最強魔王の子供達~仇の勇者を倒すため、チート兄妹が無双致します~

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<15・Question>

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 創造主、アルテナ。
 この世界を作りし女神であり、同時にこの国・ラジスターアイランドの始祖でもあるとされている。
 遠い遠い昔、何もない真っ暗な闇の中に生まれた女神。彼女は生まれついて、自らの使命を理解していたという。即ち新たな世界を作り、生命を生み出すことが己の存在意義であるということを。
 彼女は世界という名の箱庭を作り、まず広大な海を作った。
 そして広大な海に一つの小さな島を作り、城を立てた。これが、後のラジスターアイランドの始まりの土地であり、現在王都がある場所だといわれている。
 島を作り、城を作った女神はさらにその城に住まう一組の夫婦を作った。これが、一番最初の王様であり、現在の王様の先祖であるとされている。
 王様とお妃様に、女神・アルテナは命じたという。

『この世界に、お前たちの手で楽園を築きなさい。いつか、私のような神が生まれてくるにふさわしい国を。そして、神が生きるに値する国を』

 王様とお妃様はたくさんの子供を作り、さらにその子供たちが島を少しずつ埋め立てて大きくしていったという。やがて子供たちが文明を作り、田畑を耕し、町を築き、どんどん世界を広げていったのだそうだ。
 ラジスターアイランドはまさに、女神が最初に作り上げた聖地。そして、女神が最初に作り上げた偉大なる祖先こそ、ラジスターアイランドにおける王様とお妃様であったという。ゆえに、彼らは尊く、最初に彼らに付き従った子孫が貴族の祖先となり身分制度ができた――のだとかなんとか。
 まあようするに、これはラジスターアイランドにおける言い伝えというわけである。おそらく、ほかの国にはまた似たような別の伝説が伝わっていることだろう。ラジスターアイランドの王族を特別視するため、ひいてはこの国の優位性を民に知らしめるため王族が元あった伝説を改変して流した可能性が高いと思われる。

「本当の聖地はどこなのか?については世界中で諸説あるって言ったところのようね」

 書籍のページを捲りながら、凶弾のサリーは告げた。

「西のコルバーナ共和国の首都だという説もあれば、南のアメジスト合衆国の首都こそが本当の聖地だという説もある。このへんは宗教によって異なるせいで、たびたび喧嘩になるようだけど。この国で主流となっているラジスター教では、どの派閥でもこの国の王都こそが聖地であり、王様が神の子であるという意見で一致しているわ」
「宗教とか面倒くせえんだよなあ。日本でもなんとなく、おさわり禁止のやべぇもの、みたいな扱いになってたし?日本の神道とか仏教くらいの緩さでいいってのによ」
「気持ちはわかるけど、調べないわけにはいかないでしょ。ヴァリアントに関して、女神サマのいうことをほいほい聞いているのが正しいかどうかは疑問が残るもの。貴方も同じでしょ、ゾウマ」
「……まあなあ」

 王都ラミカルシティ。そこに王様が建ててくれた豪邸こそ、今の自分たちの本拠地であると言っていい。王都周辺でヴァリアントが出た場合、そして王様や女神様が名指しで自分たちに出陣依頼をした場合以外はこの豪邸でゴロゴロしているのがサリーとゾウマの常だった。
 王様が国賓級の扱いをしてくれているおかげで、自分たちは日々の生活に一切困ることがない。メイドや執事といったお手伝いさんたちは王室が用意してくれているし、ハウスキーパーが日用品に関しては定期的に買いそろえてくれるので自分たちで補充する必要もない。
 キッチンでは王国一のシェフが腕を振るってくれるので毎日好きなご馳走が食べられる。服も、娯楽も、何もかも最高級品のものを望めば望むだけ提供してもらえるシステムだ。
 まあ、残念ながらこの世界の基本的文化水準は自分たちの前世の世界における十九世紀から二十世紀初頭レベルにとどまっている。テレビもやたらでかくて重いわりに画面は小さいし、映像は荒い。かろうじて画像に色はついているが、令和の日本のそれと比べるとお粗末なくら動きがカクカクしている。
 そして、電源ゲーム機の類もなければパソコンもなく、スマートフォンはおろかガラケーもない。どうしてもかつての世界と比べると退屈に思えてしまうのは仕方のないことなのだった。
 まあ、屋敷の外に遊びに行けば、スポーツをするなり海水浴をするなりといったレジャーも楽しめるのだろうが。突然王様や女神様に招集をかけられる可能性がある身である。下手に遊びに行くこともできない、というのが本当のところなのだった。
 まあ、名指しでの呼び出しでなければ、何も自分とゾウマが行く必要もないわけだが。

「二年前、あたしたちは現代日本の世界で死んで……この世界に召喚されたわ」

 勇者として呼ばれた五人には共通点があった。全員が、令和の時代の日本人だったということである。言葉の壁は女神様が不思議な力でどうにかしてくれただろうが、とにかく同じ時代の同じ国の人間というのは話しやすかったのも事実だ。ある程度、共通認識を持つことができるというのは重要なことなのである。
 当時の日本では、異世界転生系のライトノベルがそこそこ流行していた。トラックにぶつかって死んだら異世界に転生して女神様からチート能力をもらいました、というアレである。まさかそんなことが現実に起きて、実際に自分たちが体験することになるなんて思ってもみなかったわけだが。

