11 / 40
<11・協力>
しおりを挟む
痺れている間に用意してきたロープで縛ってやれば、ポーラはあっさりと大人しくなった。そのかわり“さっさと殺せ”と吠えはじめたのが問題と言えば問題だったが。
「嫌だよ、俺人殺しになりたくないよ」
「甘ったれだな。自分を殺そうとしてきた相手にも同じことを言うのか」
「正当防衛を否定するつもりはないけど、君は本気で俺達を殺しに来てないでしょ。それくらいわかるよ」
「アタシは本気だった」
「はい嘘ー」
本気で殺そうとしにきていたなら、勝負はもっとあっさり着いていたに決まっている――当然、優理とサミュエルが負ける形で。彼女がこうしてあっさり捕まる羽目になったのは本人に迷いがあって、それがある意味“甘さ”に繋がったからとも言えるだろう。彼女の言葉は完全なるブーメランだった。そして多分、本人もそれをわかっているはずだ。
「君が情もへったくれもない人間なら、交渉なんかしないであっさり俺達を殺してるでしょ。それこそ声なんかかけないで奇襲すれば一発で終わってたよ?それをしなかった上、名前までちゃんと名乗った時点で、君は本当は戦いたくないしできればそのまま帰って欲しいってのが見え見えだった。……前の人達に怪我をさせたことにも罪悪感があったんじゃないの」
その言葉に、ポーラは気まずそうに視線を逸らす。完全に図星だろう。
「だから俺は、丸腰で君に話しかけながら近づいていったんだよ。正々堂々戦いたい人間ほど、丸腰の人間を攻撃するのには抵抗があるからさ。ましてやそれが、奇襲を仕掛けるのも躊躇うくらいの子ども二人なら尚更だろ。……君が戦士として優秀なのはわかる。だからサミュエルの町の大人達を一人で倒せたんだろうし。でも、望んでこんなことしてるわけじゃないんじゃないの」
彼女は答えない。任務に失敗してしまったことの動揺と、ここからどう逃げ出すべきかの算段とを考えるのに必死なんだろうか。実際、ロープで縛ったはいいが、これで完全に彼女を封じられたとは思っていないのが優理だった。どう考えても、自分とサミュエル二人合わせても彼女に力で勝てる気がしないし、こんなロープなど屈強な彼女なら引きちぎって逃げられそうなものである。電撃による麻痺が抜けたら、縄を抜けてこちらを攻撃してきてもなんらおかしくはあるまい。
それでも、今すぐ逃げようとする気配がないのは。考えることが多すぎて混乱しているか、もしくは諦めの境地であるのかといったところだろうか。
「俺、魔女を倒そうと思ってるんだ」
「!」
ここは試しに一枚カードを切るべき時か。優理が口に出すと、ぎょっとしたようにポーラは顔を上げた。
「転生の魔女、ジェシカを倒して欲しいってある人に依頼を受けててさ。それを成し遂げないと、元の世界に帰れないんだよね」
「ユーリさん!?その話は……」
「いいよ。ここは正直に言う」
記憶喪失だのなんだので誤魔化すのはどのみち限界があるのだ。何より信用を得たいなら、真実で交渉するべきではなかろうか。
「君達の町が薬を売れなくなったのも、魔女に何かされてるからじゃないかと思ったんだけどどうかな。……もしそうなら。魔女を倒さないと、根本的に解決できることは何もないよ。このまま君はずっと、誰かの言いなりになって人を傷つけ続けるの?それでいいの?」
「それが傭兵の仕事だ。アタシ達はそれ以外に生きる方法なんかない」
「オーガだから?さっきちらっとサミュエルに聴いたけど、人間達の差別に苦しんでるって聞いた。ひょっとして、言いなりになる代わりに仲間と町に住むことを許して貰ったとか、そういうのだったりする?」
「…………」
ポーラは何も答えなかったが、その沈黙はほぼ肯定と同じだろう。優理はため息をつくしかない。どこの世界でも、人種差別やら階級差別やらは変わらないということらしい。彼女は確かに自分達と比べて大柄で屈強だし角も生えてるが、見た目は人間とさほど変わらないではないか。自分を差別してきた人間であろうと、傷つけるのを躊躇うような優しい心も持ってる。
「許せないな、君みたいな美人を差別するなんて!あ、いや美人でなくても差別されていいわけじゃないけど……」
「びっ……!?」
「あ、ご、ごめんつい」
うっかり本音がぽろっと出てしまった。顔を真っ赤にさせて固まるポーラに、優理は慌てて手を振って謝る。
