく生きていたのである。
それをぶち壊しにしたのは、人間達がやってきてからだった。
『すっげぇな、希少種のミズイロスライムがこんなにいるぜ』
トゲトゲの黒髪に長身痩躯の男、“漆黒のドク”。エンドラゴン盗賊団の頭領が彼だ。そして、その隣に控えている長い赤髪の女は“紅蓮のベティ”。ドクの恋人である。まあ、このへんの情報は捕まってから知ったものであるのだが。
『ええ、取り放題よ。全部捕まえて、どれを売ってどれを使うかを検討しましょ。実験に使うものと、実際作戦に使うもの。複数の個体が必要になってくるわ』
実験。作戦。
嫌な予感しかしなかった。捕まったら何もかも終わりになると、スライムたちは逃げ惑ったのである。ある者は木に変身してやり過ごそうとし、ある者は川に飛び込んで溶け込んで隠れようとし、ある者は屈強な兵士やモンスターに変身して人間達を追い払おうとしたのだった。
普通の相手ならば、そのやり方でおおよそ間違っていない。チェルクならともかく、長い時間生きた経験豊富なスライムたちは外敵と戦うやり方を熟知している。仲間を、自分を守るため。最大の武器である変身能力をフルに生かそうとするのはごくごく自然なことであったはずだ。
誤算だったのは。連中が――自分達が思っていたよりも遥かに悪意に満ちた、非情な性格であったことだろう。
『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』
林の木々に化けたスライムたちは、連中が持っていた火炎放射器によって林ごと焼き払われ。自分達が大嫌いな炎によって最期を遂げるという、まさに地獄の苦しみを味わうことになったのだった。
『あがががががが、ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!?』
川に逃げるのもアウトだった。あろうことか、連中は川に毒を流していたのである。周囲の別の動物たちも、下流の町も被害を受けるのが明白であるにも関わらず。
強い酸の毒によって、川に飛び込んだスライムたちは生きながら溶けて沈んでいった。彼等は本来の姿さえ、保つことができなかった。
そして、勇敢にも兵士やドラゴンに化けて盗賊団と戦おうとした者達は。
『がああああああああああああああああああっ!?』
『固定剤は便利ね。こうして姿を固定した状態で、いくらでも切り刻めるんだもの。じゃあ、次は右足を切り落としてあげるわね』
『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』
『あははは、良い悲鳴!』
彼等は見せしめにあった。
モンスターや人間に変身したまま、変身が解けなくなる薬を打たれ。その姿の状態で、生きたまま両手足を切り落とされたり、内臓を引きずり出されるという責苦を味わったのである。
スライムは本来不定形であるし、人間よりずっと体が丈夫なのは間違いない。だから、変身した状態で傷を負っても、再度変身することである程度傷を修復することが可能だ。つまり、多少切り刻まれても死なない。そして、精度の高い変身は、そのモンスターや人間の五感をも綺麗に再現する。
体を切断される激痛を味わいながらも、ショック死することもかなわない。拷問にはまさに最適だ。生き残った(ある意味逃げ遅れたとも言う)チェルク達が震えあがり、抵抗する気力を失うのは充分だったのである。
『安心しなさい、大人しく投降するのなら……丁寧に丁寧におもてなししてあげるわ。私達は、貴方達の力を借りたいだけなんだもの』
ベティは笑ってそう言った。自分達は大人しく彼女に従い、トラックに乗り込むしかなかったのである。――それが新たな地獄の始まりだとは知らずに。
捕まったスライム達は、全員ある“訓練”を言い渡されることになる。とある奴らを殺したいので、そのために必要な毒や爆発物に化ける訓練をするように、と。
確かに理論上、スライムに化けられないものはない。ただ、その性質まで完全に再現できるかどうかはまったくの別問題だ。
例えば、川に逃げ込んだ自分達の仲間は、川に流された毒によって苦しんで死んでいったわけだが。その毒を、同じスライムの“変身”によって補うことはできないのか?というのは随分前から研究されていることであったらしい。つまり、毒に変身したスライムを摂取させることで、本来の毒と同じ効果を与えられないか?ということである。
この作戦にはメリットとデメリットがある。毒の成分に化けたスライムは、被験者の吐血や排泄によって体から排出されれば、また同じように変身して再利用することができる。一般的な毒物と違って、リサイクルが可能というわけだ。これはウイルスなどに変身した場合も同様である(ウイルスへの変身は、毒物への変身よりさらにハードルが上がってしまうが)。
