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<33・集結>
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「す、す、ストップ!ポーラ、すとーっぷ!!」
優理の悲鳴に近い声が聞こえてきて、空一ははっとした。がばりと体を起こしてみれば、慌てたように両手を挙げている優理の姿と、その彼に殴りかかる寸前で拳を止めているポーラ、それを唖然として見ている光の姿がある。サミュエルは、その少し離れたところでぽかんと座り込んでいた。
「え?……あ、あれ?」
ポーラは自分がぶっとばそうとした先に優理がいることに気づいて、目をパチパチと瞬かせた。そして自分の拳と優理を見比べて、一言。
「……いつの間に戻ってきたんだ、ユーリ?」
「それはこっちの台詞!」
安堵したように肩を落として優理が叫ぶ。
「地震が起きたと思ったらサミュエルと空一が落とし穴におっこちちゃうし、そうしたら天井が崩れてきて気づいたら黒い箱みたいな部屋に閉じ込められてるし、それが硝子が割れるみたいに砕けたと思ったらいきなりポーラに殴られそうになってるっていう図なんだから!やめてよ、ポーラに殴られたら俺死んじゃうよう!」
「ご、ごめん」
慌てて拳をひっこめるポーラ。
「その、アタシも黒い箱みたいな場所に閉じ込められたからさ。とりあえず全面ぶんなぐってみて、壊せないか確認してたんだよな。殴っても壊しても壁が元に戻るから、これ一体どういう仕組みなんだこのやろーってイライラしてたんだけど……」
「あ、じゃあ同じ状況だったのか。……雉本も?」
「……俺も同じだ。ただ」
ちらり、と光が空一とサミュエルを見る。
「お前らは、少し違ったようだな。……るりはのスキルだ。状況的に見て、“招待”されたのはお前らだったんだろう」
そう彼が判断したのは、空一がサミュエルと共に落とし穴に落ちたのもあるし、同時に自分達だけがあちこち傷だらけになっているというのもあるだろう。ほとんど壁や天井の破片で僅かに切っただけの傷だが、傷が残っていることそのものにぞっとさせられる。
幻覚空間だと判断して、魔力が集中している場所を狙ったはいいが、実際あの空間で受けたダメージがどれくらい反映されるのかは全くわからなかったのである。もしあの三又の矛や落石攻撃で大きな怪我をしてたらどうなっていたか――想像するだけでぞっとする話だった。
「……二人で、なんか柱がいっぱい立ってる黒い部屋に閉じ込められて、鮫島るりはに襲われたんです」
サミュエルが説明してくれた。
「多分、一人ずつ始末するつもりだったんでしょうけど、たまたま僕が一緒に落っこちちゃったんで二人相手にする羽目になったんでしょうね」
「たまたま、じゃなくて君が僕を助けようとしたせいでしょ」
しれっと功績をなかったことにするので、かえってムッとしてしまった。
るりはの能力のからくりを見抜いたのは確かに自分だ。彼女の性格上、物理攻撃で攻めるようなスキルより、幻惑したり相手を洗脳して操るスキルを選びそうだとは思っていた。不自然に元に戻る壁や天井にくわえて、彼女が“この場所なら”と口にしたので確定的となった。自分達は落とし穴に落ちた時から、あるいは落ちる前から彼女の幻の中にいて、その特殊空間で殺されかかっているのだと。でも。
彼女の本体がどこにいるのか、あるいは空間の要がどこであるのかなんて話は、空一だけでは見抜けなかった筈なのである。なんせ、こっちは戦闘はドシロートのただのトラップ使い、魔法について知識はあっても使うこともできない人間だ。魔力を感知できる人間が、サミュエルが一緒にいてくれなければほぼ詰みゲーだったはずである。そもそも、魔法と組み合わせてはじめてあれだけの威力の攻撃が可能だったのだ。自分のトラップだけならば、“核”を見つけても破壊できたかどうか。
「何で僕を助けてくれたのさ」
今自分達がいるのは、円型の、さっきとは打って変わって真っ白な部屋だった。かなり高い位置にある天井はステンドグラスになっており、八本の柱が高く高く聳えている。そして真ん中には円柱型の台座があり、銀色に光る水晶のようなものが設置されていた。
