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<5・黒薔薇の傷。>
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穏やかな物腰。
そして皇子と比べれば華奢な体付きであるがゆえ、うっかり忘れていた。このルーイという従者もまた、いっぱしの軍人。なにより私設兵部隊の隊長を任されるほどの男だということを。
「貴方は長らく、男性相手に体を売って生活していたんですよね。それに関しては同情します。貴方が望んだことではなかったでしょうし……そういう発想にすぐ行きたがるのも仕方ないことでしょう。でも」
気づいた時、レネはソファーの上で押し倒されていた。ルーイの唇は弧を描いているが――目はちっとも笑っていない。
己が彼の地雷を踏んだのは、火を見るよりも明らかだった。
「私と殿下の関係を、そのような下劣な妄想で穢すのは許しがたいことです」
「下劣?」
「私が、殿下に対して恋愛感情を抱いているとでも思ったのですか?そのような恐れ多いこと、できるはずがないでしょう。そういう疑いをかけられること自体、私にとってはとんでもない侮辱です。私とあの方の関係は、そのような浅ましいものではけしてない」
浅ましい。
流石にその言葉には、レネも戸惑うしかない。
自分は確かに、恋愛感情というものがわかっているとは言い難い。長年そのようなものを他人に向けられたことも、自分が他人に向けたこともなかったからだ。あったのは心などどうでもいい、性欲さえ晴らせればそれでいいという男達ばかり。実の親さえ、己の金と欲望のために息子を娼館に売り飛ばしていなくなったのだから。
ただ、それでも知識としては知っている。
本来の恋愛感情というのは――人と人が寄り添い、支え合う感情によるものだと。子供を作っても作らなくても、二人で一緒に家族になろうと誓いあう神聖なものだと。少なくともそうあるべきだと。
自分には理解できないものだが、想像はつく。人が人を好きになるという感情は本来、浅ましいなどと呼ばれるものではないはずだということくらいは。それなのに、この男は一体何をそんな過剰反応しているのか。
「……あんたは何をそんなにブチギレてるんだ」
このまま殴られるかもしれない。あるいはもっとひどい事でもされるのか。わかっていても、疑問を口にせずにはいられなかった。もとより、痛いことに耐えるのは慣れている。
「俺は、皇子のことが好きなのかとあんたに尋ねただけだ。恋愛感情だとは決めつけていない。好きという感情には、友愛や家族愛だって含まれるだろう。忠誠だって一種の愛情じゃないのか?俺にも想像くらいはつく。それに……仮に恋愛感情だったとしたって、それがなんだっていうんだ?」
「何が言いたいのです?」
「恋愛感情を向けるここと、性欲を向けることはイコールじゃないんだろう?少なくとも多くの人間にとっては。……俺は性欲しか向けられたことがないからわからないが、知識としては知っている。それが本来、レンア感情の理想の形だと。違うのか?」
レネがそう告げると、ルーイは乾いた声で笑った。まるで、誰かを――自分自身さえも嘲るような声で。
「御冗談を。意外ですね、男娼をしていた貴方からそのような綺麗ごとを聞くとは思っていませんでした。……残念ですが男女間にしろ同性間にしろ、恋愛感情というのはその先に性欲あってのものなのですよ。性的欲求も抜きに、愛してるだなんて語るのは詐欺師くらいなものです。私はそれをよく知っています」
だから許しがたいのです、とルーイは低い声で言った。
「貴方は私にこう言ったも同然。……あの神聖な殿下に、性欲を向けているのか?と」
「随分拡大解釈が好きなんだな。発想が飛躍しすぎだ。一体何を恐れている?」
「少しお喋りが過ぎるようですね、レネ。お前なんぞ、私の機嫌一つでいつでも殺せてしまえるというのに。あまり調子に乗らない方がいい。ああ、それとも……体に分からせてあげなければ、理解できませんかね?」
はっとした瞬間、レネの体はふわりと浮き上がっていた。まずい、と思った時にはもう、ベッドの上に投げ捨てられている。ぞっとしたのは、これから何をされるか理解したからではない。荒事に慣れているつもりだった己が、まったく抵抗の一つもできずに投げ飛ばされたと気づいたからだ。
