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<14・嘘吐>
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頭を短く刈り上げた男が、町を取り囲む雑木林の中で右往左往している。奇襲攻撃が来るなんてまったく予想していなかったのだろうし、仕方のない反応だろう。ご愁傷様――そう思いながら、優理は落とし穴に堕ちた狼に警棒で電気ショックを浴びせて気絶させた。もう片方のオル・ウルフも同じタイミングでサミュエルが雷魔法で痺れさせたので、当面どちらも身動きは取れないだろう。うまく落とし穴ポイントまで誘導してくれたポーラには感謝しかない。
――……安生と言い。何でかこいつらは、ポーラが裏切ることをほとんど想定してなかったみたいだ。一応疑う素振りは見せてたけど、相当低い確率だと思っていたってかんじだな。
敵の位置を探ろうと辺りを見回している坂田に注視しながら、優理は考える。
――多分安生が気絶する寸前に言ってた言葉が鍵なんだろう。けど、今それを考えるのは後回し。この後、こいつがどんな手に打って出るかがポイントだ。
オル・ウルフを気絶だけさせて、再度木の上に登って避難する優理。
今回、ポーラを使って優理はまず坂田に“自分達が安生をとっ捕まえて人質にしている”“最初に町に訪れた使者二人は殺されていて、仲間が大勢待ち構えている”と思わせた。何故か?
まず前者は、こちらが冷静かつ冷徹に坂田を追い詰める意図を示すため。同時に、人質に取ったということは交渉目的であると思わせるため。元々グレンの町の二人が、町に医薬品を提供してもらうためにシュカの町を訪れたことは言うまでもないことである。そうしなければ町の人間達の命を脅かすところまで逼迫していて、だからこそ重要人物であるサミュエル自らが交渉しにきたのだということもあちらは分かっているだろう。それを殺害したともなれば、本来交渉決裂で一発で戦争になってもおかしくない事態。同時に、人質なんて強引な真似をするにも十分な理由になりうるだろう。というか、サミュエルの才能を万が一坂田が知っていた場合、死んだと思ってくれていた方が都合が良かったというのもあるのだが。
後者は言うまでもなく、彼に過剰なまでの警戒をさせて選択肢を削ぐためである。坂田の猛獣を操る能力は既にポーラから聴いていたが、実際どれくらいの範囲で能力に自由が効くのかは不明瞭な点が多かった。手動でどれくらい操れるのか、自動操作ならどれくらいの命令が可能なのか。
『お前のモンスターを操る能力で、索敵はできないのか。一度に多数操れるんだろう?』
『操れるけど、索敵は得意じゃねーんだよ』
『なんでだ。オル・ウルフみたいなモンスターも使えるんじゃないのか』
『うるせえな。あいつらを生き物じゃなくて“物体”として操るのが俺の基本的な能力なんだよ。ラジコンとかドローンみたいなもんなんだ』
『らじこん?どろーん?』
『……ちっ、とにかく自動で動くロボットみたいなもんなんだっつの』
先ほど直前でもポーラに頼んでそれとなく能力の詳細を探り出してもらったのはそのためだ。彼が生物の鋭敏な感覚を乗っ取って操作するタイプだったら、正直作戦をねっこから変えなければならなかったところである。大量虐殺の様子からしても恐らくそれはなさそうだと思っていたとはいえ、一つ杞憂だと思ってこっそり安堵していたのは事実だ。
大量に操れる、と彼は言った。
