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<20・Dissatisfaction>
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「あんな奴のために、お兄様が怪我をするなんて」
さっきから、ルチルはずっと不満げな顔でぶつぶつ言い続けている。まあそりゃそうだろうな、とユリンからすれば言う他ない。わかっているから、黙ってジルもルチルの手当を受けているのだろう。なんせ、そもそもは“ゴートンがピンチになった時に現れて、より信頼を獲得する”ところまでしか計画には盛り込まれていなかったのだから。
確かに怪我は大したものではなかったし、命がけで守ったという事実がゴートンにより信頼される結果になったのも確かだろう。しかし、元はといえばあの男は自分達にとって憎い勇者の一人にすぎない。いくら直接アークを殺した本人でなくても、その仲間であり、仇の一人でしかないのだから。
「悪かったな、計画外のことをして」
ジルは素直に包帯を巻かれるがままになっている。
「俺だって、あんな奴のために死ぬなんてごめんだからな。ただ土壇場で、怪我でもした方があいつの情に訴えられるかもと思っただけだ。あんなクソ遅ぇ攻撃なんざ見切れてたし、わざと受けるってのもなかなか一苦労だったけどな」
「……非常に有効な作戦だったとは思います。でもそれはそれ、これはこれなんです。感情と合理性は時に一致しないもんだと思いませんか?……ルチルにとっては、あのゴートンは憎い勇者の一人でしかありません。お兄様の価値とは比べものにならないものなんです。確かに、あの場でゴートンが殺されるようなことになったら本末転倒でしたけど」
「だろ?言いたいことはわかるけど、納得してくれ」
傷が浅くても、痛くないかどうかは別問題なんだろう。ヴァリアントに怪我をさせられたからといってヴァリアントになるわけではないが、鋭利な刃物で傷つけられたも同然なのは間違いない。肩から胸近くまですっぱりと斬られている。回避力の高いあるジルでなければ、致命傷になってしまっていたかもしれない。
「……念のため訊いておくが、ジル」
ジルの性格はよくわかっているつもりだった。だからこそ、念のためのつもりで口を開くユリン。
「あのゴートンに、妙な情なんてもの沸いてはいないだろうな?」
「ああ?」
「何度か閨と共にしたし、酒も飲み交わしたんだろう?ゴートンはかなりお前に心を開いているようだ。実際騙しているわけだが、変な罪悪感なんて持ったりしてないだろうな?」
彼は変装の天才であり、演技の天才でもある。相手を口説き落とすためならば、都合の良いウソなんていくらでも吐けるだろう。ここに来るまでにも様々な男女を口説き落として情報提供させているし、やっていることは今更と言えば今更である。
ただ、それでも“勇者”という存在が、ジルにとって特に意味ある存在であるのは間違いないのだ。思うところがあっても何らおかしくはない。憎い仇。そう認識していれば猶更に。
「何わけわかんねーこと言ってんだよ」
そんなユリンに、ジルは呆れたように肩を竦めた。
「ナイナイ。人を騙すなんざ、俺にとっては今更すぎるほど今更だし。ゴートンも、父さんを殺すのに手を貸した勇者の一人なんだぜ?魔王がすべての元凶って信じ込んでるあたり同罪だしな。そんな奴に、俺がどうして同情する?いつか全部ネタ晴らしして、ざまあみろってやってやりたいとしか思ってねーって」
「……それならばいいが」
「それよりも、今回でわかったことが多いんじゃねえ?そっちの情報まとめておこうぜ」
無理やり話を逸らされた。そう感じるのは、彼に思うところがあるからだろうか。
ジルが言っていることは正しい。本来、多少同情できる要素があったとてゴートンたちは憎い仇以外の何者でもない。それに対して妙な憐憫を抱くなど論外と言えば論外なのだ。ただ。
――お前は、本当にそこまで非情になれる奴か?