万が一の時は、この男を刺して即逃げる準備があった。それくらい警戒もしていた。それなのに、今の動きはまったく予測できず、目で追うこともできなかったのである。細身で華奢に見えるからと多少油断していたのは間違いないが。
――なるほど。……兵士としても、一級品だということか。
この相手と一対一になってしまったらもう、逃げるなんて選択はハナから捨てた方がいい。レネはようやくそれを悟って、体の力を抜いた。長年の経験でよくわかっている。なんせ一番酷い目を見たのは、まだ母親に売られたばかりの頃だったからだ。痛い、怖い、気持ち悪いと泣いて暴れて抵抗すれば、それだけ押さえつける力も強くなった。より苦しい思いをする羽目になり、地獄は長引いた。
黙って、我慢して時が過ぎるのを待つ。時にはその方が、賢い選択であるときもある。ましてやセックスというものは、相手が満足すれば終わりが来るものなのだから。
「お仕置きついでに……せっかくですし、貴方のスキルを披露していただきましょうか」
ぎしり、とベッドが鳴った。ルーイの手がてきぱきとレネのブーツを、シャツを、ズボンを、下着をはぎとっていく。あっという間に、レネは生まれたままの姿にされてしまった。
「この体で数多の男達を誑し込んで、相手をいい気分にして情報を搾り取ってきたのでしょう?どれくらいのスキルがあるか、私にも見せてくださいな」
「……驚いたな。お綺麗な顔した軍人さんも、俺みたいなガキに欲情するのか」
「御冗談を。貴方なんで趣味ではありませんよ。ですが、私にもプライドはあるものですから」
つう、と首筋を撫でられる。その途端、ぞわぞわと背筋が泡立った。おかしなことだ、今までたくさんのオヤジたちに抱かれてきて、こんな感覚を覚えたことは一度もなかったのに。
ルーイの、怒りに満ちた笑顔が間近にある。悔しいことに――怒っていてなお、その姿は美しい。ふわり、と花のようなコロンの香りが漂った。あるいはシャンプーの匂いだろうか。若いだけじゃない、“本当に高貴なお方”は香りまで上等というわけらしい。少し陶酔したような感覚になって、そんな自分に気付いて悔しくなった。
「最初のうちに、はっきりさせておいた方がいいですものね。どっちが支配者であるのかを」
エメラルドの瞳が細められる。
「欲情させられるのは、貴方の方ですよ」
***
ルーイに語ったように。処女を捨てさせられたのは五歳の時だった。無論、そのころには快感なんて一切なかったものだ。当たり前だが、大人の男達を受け入れるには、幼児の体はあまりにも小さすぎたのだから。
それでも、男娼として生きていくしかないのならスキルは必要になる。どうすれば相手が喜ぶか、相手を楽しませ、気持ちよくできるか。性技を磨くと同時に、自分自身が気持ちよくなれるようにと暗示をかけた。痛いより、気持ちよい方がまだマシだ。一番恐れるべきは、心が先に死ぬこと。人は、痛みに延々と耐えられるほど強いイキモノではないのだから。
自己暗示は案外効果を持つものである。気持ちが良いことのはず、と己を騙して開発すれば、自分もそれなりに快感を拾えるようになってくる。そうすれば、下手な演技などしなくても相手が悦ぶ。マグロを抱くより、快感にむせび泣く者を抱いた方が男たちにとってもきっと楽しいことであるはずなのだから。
ゆえにこれは、長年の経験ゆえ仕方ないことなのだ。ルーイの指が肌の上を這うたびに、喉の奥から熱い息が漏れるなんてことは。
「ふっ……うっ……」
手袋を外した繊細な指が、薄い胸板を這っていく。つん、と色づいた胸のつぼみに触られた瞬間腰が震えた。そのままくり、くり、と右胸を指先で転がされる。
「な、なんでっ」
「ん?どうしましたか?」
「なんで、こんな、ゆっくり……」
今まで自分を抱いた男達の多くは、己の性欲を満たすことが最優先だった。つまり前戯もほどほどに突っ込むのが基本だったというわけである。それゆえ、相手によっては予めレネ自身で前戯を行って、すぐに本番に臨めるよう準備をしなければならなかったのだ。さすがのレネも、何の準備もなしにいきなり突っ込まれたら怪我をしかねないからである。
何より、痛いのは好きじゃない。痛みに慣れたからといって、そういうことを喜ぶほどマゾなつもりもない。ある程度キモチヨクなってしまった方が精神的に楽なのは間違いなく――今回はその事前準備の時間こそなかったものの、ある程度そういう覚悟はしていたというのに。
この展開は予想外だった。さっきから彼は、レネの胸しか触ってこないのだから。
――くそっ……わからせてやりたいってなら、さっさと突っ込んで終わればいいだろうがっ……!