しかしポーラいわく、シュカの町での大量虐殺の際に同時に放出していたのは主に二匹であり、坂田と安生が工場の屋根の上に移動して物見の見物を初めてから一気にオル・ウルフの数が増えたのだと証言した。ということは、細かな命令が下せる手動操作は二匹までの可能性が高く、それ以上の数になると単純命令のみの自動操作になってくるのではなかろうか。例えば、近くにいる人間を食い殺せ、とか。自分達自身も巻き添えになるから屋根の上に避難したと考えると筋も通るというものである。
――敵味方区別なく襲ってくる自動操作でガンガン攻められたら対処しようがない。なら、臨機応変な対応が効く……と本人が思っているであろう手動操作で行動してくるように仕向けるべきだ。
自動の場合、最大何体まで操作可能なのかがわからなかった。それこそ十体とか二十体とかで数の暴力に来られたらもうお手上げだ。だからそれを封じるために、こちらには人質がいると思わせたのである。基本は交渉よりも暴力で終わりにしたいであろう坂田を、強引に交渉のテーブルに上げるために。上がったと、本人にもそう思わせるために。何故なら無作為に周囲の敵を攻撃するような操作方法では、仲間であるはずの捕まっている安生を巻き込む可能性があるのだから。
これらのやり方は、坂田が安生を見捨てるような心の底からのゲスだった場合一切成立していない。そこが最初の賭けだったのだが――優理の見込んだ通り、彼にもそれくらいの情はあったらしい。
――嬉しいよ、お前にもちゃんと人間の心があるってのがわかって。
「どこだ、どこにいる!?訳わかんねーこと言ってねえでさっさと安生を返しやがれ!」
――だからこそ。……受けるべき罰もあるんだよ。
人を殺すことは極力避けたい。
しかし優理がそんな風に思っていることなど、坂田は知るよしもない。というか、彼の認識では、敵は見知らぬ大人達であるのだから尚更だろう。
「安生を返せ?……そう思うなら、お前が殺した人達を、傷つけた人達を元に戻したらどうなんだ」
ハンカチで口元を覆いつつ、頑張って低い声を出しながら優理は言う。自分と坂田が顔を合わせたのは過去二度しかないし、多少距離もある。声だけで、自分だと判断するのは難しいだろう。
「今までお前が傷つけた人や苦しめた人達も、助けを求めなかったか。命乞いをしなかったのか。お前はそれらの声に一度でも耳を貸したのか?貸さなかっただろう……己は奪う側だと、弱者に配慮する必要もないのだと決めつけて!」
「はあ!?それの何が悪いってんだ、俺らは選ばれた存在だ、絶対強者だ。弱い人間は弱いってだけで罪なんだよ。弱いってだけで殺されたって文句は言えねーんだよ!それが世界で真理だろうが!」
「ほう。じゃあ、我々に成す術もなく捕まった安生とかいう少年も弱者ということでいいな?弱い人間は殺されたって文句は言えないんだろう?なら、我々にこいつが殺されても文句は言わないな。お前の世界ならばそれが当然なのだから」
「は!?何言って」
「今、見せてやる」
優理は、少し離れた樹上に隠れて待機しているサミュエルに視線で合図を送った。サミュエルの唇が動く。
「“Phantom-single”」
サミュエルが唱えた途端、坂田の目が見開かれた。目の前の、何もないはずの空間を見て、恐怖に顔をひきつらせる。そして。
「あ、あああああああああああああああああああ!あ、安生、安生おおおおおっ!」
突然尻もちをついて、絶叫。それもそうだろう、今この瞬間彼には、頭上から安生の死体が降ってきたように見えているはずなのだから。それも、凄惨なバラバラ死体となった彼が、だ。
これは、魔法戦ではよくやる戦術の一つらしい。幻影を見せて相手を混乱させているうちに物理攻撃で叩くというものである。魔法にはこんな種類のものもあるんですよ、とサミュエルに教えて貰った時はなんと便利なと驚いたものである。