ここがノース・ブルーの王都の地下であるのか、城の中であるのかは皆目見当がつかない。ただるりはの能力を破った途端、全員がこの場所に召喚されたことには意味があるはずである。
「僕の手を掴もうとしなかったら、君は落とされる心配なかったのに」
「あのですねえ」
空一の言葉に、サミュエルは呆れたように言った。
「あそこで手を出さなかったら、僕が見捨てたみたいになるじゃないですか!嫌ですよ、そんな酷い人になるの。ユーリさんに嫌われるでしょ」
「え」
優理が“そこで俺が出てくるの!?”という顔をしている。が、多分実際の意味はそういうところにないのだろう。思わず空一は噴き出してしまった。あまりにも、サミュエルがサミュエルらしかったから。
多分、親しい人間にはこうして自由奔放に毒を吐くのが彼の本来の性格で。
自分がそれを向けられているのは、それだけ気を許されている証拠なのだろう、きっと。
なんせ彼の物言いはどう解釈しても――仲間だから助けた、の言葉の照れ隠しにしか聞こえなかったのだから。
「……そうだね。ありがとう」
久しく、忘れていた気がする。
誰かが困っている、助けを求めている、そして自分にできることがあるなら迷わず助ける。本当のヒーローとは、きっとそういうものだ。例え世界を助けるためだとか、魔王を倒すためだとか、そんな大それた目的なんてなかったとしても。
同時に。
迷わず助けたいと思える相手こそ、きっと友達というもので。
――照。今度は……今度こそは僕も、友達のヒーローになれるかな。……ううん。
ぎゅっと拳を握りしめて、空一は誓う。
――なれるかどうか、じゃない。なるんだ、絶対に。君に償うためにも……僕が前に進むためにも。
ぶわ、と唐突に室内に黒い靄のようなものが出現する。全員が一歩後ろに引いて身構えた。
「う、くぅ……!」
現れたのは。金色の三又の槍を支えにしながら、辛うじて立つ少女だった。鮫島るりはは脂汗を掻きながらも、にやりと笑ってみせたのである。
「思ったより、やるじゃない。ちょっと油断したかもね」
***
強がっているが、るりはには相当のダメージが来ているようだ、と優理は分析する。ほとんど武器を杖がわりにしてどうにか立っている状態。幻覚を破られた反動なのだろうか。
「るりはのスキルは何パターンかある」
光がそれとなく解説してくれた。
「一つは、一定の条件付けをして、その条件を満たした個人や集団を自分が作った空間に閉じ込めるというもの。閉じ込めた人間のうち、最低一人は自分が直接対峙する必要がある。その戦闘で、るりはが相手を叩きのめしていく。幻惑世界であっても、殺されたら現実の体も死ぬからな。幻惑世界を破るためには、部屋のどこかにある空間の本体を壊すしかない。ちなみに、一定の条件付け、はその時によって変わってくる。今回は……暗い通路をずっと歩いていたからな。暗示をかけるにはもってこいの環境だったのかもしれない」
「あの松明をずっと見続けるとか、そういうの?」
「だったかもしれない。相手をハメれば、ほぼ無敵に近い能力だ。自分が見ているものが幻覚で、目の前にいるるりは以外に本体があるなんて、なかなか人は想像できないものだからな。ただし、閉じ込めた人間のうち一人でも幻覚を破られると、かなりの心身ダメージが跳ね返る。魔力体力を大幅に消耗して、るりはは相当しんどい状態のはずだ」
ちなみに、と彼は続ける。
「通常空間でも幻覚スキルは使えるが……大技を破られたばかりだからな。暫くは大した技は使えないだろう」
何故そこまで教えてくれるのか。少しだけ優理は疑問に思った。光が自分達の完全な味方になったわけではないのは最初からわかっているし、その上でここまで連れてきたのだ。彼の目的はあくまで、魔女・ジェシカが信頼に値する人間か確かめ、かつるりはの本心を確かめるためであったはずなのだから。
ゆえに、彼はここまで自分達にるりはのスキルを秘密にしてきたはずである。
それを今ここで語る気になったのは、恐らく。
「るりは、教えてくれ。……俺までスキルに巻き込んだのは、俺が死んでもいいと思ったということか?」
彼にとっては、何よりもそこが死活問題であるからに他ならない。光の疑問に、るりははにいい、と唇の端を持ち上げて言ったのだった。