心配なのは、彼個人の性格的な問題だ。
ユリンは知っている。本来、このメンバーの中で一番自分達の“父さん”に似ているのが誰であるのかということを。
笑って人を騙せる人間ではないはずなのだ、ジルという少年は。自分達がそうさせてしまっているだけで。そしてジルも、重荷を自ら背負うと決めてしまっているだけで。
そもそも、好きでもなんでもない男や女と寝て情報を得るだなんて、本来誰だってやりたいことではないはずなのである。いくらジルの容姿が並外れて美しく、変装や演技が上手いとしてもだ。それを自ら買って出ている時点で、本来ジルがどういう人間なのか窺い知れるというものなのである。
彼が本当に罪悪感も何もないというのならそれでもいい。でも、もしもそうではないのなら。
いつか彼のことを、彼自身が殺してしまう時が来るのではないか。ユリンは、どうしてもそれが気がかりでならないのである。
「えっと」
とことことこ、とアジトの奥から薬箱を運んできたミユが話しかけてきた。
「作戦会議、ミユも参加していいかんじ?意見言ったりしてもいいの?」
「作戦会議ってほど正式なもんじゃないけどな、後で報告するし。なんだ、ミユ?」
自分より年下の子供にジルは甘い。ミユほど顕著ではないが、ユリンもだいぶ甘やかしてもらっている自覚がある。多分、幼少期にアークにべたべたに甘やかして育ててもらったのが大きいのだろう。まあ、ついつい癖でミユの頭を撫でようとして左腕を動かし、いてえ!と騒いでいるあたり間抜けではあるが。
「えっとね、ミユは……魔法の気配を見るのは得意だから、ずっと今日の戦いを隠れて観察してたのね」
ミユはまだ九歳。自分で自分を守るための訓練はしているが、まだ戦闘能力が高いとはいえない。ただし、逃げ隠れするスキルと、戦闘観察力には長けている。よって彼女にはよく、戦地の近くに潜伏してもらって敵を観察するということをやってもらうのだ。
魔族ではないが、魔法の素質があるというのも大きい。魔法が得意な人間は、相手の魔法を見抜く力にも長けていることが多いのだ。
「あのゴートンって人が使ってた剣から、女神様の魔法と同じ気配がしたの。多分あれ、女神様からもらった武器なんじゃないかな」
「ああ、やっぱり特別なものでしたか」
ジルの包帯を留めながら、ルチルが告げる。
「ルチルも隠れて戦闘を見ていましたが……あのヴァリアント、けして耐久力が低いタイプではなかったはず。分身は脆かったようですが、本体を倒すのはそれなりに骨だったはずです。それが、あのゴートンがあの剣で突き刺した瞬間、風船が割れるように弾けて消滅しました。女神から対ヴァリアント専門の武器を授けられていたと考えれば自然です」
「うん、でもミユが気になったのはそれだけじゃないの」
「と、いうと?」
「あのゴートンって人が剣で刺した瞬間に見えたの。あの人が刺したのは怪物のお尻のあたりだったんだけど……刺された瞬間、そこに赤い球のようなものが見えたのね。すごく強い魔力の気配がしたから、多分そこが弱点だったんだと思う。その弱点を、あの女神様から貰った剣で突いたから倒せたんじゃないかな」
「赤い球?」
「うん。もっと正確にいうとミユには……あれ、種、みたいに見えたかな。植物の種。それが、ヴァリアントに寄生していたみたいだったというか……」
新情報だ。ユリンはジル、ルチルと顔を見合わせる。
ミユは感覚が鋭い。種みたいだ、というのも恐らく当たらずとも遠からずといったところだろう。その種のようなものを植え付けられた生き物がヴァリアント化する、ということなのかもしれない。
ただ、問題は。
「……普通の種、でないことは明らかだな」
顎に手を当てて言うジル。
「その手の調査は散々やった。ヴァリアントを眠らせて体中くまなく調べることと、血液検査までは俺らも魔王城でやってる。でも、化け物が何かに寄生されているような痕跡は見つからなかった。つか、寄生生物の仕業だってんなら人間だってとっくに突き止めてるはずだ。必ずなんらかの寄生ルートがあるはずなんだからな」