勿論この方法は、魔法に長けた者ほど通用しない。幻覚かもしれない、という想定が働くからだ。しかし転生者であり、この世界に来たばかりで魔法の知識が乏しいであろう坂田相手ならば効果は覿面だったわけである。本物の仲間だと思っている相手だからこそ、彼は救出のためここまで来たのだ。そのバラバラ死体を見せられて、冷静でいられるはずがない。
「くそがっ……くそがくそがくそがくそがくそがああああ!」
冷静さを失った彼は呆然自失となるか、そうでないなら少しでも手早く敵を殺す方法に打って出るはずである。彼の場合は後者だったようだ。彼が“クソ”を連呼し始めると同時に、落とし穴に落としたオル・ウルフに異変が生じた。まるで煙のようにその姿が消え始めたのである。
別のモンスターにコントロールを変更しようとしている。恐らくはオル・ウルフよりも凶悪なモンスターに。ならば。
「パターンA-2!」
優理が叫ぶと同時に、ポーラががばりと体を起こした。当然、彼女が倒れたフリをしたのも演技である。本来、オル・ウルフが二匹倒れた時点で、ポーラにそのまま坂田を制圧させることも可能ではあったのだ。それをさせなかったのは、本当は坂田がもう一匹手動操作マニュアルのモンスターをどこかに隠している可能性があったことと、向こうが即座に自動操作オートマに切り替えてくることを警戒したためである。ポーラの武力なら坂田程度は瞬殺することもできそうだが、もし失敗した場合カウンターを喰らう危険性があった。そうなったら、最も危ないのは彼女である。
だから、最大限手を打った。
二匹潰したところで坂田がどんな手に出るかを観察し、対応を待ってみたのである。もし隠している一匹がいるのなら、丸腰になった以上ここで出してこない手はないからだ。
しかし、坂田は二匹を行動不能にされてもすぐに次の一匹を出してこなかったし、コントロールの切り替えも行わなかった。それは即ち、本当に二匹しか手動では操作できなかったからであり、切り替えのタイムラグの間に敵に襲ってこられる可能性を考えたからと思われる。オオカミ二匹が復帰してくるよりも、タイムラグの方が長いかもしれないと踏んだということだ。つまり、彼の切り替え時間は想像以上に長いということに他ならない。
ならば、迷う必要はないだろう。
あとは冷静さを奪って、背後から強襲してやればそれでいい。
「がっ!」
ポーラの体当たり。完全に不意打ちを受けた坂田は、無防備に吹っ飛んで木に激突した。そこに、サミュエルの魔法が容赦なく飛んでいくことになる。
「“Thunder-single”!」
「ぎゃああああああああ!」
思いきり雷撃を浴びた男は絶叫し、全身を痙攣させて動かなくなった。姿が蜃気楼のように揺らいでいたオオカミたちが、ばしゅん!と音を立てて風船のように弾けて消える。
「ふう」
もう、幻覚の効果時間は消れているだろう。優理は倒れた男の手足を縛りながら、その耳元で囁いたのだった。
「能力、完全解除してね。でないと、今度は本当にズタズタにして殺すからね」
嘘八百。
それも、相手が嘘だと知らなければ通用するものである。実際に殺さずにすむためなら、いくらでも言葉の暴力くらい使いこなしてみせよう。
――……安生と言い。何でかこいつらは、ポーラが裏切ることをほとんど想定してなかったみたいだ。一応疑う素振りは見せてたけど、相当低い確率だと思っていたってかんじだな。
敵の位置を探ろうと辺りを見回している坂田に注視しながら、優理は考える。
――多分安生が気絶する寸前に言ってた言葉が鍵なんだろう。けど、今それを考えるのは後回し。この後、こいつがどんな手に打って出るかがポイントだ。
オル・ウルフを気絶だけさせて、再度木の上に登って避難する優理。
今回、ポーラを使って優理はまず坂田に“自分達が安生をとっ捕まえて人質にしている”“最初に町に訪れた使者二人は殺されていて、仲間が大勢待ち構えている”と思わせた。何故か?
