最強魔王の子供達~仇の勇者を倒すため、チート兄妹が無双致します~

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<39・Gorton>

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 ひょっとしたら。そう考えなかったわけではない。
 それでもゴートンが自分に何も言わないから、てっきり何も気づいていないと思っていたのだ。ジニーことジルは、彼とたまたま出会った貧しい踊り子の青年。お金目的で一夜を共にするものの、それで惹かれあっていき本物の恋人になる。そしてゴートンは仲間と離れた後、そのジニーだけを拠り所とするようになる――まさにそういう筋書きで、彼はそれを疑っていないように見えていたから。

「……ジニー」

 どう返事をするべきか、考えあぐねているジルを見て。ゴートンは“やっぱりそうなんだな”と一人納得したように首を垂れた。

「途中から、そうなんじゃないかって考えは頭の隅にあったんだ。ジニーと出会ってから、いろんなことが全部回りだしたような気がしてな。……マリオンと揉めたのもお前をめぐってのことだし、俺を守るためって名目で罠の考案をしたのもジニーだ。もちろん、俺も命が惜しかったし、お前の提案に最終的にGOサインを出したのは俺だけどよ」
「ゴートン……」
「何より、妙だなって思ったのはお前が俺に見せてくれたいろんな“道具”だ。たった一時間程度でメリーランドタウンから王都まで到着できるような乗り物。それに、この落とし穴を一日足らずで完成させるだけの技術、機械、人員。俺が聞いていたジニーのプロフィールと合致しねえ。どうやってそんなことできたんだって考えたら、思い出したのが魔王城のことだ。魔王アークには、代々魔族に伝わった最新鋭の科学技術と魔王技術がそろっていて、仲間たちでそれを研究していたと。科学技術は、俺らが元居た令和の日本を超えるレベルのものがそろっていたと……」
「…………」

 そこまで気づいているのなら、もうどうしようもないだろう。というか、少々計画に変更が出て無理をする羽目になったのも事実だ。ジニーが芸人仲間から引き継いだもの、という設定では少々無理な道具を持ち出してしまったのも事実。無論、そうまでしなければサリーとゾウマの二人を始末できないと考えたというのもあるが。
 それに、そもそもゴートンには最終的に全て明かして、絶望の中で殺してやるつもりでもいたのだ。なんせ、彼のチートスキルは“全ての女を奴隷にする”ものであって、男であるジルには効かない。ジルをはじめとした男の仲間だけで取り囲んで袋叩きにしてしまえば簡単に殺せる相手なのだ。ゴートンを利用してサリーとゾウマを潰すことを優先したのはそのためである。ゴートンをかばって、奴隷化されたマリオンがあっさり死んだのは嬉しい誤算ではあったが。

「……俺と妹のルチルはな」

 腰のナイフに手をかけつつ、ジルは言う。もう、ジニー、を演じてやる必要はないと判断したためだ。

「とある村から……悪魔の使徒も同然の扱いを受けて追い出された。俺が八歳、ルチルが五歳の時だ。魔物そっくりの赤い目をしていたから、俺らが異人の子だったから、そのタイミングで凶作に見舞われたからっつーそれだけの理由でよ。そんな俺達を助けてくれたのがアーク……父さんだった。お前らにとっては魔王でもな、俺らにとっては……偉大で、優しくて、かけがえのない父さんだったんだよ。あの父さんが、世界征服なんて考えるはずがあるか。あの人はただ、自分と家族で……森の奥の城でつつましく暮らせていればそれで充分だったんだ。そういう人だったんだよ」
「……そうか」
「父さんは自分がヴァリアントをバラまいたと疑われても、森に火を放つと脅されても、自分から攻撃なんてしなかった。話し合いで解決しようとしてたんだ。それを……それをお前ら勇者が殺した。父さんが魔王で、全ての黒幕だった方が都合が良いからっていうそれだけの理由で……!」

