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<23・作戦会議は粛々と。>
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翌日。
訓練場のミーティングルームにて、作戦会議が行われることになった。
アイザック皇子襲撃の件については知っている者も少なくなかったが、改めてその詳細の報告と、今後の方針が話し合われることになったわけである。
レネ達はアイザック皇子の私設部隊“ミカエル”のメンバー。皇子の護衛、及び後継者争いに関するサポートなどなど、全て自分達の任務に含まれている。スパイでもない限り、この中で皇子が皇帝になることに反対したい人間はいないはずだった。
「とりあえず、現時点でわかっていることをまとめましょうか」
モニターの映像を指示棒で指さしながら、ルーイが語る。
「アンガス皇帝の下には、以下五人の兄弟がいて次期皇帝の座を争っています。第一皇子マイルズ様、第一皇女ガブリエラ様、第二皇子ウェズリー様に、第三皇子アイザック様で、最後に第二皇女クリスティーナ様ですね」
全員の写真が画面に表示される。ミカエルに入る前から多少知っていたとはいえ、ここで改めで情報を整理しておく必要があるだろう。ちょっと二日酔い気味のオーガストの隣に座ったレネは、あくびを噛み殺しながら画面に注視した。
五人の兄弟は、年齢も性別もバラバラである。
しかしそれぞれが自分達の私設兵を持ち、次期皇帝になるため水面下で動いていることは言うまでもない。さらに皇子・皇女たちにはそれぞれ支援者がいて、自分が推す皇族を次期皇帝にしようと暗躍を続けているというわけだ。その支援者の中にはマフィアもいる、というのは既に語るまでもない話である。ただし、五人の皇子・皇女全てが好戦的なわけではないし、ましてや兄弟の殺し合いに積極的というわけでもない。
同時に、それなりに親しくしている兄弟姉妹もいて、一部は結託しているという話。五人の力関係が均等ではないからこそ、より策を練る必要があるからだろうが。
「まず、第一皇子のマイルズ様から」
ぱ、とマイルズの写真がアップになる。大柄で長身、おっとりとした顔立ちの金髪の男性だ。瞳の色は青。五人の長兄でありながら、最も穏健派だと言われている人物でもある。年齢は三十歳。幼い頃から、四つ下の第三皇子であるアイザックとは親しい間柄にあることで有名である。
一応陸軍にも所属しているが、本人は“戦争で人を殺さないために国の防衛力を強化するべき”という姿勢を示している。そこもアイザックと共通している点だろう。とにかく軍事力で高い壁を作ることにより、敵国が侵入したくなくなるような強固な国を作る。それが、争わずして国を守る力になると考えているというわけだ。
「マイルズ様は、争いごとを好まない性格で、幼い頃からアイザック様と懇意にしてらっしゃいます。同時に、明確に“次期皇帝になるのは自分ではなくアイザックが相応しい”と公の発言をされている方でもありますね。マイルズ様の私設部隊である“ウリエル”と我が“ミカエル”は頻繁に情報共有を行っております。今回、アイザック様が襲撃されたことに関してはマイルズ様もお心を痛めているようで……私設兵たちに全力で犯人を調査させるとお約束してくださいました」
「実際、今回の襲撃はマイルズ皇子が新設した第四海軍基地の目の前で起きてるわけですよね。下手をいたら、マイルズ皇子が責任を取らされていてもおかしくなかったわけだ」
「その通り。そういう意味でも、あちらが必死になるのは当然と言えるでしょう。暗殺が成功していたら、アイザック様のみならず一般人にも多数被害が出ていましたし……そういう意味でも、少なくとも今回の実行犯はマイルズ皇子の手のものではないと思っています」
露骨だなあ、とレネは苦笑するしかない。マイルズとその部隊は協力者であるというのに、彼らのことも心から信用しない、とはっきり言い切ったわけだ。