「そ、その。……人の差別って、なかなかなくせないものだと思うんだけどさ。この世界の人達みんな、魔女と転生者に悩まされてるんでしょ?そいつらみんなぶっとばしたら英雄だし、オーガの一族だろうとなんだろうと認めて貰えるだろうし、みんなも助かるしで一石二鳥だと思うんだけど……だめ?」
優理の提案に、今度こそ彼女は戸惑ったようにこちらを見た。言いたいことを理解したからだろう。
「お前。アタシに協力しろって言うつもりかよ」
「だって俺弱いんだもん。サミュエルはともかく、ろくに戦えないからさ、君みたいな強い人が仲間になってくれたら心強いかなーって現金な気持ちはあるよ!」
「正直過ぎんだろ……」
ああ、完全に呆れられてしまった。優理は苦笑いするしかない。残念ながら、一から十まで本音なのだったが。
魔法で遠距離から連射できるサミュエルに加えて、近接戦闘のエキスパートであるポーラが味方になってくれたらどこまでも心強いだろう。作戦の幅も広がるはずだ。というか、自分は作戦を立てることと逃げ隠れすることしかできないので是非ともそうしたいところなのだが。
「本気で魔女を、倒せると思ってんのか」
彼女の言葉に、優理は肩をすくめる。
「倒す以外に選択肢ないよ。というか、元の世界に帰る云々がなくても見過ごせない。みんなを苦しめて、それで平気な奴のことなんか」
「苦しめられてるのが赤の他人でもか」
「目の前で苦しんでる誰かを見捨てて逃げたら、それはもう俺じゃないから」
異世界だろうと、関係ない。優理は優理の信念を貫く、それだけのことだ。
自己満足かもしれない。ヒーローになんて、本当はなろうと思った時点でなれるはずのないものなのかもしれない。
それでも、自分は、少なくとも自分自身のヒーローではあり続けたいのだ。
己を偽ったらもう、息を止めるのとなんら変わりはないのだから。
「俺、弱いけど。それでも出来ることは全力でするよ。みんなを助けたいんだ……君も含めて。だから、力を貸してくれないかな」
座り込んでいる彼女に視線を合わせて、真正面から見つめて訴えかければ。ポーラは暫くの沈黙の後、このお人よしめ、と息を吐いたのだった。
「……確かに、アタシだっていつまでもこのままでいいとは思ってなかったしな。協力してやってもいいぜ。本当に、勝つ見込みがあるなら、の話だけどな」
「まあ、そう言うよね。君みたいな人が黙って従ってるくらいなんだ。単にオーガの一族の皆のため、ってだけじゃないだろ。敵に厄介な人間がいるとか?」
「そうだな。ていうか、この町にはお前の言う魔女・ジェシカの四人の部下のうち、二人が来てるんだ。サカタ・ヨウタロウ……ってやつと、アンジョウ・ヒロミ……って名前だったと思う」
「坂田に安生!?」
これはまさか、と優理は頭を抱えたくなる。サトヤから話を聞いていたが、まさかあの事故で、あの場にいた全員が最終的にこの異世界に飛ばされてきたというオチなのだろうか。不良四人のうち全員来ているわけではなかろうとたかをくくっていたのに(サトヤはるりはは来ていると言ったが、それ以外の誰が異世界転生したかは言っていなかったためだ)。
そして空一以外の全員が、魔女の部下になっているのも確定していいのだろう。ただでさえ面倒な連中なのに、チートスキルなんぞ与えられたら大惨事以外の何者でもない。一体ここでは何をやらかしたのだろうか。
「えっと、その人たちってユーリさんが一緒に転生させられたっていう、知り合いの方々ですか?」
「まあ、顔見知りではあるかな」
そいつらにいじめられていました、なんていうのも空しいので、サミュエルにはそう言って言葉を濁しておくことにする。ああ、せめてもの救いは、あの時投げられた猫たちの方は助かっているらしいということか。
「魔女が異世界で迷惑かけまくってる上、そいつらが魔女の部下として呼び出されて大惨事になってるから止めてくれ……って俺を転生したやつに言われてさ。なんとか止めなくちゃって思ってるとこなんだよな。なんか、この世界に転生してくる時に、魔女にとんでもないチートスキルを渡されてるみたいだし……どんなスキルなのかは俺はまったく知らないんだけど」
一応優理もスキルは渡されているが、戦闘などで直接的に役に立つスキルではない。今ここでその説明をする必要はないだろう。
「サカタ、アンジョウの二人は魔女の部下で間違いない。本人達は魔女というより、仲間のルリハというやつに従っているみたいだったけどな。そのルリハの願いを叶えるために、魔女の願いを叶える必要があると言っていた」
ポーラは渋い顔で説明する。