いかんせん、相手はまだかっちり軍服を着こんだまま。欲情してるかどうかさえわからない。
しかしレネはといえばもう既に息が上がり始めている始末。元々胸は性感帯の一つであるのも間違いないが。
「ひうっ!」
少し息を整えようと吸った途端、びりびりと痺れるような快感が走った。きゅ、とルーイが強くレネの右乳首をつまみ上げたからである。そのまま捻るようにきゅ、きゅ、と強くねじってくる。本来なら少し痛みを感じてもおかしくないはずなのに、さっきから敏感な粒は気持ちよさしか伝えてこない。
いい加減にしろ、と言いかけたところで左胸にも触れられた。一気に倍になった激感に、思わず足をすり合わせるような動きをしてしまう。
「腰が動いてますよ。そっちには触ってないのに」
「う、煩い……」
「胸だけでそんなに気持ちよいんですか?淫乱さんですね。こんなに快感に弱くて、今まで本当にお仕事ができていたんです?心配になってしまいます」
「煩いって、言ってんだろうがっ……!」
まだ言い返すくらいの余裕はある。それを示すため、相手を必死で睨みつけた。だが次の瞬間、ぬる、と温かい感覚の胸元が包まれて悲鳴が上がる。散々いじられてぷっくりと腫れあがった右乳首を思い切り舐め上げられたのだ。そのまま、キャンディーでも味わうように、ころころと転がされて息がつまる。
「ひっ……ああ、うっ……やめ、ろ、ばかっ……ああ!」
こり、と柔く噛みつかれる。駄目だ、と思った瞬間目の前が真っ白に弾けた。触られているのは胸だったのに、快感は下腹部で破裂する。びゅく、と下腹が生暖かくなった感触で、己が吐精したことを知った。なんてザマだろう。股間には一切触られていないのに、胸だけで絶頂するなんて。
――お、おかしい。今まで、こんなことなかったのに……!
はあはあと荒い息を整えるだけで精一杯。霧の向こうで、ルーイの嗤う声がした。
「なかなか可愛い顔するじゃないですか。あははっ」
ああ、なんて無様。悔しさに、レネはシーツをぎゅうっと握りしめるしかなかったのである。
そして皇子と比べれば華奢な体付きであるがゆえ、うっかり忘れていた。このルーイという従者もまた、いっぱしの軍人。なにより私設兵部隊の隊長を任されるほどの男だということを。
「貴方は長らく、男性相手に体を売って生活していたんですよね。それに関しては同情します。貴方が望んだことではなかったでしょうし……そういう発想にすぐ行きたがるのも仕方ないことでしょう。でも」
気づいた時、レネはソファーの上で押し倒されていた。ルーイの唇は弧を描いているが――目はちっとも笑っていない。
己が彼の地雷を踏んだのは、火を見るよりも明らかだった。
「私と殿下の関係を、そのような下劣な妄想で穢すのは許しがたいことです」
「下劣?」
「私が、殿下に対して恋愛感情を抱いているとでも思ったのですか?そのような恐れ多いこと、できるはずがないでしょう。そういう疑いをかけられること自体、私にとってはとんでもない侮辱です。私とあの方の関係は、そのような浅ましいものではけしてない」
浅ましい。
流石にその言葉には、レネも戸惑うしかない。
自分は確かに、恋愛感情というものがわかっているとは言い難い。長年そのようなものを他人に向けられたことも、自分が他人に向けたこともなかったからだ。あったのは心などどうでもいい、性欲さえ晴らせればそれでいいという男達ばかり。実の親さえ、己の金と欲望のために息子を娼館に売り飛ばしていなくなったのだから。
ただ、それでも知識としては知っている。
本来の恋愛感情というのは――人と人が寄り添い、支え合う感情によるものだと。子供を作っても作らなくても、二人で一緒に家族になろうと誓いあう神聖なものだと。少なくともそうあるべきだと。
自分には理解できないものだが、想像はつく。人が人を好きになるという感情は本来、浅ましいなどと呼ばれるものではないはずだということくらいは。それなのに、この男は一体何をそんな過剰反応しているのか。
「……あんたは何をそんなにブチギレてるんだ」
このまま殴られるかもしれない。あるいはもっとひどい事でもされるのか。わかっていても、疑問を口にせずにはいられなかった。もとより、痛いことに耐えるのは慣れている。