まあ、マイルズが心からアイザックを推してくれていると言い切れる材料はないわけである。疑っておくに越したことはないのかもしれないが。
「二人目は、第一皇女のガブリエラ様ですね。この方はうってかわって、最も好戦的だとされています」
画面が切り替わる。
表示されたのは、アイザックの姉であるガブリエラだ。長いウェーブした赤い髪に、気の強そうな赤い瞳が美しい美女である。プロポーションも抜群で、映画女優と言われてもしっくりきそうな見た目と言えるだろう。ちょっとばかし、化粧が濃すぎる気がしないでもないが。年は現在二十九歳だったのではなかろうか。
このガブリエラが、兄のマイルズと折り合いが悪いことは有名である。なんせ性格が真逆すぎるのだ。おっとりとしたマイルズに対して、ガブリエラは火にダイナマイトでもくべたかのような苛烈な性格だ。幼い頃から、自分の方が兄よりずっと優れていることを豪語し、それを兄に対しても隠そうとしなかった。確かに大学での成績も非常に優秀だったとは聞いている。しかし、戦争に関しても積極的で、“他国に侵略される前にこっちから打って出てしまえばいいのに”というようなことを平気で公言できること、身分の低い人間を馬鹿にするような発言が目立つことから、弟のアイザックともあまり仲が良くないとのことだった。
「私設兵は彼女の名前からとって“ガブリエル”。それに加えて、マフィアである“オルドレン・ファミリー”を支援していることでも知られています。三年前、レネさんを部屋で待ち伏せて襲撃したのも彼女のオルドレン・ファミリーの下っ端だったみたいですしね」
「てことは、今回も……」
「はい。アイザック皇子を狙ったのも、ガブリエラ様の手の者である可能性は高いと考えています。ガブリエラ様は、マイルズ皇子とも仲が悪いですから……ついでに皇子の評判も落とせれば万々歳だったのでしょうね」
「うわ……」
だからって、一般民衆も巻き込みかねないような爆弾を使うなんてどうかしているとしか思えない。レネはげんなりさせられる。
ただ、ガブリエラが犯人ならば筋が通るのも事実ではあるのだ。彼女は皇族と貴族以外の人間に価値はないと豪語しているし、貴族であっても無能なものは死ねばいい――というような過激なことをホイホイ口にするような人物だからである。
うっかり巻き込まれて死ぬくらいの人間なら、生きていてもしょうがない。
そんなことを本気で思っていそうなのがまた恐ろしい。
「次に参りましょう。……はい、第二皇子、のウェズリー様ですね」
パッ、と切り替わる画面。しかし似てない兄弟だなあ、とレネはしみじみ思う。ウェズリーはアイザックやマイルズと違って、痩身で眼鏡をかけた男性である。黒髪に緑目の、どこか大人しそうな印象の人物だ。年齢は二十六歳。よく見れば整った顔立ちをしているのは間違いないが、父親でも母親でもなく祖母に似ているというのが遺伝子の不思議である。黒い髪を持っていたのは、皇帝陛下のお母上であったはずなのだから。
彼はガブリエラを上回る秀才である。ただし、政治にあまり興味はなく、大学院でひたすら研究をすることにご執心とのことだった。とはいえ、皇帝になる気がないわけではない、とのこと。このあたりの意思をはっきり示したわけではないが、一度だけ“次期皇帝には、相応しい者がなるべきだと思います。わたくしがもしそれに相応しいのなら殉ずるのみです”というようなことを言っていたという情報はある。
「ウェズリー様は……ある意味、一番何を考えてらっしゃるかわからない方ですね。大学では、新しい武器や兵器に関する研究をされており、そこで考案された武器が実際に開発されて戦場で使われたこともあったはずです。私設兵部外の名前は“サキエル”。この方も、マフィアの“カナックファミリー”に支援しているという話を聞いています。ただ、実際マフィアをどのように使っているか、どういう意図で支援しているのかについてはわかっていません」
「ミカエルの調査力をもってしてもわからない、と」
「その通り。他の兄弟との関係も、可もなく不可もなくといったところ。元々、誰かとツルむより一人でいた方が気楽という性格の方ですから」
なんとなくそれもわからないではない。レネは彼の写真を見つめてまじまじと思う。
なんというか、ものすごくがり勉タイプっぽい。
皇子様相手に、そんなこと言ったら不敬罪になりそうだが、心の中で考えるのは自由だろう。
「どんどん行きますよ。最後、第二皇女クリスティーナ様ですね」
とんとん、とレネが指示棒で画面を叩いた。
第二皇女クリスティーナだけ、年がかなり離れている。年齢は今年で十四歳だっただろうか。姉のガブリエルよりやや明るい、ピンク色の髪にピンク色の瞳が可愛らしい少女だ。華やかなドレスが眩しい。
恐らく世間一般の子供達が“お姫様”といった時、真っ先に思い浮かぶのタイプの姿をしていると言えるだろう。
天真爛漫な彼女は皆に嫌われるタイプではけしてないが、少々天然でヌケており、同時に勉強も苦手ということであまり成績も良い方ではない。あとは、少し思い込みと正義感が暴走しやすいという難点もあるようだ。
そういうところも含めてクリスティーナの面倒を見ているのが、兄のウェズリーだと聞いている。昔から年の離れた妹を可愛がり、勉強をよく見てやっていたらしい。クリスティーナ自身、生真面目で優秀な兄をとても慕っているようだった。
皇位に関しては、彼女は強く“自分が次期皇帝になりたい”と考えている様子ではある。どうやら彼女なりに考える理想の国造りというのがあるらしく、それは皇帝にならなければ成し遂げられないと思っているらしい。ただ、周りに影響されやすい彼女の意見はころころ変わるため、現在戦争や内政に対してどのように考えているのかは定かではないのだが。
「クリスティーナ様に関しては……つい先日、レネが支援者を一つ潰してくださったので、力がだいぶ削がれていますが。ただ、皇帝になりたいという気概が強い方ですので、そういう意味では行動を起こしてもおかしくはありません。私設兵部隊の名前は“ラグエル”。正義を重視する彼女らしい天使の名前ですね」
「この方はマフィアとくっついてはいないんですっけ?」
「その様子はないとのことです。ただ、兄のウェズリー様と懇意にされていますから、そこで間接的にマフィアの支援を受けることもあるかもしれませんが」
このお二方の間では休戦協定がとられているようですね、とルーイ。
「クリスティーナ様はウェズリー様を尊敬してらっしゃいますし、ウェズリー様もクリスティーナ様を大変可愛がっておられる。ゆえに、皇位継承の件に関しても、他の兄弟が全て倒れない限り二人で争わず協力体制を築こう、ということになっているという話です。クリスティーナ様本人は策略に長けた方ではないですが、ウェズリー様の入れ知恵があるとなると油断はできません」
「なるほど……」
大体、五人の兄弟関係が見えてきた。話を聞いた印象だと、やはりガブリエラが一番アイザックを狙ってくる可能性が高そうである。
それと同時に。
「総じて、兄弟仲ってどんなかんじなんだ?」
レネがはい、と手を挙げると。ルーイもなんとなく察してか、苦笑しながら答えたのである。
「アイザック様は、一番仲の良いのがマイルズ様ですが……ウェズリー様、クリスティーナ様からもけして嫌われていません。蛇蝎のごとく嫌っているのはガブリエラ様のみですね。そのガブリエラ様は他の兄弟全てから嫌われてらっしゃるってかんじです」
「なんかこう、いろいろ察した」
ガブリエラ。実際に話したことは一度もないが、一体どんなきっつい性格なのだろう。あの温厚そうなアイザックからそこまではっきり嫌われようとは。
――とりあえず、彼女に関して情報を集めるのが最優先か。
同時に、うまくほかの兄弟のことも仲間に引き込めないものか、とレネは考える。
皇子のことを何もかも信用したわけではない。しかし、ルーイが信じた人を自分も信じたい気持ちもあるのだ。