「その魔女の願いを叶えるためには、世界中の大地に埋まっている魔石を根こそぎ掘り起こさないといけないらしい。そのために、魔石を探知する機械の増産と、それを使って魔石の採掘をするための人員を欲している。この町の工場が、薬の生産も含め軒並みストップしたのはそのせいだ。必要な道具も機械も人員も、みんなそっちに持ってかれちまってるからな。自分達のための薬の生産さえままならないのに、よその町に売るなんて余裕あると思うか?」
「あーそういうこと……」
「サカタとアンジョウは二人揃って町に来て、いきなり町の人間達に能力を見せつけて恐怖で支配して……工場と、町そのものを乗っ取っちまったのさ。アタシらも迷惑してたんだけど、傭兵として仕事をするなら町で特別に生活保障するって言われて……仲間の何人かがそれに乗っかちまってね。ただでさえ、町はずれで貧乏な生活させられてたからなあ」
そういう事情か、と優理は理解する。貧しい生活から一転、町で少しでもマシな暮らしがさせてもらえるなら、傭兵として雇われるのも間違いではないだろう。ポーラ本人としては、苦い気持ちがあったようだが。
「魔石を集めて、魔女が何をしようとしているかはわからない。ただ、伝説の力を手に入れようとしているらしい、って話は聞いてる。大量の魔石がないと、それができないんだと。……ただでさえ鬼のように強い魔女だってのに、これ以上どんな力が必要だってんだか」
「なるほど」
本当は、ポーラ以外のオーガの仲間達にも協力を要請できるのが一番なのだろう。ただし、この様子だと彼女たちも一枚岩ではないようだし、下手に揉めていたらポーラの心変わりが例の二人に知られる羽目になりそうだ。
ならばここは、自分とサミュエルとポーラの三人だけでどうにかできるやり方を考えた方がいいだろう。
「……坂田と安生の能力。ポーラは見たんだよね?わかってる範囲で、教えて貰ってもいい?」
あまりぐずぐずはしていられない。
素早く情報収集して、策を練らなければ。
「嫌だよ、俺人殺しになりたくないよ」
「甘ったれだな。自分を殺そうとしてきた相手にも同じことを言うのか」
「正当防衛を否定するつもりはないけど、君は本気で俺達を殺しに来てないでしょ。それくらいわかるよ」
「アタシは本気だった」
「はい嘘ー」
本気で殺そうとしにきていたなら、勝負はもっとあっさり着いていたに決まっている――当然、優理とサミュエルが負ける形で。彼女がこうしてあっさり捕まる羽目になったのは本人に迷いがあって、それがある意味“甘さ”に繋がったからとも言えるだろう。彼女の言葉は完全なるブーメランだった。そして多分、本人もそれをわかっているはずだ。
「君が情もへったくれもない人間なら、交渉なんかしないであっさり俺達を殺してるでしょ。それこそ声なんかかけないで奇襲すれば一発で終わってたよ?それをしなかった上、名前までちゃんと名乗った時点で、君は本当は戦いたくないしできればそのまま帰って欲しいってのが見え見えだった。……前の人達に怪我をさせたことにも罪悪感があったんじゃないの」
その言葉に、ポーラは気まずそうに視線を逸らす。完全に図星だろう。
「だから俺は、丸腰で君に話しかけながら近づいていったんだよ。正々堂々戦いたい人間ほど、丸腰の人間を攻撃するのには抵抗があるからさ。ましてやそれが、奇襲を仕掛けるのも躊躇うくらいの子ども二人なら尚更だろ。……君が戦士として優秀なのはわかる。だからサミュエルの町の大人達を一人で倒せたんだろうし。でも、望んでこんなことしてるわけじゃないんじゃないの」
彼女は答えない。任務に失敗してしまったことの動揺と、ここからどう逃げ出すべきかの算段とを考えるのに必死なんだろうか。実際、ロープで縛ったはいいが、これで完全に彼女を封じられたとは思っていないのが優理だった。どう考えても、自分とサミュエル二人合わせても彼女に力で勝てる気がしないし、こんなロープなど屈強な彼女なら引きちぎって逃げられそうなものである。電撃による麻痺が抜けたら、縄を抜けてこちらを攻撃してきてもなんらおかしくはあるまい。
それでも、今すぐ逃げようとする気配がないのは。考えることが多すぎて混乱しているか、もしくは諦めの境地であるのかといったところだろうか。
「俺、魔女を倒そうと思ってるんだ」
「!」
ここは試しに一枚カードを切るべき時か。優理が口に出すと、ぎょっとしたようにポーラは顔を上げた。