 それだけじゃない、とジルはゴートンを睨みつける。

「お前ら勇者は、自分のチートスキルを振り回して人に迷惑をかけてばっかりだ!自分の本来の世界じゃないから、現実感がないから何やっても許されると思ったか?女神サマからチートスキルを与えたんだから、何でも好き勝手にやる権利が自分達にあるとでも思ったのかよ、ええ?なあゴートン、お前はその欲望にまみれたチートスキルを使って、今まで何人の女を凌辱してきたんだ?その心と体を踏みにじってきたんだよ?マリオンを奴隷にしたことは反省するくせに、そっちはどうでもいいってか?お前の奴隷にされたほかの女達は人間じゃなかったから?そうだ、お前らが父さんを殺して平気だったのも、人間じゃないと思っていたからだよな?」

 一度吐き出したら止まらなかった。
 本当に糾弾したかったサリーはもういない。だから半ばこれは八つ当たりも含まれていると知っている。それでも止められなかった。
 自分達はただ、生きて幸せになりたかっただけだ。
 あの人と、愛する仲間たちと一緒に未来を夢見たかっただけだ。
 何故それが許されなかったのだろう?誰かに笑いながら踏みつけにされなければいけなかったのだろうか?

「……わかってる」

 ゴートンは、項垂れるように言った。

「もう、わかってる。俺は……俺達は間違ったことをした。取り返しのつかないことをしちまった。人間じゃない……そう思っていればどこまでも残酷になれるもんだ。殺してもいいって、そう思えちまうんだよな。アークのことも……いや、アークだけじゃねえ。俺はやっぱり令和日本の人間で、この世界ってのは現実味がなくてよ。退屈で、ちっとも認められなかった世界を抜け出して、夢みたいな場所に来られた……チートスキルを与えられた、認められた。この世界でやることは全部ご褒美で、なんだって許されると思っちまったんだ」
「お前にとっては、漫画やゲームの世界みたいなもんかもしれないけどな。俺達にとっては、この世界こそ現実なんだ。この世界こそ真実なんだよ。ラノベの無双主人公気どりで、好き勝手にされたらたまったもんじゃねえんだよ」
「そうだよな。……きっと俺にスキルをかけられた女たちもみんな、同じことを思ってたんだろうな……恨まれても仕方ねえよ。そして俺に……よくも騙したな、なんて。ジニーを憎む権利もきっと、ねえ」

 もう疲れた、とでも言いたげな有様にジルは苛立った。まだどこかで被害者を気取るつもりなのだろうか。確かに女神に無理やり転生させられた件については不憫だと思わないでもないが、彼らはこの世界にとっては加害者以外の何者でもないではないか。
 何が、世界を救う勇者なものか。
 やったことは、罪もない人間に災厄の汚名を着せて葬り去り、さらに無辜の人々に迷惑をかけ、尊厳を踏みにじり続けて来ただけではないか。

「本当にすまなかった、ジニー。……でもな」

 彼は緩慢な動作で顔を上げる。

「一つだけ、言わせてくれ」
「なんだ」
「それでも……それでも俺は、お前が好きなんだ、ジニー」
「!」

 何を言っているのだろう、こいつは。ジルは目を見開く。たった今、彼を騙していたとぶっちゃけたばかりではないか。彼も騙されたと自覚したのではないか。それなのに、何故。

「俺はこの顔で、前世からずっと苦労してきた。顔が醜いからってだけで、誰からも頑張りを認めてもらえなくて。まともに話をしてくれる人間さえ少なくて。……そういうやつらが憎くて憎くてダイキライで、そういうクソ女どもに復讐してやりたくて、女を奴隷にできるスキルを選んだってのもあった」

