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<6・幕間Ⅰ>
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大体、予想通りの結果ではある。
同時にすっきりしたと思ったのも事実だ。――澪がどれほど美しく、どれほど特殊性を持つ存在であったとしても。小さな子供を強姦死させた人間が、そのまま野放しになることなどあってはならないのだから。
「しかし、本当にあいつは何でもありね」
足元でようちゃんがアクビをしている。梨乃亜もつられてついついアクビを漏らしてしまった。話の内容が面白くなかったのではない。膝の上にのっかった愛犬の温もりが気持ちよすぎるのである。さすが、ふわふわふかふかのゴールデンレトリーバーだ。
「小さな女の子になるくらい訳ないと思ったけど。……あ、写真入ってる」
恐らく事件後なのだろう。アパートの前で写真を撮っている、由羅と小さな少女の姿が映っている。小さな少女の特徴は、黒髪金眼。まさに、澪の特徴と一致していた。なるほどこれは、目が覚めるような美少女という印象も分かるような気はする。女の自分でさえ、ちょっとクラっと来るくらいの美貌だ。
ただし。
「変なとこで抜けてるの、なんとかしなさいよ。……スカートに血がついてるんですけど」
よくよく見ればわからないが、スカートのはしっこに血が飛んでいる。あのアパートの部屋から出てきて、着替える時についたのだろうか。シャワーがあったのだからちゃんと血を洗い流してから来れば良かったものを。まあ、本人もそれなりに消耗していたせいで、そこまで頭が回らなかっただけなのかもしれないが。
自分が殺した少女が産み落とした化け物に遭遇した、宇治沢耕平という人物がどうなったのかは――その手紙にははっきりとは語られていない。そもそも、このような状況で男が盛大な悲鳴を上げなかったとも思えないのだ。にもかかわらず、彼等は普通にアパートの部屋から出てきて、アパート前で平然と写真を撮っている。由羅のしかめっ面からして、今回の流れはけして彼女の本意ではなかったにせよ、写真を撮れているのが問題なのだ。
写真を見る限り、周囲は閑静な住宅街。しかも、夕焼けの空から察するに時刻は四時から六時頃といったところだろうか。会社員や学生も家に帰り始める時間帯だ、悲鳴が上がって誰も気づかないというのは不自然である。
しかし写真の中の風景は、平穏そのもの。野次馬や警察が集まってきている様子はまったくない。誰も、ボロアパートの一室で起きた異変を察知している気配がないのだ。
『楽をして生きたいと思うのは、人として当然のことです。ましてや彼はその性格や性質から、人に迎合することを非常に苦手としていました。正しく治療や訓練をしなければ、どこかの定職に就くのは困難だったことでしょう。……しかし、日本には人の最低限の暮らしを保障する制度もありますし、少ないとはいえ日雇いの仕事もないわけではありません。そもそも、彼は親戚が他にいないわけでもなかったし、その親戚と極端に不仲だったわけでもなかった。果たして、カルト教団に所属し続け、犯罪に加担するほどの理由はあったんでしょうかね』
澪がやれやれと肩をすくめているのが見えるようだ。
『生きるために罪を犯す人間は少なくありません。しかし、そのすべてが根っからの悪人ではない。彼もまた、根っこから腐った人間ではなかったはずなのですが……いやはや、やっぱりというか、こうなるさだめだったとでも言うべきか。己の愚かさの代償を、責任転嫁するばかりの人間に当然未来はないのですよね』
やはり、宇治沢耕平は死んだのだろう。澪に手を出してしまった人間の末路など、死ぬか廃人になるか化け物になるかのほぼ三択しかないのだから。
確かに、正気は既に失っていたかもしれない。元々ロリコン趣味というわけでもなかった男が、澪の“女”の部分を見て完全に理性を失ってしまったようだから。ただし、それ以前の問題で彼は心のどこかで“どうせ殺してしまう相手なのだから”という思考があったことも否定できないだろう。澪は確かに、直前で耕平に忠告を口にしていたというのに。