「転生の魔女、ジェシカを倒して欲しいってある人に依頼を受けててさ。それを成し遂げないと、元の世界に帰れないんだよね」
「ユーリさん!?その話は……」
「いいよ。ここは正直に言う」
記憶喪失だのなんだので誤魔化すのはどのみち限界があるのだ。何より信用を得たいなら、真実で交渉するべきではなかろうか。
「君達の町が薬を売れなくなったのも、魔女に何かされてるからじゃないかと思ったんだけどどうかな。……もしそうなら。魔女を倒さないと、根本的に解決できることは何もないよ。このまま君はずっと、誰かの言いなりになって人を傷つけ続けるの?それでいいの?」
「それが傭兵の仕事だ。アタシ達はそれ以外に生きる方法なんかない」
「オーガだから?さっきちらっとサミュエルに聴いたけど、人間達の差別に苦しんでるって聞いた。ひょっとして、言いなりになる代わりに仲間と町に住むことを許して貰ったとか、そういうのだったりする?」
「…………」
ポーラは何も答えなかったが、その沈黙はほぼ肯定と同じだろう。優理はため息をつくしかない。どこの世界でも、人種差別やら階級差別やらは変わらないということらしい。彼女は確かに自分達と比べて大柄で屈強だし角も生えてるが、見た目は人間とさほど変わらないではないか。自分を差別してきた人間であろうと、傷つけるのを躊躇うような優しい心も持ってる。
「許せないな、君みたいな美人を差別するなんて!あ、いや美人でなくても差別されていいわけじゃないけど……」
「びっ……!?」
「あ、ご、ごめんつい」
うっかり本音がぽろっと出てしまった。顔を真っ赤にさせて固まるポーラに、優理は慌てて手を振って謝る。
「そ、その。……人の差別って、なかなかなくせないものだと思うんだけどさ。この世界の人達みんな、魔女と転生者に悩まされてるんでしょ?そいつらみんなぶっとばしたら英雄だし、オーガの一族だろうとなんだろうと認めて貰えるだろうし、みんなも助かるしで一石二鳥だと思うんだけど……だめ?」
優理の提案に、今度こそ彼女は戸惑ったようにこちらを見た。言いたいことを理解したからだろう。
「お前。アタシに協力しろって言うつもりかよ」
「だって俺弱いんだもん。サミュエルはともかく、ろくに戦えないからさ、君みたいな強い人が仲間になってくれたら心強いかなーって現金な気持ちはあるよ!」
「正直過ぎんだろ……」
ああ、完全に呆れられてしまった。優理は苦笑いするしかない。残念ながら、一から十まで本音なのだったが。
魔法で遠距離から連射できるサミュエルに加えて、近接戦闘のエキスパートであるポーラが味方になってくれたらどこまでも心強いだろう。作戦の幅も広がるはずだ。というか、自分は作戦を立てることと逃げ隠れすることしかできないので是非ともそうしたいところなのだが。
「本気で魔女を、倒せると思ってんのか」
彼女の言葉に、優理は肩をすくめる。
「倒す以外に選択肢ないよ。というか、元の世界に帰る云々がなくても見過ごせない。みんなを苦しめて、それで平気な奴のことなんか」
「苦しめられてるのが赤の他人でもか」
「目の前で苦しんでる誰かを見捨てて逃げたら、それはもう俺じゃないから」
異世界だろうと、関係ない。優理は優理の信念を貫く、それだけのことだ。
自己満足かもしれない。ヒーローになんて、本当はなろうと思った時点でなれるはずのないものなのかもしれない。
それでも、自分は、少なくとも自分自身のヒーローではあり続けたいのだ。
己を偽ったらもう、息を止めるのとなんら変わりはないのだから。
「俺、弱いけど。それでも出来ることは全力でするよ。みんなを助けたいんだ……君も含めて。だから、力を貸してくれないかな」
座り込んでいる彼女に視線を合わせて、真正面から見つめて訴えかければ。ポーラは暫くの沈黙の後、このお人よしめ、と息を吐いたのだった。
「……確かに、アタシだっていつまでもこのままでいいとは思ってなかったしな。協力してやってもいいぜ。本当に、勝つ見込みがあるなら、の話だけどな」
「まあ、そう言うよね。君みたいな人が黙って従ってるくらいなんだ。単にオーガの一族の皆のため、ってだけじゃないだろ。敵に厄介な人間がいるとか?」
「そうだな。ていうか、この町にはお前の言う魔女・ジェシカの四人の部下のうち、二人が来てるんだ。サカタ・ヨウタロウ……ってやつと、アンジョウ・ヒロミ……って名前だったと思う」
「坂田に安生!?」