「私ね……とても我儘で貪欲な女なの。愛するものは、愛した全てを自分のものにしなければ気が済まないほどに」
優理の悲鳴に近い声が聞こえてきて、空一ははっとした。がばりと体を起こしてみれば、慌てたように両手を挙げている優理の姿と、その彼に殴りかかる寸前で拳を止めているポーラ、それを唖然として見ている光の姿がある。サミュエルは、その少し離れたところでぽかんと座り込んでいた。
「え?……あ、あれ?」
ポーラは自分がぶっとばそうとした先に優理がいることに気づいて、目をパチパチと瞬かせた。そして自分の拳と優理を見比べて、一言。
「……いつの間に戻ってきたんだ、ユーリ?」
「それはこっちの台詞!」
安堵したように肩を落として優理が叫ぶ。
「地震が起きたと思ったらサミュエルと空一が落とし穴におっこちちゃうし、そうしたら天井が崩れてきて気づいたら黒い箱みたいな部屋に閉じ込められてるし、それが硝子が割れるみたいに砕けたと思ったらいきなりポーラに殴られそうになってるっていう図なんだから!やめてよ、ポーラに殴られたら俺死んじゃうよう!」
「ご、ごめん」
慌てて拳をひっこめるポーラ。
「その、アタシも黒い箱みたいな場所に閉じ込められたからさ。とりあえず全面ぶんなぐってみて、壊せないか確認してたんだよな。殴っても壊しても壁が元に戻るから、これ一体どういう仕組みなんだこのやろーってイライラしてたんだけど……」
「あ、じゃあ同じ状況だったのか。……雉本も?」
「……俺も同じだ。ただ」
ちらり、と光が空一とサミュエルを見る。
「お前らは、少し違ったようだな。……るりはのスキルだ。状況的に見て、“招待”されたのはお前らだったんだろう」
そう彼が判断したのは、空一がサミュエルと共に落とし穴に落ちたのもあるし、同時に自分達だけがあちこち傷だらけになっているというのもあるだろう。ほとんど壁や天井の破片で僅かに切っただけの傷だが、傷が残っていることそのものにぞっとさせられる。
幻覚空間だと判断して、魔力が集中している場所を狙ったはいいが、実際あの空間で受けたダメージがどれくらい反映されるのかは全くわからなかったのである。もしあの三又の矛や落石攻撃で大きな怪我をしてたらどうなっていたか――想像するだけでぞっとする話だった。
「……二人で、なんか柱がいっぱい立ってる黒い部屋に閉じ込められて、鮫島るりはに襲われたんです」
サミュエルが説明してくれた。
「多分、一人ずつ始末するつもりだったんでしょうけど、たまたま僕が一緒に落っこちちゃったんで二人相手にする羽目になったんでしょうね」
「たまたま、じゃなくて君が僕を助けようとしたせいでしょ」
しれっと功績をなかったことにするので、かえってムッとしてしまった。
るりはの能力のからくりを見抜いたのは確かに自分だ。彼女の性格上、物理攻撃で攻めるようなスキルより、幻惑したり相手を洗脳して操るスキルを選びそうだとは思っていた。不自然に元に戻る壁や天井にくわえて、彼女が“この場所なら”と口にしたので確定的となった。自分達は落とし穴に落ちた時から、あるいは落ちる前から彼女の幻の中にいて、その特殊空間で殺されかかっているのだと。でも。
彼女の本体がどこにいるのか、あるいは空間の要がどこであるのかなんて話は、空一だけでは見抜けなかった筈なのである。なんせ、こっちは戦闘はドシロートのただのトラップ使い、魔法について知識はあっても使うこともできない人間だ。魔力を感知できる人間が、サミュエルが一緒にいてくれなければほぼ詰みゲーだったはずである。そもそも、魔法と組み合わせてはじめてあれだけの威力の攻撃が可能だったのだ。自分のトラップだけならば、“核”を見つけても破壊できたかどうか。
「何で僕を助けてくれたのさ」
今自分達がいるのは、円型の、さっきとは打って変わって真っ白な部屋だった。かなり高い位置にある天井はステンドグラスになっており、八本の柱が高く高く聳えている。そして真ん中には円柱型の台座があり、銀色に光る水晶のようなものが設置されていた。
ここがノース・ブルーの王都の地下であるのか、城の中であるのかは皆目見当がつかない。ただるりはの能力を破った途端、全員がこの場所に召喚されたことには意味があるはずである。