まず前者は、こちらが冷静かつ冷徹に坂田を追い詰める意図を示すため。同時に、人質に取ったということは交渉目的であると思わせるため。元々グレンの町の二人が、町に医薬品を提供してもらうためにシュカの町を訪れたことは言うまでもないことである。そうしなければ町の人間達の命を脅かすところまで逼迫していて、だからこそ重要人物であるサミュエル自らが交渉しにきたのだということもあちらは分かっているだろう。それを殺害したともなれば、本来交渉決裂で一発で戦争になってもおかしくない事態。同時に、人質なんて強引な真似をするにも十分な理由になりうるだろう。というか、サミュエルの才能を万が一坂田が知っていた場合、死んだと思ってくれていた方が都合が良かったというのもあるのだが。
後者は言うまでもなく、彼に過剰なまでの警戒をさせて選択肢を削ぐためである。坂田の猛獣を操る能力は既にポーラから聴いていたが、実際どれくらいの範囲で能力に自由が効くのかは不明瞭な点が多かった。手動でどれくらい操れるのか、自動操作ならどれくらいの命令が可能なのか。
『お前のモンスターを操る能力で、索敵はできないのか。一度に多数操れるんだろう?』
『操れるけど、索敵は得意じゃねーんだよ』
『なんでだ。オル・ウルフみたいなモンスターも使えるんじゃないのか』
『うるせえな。あいつらを生き物じゃなくて“物体”として操るのが俺の基本的な能力なんだよ。ラジコンとかドローンみたいなもんなんだ』
『らじこん?どろーん?』
『……ちっ、とにかく自動で動くロボットみたいなもんなんだっつの』
先ほど直前でもポーラに頼んでそれとなく能力の詳細を探り出してもらったのはそのためだ。彼が生物の鋭敏な感覚を乗っ取って操作するタイプだったら、正直作戦をねっこから変えなければならなかったところである。大量虐殺の様子からしても恐らくそれはなさそうだと思っていたとはいえ、一つ杞憂だと思ってこっそり安堵していたのは事実だ。
大量に操れる、と彼は言った。
しかしポーラいわく、シュカの町での大量虐殺の際に同時に放出していたのは主に二匹であり、坂田と安生が工場の屋根の上に移動して物見の見物を初めてから一気にオル・ウルフの数が増えたのだと証言した。ということは、細かな命令が下せる手動操作は二匹までの可能性が高く、それ以上の数になると単純命令のみの自動操作になってくるのではなかろうか。例えば、近くにいる人間を食い殺せ、とか。自分達自身も巻き添えになるから屋根の上に避難したと考えると筋も通るというものである。
――敵味方区別なく襲ってくる自動操作でガンガン攻められたら対処しようがない。なら、臨機応変な対応が効く……と本人が思っているであろう手動操作で行動してくるように仕向けるべきだ。
自動の場合、最大何体まで操作可能なのかがわからなかった。それこそ十体とか二十体とかで数の暴力に来られたらもうお手上げだ。だからそれを封じるために、こちらには人質がいると思わせたのである。基本は交渉よりも暴力で終わりにしたいであろう坂田を、強引に交渉のテーブルに上げるために。上がったと、本人にもそう思わせるために。何故なら無作為に周囲の敵を攻撃するような操作方法では、仲間であるはずの捕まっている安生を巻き込む可能性があるのだから。
これらのやり方は、坂田が安生を見捨てるような心の底からのゲスだった場合一切成立していない。そこが最初の賭けだったのだが――優理の見込んだ通り、彼にもそれくらいの情はあったらしい。
――嬉しいよ、お前にもちゃんと人間の心があるってのがわかって。
「どこだ、どこにいる!?訳わかんねーこと言ってねえでさっさと安生を返しやがれ!」
――だからこそ。……受けるべき罰もあるんだよ。
人を殺すことは極力避けたい。
しかし優理がそんな風に思っていることなど、坂田は知るよしもない。というか、彼の認識では、敵は見知らぬ大人達であるのだから尚更だろう。
「安生を返せ?……そう思うなら、お前が殺した人達を、傷つけた人達を元に戻したらどうなんだ」
ハンカチで口元を覆いつつ、頑張って低い声を出しながら優理は言う。自分と坂田が顔を合わせたのは過去二度しかないし、多少距離もある。声だけで、自分だと判断するのは難しいだろう。
「今までお前が傷つけた人や苦しめた人達も、助けを求めなかったか。命乞いをしなかったのか。お前はそれらの声に一度でも耳を貸したのか?貸さなかっただろう……己は奪う側だと、弱者に配慮する必要もないのだと決めつけて!」