反面、一度毒物になって摂取され、排泄されたスライムは。元の容量通りに、というわけにはいかない。完全に体を回収できないので、排出されるたび体積が小さくなるのは免れられないのである。同時に、体内の免疫システムの攻撃を受けるので大小さまざまなダメージを受けることになる。リサイクルできると言ってもけして無限ではないし、場合によっては一度で使い物にならないほどボロボロになってしまう可能性もあるのだ。
『無茶苦茶だ!』
チェルクの両親は、研究所でその話を聴いて抗議の声を上げた。
『そんなことをしたらみんなボロボロになって死んでしまう!そもそもお前達は資金に苦労しているわけじゃないんだろう?私達を使ったりしないで、普通に爆弾や毒を使えばいいじゃないか。どうせ、ろくでもないことをしようとしているに決まっているが』
『ところがそうもいかないんだよなあ』
にやにやと笑いながらドクは言った。
『俺達が攻め入ろうと思っているのは、捨てられの森なんだ。遠くから爆弾を投げ込んだところで中心部には届かないし、大きな爆弾を運び込んだところで森に悪意を察知されて食われてしまうんだよ。今まで人間の兵士、ドローン、小型爆弾など様々なものをインサイドの町に送り込もうとしたんだが……残念ながら最低限の偵察さえままならなくてな。ならば、生きた爆弾や毒を使うしかない、と判断したわけだ。そこで変身能力が高く、生き物として高価な値がつくお前達に白羽の矢が立ったってわけさ!高い値で売れるスライムが捨てられたら、貧乏性の連中も勿体ないと思って町に持って帰りそうなもんだろう?』
『だ、だが私達は毒はともかく爆弾に変身するなんてことは得意じゃない。焔が大の苦手なんだぞ……!?』
『そうだな。でも訓練次第でそんなのクリアできるはずさ。お前らはそれだけの素質を秘めている、そうだろう?』
ベティに比べて、ドクの言葉は優しかった――あくまで表向きは、だが。前向きな言葉で追い詰めてくるという意味では、ある種ベティよりも質が悪いと言えなくもなかったが。
そして説明を受けた時点で、自分達はもう逃げ場などなくなっていたのである。その前の段階で眠らされ、体にマイクロチップを埋め込まれていたのだから。
『な、何をする!離せ、離せ!』
『あれだけ仲間の死を見せつけられてなお、まだ反抗する余裕があるなんて本当にすごいと思うわ。だから……その余裕を徹底的に奪ってあげなくちゃって思ったの。貴方のような威勢の良い個体を使ってね』
『お、お父さん!』
『あなたっ!』
『父さん!!』
意見を言ったことで、目をつけられたのだろう。父はベティに掴みあげられると、強化硝子のケースの中に入れられた。そして厳重に蓋を閉めると同時に、何かの黒い機械のようなものを自分達に見せつけて言ったのである。
『あんた達の体に埋め込んだマイクロチップは、この携帯機器から電波を受け取る仕組みになってるの。で、この機器から電波を発信するとね……あんた達の全身に作用して、信号を送るってわけ。こんな風に』
女が笑ってボタンを押した途端。ガラスケースの中のお父さんの体が、ぶるぶると激しく痙攣を始めた。
『お父さん!?し、しっかりして、お父さん!!』
『る、ルゥ……』
父は、一体何を言おうとしたのか。生きろと伝えようとしたのか、愛してると語ろうとしたのか。
いずれにせよ確かなことは。彼が最後の言葉もままならないまま――ガラスケースの中で手榴弾に変化し、爆発してしまったということだった。
『ぎゃあああああああああああああああああ!!』
『い、嫌だ。お父さん、お父さーん!!』
爆弾に変化して爆発したからといって、スライムは即死するわけではない。それでもバラバラに吹き飛ぶのは大きな苦痛を伴うし、熱や焔は精神的に大きなダメージも追わせることになる。
ガラスケースの中で、父はバラバラのぐちゃぐちゃになり。半壊した頭で、苦痛の涙を流していた。それは文字通り、これからチェルク達が行く先を暗示していることに他ならず――。
『訓練すれば、身体的ダメージを最小限に抑えて何度も爆発できるようになるわ』
ベティは悪魔のような笑みを浮かべて言ったのだった。
『だから、ねえ?あんた達も頑張りなさい。出来損ないは……別の実験に使ってゴミと一緒に捨てちゃうから、そのつもりでね?』
それを悲しいだなんて思う権利は自分にはない。最初から、全ては決まっていたこと。しかもその引き金は、チェルク自身で引いてしまったのだから。
『ルゥ、ルゥ。泣かなくていいのよ。お前は何も悪くないのだから』
恐らく多くの森の住人達と違うだろうことは――チェルクが、仲間達や家族から追放されたわけではないという点だろう。
昔から変身が苦手で、何に変身しても青色になってしまったり、質感が奇妙なものにしかなれなかったチェルク。スライムとしては致命的な欠陥だ。自分達は、何かに化けることで身を隠し、外敵から身を守って生きてきたのだから。一部の強いスライムは変身することで変身した生き物の戦闘能力をも再現できるが、チェルクはその能力さえない。ほんの一部のものだけ、技や能力のまねっこができるだけだ。それも、オリジナルに遠く及ばない程度に。