『人の過去は変えられないけれど、未来は変えられる。人は人間にも悪魔にも天使にも神にも、一度の決意だけで転じることができる。選ぶのは一瞬、されど爪痕は死ぬまで残る』
『あ?』
『私の持論です。選ぶのは、貴方ですよ』
あれはまさしく、真理だ。
罪を償って生きることはできる。されど罪を犯した爪痕は、その人物の人生に一生爪痕を残すのだ。例えそれをどうにか隠蔽できたとて、己の意識から剥がれ落ちることはない。
そして必ず、誰かは見ている。
その愚かさの代償を、必ず払わされることになるのだ。
――大阪の、道頓堀にほど近い場所での事件だったって話よね。
宇治沢耕平が教団に借りたアパートがどのあたりにあったのか、は話の中で明言されていない。ただ、道頓堀のあたりで耕平が網を張っていたこと、幼女(姿だけだが)の澪の足であっさり向かうことができたことを鑑みるに、ほど近い場所の建物であるのは間違いないだろう。
しかし、そんな有名な観光地に近い場所で惨殺事件が起きたのなら、ニュースでも話題になっていて然るべきのはずである。夏頃に、そのような報道はあっただろうか、と梨乃亜は記憶を辿った。耕平がどのような状態で発見されたにせよ、あからさまな変死体ならば大騒ぎになっているはず。それが見つかったのが、澪と由羅が堂々と立ち去った後だったとしても、だ。
――と、いうことは……彼が所属していたカルト教団が始末をつけていった、というのが正しいかしら。
澪と由羅がお片付けをしていったとは思わなかった。由羅はともかく、澪は自分がやらかしたことをわざわざ綺麗にして立ち去るような性格ではない。なんといっても、自他ともに認める愉快犯だ。面白い死体や痕跡が出たら、あえてそのままにしておいて見つけた人間の反応を楽しむのが普通。ましてや、彼等が旅をしている本来の目的は耕平の所属する宗教団体のシッポを掴むことにある。彼等が不審に思って嗅ぎまわれば嗅ぎまわってくれるほど有りがたい、と考えているとみてまず間違いないはずなのだ。
翌日に教団が来ることになってはいたが、案外もっと早くアパートを訪れたなんてこともあるかもしれない。あるいは、本人がまったく周辺の住人と交流がなかったがために(一時的に教団にアパートを貸し与えられているだけの住人なのだから当たり前ではあるが)、周囲に異変を全く察知されず、翌日まで気が疲れずに放置されただけなのか。人ではない澪はともかく、耕平の遺体はほっとけばすぐ腐ってしまったと思うのだが――いや、さすがに夏場とはいえ、一日だけならそう簡単に臭いが漏れることもない、のだろうか。いかんせん、肉を放置していくようなことをした覚えがないのでわからない。
『子供を浚って回っているということなので、さっかくなら幼女になってみたのです。幼い私も可愛いでしょ?まあ、いろいろ問題はあったんですけどね。まさかレイプされただけで死ぬとは思ってもみませんでした。この体脆くて大変です。おかげさまで、この時は暫くお腹が痛くて辛かったですよ。いくら私でも、子宮が破裂するような経験はコリゴリです。子供を産むのは慣れましたけど』
「いや、そりゃそうでしょ。私だって嫌よそんなの。ていうかそんなドン引きするようなことあっさり書くんじゃないわよ」
というか、子供を産む痛みって慣れるもんなんだろうか、と首を傾げる。彼ないし彼女の場合、受ける苦痛そのものは人間のそれとさほど変わらないはずなのだが。
――というか、さっきの話の最後。明らかに澪本体じゃなくて、澪の産んだ子供の方が由羅ちゃんに対して“澪として”返事をしていたわよね。
本人は解説してくれなかったが、あの描写は少々謎と言えば謎である。あの光景を見て、恐らく耕平は産まれた子供はまさに澪本人の転生だと思っただろうし、自分の罪を裁く存在が子供に代わったのだと考えて言い知れぬ恐怖を覚えたはずである。
が、あの写真を見る限り、澪はあくまで幼女の方の姿で由羅と記念撮影をしている。遺体の方が生き返って澪として動いている、と考えた方がいいだろう。しかし、その腕に赤ん坊を抱えている気配はなかった。澪として喋った赤ん坊は何だったのか、どこに行ってしまったのか?若干説明不足であり、考察の余地を残しているのは確かだ。