「ええ。でも、そういったものが今まで見つかったことはありません。それに、魔法による呪縛や変態というのも疑問が残ります。魔族であるユリン、魔王であるお父様、それから魔法感知に長けたミユ。全員が、ヴァリアントに魔法による呪いの気配を察知できていないのですから」
「ああ」
「うん、ミユもそれとはちょっと違うと思う。……変な話なんだけど、剣で刺されるまでその種みたいなのはミユにも見えなかったの」
ミユは困ったように首を横に振った。
「それなのに、剣で刺されたとたん、ぶわーって何かが噴き出すみたいに強い魔法の気配がしてね?……でもって、あの種みたいなのから感じたのは……女神様の魔法とそっくりな気配だったの」
「は!?」
彼女が何を言わんとしているのか、わかってしまった。今度こそ、ユリンはすっとんきょうな声を上げる。
「……ヴァリアントは、女神が作ってるとでもいうのか?いや、さすがにそれはおかしいだろ。だって、この世界の創造主なんだぞ。自分の世界に怪物を生み出して、世界を危機に陥れる必要がどこにある?しかも、それをどうにかするために勇者を呼び寄せて討伐させているのも女神だ。自分で怪物を作っておきながらそれを勇者に倒させる?意味がわからない……!」
進展はあったが、同じだけ謎も増えてしまった。困惑する中、とりあえず!とジルは手を叩く。その衝撃が傷に響いたらしく、またしてもイテー!と叫んではいるが。
「と、とにかく!……今までずっとわからなかったヴァリアントに関する秘密が、ようやく明らかになろうとしてるんだ。俺達が進む道は正しいはずだぜ。何が何でも女神を問い詰めて真実を訊かないといけないってわけだ。そのために……次なるステップへ進む」
ゴートンを篭絡したら、そのまま芋づる式にほかの勇者も引っ張り出すつもりだった。
サリーとゾウマを攻略するために、次に狙うのはあの勇者達である。
即ち、“絶対のマリオン”と“浄罪のノエル”の攻略である。そして、マリオンの攻略のカギとなるのは、あのゴートンなのだ。何故ならば。
「ゴートンのスキルは、絶対防御を誇るマリオンにも効く」
ジルは目を細めて言う。
「だからまず……ゴートンとマリオンを、潰し合わせてやるよ。俺の力でな」
さっきから、ルチルはずっと不満げな顔でぶつぶつ言い続けている。まあそりゃそうだろうな、とユリンからすれば言う他ない。わかっているから、黙ってジルもルチルの手当を受けているのだろう。なんせ、そもそもは“ゴートンがピンチになった時に現れて、より信頼を獲得する”ところまでしか計画には盛り込まれていなかったのだから。
確かに怪我は大したものではなかったし、命がけで守ったという事実がゴートンにより信頼される結果になったのも確かだろう。しかし、元はといえばあの男は自分達にとって憎い勇者の一人にすぎない。いくら直接アークを殺した本人でなくても、その仲間であり、仇の一人でしかないのだから。
「悪かったな、計画外のことをして」
ジルは素直に包帯を巻かれるがままになっている。
「俺だって、あんな奴のために死ぬなんてごめんだからな。ただ土壇場で、怪我でもした方があいつの情に訴えられるかもと思っただけだ。あんなクソ遅ぇ攻撃なんざ見切れてたし、わざと受けるってのもなかなか一苦労だったけどな」
「……非常に有効な作戦だったとは思います。でもそれはそれ、これはこれなんです。感情と合理性は時に一致しないもんだと思いませんか?……ルチルにとっては、あのゴートンは憎い勇者の一人でしかありません。お兄様の価値とは比べものにならないものなんです。確かに、あの場でゴートンが殺されるようなことになったら本末転倒でしたけど」
「だろ?言いたいことはわかるけど、納得してくれ」
傷が浅くても、痛くないかどうかは別問題なんだろう。ヴァリアントに怪我をさせられたからといってヴァリアントになるわけではないが、鋭利な刃物で傷つけられたも同然なのは間違いない。肩から胸近くまですっぱりと斬られている。回避力の高いあるジルでなければ、致命傷になってしまっていたかもしれない。