「俺は、皇子のことが好きなのかとあんたに尋ねただけだ。恋愛感情だとは決めつけていない。好きという感情には、友愛や家族愛だって含まれるだろう。忠誠だって一種の愛情じゃないのか?俺にも想像くらいはつく。それに……仮に恋愛感情だったとしたって、それがなんだっていうんだ?」
「何が言いたいのです?」
「恋愛感情を向けるここと、性欲を向けることはイコールじゃないんだろう?少なくとも多くの人間にとっては。……俺は性欲しか向けられたことがないからわからないが、知識としては知っている。それが本来、レンア感情の理想の形だと。違うのか?」
レネがそう告げると、ルーイは乾いた声で笑った。まるで、誰かを――自分自身さえも嘲るような声で。
「御冗談を。意外ですね、男娼をしていた貴方からそのような綺麗ごとを聞くとは思っていませんでした。……残念ですが男女間にしろ同性間にしろ、恋愛感情というのはその先に性欲あってのものなのですよ。性的欲求も抜きに、愛してるだなんて語るのは詐欺師くらいなものです。私はそれをよく知っています」
だから許しがたいのです、とルーイは低い声で言った。
「貴方は私にこう言ったも同然。……あの神聖な殿下に、性欲を向けているのか?と」
「随分拡大解釈が好きなんだな。発想が飛躍しすぎだ。一体何を恐れている?」
「少しお喋りが過ぎるようですね、レネ。お前なんぞ、私の機嫌一つでいつでも殺せてしまえるというのに。あまり調子に乗らない方がいい。ああ、それとも……体に分からせてあげなければ、理解できませんかね?」
はっとした瞬間、レネの体はふわりと浮き上がっていた。まずい、と思った時にはもう、ベッドの上に投げ捨てられている。ぞっとしたのは、これから何をされるか理解したからではない。荒事に慣れているつもりだった己が、まったく抵抗の一つもできずに投げ飛ばされたと気づいたからだ。
万が一の時は、この男を刺して即逃げる準備があった。それくらい警戒もしていた。それなのに、今の動きはまったく予測できず、目で追うこともできなかったのである。細身で華奢に見えるからと多少油断していたのは間違いないが。
――なるほど。……兵士としても、一級品だということか。
この相手と一対一になってしまったらもう、逃げるなんて選択はハナから捨てた方がいい。レネはようやくそれを悟って、体の力を抜いた。長年の経験でよくわかっている。なんせ一番酷い目を見たのは、まだ母親に売られたばかりの頃だったからだ。痛い、怖い、気持ち悪いと泣いて暴れて抵抗すれば、それだけ押さえつける力も強くなった。より苦しい思いをする羽目になり、地獄は長引いた。
黙って、我慢して時が過ぎるのを待つ。時にはその方が、賢い選択であるときもある。ましてやセックスというものは、相手が満足すれば終わりが来るものなのだから。
「お仕置きついでに……せっかくですし、貴方のスキルを披露していただきましょうか」
ぎしり、とベッドが鳴った。ルーイの手がてきぱきとレネのブーツを、シャツを、ズボンを、下着をはぎとっていく。あっという間に、レネは生まれたままの姿にされてしまった。
「この体で数多の男達を誑し込んで、相手をいい気分にして情報を搾り取ってきたのでしょう?どれくらいのスキルがあるか、私にも見せてくださいな」
「……驚いたな。お綺麗な顔した軍人さんも、俺みたいなガキに欲情するのか」
「御冗談を。貴方なんで趣味ではありませんよ。ですが、私にもプライドはあるものですから」
つう、と首筋を撫でられる。その途端、ぞわぞわと背筋が泡立った。おかしなことだ、今までたくさんのオヤジたちに抱かれてきて、こんな感覚を覚えたことは一度もなかったのに。
ルーイの、怒りに満ちた笑顔が間近にある。悔しいことに――怒っていてなお、その姿は美しい。ふわり、と花のようなコロンの香りが漂った。あるいはシャンプーの匂いだろうか。若いだけじゃない、“本当に高貴なお方”は香りまで上等というわけらしい。少し陶酔したような感覚になって、そんな自分に気付いて悔しくなった。
「最初のうちに、はっきりさせておいた方がいいですものね。どっちが支配者であるのかを」
エメラルドの瞳が細められる。
「欲情させられるのは、貴方の方ですよ」
***
ルーイに語ったように。処女を捨てさせられたのは五歳の時だった。無論、そのころには快感なんて一切なかったものだ。当たり前だが、大人の男達を受け入れるには、幼児の体はあまりにも小さすぎたのだから。