それでも両親や兄は、そんなチェルクを嫌ったりいじめたりしなかった。同じスライムの仲間達も同様だ。青くなってしまうのも、変身が得意ではないのも、チェルクの個性なのだと認めてくれた。それがどれほど、自分にとって救いであったことだろうか。
かつて群れでは、ルゥという愛称で呼ばれていた。家族、友達、親戚のおじさんやおばさん。とある小さな林で、スライムの家族は仲睦まじく、として慎ましく生きていたのである。
それをぶち壊しにしたのは、人間達がやってきてからだった。
『すっげぇな、希少種のミズイロスライムがこんなにいるぜ』
トゲトゲの黒髪に長身痩躯の男、“漆黒のドク”。エンドラゴン盗賊団の頭領が彼だ。そして、その隣に控えている長い赤髪の女は“紅蓮のベティ”。ドクの恋人である。まあ、このへんの情報は捕まってから知ったものであるのだが。
『ええ、取り放題よ。全部捕まえて、どれを売ってどれを使うかを検討しましょ。実験に使うものと、実際作戦に使うもの。複数の個体が必要になってくるわ』
実験。作戦。
嫌な予感しかしなかった。捕まったら何もかも終わりになると、スライムたちは逃げ惑ったのである。ある者は木に変身してやり過ごそうとし、ある者は川に飛び込んで溶け込んで隠れようとし、ある者は屈強な兵士やモンスターに変身して人間達を追い払おうとしたのだった。
普通の相手ならば、そのやり方でおおよそ間違っていない。チェルクならともかく、長い時間生きた経験豊富なスライムたちは外敵と戦うやり方を熟知している。仲間を、自分を守るため。最大の武器である変身能力をフルに生かそうとするのはごくごく自然なことであったはずだ。
誤算だったのは。連中が――自分達が思っていたよりも遥かに悪意に満ちた、非情な性格であったことだろう。
『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』
林の木々に化けたスライムたちは、連中が持っていた火炎放射器によって林ごと焼き払われ。自分達が大嫌いな炎によって最期を遂げるという、まさに地獄の苦しみを味わうことになったのだった。
『あがががががが、ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!?』
川に逃げるのもアウトだった。あろうことか、連中は川に毒を流していたのである。周囲の別の動物たちも、下流の町も被害を受けるのが明白であるにも関わらず。
強い酸の毒によって、川に飛び込んだスライムたちは生きながら溶けて沈んでいった。彼等は本来の姿さえ、保つことができなかった。
そして、勇敢にも兵士やドラゴンに化けて盗賊団と戦おうとした者達は。
『がああああああああああああああああああっ!?』
『固定剤は便利ね。こうして姿を固定した状態で、いくらでも切り刻めるんだもの。じゃあ、次は右足を切り落としてあげるわね』
『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』
『あははは、良い悲鳴!』
彼等は見せしめにあった。
モンスターや人間に変身したまま、変身が解けなくなる薬を打たれ。その姿の状態で、生きたまま両手足を切り落とされたり、内臓を引きずり出されるという責苦を味わったのである。
スライムは本来不定形であるし、人間よりずっと体が丈夫なのは間違いない。だから、変身した状態で傷を負っても、再度変身することである程度傷を修復することが可能だ。つまり、多少切り刻まれても死なない。そして、精度の高い変身は、そのモンスターや人間の五感をも綺麗に再現する。
体を切断される激痛を味わいながらも、ショック死することもかなわない。拷問にはまさに最適だ。生き残った(ある意味逃げ遅れたとも言う)チェルク達が震えあがり、抵抗する気力を失うのは充分だったのである。
『安心しなさい、大人しく投降するのなら……丁寧に丁寧におもてなししてあげるわ。私達は、貴方達の力を借りたいだけなんだもの』
ベティは笑ってそう言った。自分達は大人しく彼女に従い、トラックに乗り込むしかなかったのである。――それが新たな地獄の始まりだとは知らずに。
捕まったスライム達は、全員ある“訓練”を言い渡されることになる。とある奴らを殺したいので、そのために必要な毒や爆発物に化ける訓練をするように、と。
確かに理論上、スライムに化けられないものはない。ただ、その性質まで完全に再現できるかどうかはまったくの別問題だ。
例えば、川に逃げ込んだ自分達の仲間は、川に流された毒によって苦しんで死んでいったわけだが。その毒を、同じスライムの“変身”によって補うことはできないのか?というのは随分前から研究されていることであったらしい。つまり、毒に変身したスライムを摂取させることで、本来の毒と同じ効果を与えられないか?ということである。