「……念のため訊いておくが、ジル」
ジルの性格はよくわかっているつもりだった。だからこそ、念のためのつもりで口を開くユリン。
「あのゴートンに、妙な情なんてもの沸いてはいないだろうな?」
「ああ?」
「何度か閨と共にしたし、酒も飲み交わしたんだろう?ゴートンはかなりお前に心を開いているようだ。実際騙しているわけだが、変な罪悪感なんて持ったりしてないだろうな?」
彼は変装の天才であり、演技の天才でもある。相手を口説き落とすためならば、都合の良いウソなんていくらでも吐けるだろう。ここに来るまでにも様々な男女を口説き落として情報提供させているし、やっていることは今更と言えば今更である。
ただ、それでも“勇者”という存在が、ジルにとって特に意味ある存在であるのは間違いないのだ。思うところがあっても何らおかしくはない。憎い仇。そう認識していれば猶更に。
「何わけわかんねーこと言ってんだよ」
そんなユリンに、ジルは呆れたように肩を竦めた。
「ナイナイ。人を騙すなんざ、俺にとっては今更すぎるほど今更だし。ゴートンも、父さんを殺すのに手を貸した勇者の一人なんだぜ?魔王がすべての元凶って信じ込んでるあたり同罪だしな。そんな奴に、俺がどうして同情する?いつか全部ネタ晴らしして、ざまあみろってやってやりたいとしか思ってねーって」
「……それならばいいが」
「それよりも、今回でわかったことが多いんじゃねえ?そっちの情報まとめておこうぜ」
無理やり話を逸らされた。そう感じるのは、彼に思うところがあるからだろうか。
ジルが言っていることは正しい。本来、多少同情できる要素があったとてゴートンたちは憎い仇以外の何者でもない。それに対して妙な憐憫を抱くなど論外と言えば論外なのだ。ただ。
――お前は、本当にそこまで非情になれる奴か?
心配なのは、彼個人の性格的な問題だ。
ユリンは知っている。本来、このメンバーの中で一番自分達の“父さん”に似ているのが誰であるのかということを。
笑って人を騙せる人間ではないはずなのだ、ジルという少年は。自分達がそうさせてしまっているだけで。そしてジルも、重荷を自ら背負うと決めてしまっているだけで。
そもそも、好きでもなんでもない男や女と寝て情報を得るだなんて、本来誰だってやりたいことではないはずなのである。いくらジルの容姿が並外れて美しく、変装や演技が上手いとしてもだ。それを自ら買って出ている時点で、本来ジルがどういう人間なのか窺い知れるというものなのである。
彼が本当に罪悪感も何もないというのならそれでもいい。でも、もしもそうではないのなら。
いつか彼のことを、彼自身が殺してしまう時が来るのではないか。ユリンは、どうしてもそれが気がかりでならないのである。
「えっと」
とことことこ、とアジトの奥から薬箱を運んできたミユが話しかけてきた。
「作戦会議、ミユも参加していいかんじ?意見言ったりしてもいいの?」
「作戦会議ってほど正式なもんじゃないけどな、後で報告するし。なんだ、ミユ?」
自分より年下の子供にジルは甘い。ミユほど顕著ではないが、ユリンもだいぶ甘やかしてもらっている自覚がある。多分、幼少期にアークにべたべたに甘やかして育ててもらったのが大きいのだろう。まあ、ついつい癖でミユの頭を撫でようとして左腕を動かし、いてえ!と騒いでいるあたり間抜けではあるが。
「えっとね、ミユは……魔法の気配を見るのは得意だから、ずっと今日の戦いを隠れて観察してたのね」
ミユはまだ九歳。自分で自分を守るための訓練はしているが、まだ戦闘能力が高いとはいえない。ただし、逃げ隠れするスキルと、戦闘観察力には長けている。よって彼女にはよく、戦地の近くに潜伏してもらって敵を観察するということをやってもらうのだ。
魔族ではないが、魔法の素質があるというのも大きい。魔法が得意な人間は、相手の魔法を見抜く力にも長けていることが多いのだ。
「あのゴートンって人が使ってた剣から、女神様の魔法と同じ気配がしたの。多分あれ、女神様からもらった武器なんじゃないかな」
「ああ、やっぱり特別なものでしたか」