「呼び出された理由は、この世界に危機が訪れていたから。ヴァリアント、という名の怪現象が頻発し、人や動物が次々化け物になって周囲の者達を襲うという災害が起きていたから。特に、このラジスターアイランドでは被害が酷かったって話よね?」
「ああ、そう聞いている。……この世界にはインターネットも何もないから、海外の情報は新聞とテレビでしか入ってこないからなんとも言えないけどな。国営メディアの報道が正しいなら、よその国よりも此処の被害が一番酷かったはずだ」
「そうね。……で、女神様はそのヴァリアントをなんとかして、この世界に平和を取り戻してほしい。そのためのお膳立てはするから、と言われたわけだけど」

 パタン、と歴史書を閉じてサリーはゾウマを見る。ソファーにどっかりと座った男は、背もたれの方に左腕を出してぶらぶらと揺らしていた。浅黒い肌、はちきれんばかりの筋肉。その腕にがっつり入った黒い入れ墨。それだけ見ると、どこの世界のヤクザかと思うだろう。しかし、実際は見た目ほど粗野な男ではないことをサリーは知っている。見た目よりずっと賢い人物であるのは間違いない――の自分に、最も忠誠を誓ってくれているという意味でも。
 この勇者五人の中で特に攻撃に特化した能力を持つのが、自分とこのゾウマである。自分たちが戦えば向かうところ敵なしだった。ついでに、ベッドの中でも無敵である。彼は様々な意味で自分に逆らわない。このゾウマがまさしく己のモノであるということは、サリーにとって特に誇らしいステータスでもあるのだった。

「女神サマは、この世界の平和を取り戻したらあたしたちの望みを何でも叶えると言ったわ。この世界に危害を加える類の望みでなければ、なんでもいいと。……なかなかリスキーな契約よね。それに乗っかったあたしが言うのもなんだけど」

 彼女はそうまでして、自分たちにヴァリアントを討伐させたかったわけだ。ただ。

「女神サマはどうして、魔王・アークの仕業だと睨んだのかしらね。この国が一番、ヴァリアントの被害に遭っているのよ?特に王都があるこの島が一番酷い状況にあるわ。まず、他国の攻撃を疑うのが筋じゃない?いくら、シルタの森に住む魔王に人食いの噂があると言ってもよ?」
「女神様は全知全能なんだろう?なら、独自調査で魔王が元凶だと知っていた可能性はないのか?だから、俺達に倒させようとした、と」
「それならそれで不思議なのよ。そこまでわかってるなら自分でやればいいじゃない。よその世界から面倒な手間暇かけて、勇者を異世界転生させる必要がある?女神様の魔力がどれほど高くても、異世界から勇者を連れてくるのが簡単なことだとは思えないんだけど」
「……確かに、言われてみればそうかもなぁ?」

 ぐい、と持っていたビール瓶を煽った。瓶に直接口をつけて飲むのはどうなのよ、と思ったがサリーは黙っておくことにする。どうせ、自分はビールを飲まないから関係ない。

「まあ、俺はせっかくもらったスキルを存分に使って無双できるならどうでもよかったしな。魔王を倒す勇者になって、チートスキルで無双できるなんて最高じゃねえか。サリー、そこはお前も同じだろ?二年前、すげえ楽しそうに戦っていたのを忘れてないぜ」
「……まあね」

 確かに、二年前の戦いで自分たち二人は特に乗り気だった。楽しくなかった、と言えばウソになる。前世ではけしてできない、倫理を度外視した大暴れをさせてもらえたのだから。まあ、魔王が想像以上に弱かったことだけが消化不良だったのも事実だけれど。

「でも、二年前に楽しかったことと……女神が真実を語っているかどうかは別のことなのよ。現に、あたし達はある意味で困った状況になっているわ。なんせ、女神が言う通りに魔王を倒したのに、ヴァリアントの脅威が去らなかったんだもの。今はどうにか、魔王の一族の残党を狩りつくせば終わる、ってことで民を納得させてはいるけれど……万が一残党狩りをしても災害が収まらなかったら大問題よね。あたし達は、今の地位を失うかもしれない」
「……実は、僕も同じことを危惧しています」
「!」

 足音とともに、リビングに入ってきた人影があった。同じ勇者の一人である浄罪のノエルである。ゾウマとは違い、ひょろっとした細身の体つきをしている。そのせいか、顔だけはイケメンとはいえあまりサリーの好みではなかったりする。いつも自信なさげに喋るからというのもあるのだが。

「魔王アークが、実はヴァリアントと無関係だった。その可能性はありませんか?」
「何ですって?」
「そ、その。……二年前の戦い、サリーさんたちの話を聞いているとどうしても引っかかるんです。魔王って、あんなに簡単に倒せるものなんでしょうか?最初は町の人と平和交渉しようとしていたほどなんですよね?弱いのもそうだし、無抵抗がすぎるというか。女神様は、何か別の目的があって勇者とアークを戦わせようとした可能性はありませんか……?」
「…………」

 それは、サリーも心の隅で考えていたことではあった。実際、ヴァリアントは魔王を倒しても増え続けている。アークが元凶ではなかったと考えるなら、筋が通ってしまうことは多い。しかし。

「口を慎みなさい、ノエル」

 サリーはぴしゃりと言った。

「あんたも、女神様に願いを叶えて貰いたいんでしょう?確かに気になるところがあるのは事実だけど……魔王がもともとは黒幕だった、それを信じておいた方が平和なんじゃなくて?あたしも、あんたもね」

 それが何を意味するのか、ノエルもわからないほど馬鹿ではあるまい。青ざめて俯いた青年を見て、サリーは舌打ちをしたのだった。
 そう、女神の思惑を調べる必要はある。ただ、だからといって二年前の戦いに間違いがあったなどと認めるわけにはいかないのだ。
 自分たちは既に、彼らを殺してしまっているのだから。
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