 す、と己の顎をなぞりながら言うゴートン。

「でもな。そうやって罪もない女どもをどんだけ食っても心が満たされることなんかなかったんだ。今ならわかる。俺は、いつの間にか心まで醜い怪物になっちまってたんだって。自分が踏みにじられた分、誰かを踏みにじっていいなんてそんなことなかったってのによ。……ジニーに出会って初めて、認めて貰えた気がしたんだ。俺は……俺は生きていていいんだって、そう思えたように感じたんだ。俺が、自分がやってきたことを見つめ直そうって思えたのも、全部全部、お前のおかげなんだよ」
「何を……」
「お前にとって俺は、利用するために近づいただけの存在なんだろう。わかってる。でもな。……本当の恋ってやつは、恋をするだけで幸せになれるもんなんだって俺は知ったんだ。お前を思うだけで俺は、俺自身のことも好きになれるような気がした。お前と一緒にいて俺は……間違いなく幸せだったんだ」

 だから、と彼は続ける。

「これは、俺の自己満足。償えるなんて思っちゃいねえ。それであんたの苦しみが癒えるとも思わねえ。ただ……ただ一つだけ、恩返しと思って聞いてほしいことがある」

 彼は、自分の右耳についたピアスを外した。そして、腕まくりして左腕に装着されている銀色のブレスレットを露出させる。
 ブレスレットには、真ん中に丸い窪みがあった。丁度、ピアスの青い球と同じくらいのサイズの窪みである。

「このブレスレットとピアスは、女神様から貰った通信機であると同時に……鍵にもなってるんだ」
「鍵?」
「俺達勇者は死んでこの世界に来た時、最初に女神様のいる異空間に飛ばされてそこで説明を受けた。チートスキルを授けてもらったのもその場所だ。恐らく女神様は、この世界から隔絶した異空間にいるんだろう。時々女神様から通信機に連絡が来たり、女神様の異空間に飛ばされることが今でもある。この通信機とブレスレットが、女神様のいる場所に辿り着くための鍵になってるんだと思う」

 ゴートンが何を言わんとしているかわかった。つまり、その道具があれば女神様にこちらから会いに行くことも可能というわけだ。
 ただし。

「女神から言い渡されたルールがあってな。女神様からの連絡は基本一方通行なんだ。俺達から連絡を取ろうとしちゃいけねえ、俺達から会いにいっちゃいけねえ、そういうルールだった。多分ノエルはそのルールに抵触したんだと思う。それで、化け物にされた挙句死んじまった」
「……なるほど。そいつを使って女神に会いにいこうとすれば、罰を受けて死ぬかもしれないってことか」
「そうだ。だから……扉を開くのは、俺がやる」
「!」

 ジルは目を見開く。
 ノエルはともかく、ゴートンはもっとあさましい性格のはずだ。いくら仲間たちを失って、ジニーにも騙されて絶望したからといって、そうやすやすと命を捨てるようなタイプだとは思えなかった。
 何かを企んでいるのか。ジルはそう疑ったのがわかったのか、ゴートンは少し寂しそうに笑って首を横に振った。

「騙し打ちなんかしねえよ。もう、俺には何もないからな。……これくらいしか、恩返しとしてお前にできることがねえ」
「それを信じろと?」
「ああ、信じて貰うしかねえんだよな、残念ながら。……ただ、俺も女神サマにムカついてるのは確かなんだ。ノエルがヴァリアントになったことでほぼ確定しただろ。女神サマは最初から、自分がヴァリアントをバラまいたくせに……俺っち勇者を日本でぶっ殺して異世界転生させやがったんだ。何でそんなことをしたのかわからないが……殺されて利用されたのは間違いねえんだよ。俺らがやった罪全てを女神サマのせいにするつもりはないけどな」

 ただ一つだけ頼みがある、とゴートンは言う。今まで見たことのないような、優しい笑みを浮かべて。

「ジニー。あんたの……本当の名前を教えてくれないか?ジニーつーのは偽名なんだろう?」

 その頼みを、ジルが聞く必要など本来なかった。ゴートンがいくら反省しようが絶望しようが、だからといって彼を許す理由にはならないのだから。
 それでもだ。

「……ジルだ」

 教えようと思ったのは何故なのか。答えは、自分でもよくわからなかったのだった。

「そうか」

 ゴートンはかみしめるように頷いたのである。

「ありがとよ。……いい名前だな」
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