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<10・Villain>
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二年間。ジル達はただ、手をこまねいていたわけではない。
その間に、かつては知らなかった情報も得たし、自分達の武器も万全に磨いたのだから。
そもそもの事の発端は、世界中にヴァリアントという名の怪現象が頻発したことなのは言うまでもない。
人間が、動物が、魔物が。ある瞬間に突然変異を起こして怪物になり、攻撃的になって暴れ回ってしまうという現象。
解決策が“ヴァリアントとしても生命を終わらせれば元の人間や動物に戻る”であるのは非常に簡単ではあるのだが、最大の問題は“いつ誰が変異するかわからない”上、“多くが知性を失って非常に凶暴になり、殺害するのも困難である”ということである。
それこそ、居酒屋で酒を飲んでいたオヤジが突然変異したら、間違いなく同じ店で飲んでいた者達や店員たちは真っ先に被害に遭うことだろう。目の前で一緒に飲んでいた友人なんかは、それこそ何も分からないまま引き裂かれて殺されるかもしれない。
分かっていることは。彼らの体から、何かの細菌やウイルスが見つかる様子がなかったということ。
人間達はもちろん、ジルたちも魔王城で色々と調べたのだ。ところがヴァリアントから元に戻った動物・人間たちからも、生け捕りにしたヴァリアントからもおかしなものは検出されなかった。無論、生け捕りにしたヴァリアントで人体実験でもすれば話は別だったのかもしれないが、流石に自分達にも倫理観の上での問題がある。なんせ、元に戻ったら記憶をなくすとはいえ彼らはあくまで罪なき人間や生き物たちでしかないのだから。
何故突然、生物があのような状態になってしまうのか。
そしてどうして変異して元に戻った者達は、変異直前からの記憶を一切失うのか。
この現象は、世界中で大きな社会問題となったことは言うまでもない。一度怪物になって元に戻った者達は自分が犯してしまった罪によって心に深い傷を負ったし、その被害に遭った者達も言うまでもない。そして、一度でもヴァリアントになった者達は言われのない差別を受けて村や町を追放されることも珍しくないのだ。
突然破壊された町や村の復興はもちろんのこと、そういった差別の問題も横たわり人々の心に暗い影を落としている。一度ヴァリアントになった者だからといって抗体ができるわけではなく、同じ人間が二度三度となることもあるから尚更に。しかも、ヴァリアント化する人間や生き物に共通点らしいものが一切ないのだ。特に欲深い者が変態する、なんてこともない。人間達がお手上げ状態になり――同時に、なんらかの救いを求めるのは必然だったとも言える。
――その結果。……誰かが言いだした。あれは、強い魔力を持つ者が、魔法によって呪いをかけた結果ではないか、と。
魔物の森に一般人が近づかないよう、人喰い魔王の噂を流していたのはアーク本人だった。今思うと、それは少しばかり後先を考えないやり方だったかもしれないと思う。
問題は、ヴァリアントの被害が多発するようになったことで、この世界を守る女神が異世界から勇者を召喚してしまったこと。
その勇者たちが“ヴァリアントを作り出しているのは魔王であり、魔王を倒せばこの世界は救われる”などと言いだしたことである。
魔王アーク・コルネットは、この世界を支配するべく人々に呪いをかけた。その結果、世界中にヴァリアントが溢れてしまった。悪の魔王を倒せば呪いは解かれ、世界は再び平和に戻る――それはまさに、出口の見えない恐怖に支配されていた人々にとって甘言でしかなかったことだろう。
――人は弱い生き物だ。……自分にとって都合の良い真実があれば、真っ先にそれに縋ってしまう。
勇者たちが何を根拠にそんなことを言い始めたのかはわからない。