だから、自分もミカエルの一人としてできることはしたいのである。――アイザックを、次期皇帝にするために。
訓練場のミーティングルームにて、作戦会議が行われることになった。
アイザック皇子襲撃の件については知っている者も少なくなかったが、改めてその詳細の報告と、今後の方針が話し合われることになったわけである。
レネ達はアイザック皇子の私設部隊“ミカエル”のメンバー。皇子の護衛、及び後継者争いに関するサポートなどなど、全て自分達の任務に含まれている。スパイでもない限り、この中で皇子が皇帝になることに反対したい人間はいないはずだった。
「とりあえず、現時点でわかっていることをまとめましょうか」
モニターの映像を指示棒で指さしながら、ルーイが語る。
「アンガス皇帝の下には、以下五人の兄弟がいて次期皇帝の座を争っています。第一皇子マイルズ様、第一皇女ガブリエラ様、第二皇子ウェズリー様に、第三皇子アイザック様で、最後に第二皇女クリスティーナ様ですね」
全員の写真が画面に表示される。ミカエルに入る前から多少知っていたとはいえ、ここで改めで情報を整理しておく必要があるだろう。ちょっと二日酔い気味のオーガストの隣に座ったレネは、あくびを噛み殺しながら画面に注視した。
五人の兄弟は、年齢も性別もバラバラである。
しかしそれぞれが自分達の私設兵を持ち、次期皇帝になるため水面下で動いていることは言うまでもない。さらに皇子・皇女たちにはそれぞれ支援者がいて、自分が推す皇族を次期皇帝にしようと暗躍を続けているというわけだ。その支援者の中にはマフィアもいる、というのは既に語るまでもない話である。ただし、五人の皇子・皇女全てが好戦的なわけではないし、ましてや兄弟の殺し合いに積極的というわけでもない。
同時に、それなりに親しくしている兄弟姉妹もいて、一部は結託しているという話。五人の力関係が均等ではないからこそ、より策を練る必要があるからだろうが。
「まず、第一皇子のマイルズ様から」
ぱ、とマイルズの写真がアップになる。大柄で長身、おっとりとした顔立ちの金髪の男性だ。瞳の色は青。五人の長兄でありながら、最も穏健派だと言われている人物でもある。年齢は三十歳。幼い頃から、四つ下の第三皇子であるアイザックとは親しい間柄にあることで有名である。
一応陸軍にも所属しているが、本人は“戦争で人を殺さないために国の防衛力を強化するべき”という姿勢を示している。そこもアイザックと共通している点だろう。とにかく軍事力で高い壁を作ることにより、敵国が侵入したくなくなるような強固な国を作る。それが、争わずして国を守る力になると考えているというわけだ。
「マイルズ様は、争いごとを好まない性格で、幼い頃からアイザック様と懇意にしてらっしゃいます。同時に、明確に“次期皇帝になるのは自分ではなくアイザックが相応しい”と公の発言をされている方でもありますね。マイルズ様の私設部隊である“ウリエル”と我が“ミカエル”は頻繁に情報共有を行っております。今回、アイザック様が襲撃されたことに関してはマイルズ様もお心を痛めているようで……私設兵たちに全力で犯人を調査させるとお約束してくださいました」
「実際、今回の襲撃はマイルズ皇子が新設した第四海軍基地の目の前で起きてるわけですよね。下手をいたら、マイルズ皇子が責任を取らされていてもおかしくなかったわけだ」
「その通り。そういう意味でも、あちらが必死になるのは当然と言えるでしょう。暗殺が成功していたら、アイザック様のみならず一般人にも多数被害が出ていましたし……そういう意味でも、少なくとも今回の実行犯はマイルズ皇子の手のものではないと思っています」
露骨だなあ、とレネは苦笑するしかない。マイルズとその部隊は協力者であるというのに、彼らのことも心から信用しない、とはっきり言い切ったわけだ。
まあ、マイルズが心からアイザックを推してくれていると言い切れる材料はないわけである。疑っておくに越したことはないのかもしれないが。