この作戦にはメリットとデメリットがある。毒の成分に化けたスライムは、被験者の吐血や排泄によって体から排出されれば、また同じように変身して再利用することができる。一般的な毒物と違って、リサイクルが可能というわけだ。これはウイルスなどに変身した場合も同様である(ウイルスへの変身は、毒物への変身よりさらにハードルが上がってしまうが)。
反面、一度毒物になって摂取され、排泄されたスライムは。元の容量通りに、というわけにはいかない。完全に体を回収できないので、排出されるたび体積が小さくなるのは免れられないのである。同時に、体内の免疫システムの攻撃を受けるので大小さまざまなダメージを受けることになる。リサイクルできると言ってもけして無限ではないし、場合によっては一度で使い物にならないほどボロボロになってしまう可能性もあるのだ。
『無茶苦茶だ!』
チェルクの両親は、研究所でその話を聴いて抗議の声を上げた。
『そんなことをしたらみんなボロボロになって死んでしまう!そもそもお前達は資金に苦労しているわけじゃないんだろう?私達を使ったりしないで、普通に爆弾や毒を使えばいいじゃないか。どうせ、ろくでもないことをしようとしているに決まっているが』
『ところがそうもいかないんだよなあ』
にやにやと笑いながらドクは言った。
『俺達が攻め入ろうと思っているのは、捨てられの森なんだ。遠くから爆弾を投げ込んだところで中心部には届かないし、大きな爆弾を運び込んだところで森に悪意を察知されて食われてしまうんだよ。今まで人間の兵士、ドローン、小型爆弾など様々なものをインサイドの町に送り込もうとしたんだが……残念ながら最低限の偵察さえままならなくてな。ならば、生きた爆弾や毒を使うしかない、と判断したわけだ。そこで変身能力が高く、生き物として高価な値がつくお前達に白羽の矢が立ったってわけさ!高い値で売れるスライムが捨てられたら、貧乏性の連中も勿体ないと思って町に持って帰りそうなもんだろう?』
『だ、だが私達は毒はともかく爆弾に変身するなんてことは得意じゃない。焔が大の苦手なんだぞ……!?』
『そうだな。でも訓練次第でそんなのクリアできるはずさ。お前らはそれだけの素質を秘めている、そうだろう?』
ベティに比べて、ドクの言葉は優しかった――あくまで表向きは、だが。前向きな言葉で追い詰めてくるという意味では、ある種ベティよりも質が悪いと言えなくもなかったが。
そして説明を受けた時点で、自分達はもう逃げ場などなくなっていたのである。その前の段階で眠らされ、体にマイクロチップを埋め込まれていたのだから。
『な、何をする!離せ、離せ!』
『あれだけ仲間の死を見せつけられてなお、まだ反抗する余裕があるなんて本当にすごいと思うわ。だから……その余裕を徹底的に奪ってあげなくちゃって思ったの。貴方のような威勢の良い個体を使ってね』
『お、お父さん!』
『あなたっ!』
『父さん!!』
意見を言ったことで、目をつけられたのだろう。父はベティに掴みあげられると、強化硝子のケースの中に入れられた。そして厳重に蓋を閉めると同時に、何かの黒い機械のようなものを自分達に見せつけて言ったのである。
『あんた達の体に埋め込んだマイクロチップは、この携帯機器から電波を受け取る仕組みになってるの。で、この機器から電波を発信するとね……あんた達の全身に作用して、信号を送るってわけ。こんな風に』
女が笑ってボタンを押した途端。ガラスケースの中のお父さんの体が、ぶるぶると激しく痙攣を始めた。
『お父さん!?し、しっかりして、お父さん!!』
『る、ルゥ……』
父は、一体何を言おうとしたのか。生きろと伝えようとしたのか、愛してると語ろうとしたのか。
いずれにせよ確かなことは。彼が最後の言葉もままならないまま――ガラスケースの中で手榴弾に変化し、爆発してしまったということだった。
『ぎゃあああああああああああああああああ!!』
『い、嫌だ。お父さん、お父さーん!!』
爆弾に変化して爆発したからといって、スライムは即死するわけではない。それでもバラバラに吹き飛ぶのは大きな苦痛を伴うし、熱や焔は精神的に大きなダメージも追わせることになる。
ガラスケースの中で、父はバラバラのぐちゃぐちゃになり。半壊した頭で、苦痛の涙を流していた。それは文字通り、これからチェルク達が行く先を暗示していることに他ならず――。
『訓練すれば、身体的ダメージを最小限に抑えて何度も爆発できるようになるわ』
ベティは悪魔のような笑みを浮かべて言ったのだった。
『だから、ねえ?あんた達も頑張りなさい。出来損ないは……別の実験に使ってゴミと一緒に捨てちゃうから、そのつもりでね?』
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