「僕の手を掴もうとしなかったら、君は落とされる心配なかったのに」
「あのですねえ」
空一の言葉に、サミュエルは呆れたように言った。
「あそこで手を出さなかったら、僕が見捨てたみたいになるじゃないですか!嫌ですよ、そんな酷い人になるの。ユーリさんに嫌われるでしょ」
「え」
優理が“そこで俺が出てくるの!?”という顔をしている。が、多分実際の意味はそういうところにないのだろう。思わず空一は噴き出してしまった。あまりにも、サミュエルがサミュエルらしかったから。
多分、親しい人間にはこうして自由奔放に毒を吐くのが彼の本来の性格で。
自分がそれを向けられているのは、それだけ気を許されている証拠なのだろう、きっと。
なんせ彼の物言いはどう解釈しても――仲間だから助けた、の言葉の照れ隠しにしか聞こえなかったのだから。
「……そうだね。ありがとう」
久しく、忘れていた気がする。
誰かが困っている、助けを求めている、そして自分にできることがあるなら迷わず助ける。本当のヒーローとは、きっとそういうものだ。例え世界を助けるためだとか、魔王を倒すためだとか、そんな大それた目的なんてなかったとしても。
同時に。
迷わず助けたいと思える相手こそ、きっと友達というもので。
――照。今度は……今度こそは僕も、友達のヒーローになれるかな。……ううん。
ぎゅっと拳を握りしめて、空一は誓う。
――なれるかどうか、じゃない。なるんだ、絶対に。君に償うためにも……僕が前に進むためにも。
ぶわ、と唐突に室内に黒い靄のようなものが出現する。全員が一歩後ろに引いて身構えた。
「う、くぅ……!」
現れたのは。金色の三又の槍を支えにしながら、辛うじて立つ少女だった。鮫島るりはは脂汗を掻きながらも、にやりと笑ってみせたのである。
「思ったより、やるじゃない。ちょっと油断したかもね」
***
強がっているが、るりはには相当のダメージが来ているようだ、と優理は分析する。ほとんど武器を杖がわりにしてどうにか立っている状態。幻覚を破られた反動なのだろうか。
「るりはのスキルは何パターンかある」
光がそれとなく解説してくれた。
「一つは、一定の条件付けをして、その条件を満たした個人や集団を自分が作った空間に閉じ込めるというもの。閉じ込めた人間のうち、最低一人は自分が直接対峙する必要がある。その戦闘で、るりはが相手を叩きのめしていく。幻惑世界であっても、殺されたら現実の体も死ぬからな。幻惑世界を破るためには、部屋のどこかにある空間の本体を壊すしかない。ちなみに、一定の条件付け、はその時によって変わってくる。今回は……暗い通路をずっと歩いていたからな。暗示をかけるにはもってこいの環境だったのかもしれない」
「あの松明をずっと見続けるとか、そういうの?」
「だったかもしれない。相手をハメれば、ほぼ無敵に近い能力だ。自分が見ているものが幻覚で、目の前にいるるりは以外に本体があるなんて、なかなか人は想像できないものだからな。ただし、閉じ込めた人間のうち一人でも幻覚を破られると、かなりの心身ダメージが跳ね返る。魔力体力を大幅に消耗して、るりはは相当しんどい状態のはずだ」
ちなみに、と彼は続ける。
「通常空間でも幻覚スキルは使えるが……大技を破られたばかりだからな。暫くは大した技は使えないだろう」
何故そこまで教えてくれるのか。少しだけ優理は疑問に思った。光が自分達の完全な味方になったわけではないのは最初からわかっているし、その上でここまで連れてきたのだ。彼の目的はあくまで、魔女・ジェシカが信頼に値する人間か確かめ、かつるりはの本心を確かめるためであったはずなのだから。
ゆえに、彼はここまで自分達にるりはのスキルを秘密にしてきたはずである。
それを今ここで語る気になったのは、恐らく。
「るりは、教えてくれ。……俺までスキルに巻き込んだのは、俺が死んでもいいと思ったということか?」
彼にとっては、何よりもそこが死活問題であるからに他ならない。光の疑問に、るりははにいい、と唇の端を持ち上げて言ったのだった。
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