「二人目は、第一皇女のガブリエラ様ですね。この方はうってかわって、最も好戦的だとされています」
画面が切り替わる。
表示されたのは、アイザックの姉であるガブリエラだ。長いウェーブした赤い髪に、気の強そうな赤い瞳が美しい美女である。プロポーションも抜群で、映画女優と言われてもしっくりきそうな見た目と言えるだろう。ちょっとばかし、化粧が濃すぎる気がしないでもないが。年は現在二十九歳だったのではなかろうか。
このガブリエラが、兄のマイルズと折り合いが悪いことは有名である。なんせ性格が真逆すぎるのだ。おっとりとしたマイルズに対して、ガブリエラは火にダイナマイトでもくべたかのような苛烈な性格だ。幼い頃から、自分の方が兄よりずっと優れていることを豪語し、それを兄に対しても隠そうとしなかった。確かに大学での成績も非常に優秀だったとは聞いている。しかし、戦争に関しても積極的で、“他国に侵略される前にこっちから打って出てしまえばいいのに”というようなことを平気で公言できること、身分の低い人間を馬鹿にするような発言が目立つことから、弟のアイザックともあまり仲が良くないとのことだった。
「私設兵は彼女の名前からとって“ガブリエル”。それに加えて、マフィアである“オルドレン・ファミリー”を支援していることでも知られています。三年前、レネさんを部屋で待ち伏せて襲撃したのも彼女のオルドレン・ファミリーの下っ端だったみたいですしね」
「てことは、今回も……」
「はい。アイザック皇子を狙ったのも、ガブリエラ様の手の者である可能性は高いと考えています。ガブリエラ様は、マイルズ皇子とも仲が悪いですから……ついでに皇子の評判も落とせれば万々歳だったのでしょうね」
「うわ……」
だからって、一般民衆も巻き込みかねないような爆弾を使うなんてどうかしているとしか思えない。レネはげんなりさせられる。
ただ、ガブリエラが犯人ならば筋が通るのも事実ではあるのだ。彼女は皇族と貴族以外の人間に価値はないと豪語しているし、貴族であっても無能なものは死ねばいい――というような過激なことをホイホイ口にするような人物だからである。
うっかり巻き込まれて死ぬくらいの人間なら、生きていてもしょうがない。
そんなことを本気で思っていそうなのがまた恐ろしい。
「次に参りましょう。……はい、第二皇子、のウェズリー様ですね」
パッ、と切り替わる画面。しかし似てない兄弟だなあ、とレネはしみじみ思う。ウェズリーはアイザックやマイルズと違って、痩身で眼鏡をかけた男性である。黒髪に緑目の、どこか大人しそうな印象の人物だ。年齢は二十六歳。よく見れば整った顔立ちをしているのは間違いないが、父親でも母親でもなく祖母に似ているというのが遺伝子の不思議である。黒い髪を持っていたのは、皇帝陛下のお母上であったはずなのだから。
彼はガブリエラを上回る秀才である。ただし、政治にあまり興味はなく、大学院でひたすら研究をすることにご執心とのことだった。とはいえ、皇帝になる気がないわけではない、とのこと。このあたりの意思をはっきり示したわけではないが、一度だけ“次期皇帝には、相応しい者がなるべきだと思います。わたくしがもしそれに相応しいのなら殉ずるのみです”というようなことを言っていたという情報はある。
「ウェズリー様は……ある意味、一番何を考えてらっしゃるかわからない方ですね。大学では、新しい武器や兵器に関する研究をされており、そこで考案された武器が実際に開発されて戦場で使われたこともあったはずです。私設兵部外の名前は“サキエル”。この方も、マフィアの“カナックファミリー”に支援しているという話を聞いています。ただ、実際マフィアをどのように使っているか、どういう意図で支援しているのかについてはわかっていません」
「ミカエルの調査力をもってしてもわからない、と」
「その通り。他の兄弟との関係も、可もなく不可もなくといったところ。元々、誰かとツルむより一人でいた方が気楽という性格の方ですから」