それでも、男娼として生きていくしかないのならスキルは必要になる。どうすれば相手が喜ぶか、相手を楽しませ、気持ちよくできるか。性技を磨くと同時に、自分自身が気持ちよくなれるようにと暗示をかけた。痛いより、気持ちよい方がまだマシだ。一番恐れるべきは、心が先に死ぬこと。人は、痛みに延々と耐えられるほど強いイキモノではないのだから。
自己暗示は案外効果を持つものである。気持ちが良いことのはず、と己を騙して開発すれば、自分もそれなりに快感を拾えるようになってくる。そうすれば、下手な演技などしなくても相手が悦ぶ。マグロを抱くより、快感にむせび泣く者を抱いた方が男たちにとってもきっと楽しいことであるはずなのだから。
ゆえにこれは、長年の経験ゆえ仕方ないことなのだ。ルーイの指が肌の上を這うたびに、喉の奥から熱い息が漏れるなんてことは。
「ふっ……うっ……」
手袋を外した繊細な指が、薄い胸板を這っていく。つん、と色づいた胸のつぼみに触られた瞬間腰が震えた。そのままくり、くり、と右胸を指先で転がされる。
「な、なんでっ」
「ん?どうしましたか?」
「なんで、こんな、ゆっくり……」
今まで自分を抱いた男達の多くは、己の性欲を満たすことが最優先だった。つまり前戯もほどほどに突っ込むのが基本だったというわけである。それゆえ、相手によっては予めレネ自身で前戯を行って、すぐに本番に臨めるよう準備をしなければならなかったのだ。さすがのレネも、何の準備もなしにいきなり突っ込まれたら怪我をしかねないからである。
何より、痛いのは好きじゃない。痛みに慣れたからといって、そういうことを喜ぶほどマゾなつもりもない。ある程度キモチヨクなってしまった方が精神的に楽なのは間違いなく――今回はその事前準備の時間こそなかったものの、ある程度そういう覚悟はしていたというのに。
この展開は予想外だった。さっきから彼は、レネの胸しか触ってこないのだから。
――くそっ……わからせてやりたいってなら、さっさと突っ込んで終わればいいだろうがっ……!
いかんせん、相手はまだかっちり軍服を着こんだまま。欲情してるかどうかさえわからない。
しかしレネはといえばもう既に息が上がり始めている始末。元々胸は性感帯の一つであるのも間違いないが。
「ひうっ!」
少し息を整えようと吸った途端、びりびりと痺れるような快感が走った。きゅ、とルーイが強くレネの右乳首をつまみ上げたからである。そのまま捻るようにきゅ、きゅ、と強くねじってくる。本来なら少し痛みを感じてもおかしくないはずなのに、さっきから敏感な粒は気持ちよさしか伝えてこない。
いい加減にしろ、と言いかけたところで左胸にも触れられた。一気に倍になった激感に、思わず足をすり合わせるような動きをしてしまう。
「腰が動いてますよ。そっちには触ってないのに」
「う、煩い……」
「胸だけでそんなに気持ちよいんですか?淫乱さんですね。こんなに快感に弱くて、今まで本当にお仕事ができていたんです?心配になってしまいます」
「煩いって、言ってんだろうがっ……!」
まだ言い返すくらいの余裕はある。それを示すため、相手を必死で睨みつけた。だが次の瞬間、ぬる、と温かい感覚の胸元が包まれて悲鳴が上がる。散々いじられてぷっくりと腫れあがった右乳首を思い切り舐め上げられたのだ。そのまま、キャンディーでも味わうように、ころころと転がされて息がつまる。
「ひっ……ああ、うっ……やめ、ろ、ばかっ……ああ!」
こり、と柔く噛みつかれる。駄目だ、と思った瞬間目の前が真っ白に弾けた。触られているのは胸だったのに、快感は下腹部で破裂する。びゅく、と下腹が生暖かくなった感触で、己が吐精したことを知った。なんてザマだろう。股間には一切触られていないのに、胸だけで絶頂するなんて。
――お、おかしい。今まで、こんなことなかったのに……!
はあはあと荒い息を整えるだけで精一杯。霧の向こうで、ルーイの嗤う声がした。
「なかなか可愛い顔するじゃないですか。あははっ」
ああ、なんて無様。悔しさに、レネはシーツをぎゅうっと握りしめるしかなかったのである。
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