――多分、澪の代わりに赤ん坊が代弁者になったとか、そういうことなんでしょうけど。どうせこいつのことだから、産む前から赤ん坊と意思の疎通はできていたでしょうし。
そして、そのまま赤ん坊は新たな怪異として、澪の手で下界に放出されたのだろうか。――そういえば、こいつは“子供を産むのは慣れた”などと言いながら、子育てをしている気配を見せたことは一度もない。こいつの言う“子供”が人間の常識の範疇にないのはほぼほぼ明らかだろう。自分の意思を分割した新たな生命体、産まれた時点で自分とは別の存在。ゆえに、その自由意思に任せて好きなようにさせる、とでもいうのか。
しかし耕平を殺したのがその子供の方ならば、澪という名の母親を蔑ろにするというわけでもない。そこには確かに親子という関係性が存在するとでも言うべきか。――ううん、段々と難しい話になってきていしまった。
――こいつの話を聞いていれば、もう少し今のこいつの能力がなんなのか、何ができるのか、わかってくるかと思ったけど。……そう簡単なものでもないってことかしらね。
人間の常識に当てはめて、全部に答えが出るとは思わない方が良さそうである。
幸い、今回はまだ澪と由羅の二人旅には明確な目的がある。宇治沢耕平が所属していたカルト教団、ネオ・ユートピア。生贄を求めていて、実際に誘拐事件を起こしている時点でろくな組織でないのは確かだし、やっかいな“本物”を呼びだしてしまう可能性もゼロではないだろう。今後の自分達の“平穏無事な”生活を脅かすかもしれないというのなら、潰しておいても損はない相手である。
澪の場合、その潰そうとする理由の半分は“その方が面白そうだから”でしかなさそうなのがなんとも言えないが。
「まったく、付き合わされる由羅ちゃんも大変ね」
ソファーに座り直し、梨乃亜は再び続きを読み始めた。
「で、この話。ここで終わりじゃないでしょうね?教団がどうなったのか、ちゃんと書いてあるんでしょうねー?」
さてさて。
次はどんな人間と、楽しい“惨劇”を見せてくれるのだろうか。
同時にすっきりしたと思ったのも事実だ。――澪がどれほど美しく、どれほど特殊性を持つ存在であったとしても。小さな子供を強姦死させた人間が、そのまま野放しになることなどあってはならないのだから。
「しかし、本当にあいつは何でもありね」
足元でようちゃんがアクビをしている。梨乃亜もつられてついついアクビを漏らしてしまった。話の内容が面白くなかったのではない。膝の上にのっかった愛犬の温もりが気持ちよすぎるのである。さすが、ふわふわふかふかのゴールデンレトリーバーだ。
「小さな女の子になるくらい訳ないと思ったけど。……あ、写真入ってる」
恐らく事件後なのだろう。アパートの前で写真を撮っている、由羅と小さな少女の姿が映っている。小さな少女の特徴は、黒髪金眼。まさに、澪の特徴と一致していた。なるほどこれは、目が覚めるような美少女という印象も分かるような気はする。女の自分でさえ、ちょっとクラっと来るくらいの美貌だ。
ただし。
「変なとこで抜けてるの、なんとかしなさいよ。……スカートに血がついてるんですけど」
よくよく見ればわからないが、スカートのはしっこに血が飛んでいる。あのアパートの部屋から出てきて、着替える時についたのだろうか。シャワーがあったのだからちゃんと血を洗い流してから来れば良かったものを。まあ、本人もそれなりに消耗していたせいで、そこまで頭が回らなかっただけなのかもしれないが。
自分が殺した少女が産み落とした化け物に遭遇した、宇治沢耕平という人物がどうなったのかは――その手紙にははっきりとは語られていない。そもそも、このような状況で男が盛大な悲鳴を上げなかったとも思えないのだ。にもかかわらず、彼等は普通にアパートの部屋から出てきて、アパート前で平然と写真を撮っている。由羅のしかめっ面からして、今回の流れはけして彼女の本意ではなかったにせよ、写真を撮れているのが問題なのだ。