なんとなくそれもわからないではない。レネは彼の写真を見つめてまじまじと思う。
なんというか、ものすごくがり勉タイプっぽい。
皇子様相手に、そんなこと言ったら不敬罪になりそうだが、心の中で考えるのは自由だろう。
「どんどん行きますよ。最後、第二皇女クリスティーナ様ですね」
とんとん、とレネが指示棒で画面を叩いた。
第二皇女クリスティーナだけ、年がかなり離れている。年齢は今年で十四歳だっただろうか。姉のガブリエルよりやや明るい、ピンク色の髪にピンク色の瞳が可愛らしい少女だ。華やかなドレスが眩しい。
恐らく世間一般の子供達が“お姫様”といった時、真っ先に思い浮かぶのタイプの姿をしていると言えるだろう。
天真爛漫な彼女は皆に嫌われるタイプではけしてないが、少々天然でヌケており、同時に勉強も苦手ということであまり成績も良い方ではない。あとは、少し思い込みと正義感が暴走しやすいという難点もあるようだ。
そういうところも含めてクリスティーナの面倒を見ているのが、兄のウェズリーだと聞いている。昔から年の離れた妹を可愛がり、勉強をよく見てやっていたらしい。クリスティーナ自身、生真面目で優秀な兄をとても慕っているようだった。
皇位に関しては、彼女は強く“自分が次期皇帝になりたい”と考えている様子ではある。どうやら彼女なりに考える理想の国造りというのがあるらしく、それは皇帝にならなければ成し遂げられないと思っているらしい。ただ、周りに影響されやすい彼女の意見はころころ変わるため、現在戦争や内政に対してどのように考えているのかは定かではないのだが。
「クリスティーナ様に関しては……つい先日、レネが支援者を一つ潰してくださったので、力がだいぶ削がれていますが。ただ、皇帝になりたいという気概が強い方ですので、そういう意味では行動を起こしてもおかしくはありません。私設兵部隊の名前は“ラグエル”。正義を重視する彼女らしい天使の名前ですね」
「この方はマフィアとくっついてはいないんですっけ?」
「その様子はないとのことです。ただ、兄のウェズリー様と懇意にされていますから、そこで間接的にマフィアの支援を受けることもあるかもしれませんが」
このお二方の間では休戦協定がとられているようですね、とルーイ。
「クリスティーナ様はウェズリー様を尊敬してらっしゃいますし、ウェズリー様もクリスティーナ様を大変可愛がっておられる。ゆえに、皇位継承の件に関しても、他の兄弟が全て倒れない限り二人で争わず協力体制を築こう、ということになっているという話です。クリスティーナ様本人は策略に長けた方ではないですが、ウェズリー様の入れ知恵があるとなると油断はできません」
「なるほど……」
大体、五人の兄弟関係が見えてきた。話を聞いた印象だと、やはりガブリエラが一番アイザックを狙ってくる可能性が高そうである。
それと同時に。
「総じて、兄弟仲ってどんなかんじなんだ?」
レネがはい、と手を挙げると。ルーイもなんとなく察してか、苦笑しながら答えたのである。
「アイザック様は、一番仲の良いのがマイルズ様ですが……ウェズリー様、クリスティーナ様からもけして嫌われていません。蛇蝎のごとく嫌っているのはガブリエラ様のみですね。そのガブリエラ様は他の兄弟全てから嫌われてらっしゃるってかんじです」
「なんかこう、いろいろ察した」
ガブリエラ。実際に話したことは一度もないが、一体どんなきっつい性格なのだろう。あの温厚そうなアイザックからそこまではっきり嫌われようとは。
――とりあえず、彼女に関して情報を集めるのが最優先か。
同時に、うまくほかの兄弟のことも仲間に引き込めないものか、とレネは考える。
皇子のことを何もかも信用したわけではない。しかし、ルーイが信じた人を自分も信じたい気持ちもあるのだ。
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