ジルの包帯を留めながら、ルチルが告げる。
「ルチルも隠れて戦闘を見ていましたが……あのヴァリアント、けして耐久力が低いタイプではなかったはず。分身は脆かったようですが、本体を倒すのはそれなりに骨だったはずです。それが、あのゴートンがあの剣で突き刺した瞬間、風船が割れるように弾けて消滅しました。女神から対ヴァリアント専門の武器を授けられていたと考えれば自然です」
「うん、でもミユが気になったのはそれだけじゃないの」
「と、いうと?」
「あのゴートンって人が剣で刺した瞬間に見えたの。あの人が刺したのは怪物のお尻のあたりだったんだけど……刺された瞬間、そこに赤い球のようなものが見えたのね。すごく強い魔力の気配がしたから、多分そこが弱点だったんだと思う。その弱点を、あの女神様から貰った剣で突いたから倒せたんじゃないかな」
「赤い球?」
「うん。もっと正確にいうとミユには……あれ、種、みたいに見えたかな。植物の種。それが、ヴァリアントに寄生していたみたいだったというか……」
新情報だ。ユリンはジル、ルチルと顔を見合わせる。
ミユは感覚が鋭い。種みたいだ、というのも恐らく当たらずとも遠からずといったところだろう。その種のようなものを植え付けられた生き物がヴァリアント化する、ということなのかもしれない。
ただ、問題は。
「……普通の種、でないことは明らかだな」
顎に手を当てて言うジル。
「その手の調査は散々やった。ヴァリアントを眠らせて体中くまなく調べることと、血液検査までは俺らも魔王城でやってる。でも、化け物が何かに寄生されているような痕跡は見つからなかった。つか、寄生生物の仕業だってんなら人間だってとっくに突き止めてるはずだ。必ずなんらかの寄生ルートがあるはずなんだからな」
「ええ。でも、そういったものが今まで見つかったことはありません。それに、魔法による呪縛や変態というのも疑問が残ります。魔族であるユリン、魔王であるお父様、それから魔法感知に長けたミユ。全員が、ヴァリアントに魔法による呪いの気配を察知できていないのですから」
「ああ」
「うん、ミユもそれとはちょっと違うと思う。……変な話なんだけど、剣で刺されるまでその種みたいなのはミユにも見えなかったの」
ミユは困ったように首を横に振った。
「それなのに、剣で刺されたとたん、ぶわーって何かが噴き出すみたいに強い魔法の気配がしてね?……でもって、あの種みたいなのから感じたのは……女神様の魔法とそっくりな気配だったの」
「は!?」
彼女が何を言わんとしているのか、わかってしまった。今度こそ、ユリンはすっとんきょうな声を上げる。
「……ヴァリアントは、女神が作ってるとでもいうのか?いや、さすがにそれはおかしいだろ。だって、この世界の創造主なんだぞ。自分の世界に怪物を生み出して、世界を危機に陥れる必要がどこにある?しかも、それをどうにかするために勇者を呼び寄せて討伐させているのも女神だ。自分で怪物を作っておきながらそれを勇者に倒させる?意味がわからない……!」
進展はあったが、同じだけ謎も増えてしまった。困惑する中、とりあえず!とジルは手を叩く。その衝撃が傷に響いたらしく、またしてもイテー!と叫んではいるが。
「と、とにかく!……今までずっとわからなかったヴァリアントに関する秘密が、ようやく明らかになろうとしてるんだ。俺達が進む道は正しいはずだぜ。何が何でも女神を問い詰めて真実を訊かないといけないってわけだ。そのために……次なるステップへ進む」
ゴートンを篭絡したら、そのまま芋づる式にほかの勇者も引っ張り出すつもりだった。
サリーとゾウマを攻略するために、次に狙うのはあの勇者達である。
即ち、“絶対のマリオン”と“浄罪のノエル”の攻略である。そして、マリオンの攻略のカギとなるのは、あのゴートンなのだ。何故ならば。
「ゴートンのスキルは、絶対防御を誇るマリオンにも効く」
ジルは目を細めて言う。
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