写真を見る限り、周囲は閑静な住宅街。しかも、夕焼けの空から察するに時刻は四時から六時頃といったところだろうか。会社員や学生も家に帰り始める時間帯だ、悲鳴が上がって誰も気づかないというのは不自然である。
しかし写真の中の風景は、平穏そのもの。野次馬や警察が集まってきている様子はまったくない。誰も、ボロアパートの一室で起きた異変を察知している気配がないのだ。
『楽をして生きたいと思うのは、人として当然のことです。ましてや彼はその性格や性質から、人に迎合することを非常に苦手としていました。正しく治療や訓練をしなければ、どこかの定職に就くのは困難だったことでしょう。……しかし、日本には人の最低限の暮らしを保障する制度もありますし、少ないとはいえ日雇いの仕事もないわけではありません。そもそも、彼は親戚が他にいないわけでもなかったし、その親戚と極端に不仲だったわけでもなかった。果たして、カルト教団に所属し続け、犯罪に加担するほどの理由はあったんでしょうかね』
澪がやれやれと肩をすくめているのが見えるようだ。
『生きるために罪を犯す人間は少なくありません。しかし、そのすべてが根っからの悪人ではない。彼もまた、根っこから腐った人間ではなかったはずなのですが……いやはや、やっぱりというか、こうなるさだめだったとでも言うべきか。己の愚かさの代償を、責任転嫁するばかりの人間に当然未来はないのですよね』
やはり、宇治沢耕平は死んだのだろう。澪に手を出してしまった人間の末路など、死ぬか廃人になるか化け物になるかのほぼ三択しかないのだから。
確かに、正気は既に失っていたかもしれない。元々ロリコン趣味というわけでもなかった男が、澪の“女”の部分を見て完全に理性を失ってしまったようだから。ただし、それ以前の問題で彼は心のどこかで“どうせ殺してしまう相手なのだから”という思考があったことも否定できないだろう。澪は確かに、直前で耕平に忠告を口にしていたというのに。
『人の過去は変えられないけれど、未来は変えられる。人は人間にも悪魔にも天使にも神にも、一度の決意だけで転じることができる。選ぶのは一瞬、されど爪痕は死ぬまで残る』
『あ?』
『私の持論です。選ぶのは、貴方ですよ』
あれはまさしく、真理だ。
罪を償って生きることはできる。されど罪を犯した爪痕は、その人物の人生に一生爪痕を残すのだ。例えそれをどうにか隠蔽できたとて、己の意識から剥がれ落ちることはない。
そして必ず、誰かは見ている。
その愚かさの代償を、必ず払わされることになるのだ。
――大阪の、道頓堀にほど近い場所での事件だったって話よね。
宇治沢耕平が教団に借りたアパートがどのあたりにあったのか、は話の中で明言されていない。ただ、道頓堀のあたりで耕平が網を張っていたこと、幼女(姿だけだが)の澪の足であっさり向かうことができたことを鑑みるに、ほど近い場所の建物であるのは間違いないだろう。
しかし、そんな有名な観光地に近い場所で惨殺事件が起きたのなら、ニュースでも話題になっていて然るべきのはずである。夏頃に、そのような報道はあっただろうか、と梨乃亜は記憶を辿った。耕平がどのような状態で発見されたにせよ、あからさまな変死体ならば大騒ぎになっているはず。それが見つかったのが、澪と由羅が堂々と立ち去った後だったとしても、だ。
――と、いうことは……彼が所属していたカルト教団が始末をつけていった、というのが正しいかしら。
澪と由羅がお片付けをしていったとは思わなかった。由羅はともかく、澪は自分がやらかしたことをわざわざ綺麗にして立ち去るような性格ではない。なんといっても、自他ともに認める愉快犯だ。面白い死体や痕跡が出たら、あえてそのままにしておいて見つけた人間の反応を楽しむのが普通。ましてや、彼等が旅をしている本来の目的は耕平の所属する宗教団体のシッポを掴むことにある。彼等が不審に思って嗅ぎまわれば嗅ぎまわってくれるほど有りがたい、と考えているとみてまず間違いないはずなのだ。