「はあ!?それの何が悪いってんだ、俺らは選ばれた存在だ、絶対強者だ。弱い人間は弱いってだけで罪なんだよ。弱いってだけで殺されたって文句は言えねーんだよ!それが世界で真理だろうが!」
「ほう。じゃあ、我々に成す術もなく捕まった安生とかいう少年も弱者ということでいいな?弱い人間は殺されたって文句は言えないんだろう?なら、我々にこいつが殺されても文句は言わないな。お前の世界ならばそれが当然なのだから」
「は!?何言って」
「今、見せてやる」
優理は、少し離れた樹上に隠れて待機しているサミュエルに視線で合図を送った。サミュエルの唇が動く。
「“Phantom-single”」
サミュエルが唱えた途端、坂田の目が見開かれた。目の前の、何もないはずの空間を見て、恐怖に顔をひきつらせる。そして。
「あ、あああああああああああああああああああ!あ、安生、安生おおおおおっ!」
突然尻もちをついて、絶叫。それもそうだろう、今この瞬間彼には、頭上から安生の死体が降ってきたように見えているはずなのだから。それも、凄惨なバラバラ死体となった彼が、だ。
これは、魔法戦ではよくやる戦術の一つらしい。幻影を見せて相手を混乱させているうちに物理攻撃で叩くというものである。魔法にはこんな種類のものもあるんですよ、とサミュエルに教えて貰った時はなんと便利なと驚いたものである。
勿論この方法は、魔法に長けた者ほど通用しない。幻覚かもしれない、という想定が働くからだ。しかし転生者であり、この世界に来たばかりで魔法の知識が乏しいであろう坂田相手ならば効果は覿面だったわけである。本物の仲間だと思っている相手だからこそ、彼は救出のためここまで来たのだ。そのバラバラ死体を見せられて、冷静でいられるはずがない。
「くそがっ……くそがくそがくそがくそがくそがああああ!」
冷静さを失った彼は呆然自失となるか、そうでないなら少しでも手早く敵を殺す方法に打って出るはずである。彼の場合は後者だったようだ。彼が“クソ”を連呼し始めると同時に、落とし穴に落としたオル・ウルフに異変が生じた。まるで煙のようにその姿が消え始めたのである。
別のモンスターにコントロールを変更しようとしている。恐らくはオル・ウルフよりも凶悪なモンスターに。ならば。
「パターンA-2!」
優理が叫ぶと同時に、ポーラががばりと体を起こした。当然、彼女が倒れたフリをしたのも演技である。本来、オル・ウルフが二匹倒れた時点で、ポーラにそのまま坂田を制圧させることも可能ではあったのだ。それをさせなかったのは、本当は坂田がもう一匹手動操作マニュアルのモンスターをどこかに隠している可能性があったことと、向こうが即座に自動操作オートマに切り替えてくることを警戒したためである。ポーラの武力なら坂田程度は瞬殺することもできそうだが、もし失敗した場合カウンターを喰らう危険性があった。そうなったら、最も危ないのは彼女である。
だから、最大限手を打った。
二匹潰したところで坂田がどんな手に出るかを観察し、対応を待ってみたのである。もし隠している一匹がいるのなら、丸腰になった以上ここで出してこない手はないからだ。
しかし、坂田は二匹を行動不能にされてもすぐに次の一匹を出してこなかったし、コントロールの切り替えも行わなかった。それは即ち、本当に二匹しか手動では操作できなかったからであり、切り替えのタイムラグの間に敵に襲ってこられる可能性を考えたからと思われる。オオカミ二匹が復帰してくるよりも、タイムラグの方が長いかもしれないと踏んだということだ。つまり、彼の切り替え時間は想像以上に長いということに他ならない。
ならば、迷う必要はないだろう。
あとは冷静さを奪って、背後から強襲してやればそれでいい。
「がっ!」
ポーラの体当たり。完全に不意打ちを受けた坂田は、無防備に吹っ飛んで木に激突した。そこに、サミュエルの魔法が容赦なく飛んでいくことになる。
「“Thunder-single”!」
「ぎゃああああああああ!」
思いきり雷撃を浴びた男は絶叫し、全身を痙攣させて動かなくなった。姿が蜃気楼のように揺らいでいたオオカミたちが、ばしゅん!と音を立てて風船のように弾けて消える。
「ふう」
もう、幻覚の効果時間は消れているだろう。優理は倒れた男の手足を縛りながら、その耳元で囁いたのだった。
「能力、完全解除してね。でないと、今度は本当にズタズタにして殺すからね」
嘘八百。
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