ただその結果、女神の加護を受けた彼らの言葉を人々が信じ、それが絶対の真実であるかのようにこの国中に広まってしまったということである。アークはあくまで多くの町や森から追放されたはぐれ者達を匿って、魔王城で自活していただけの魔族の末裔でしかない。世界征服なんて頭にも上らなかったであろうことを、すぐ傍にいた自分達は知っている。
しかし、一切交流がなく、人喰い魔王の噂を信じて距離を置いてしまっていた人々にはそうではなかったということだろう。勇者達の語る都合の良い妄言を信じて、彼らは森へ押し寄せたのだ。その結果――二年前の悲劇である。アークは従者のクグルマと共に殺害され、森は焼き討ちされ、数百人にも上る魔王城の住人達が殺害された。ジル達数名だけが生き残ってしまったというわけである。
ジル達は復讐を誓った。しかし、ただ復讐してやると喚くだけなら野次馬にだってできること。本当に実行するためには、まず落ち着いて情報収集を行わなければいけない。
「作戦会議をしよう」
超大国、ラジスターアイランドの辺境の町、メリーランドタウン。その地下にジル達の本拠地はあった。
上は仲間が経営する居酒屋となっている。酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしていることが多いので地下で多少実験・訓練の物音がしても気づかれにくいのだ。また、居酒屋という場所は古くから情報が集まる場所としても知られている。よそに聴きこみに行って不審がられるくらいなら、いっそ収入を得がてら自分達で店を経営してしまえばいい、というのがジルの考えだった。
仲間の一人、龍人のバリスターがバーテンダーを務めている。彼は普段はやや顔色の悪い人間の姿だが、有事の姿は本来のドラゴンの姿に戻って戦うことができるという魔物だった。いけてるオジさま、といった風貌の男性である。コミュニケーションの応力の鬼であり、人から言葉巧みに情報を聴きだすのが非常に上手い人物なのだった。もちろん、この地下ミーティングに彼も参加している。
「まず、今分かっている情報をまとめる。……俺達の標的である勇者について、現在わかっていることは……こいつらが五人組だということだ」
魔王城にいたメンバーには元科学者・技術者といった者もいた。よって、時間はかかったがこの地下に、人間達が持ちえない多くのテクノロジーを盛り込んだ施設を作ることが可能だったわけである。
例えば、今ジルが表示しているホログラムや、皆の手元に行き渡っているタブレットなんかもそう。現在この国では、富裕層に電話やテレビがどうにか行き渡っているかなといったレベルである。電話はともかく、テレビがない一般家庭は少なくない。当然、無線で遠くといつでも連絡できるスマートフォンなんてものを持っているのは、自分達魔王城にいたメンバーとその仲間達だけなのだった。
今は、生き残った者達以外にも仲間がかなりの数増えている。特に、この本拠地に招き入れているのはジルが自分で見て“信頼が置ける”と判断した者達ばかりなのだった。
「まず一人目。……父さんを殺した張本人である、“凶弾のサリー”。五人の勇者のリーダー格の一人でもある」
ジルは画面をスライドさせ、女の姿を表示させる。真っ赤な長い髪に黒い瞳、真っ赤なルージュというやや変わった外見の女だ。ややきつい顔立ちだが、美人なのは間違いないだろう。はちきれんばかりの胸が自慢なのか、胸の谷間が大きく見えるようなセクシーな衣装を身に纏っている。手元には、彼女の最大の武器であるライフル銃が。
ちなみに、勇者と呼ばれるメンバー達の多くは、女神に“自分が望んだ容姿”を与えて貰っているのだという。彼女の美貌も、女神にそう望んで与えてもらったものだということだろう。案外、前世の容姿にはコンプレックスがあったタイプかもしれない。
「二人目。このサリーの恋人である、“紅蓮のゾウマ”。城を焼き打ちしたのがこっちだな。こいつもリーダー格だ。というか、サリーとゾウマが相談して集団の意思を決定するということらしい」
画面が切り替わり、現れるのは屈強な体格の男。浅黒い肌、ツンツンと尖った短い黒髪に金色の瞳。ムキムキの腕には、植物なのかドラゴンなのかよくわからない刺青が入っている。
サリーはかなり高慢な性格だが、こいつもこいつで結構傲慢なタイプであるらしい。どっちも俺様系なのに、よく気が合って恋人同士なんてものをやっているものだと思う。方針が一致しているから気分がいいということなのだろうか。
二年前は、サリーがシルタの町の男達を率いて森に押しかけ、魔王を引きつけているうちにゾウマが城を焼き打ちするという作戦だったと見える。実際、ゾウマの能力は人を焼き殺すのに“最適”であったことだろう。
「三人目。“絶対のマリオン”。一見すると可愛らしい少女に見えるが、こいつもかなりえげつない性格の持ち主であるようだ。サリーとゾウマほどではないが、二人に可愛がられていることからそれなりに発言力があるらしい」
さらに、三人目の勇者が彼女である。
ピンク色のふわふわのツインテールをした幼げな少女だ。年齢は八歳くらいだろうか。ピンクの髪、大きくてキラキラした薄紅色の瞳。まるで魔法少女系のアニメや漫画から抜け出してきたかのような見た目であると言える。まあ、本人が得意とするのはそのチートスキルを利用した絶対防御であり、敵を攻撃することはさほど得意ではないようだったが。
前世ではかなり年のいった女性だったのでは?なんて噂もささやかれている。時々ものすごくおばさんくさい発言をするから、らしい。彼女もロリっぽい容姿に憧れてそのように設定して貰ったというタイプなのかもしれなかった。
また、ある意味ではサリーよりも残酷な性格という説もあるので要注意である。
「四人目が、“浄罪のノエル”。勇者メンバーの中では一番大人しい性格だが、そのせいかパシリに使われることが多いようだな。その高い治癒能力をもってして後方支援に回る事が多いそうだ」
四人目の勇者は、二十歳前後の青年だ。
茶髪に緑色の瞳であり、整った顔立ちであるのは間違いないのだが表情から気弱な性格が滲んでしまっている。二年前の惨劇でも表舞台には立たず、後ろで支援役に徹していたらしい。
五人の中ではかなり立場が弱いが、イケメンであるからなのかサリーとマリオンからそこまで酷い扱いを受けることはないようだ。少なくとも、一番最後の一人よりは。
「そして最後が……今回の標的である、“貪欲のゴートン”だな」
五人目を表示した途端、会議室の女性陣から“うげ”という声が複数聞こえた。まあ、でっぷりと太って頭がハゲた中年男、というだけで生理的嫌悪は強いのだろう。女性を凌辱するような官能小説なんかでレイプ犯として登場するのが大体こういう見た目の男だからというのもあるかもしれないが。
このゴートン、何でも勇者として転生するにあたり、何故か容姿を変更して貰わなかったらしいという説がある。このような醜い見た目で構わないなんて、よっぽど物好きなのか、あるいは容姿に拘りがなかったのか。
彼のチートスキルは、あらゆる女性を虜にできるというハーレム能力である。ある意味、一番わかりやすい力だとでも言えるだろう。彼はパシリとして情報収集に走らされつつ、町を回るたびあらゆる女性を食って回っているのだという。まさに、女の敵とも言うべき存在だろう。
「ルチル、生理的にこいつ無理です」
十七歳になったルチルが苦々しい表情で言う。
「こんな奴に、お兄様が色仕掛けをしなければいけないなんて。本当にムカつきます」
「しょうがねえだろ。こいつ相手に女性を向かわせるなんて論外なんだから」
ルチルの頭をぽんぽんと撫でつつ、ジルは言った。
「このゴートンと、今夜逢う約束を取り付けることに成功した。……五人の勇者の中で一番パシリであると同時に、一番世界各地を回って情報を持っているのがこいつだ。二年前の戦いに直接参加しちゃいないが……俺達の仇の一人であることは変わりない。まずは、こいつを落としてやる」
その間に、かつては知らなかった情報も得たし、自分達の武器も万全に磨いたのだから。
そもそもの事の発端は、世界中にヴァリアントという名の怪現象が頻発したことなのは言うまでもない。
人間が、動物が、魔物が。ある瞬間に突然変異を起こして怪物になり、攻撃的になって暴れ回ってしまうという現象。
解決策が“ヴァリアントとしても生命を終わらせれば元の人間や動物に戻る”であるのは非常に簡単ではあるのだが、最大の問題は“いつ誰が変異するかわからない”上、“多くが知性を失って非常に凶暴になり、殺害するのも困難である”ということである。
それこそ、居酒屋で酒を飲んでいたオヤジが突然変異したら、間違いなく同じ店で飲んでいた者達や店員たちは真っ先に被害に遭うことだろう。目の前で一緒に飲んでいた友人なんかは、それこそ何も分からないまま引き裂かれて殺されるかもしれない。
分かっていることは。彼らの体から、何かの細菌やウイルスが見つかる様子がなかったということ。
人間達はもちろん、ジルたちも魔王城で色々と調べたのだ。ところがヴァリアントから元に戻った動物・人間たちからも、生け捕りにしたヴァリアントからもおかしなものは検出されなかった。無論、生け捕りにしたヴァリアントで人体実験でもすれば話は別だったのかもしれないが、流石に自分達にも倫理観の上での問題がある。なんせ、元に戻ったら記憶をなくすとはいえ彼らはあくまで罪なき人間や生き物たちでしかないのだから。
何故突然、生物があのような状態になってしまうのか。
そしてどうして変異して元に戻った者達は、変異直前からの記憶を一切失うのか。
この現象は、世界中で大きな社会問題となったことは言うまでもない。一度怪物になって元に戻った者達は自分が犯してしまった罪によって心に深い傷を負ったし、その被害に遭った者達も言うまでもない。そして、一度でもヴァリアントになった者達は言われのない差別を受けて村や町を追放されることも珍しくないのだ。
突然破壊された町や村の復興はもちろんのこと、そういった差別の問題も横たわり人々の心に暗い影を落としている。一度ヴァリアントになった者だからといって抗体ができるわけではなく、同じ人間が二度三度となることもあるから尚更に。しかも、ヴァリアント化する人間や生き物に共通点らしいものが一切ないのだ。特に欲深い者が変態する、なんてこともない。人間達がお手上げ状態になり――同時に、なんらかの救いを求めるのは必然だったとも言える。
――その結果。……誰かが言いだした。あれは、強い魔力を持つ者が、魔法によって呪いをかけた結果ではないか、と。
魔物の森に一般人が近づかないよう、人喰い魔王の噂を流していたのはアーク本人だった。今思うと、それは少しばかり後先を考えないやり方だったかもしれないと思う。
問題は、ヴァリアントの被害が多発するようになったことで、この世界を守る女神が異世界から勇者を召喚してしまったこと。
その勇者たちが“ヴァリアントを作り出しているのは魔王であり、魔王を倒せばこの世界は救われる”などと言いだしたことである。
魔王アーク・コルネットは、この世界を支配するべく人々に呪いをかけた。その結果、世界中にヴァリアントが溢れてしまった。悪の魔王を倒せば呪いは解かれ、世界は再び平和に戻る――それはまさに、出口の見えない恐怖に支配されていた人々にとって甘言でしかなかったことだろう。
――人は弱い生き物だ。……自分にとって都合の良い真実があれば、真っ先にそれに縋ってしまう。
勇者たちが何を根拠にそんなことを言い始めたのかはわからない。
ただその結果、女神の加護を受けた彼らの言葉を人々が信じ、それが絶対の真実であるかのようにこの国中に広まってしまったということである。アークはあくまで多くの町や森から追放されたはぐれ者達を匿って、魔王城で自活していただけの魔族の末裔でしかない。世界征服なんて頭にも上らなかったであろうことを、すぐ傍にいた自分達は知っている。
しかし、一切交流がなく、人喰い魔王の噂を信じて距離を置いてしまっていた人々にはそうではなかったということだろう。勇者達の語る都合の良い妄言を信じて、彼らは森へ押し寄せたのだ。その結果――二年前の悲劇である。アークは従者のクグルマと共に殺害され、森は焼き討ちされ、数百人にも上る魔王城の住人達が殺害された。ジル達数名だけが生き残ってしまったというわけである。
ジル達は復讐を誓った。しかし、ただ復讐してやると喚くだけなら野次馬にだってできること。本当に実行するためには、まず落ち着いて情報収集を行わなければいけない。
「作戦会議をしよう」
超大国、ラジスターアイランドの辺境の町、メリーランドタウン。その地下にジル達の本拠地はあった。
上は仲間が経営する居酒屋となっている。酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしていることが多いので地下で多少実験・訓練の物音がしても気づかれにくいのだ。また、居酒屋という場所は古くから情報が集まる場所としても知られている。よそに聴きこみに行って不審がられるくらいなら、いっそ収入を得がてら自分達で店を経営してしまえばいい、というのがジルの考えだった。
仲間の一人、龍人のバリスターがバーテンダーを務めている。彼は普段はやや顔色の悪い人間の姿だが、有事の姿は本来のドラゴンの姿に戻って戦うことができるという魔物だった。いけてるオジさま、といった風貌の男性である。コミュニケーションの応力の鬼であり、人から言葉巧みに情報を聴きだすのが非常に上手い人物なのだった。もちろん、この地下ミーティングに彼も参加している。
「まず、今分かっている情報をまとめる。……俺達の標的である勇者について、現在わかっていることは……こいつらが五人組だということだ」
魔王城にいたメンバーには元科学者・技術者といった者もいた。よって、時間はかかったがこの地下に、人間達が持ちえない多くのテクノロジーを盛り込んだ施設を作ることが可能だったわけである。
例えば、今ジルが表示しているホログラムや、皆の手元に行き渡っているタブレットなんかもそう。現在この国では、富裕層に電話やテレビがどうにか行き渡っているかなといったレベルである。電話はともかく、テレビがない一般家庭は少なくない。当然、無線で遠くといつでも連絡できるスマートフォンなんてものを持っているのは、自分達魔王城にいたメンバーとその仲間達だけなのだった。
今は、生き残った者達以外にも仲間がかなりの数増えている。特に、この本拠地に招き入れているのはジルが自分で見て“信頼が置ける”と判断した者達ばかりなのだった。
「まず一人目。……父さんを殺した張本人である、“凶弾のサリー”。五人の勇者のリーダー格の一人でもある」
ジルは画面をスライドさせ、女の姿を表示させる。真っ赤な長い髪に黒い瞳、真っ赤なルージュというやや変わった外見の女だ。ややきつい顔立ちだが、美人なのは間違いないだろう。はちきれんばかりの胸が自慢なのか、胸の谷間が大きく見えるようなセクシーな衣装を身に纏っている。手元には、彼女の最大の武器であるライフル銃が。
ちなみに、勇者と呼ばれるメンバー達の多くは、女神に“自分が望んだ容姿”を与えて貰っているのだという。彼女の美貌も、女神にそう望んで与えてもらったものだということだろう。案外、前世の容姿にはコンプレックスがあったタイプかもしれない。
「二人目。このサリーの恋人である、“紅蓮のゾウマ”。城を焼き打ちしたのがこっちだな。こいつもリーダー格だ。というか、サリーとゾウマが相談して集団の意思を決定するということらしい」
画面が切り替わり、現れるのは屈強な体格の男。浅黒い肌、ツンツンと尖った短い黒髪に金色の瞳。ムキムキの腕には、植物なのかドラゴンなのかよくわからない刺青が入っている。
サリーはかなり高慢な性格だが、こいつもこいつで結構傲慢なタイプであるらしい。どっちも俺様系なのに、よく気が合って恋人同士なんてものをやっているものだと思う。方針が一致しているから気分がいいということなのだろうか。
二年前は、サリーがシルタの町の男達を率いて森に押しかけ、魔王を引きつけているうちにゾウマが城を焼き打ちするという作戦だったと見える。実際、ゾウマの能力は人を焼き殺すのに“最適”であったことだろう。
「三人目。“絶対のマリオン”。一見すると可愛らしい少女に見えるが、こいつもかなりえげつない性格の持ち主であるようだ。サリーとゾウマほどではないが、二人に可愛がられていることからそれなりに発言力があるらしい」
さらに、三人目の勇者が彼女である。
ピンク色のふわふわのツインテールをした幼げな少女だ。年齢は八歳くらいだろうか。ピンクの髪、大きくてキラキラした薄紅色の瞳。まるで魔法少女系のアニメや漫画から抜け出してきたかのような見た目であると言える。まあ、本人が得意とするのはそのチートスキルを利用した絶対防御であり、敵を攻撃することはさほど得意ではないようだったが。
前世ではかなり年のいった女性だったのでは?なんて噂もささやかれている。時々ものすごくおばさんくさい発言をするから、らしい。彼女もロリっぽい容姿に憧れてそのように設定して貰ったというタイプなのかもしれなかった。
また、ある意味ではサリーよりも残酷な性格という説もあるので要注意である。
「四人目が、“浄罪のノエル”。勇者メンバーの中では一番大人しい性格だが、そのせいかパシリに使われることが多いようだな。その高い治癒能力をもってして後方支援に回る事が多いそうだ」
四人目の勇者は、二十歳前後の青年だ。
茶髪に緑色の瞳であり、整った顔立ちであるのは間違いないのだが表情から気弱な性格が滲んでしまっている。二年前の惨劇でも表舞台には立たず、後ろで支援役に徹していたらしい。
五人の中ではかなり立場が弱いが、イケメンであるからなのかサリーとマリオンからそこまで酷い扱いを受けることはないようだ。少なくとも、一番最後の一人よりは。
「そして最後が……今回の標的である、“貪欲のゴートン”だな」
五人目を表示した途端、会議室の女性陣から“うげ”という声が複数聞こえた。まあ、でっぷりと太って頭がハゲた中年男、というだけで生理的嫌悪は強いのだろう。女性を凌辱するような官能小説なんかでレイプ犯として登場するのが大体こういう見た目の男だからというのもあるかもしれないが。
このゴートン、何でも勇者として転生するにあたり、何故か容姿を変更して貰わなかったらしいという説がある。このような醜い見た目で構わないなんて、よっぽど物好きなのか、あるいは容姿に拘りがなかったのか。
彼のチートスキルは、あらゆる女性を虜にできるというハーレム能力である。ある意味、一番わかりやすい力だとでも言えるだろう。彼はパシリとして情報収集に走らされつつ、町を回るたびあらゆる女性を食って回っているのだという。まさに、女の敵とも言うべき存在だろう。
「ルチル、生理的にこいつ無理です」
十七歳になったルチルが苦々しい表情で言う。
「こんな奴に、お兄様が色仕掛けをしなければいけないなんて。本当にムカつきます」
「しょうがねえだろ。こいつ相手に女性を向かわせるなんて論外なんだから」
ルチルの頭をぽんぽんと撫でつつ、ジルは言った。
「このゴートンと、今夜逢う約束を取り付けることに成功した。……五人の勇者の中で一番パシリであると同時に、一番世界各地を回って情報を持っているのがこいつだ。二年前の戦いに直接参加しちゃいないが……俺達の仇の一人であることは変わりない。まずは、こいつを落としてやる」
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