翌日に教団が来ることになってはいたが、案外もっと早くアパートを訪れたなんてこともあるかもしれない。あるいは、本人がまったく周辺の住人と交流がなかったがために(一時的に教団にアパートを貸し与えられているだけの住人なのだから当たり前ではあるが)、周囲に異変を全く察知されず、翌日まで気が疲れずに放置されただけなのか。人ではない澪はともかく、耕平の遺体はほっとけばすぐ腐ってしまったと思うのだが――いや、さすがに夏場とはいえ、一日だけならそう簡単に臭いが漏れることもない、のだろうか。いかんせん、肉を放置していくようなことをした覚えがないのでわからない。
『子供を浚って回っているということなので、さっかくなら幼女になってみたのです。幼い私も可愛いでしょ?まあ、いろいろ問題はあったんですけどね。まさかレイプされただけで死ぬとは思ってもみませんでした。この体脆くて大変です。おかげさまで、この時は暫くお腹が痛くて辛かったですよ。いくら私でも、子宮が破裂するような経験はコリゴリです。子供を産むのは慣れましたけど』
「いや、そりゃそうでしょ。私だって嫌よそんなの。ていうかそんなドン引きするようなことあっさり書くんじゃないわよ」
というか、子供を産む痛みって慣れるもんなんだろうか、と首を傾げる。彼ないし彼女の場合、受ける苦痛そのものは人間のそれとさほど変わらないはずなのだが。
――というか、さっきの話の最後。明らかに澪本体じゃなくて、澪の産んだ子供の方が由羅ちゃんに対して“澪として”返事をしていたわよね。
本人は解説してくれなかったが、あの描写は少々謎と言えば謎である。あの光景を見て、恐らく耕平は産まれた子供はまさに澪本人の転生だと思っただろうし、自分の罪を裁く存在が子供に代わったのだと考えて言い知れぬ恐怖を覚えたはずである。
が、あの写真を見る限り、澪はあくまで幼女の方の姿で由羅と記念撮影をしている。遺体の方が生き返って澪として動いている、と考えた方がいいだろう。しかし、その腕に赤ん坊を抱えている気配はなかった。澪として喋った赤ん坊は何だったのか、どこに行ってしまったのか?若干説明不足であり、考察の余地を残しているのは確かだ。
――多分、澪の代わりに赤ん坊が代弁者になったとか、そういうことなんでしょうけど。どうせこいつのことだから、産む前から赤ん坊と意思の疎通はできていたでしょうし。
そして、そのまま赤ん坊は新たな怪異として、澪の手で下界に放出されたのだろうか。――そういえば、こいつは“子供を産むのは慣れた”などと言いながら、子育てをしている気配を見せたことは一度もない。こいつの言う“子供”が人間の常識の範疇にないのはほぼほぼ明らかだろう。自分の意思を分割した新たな生命体、産まれた時点で自分とは別の存在。ゆえに、その自由意思に任せて好きなようにさせる、とでもいうのか。
しかし耕平を殺したのがその子供の方ならば、澪という名の母親を蔑ろにするというわけでもない。そこには確かに親子という関係性が存在するとでも言うべきか。――ううん、段々と難しい話になってきていしまった。
――こいつの話を聞いていれば、もう少し今のこいつの能力がなんなのか、何ができるのか、わかってくるかと思ったけど。……そう簡単なものでもないってことかしらね。
人間の常識に当てはめて、全部に答えが出るとは思わない方が良さそうである。
幸い、今回はまだ澪と由羅の二人旅には明確な目的がある。宇治沢耕平が所属していたカルト教団、ネオ・ユートピア。生贄を求めていて、実際に誘拐事件を起こしている時点でろくな組織でないのは確かだし、やっかいな“本物”を呼びだしてしまう可能性もゼロではないだろう。今後の自分達の“平穏無事な”生活を脅かすかもしれないというのなら、潰しておいても損はない相手である。
澪の場合、その潰そうとする理由の半分は“その方が面白そうだから”でしかなさそうなのがなんとも言えないが。
「まったく、付き合わされる由羅ちゃんも大変ね」
ソファーに座り直し、梨乃亜は再び続きを読み始めた。
「で、この話。ここで終わりじゃないでしょうね?教団がどうなったのか、ちゃんと書いてあるんでしょうねー?」
さてさて。
次はどんな人間と、楽しい“惨劇”を見せてくれるのだろうか。
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