これはまさか、と優理は頭を抱えたくなる。サトヤから話を聞いていたが、まさかあの事故で、あの場にいた全員が最終的にこの異世界に飛ばされてきたというオチなのだろうか。不良四人のうち全員来ているわけではなかろうとたかをくくっていたのに(サトヤはるりはは来ていると言ったが、それ以外の誰が異世界転生したかは言っていなかったためだ)。
そして空一以外の全員が、魔女の部下になっているのも確定していいのだろう。ただでさえ面倒な連中なのに、チートスキルなんぞ与えられたら大惨事以外の何者でもない。一体ここでは何をやらかしたのだろうか。
「えっと、その人たちってユーリさんが一緒に転生させられたっていう、知り合いの方々ですか?」
「まあ、顔見知りではあるかな」
そいつらにいじめられていました、なんていうのも空しいので、サミュエルにはそう言って言葉を濁しておくことにする。ああ、せめてもの救いは、あの時投げられた猫たちの方は助かっているらしいということか。
「魔女が異世界で迷惑かけまくってる上、そいつらが魔女の部下として呼び出されて大惨事になってるから止めてくれ……って俺を転生したやつに言われてさ。なんとか止めなくちゃって思ってるとこなんだよな。なんか、この世界に転生してくる時に、魔女にとんでもないチートスキルを渡されてるみたいだし……どんなスキルなのかは俺はまったく知らないんだけど」
一応優理もスキルは渡されているが、戦闘などで直接的に役に立つスキルではない。今ここでその説明をする必要はないだろう。
「サカタ、アンジョウの二人は魔女の部下で間違いない。本人達は魔女というより、仲間のルリハというやつに従っているみたいだったけどな。そのルリハの願いを叶えるために、魔女の願いを叶える必要があると言っていた」
ポーラは渋い顔で説明する。
「その魔女の願いを叶えるためには、世界中の大地に埋まっている魔石を根こそぎ掘り起こさないといけないらしい。そのために、魔石を探知する機械の増産と、それを使って魔石の採掘をするための人員を欲している。この町の工場が、薬の生産も含め軒並みストップしたのはそのせいだ。必要な道具も機械も人員も、みんなそっちに持ってかれちまってるからな。自分達のための薬の生産さえままならないのに、よその町に売るなんて余裕あると思うか?」
「あーそういうこと……」
「サカタとアンジョウは二人揃って町に来て、いきなり町の人間達に能力を見せつけて恐怖で支配して……工場と、町そのものを乗っ取っちまったのさ。アタシらも迷惑してたんだけど、傭兵として仕事をするなら町で特別に生活保障するって言われて……仲間の何人かがそれに乗っかちまってね。ただでさえ、町はずれで貧乏な生活させられてたからなあ」
そういう事情か、と優理は理解する。貧しい生活から一転、町で少しでもマシな暮らしがさせてもらえるなら、傭兵として雇われるのも間違いではないだろう。ポーラ本人としては、苦い気持ちがあったようだが。
「魔石を集めて、魔女が何をしようとしているかはわからない。ただ、伝説の力を手に入れようとしているらしい、って話は聞いてる。大量の魔石がないと、それができないんだと。……ただでさえ鬼のように強い魔女だってのに、これ以上どんな力が必要だってんだか」
「なるほど」
本当は、ポーラ以外のオーガの仲間達にも協力を要請できるのが一番なのだろう。ただし、この様子だと彼女たちも一枚岩ではないようだし、下手に揉めていたらポーラの心変わりが例の二人に知られる羽目になりそうだ。
ならばここは、自分とサミュエルとポーラの三人だけでどうにかできるやり方を考えた方がいいだろう。
「……坂田と安生の能力。ポーラは見たんだよね?わかってる範囲で、教えて貰ってもいい?」
あまりぐずぐずはしていられない。
素早く情報収集して、策を練らなければ。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜
海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。
そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。
しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。
けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる