レーゾン・デートルの炎上

はじめアキラ

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<第十二話>

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 ***



411:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
ごめんちょっとまじで今ショック受けてる……何が起きたよ初音マイ

412:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
不正してたってマ?

413:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
昨日から掲示板がノンストップな巻
ていうかおまいらびびってるのはわかるけど速度自重シロ
さっき新スレ建てたばっかりなのになんでもう400番台なんだよ

414:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
だって、なぁ?

415:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
三ツ星が大賞受賞とかうわーっとは思ったけどさ、まあ初音マイの作品読んだらおかしいレベルではないなーと思ったというか
書籍化してもそれなりにイケるかなぁとか思ってたけど、まさかの不正

415:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
五ツ星差し置いて……とは思ったけど前のマルイ氏の例があるからなあ
一ツ星の新人が初投稿作品で大賞かっさらったっつー衝撃
あの時のマルイ氏もめっさ叩かれてたよなあ。不正疑われて

416:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
>>415
あれは新人時代のマルイタカヤが星野サマのお怒りを買っちゃったから仕方ない
女帝のファン強烈すぎてまじでこわいし

417:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
>>416
しれっと星野さんのファン全員に喧嘩売るのやめてくれるか、んん?

418:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
おまいら話そらすなよ、その件はもう終わっただろ
今は初音マイショックの話だろ

419:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
マルイタカヤの件があってから、なんとなく今までよりも下克上しやすくなった空気があったのは事実

420:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
>>419
それな

421:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
>>419
三ツ星くらいなら、まあ五ツ星に遠慮しなくても……な空気は出てきたよな
賢帝が率先してカッコいいコメント出してくれたのもあったけど

422:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
マルイタカヤの時はぶっちゃけ星野ファンが先走っただけって結論で終わったけど……今回はどうにもならないだろ
なんで初音マイは不正なんかしたんだよ。運営にお金渡すとかやりすぎだろ

423:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
>>422
お金もそうだけど、同性としては枕の方が許せない件

424:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
枕ってブスでもできんの?ww

425:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
>>424
あれ?初音マイって顔出ししてたっけ?

426:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
>>425
してないけどスターライツで書いてる女なんか大半デブスだろwww

427:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
>>426
おまいはスターライツの女流作家すべてを敵に回した
ていうか枕営業して受賞勝ち取るようなクソと一緒にされたくないんですけど

428:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
>>427
マジ同感

429:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
二十代の女なら多少デブスでも物好きになら需要あるんじゃねーの?
まあヤレたらなんでもいいみたいなキモオヤジはいるんだろ。たぶん

430:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
ほんと見損なったわ。そうまでして賞が欲しかったの?自己顕示欲と承認欲求強すぎてマジでひくわ

431:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
編集長と一緒にホテル行く写真撮られるとか、もう言い訳できねーよなー
なんか否定してるっぽいけど往生際悪すぎ

432:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
ちょっとは面白い新人かと思ってたのに裏切られた
あいつの作品読んだ時間返して欲しいわ

433:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
金払って編集長と寝て大賞貰ったクソ女ー
なあ掲示板見てる?見てるぅ?ぜーんぶバレたのどんな気持ち?ねえどんな気持ち?www

434:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
やっぱ聖帝と新帝がダブルで負けるなんておかしかったんだよなぁ

435:名無しさん@流れ星在中
   2XXX/XX/XX(X)  xx:xx:xx
ほんと、Web小説家の風上にも置けない
完全に終わったな、初音マイ。あいつの本名と住所がネットに出るのも時間の問題だろー
特定班、お仕事よろしこ☆



 ***



 どうして、こんなことになってしまったのだろう。
 綺羅星サヨに罵倒され、ブロックされたのは全ての始まりに過ぎなかった。スターライツの編集長と、舞が会ったのは事実だ。しかしそれはあくまで、書籍化について打ち合わせをするために他ならない。ホテルなんて、全くなんの話であるのか。ネットに出てきた、舞と編集長の後ろ姿。ホテルに入っていくとおぼしきその写真に、舞はまったく覚えがなかった。
 そもそも、編集長に会ったのだって受賞発表の後である。写真の日付も明らかにおかしい。何がどうして、こんなことになってしまったというのだろう。

『初音マイさん、おめでとうございます。……貴女の受賞に関して、心ないことを言う人もいるのかもしれません。ですが、どうか気になさらないでください』

 壮年の編集長の、優しい声がリフレインする。自分は勿論、人に言えないようなことなどしていない。あの人だってそんなことをするような人間には思えなかった。
 舞のことを嫌う、スターライツの住人がいたであろうことは予想がつく。そういう人達が、あらぬ噂を流したりフェイク写真を流したりしたのかもしれなかった。でもだからって、あの優しそうなスターライツの編集長さんまで巻き込むなんて。とうしてそんな恐ろしいことができるのだろうか。

『私達も出版社の方々も、貴女の作品が本当に素晴らしいと思ったから……一緒に本を作りたいと思ったから、貴女を選んだのです。誰がどう言っても、それは変わりません。どうかもっと、自信を持ってください』

――これからどうなっちゃうの。あの人だってきっと疑われて、辛い思いしてる……。

 それに自分も。
 特定班、と言っていた。写真から自分の顔や名前が割れてしまう時が来るのだろうか。この家にも、怖い人達が押し掛けてくるかもしれないのだろうか。
 想像するだけで恐ろしくてならない。舞は恐怖から仕事にも行けなくなり、部屋で独り震えて引きこもるようになってしまっていた。今もスマートフォンを抱えて、怯えながらベッドの上でうずくまっている有り様である。

――どうすれば、信じて貰えるの?私、不正なんかしてない。ましてや、受賞するためだけに男に人と寝るなんて、そんなこと絶対するわけないのに……。

 舞だって、最初からこうして悲観していて沈黙していたわけではなかった。ネットニュースで疑惑が報じられ、スターライツの舞のページに次々と不正を糾弾する内容が書き込まれ――そのたびに、そんな事実はないと否定して回っていたのだ、はじめは。というか、パニックになって慌てて火消しに走ったと言った方が正しいかもしれない。一体全体、誰がそんな写真を捏造し、あまつさえメディアに流したというのかてんで想像がつかなかったからだ。
 だが、段々とわかってきたのは、その行為の無意味さである。
 舞がいくら否定しても、あの写真があるのに言い逃れをするなんて!という舞の謝罪と受賞の取り消しを求める声ばかりが相次いだのだった。そればかりか、スターライツの作品を全て消して退会し、セバスチャンの方の作品も全部消去しろという声まで出る始末である。お前の腐った根性を思い出したくない、お前の汚れた作品など見たくもない――不正を報じるニュースが出て以降、舞のメールボックスもサイトも荒れに荒れ続けたのである。
 限界はすぐに訪れた。元々、メンタルが強い方ではない舞である。自分の顔がバレるのも時間の問題――そう思うと会社にも行けなくなり、今では殆どネットにも繋げなくなってしまった。セバスチャンとスターライツのページに、不正を否定するお知らせを出して以降、舞はもうこの数日毎日見ていたそれらのページを一切見なくなってしまっている。でも、見なければ気にならないかといえば、全くそんなことはないのだ。
 舞が見ないフリをしても、知らないフリをしても、ネットの騒ぎが続いていることは火を見るよりも明らかである。乃香が心配して、毎日のようにメールをしてきているということはつまりそういうことなのだろう。

『舞、気にしちゃ駄目だよ。舞がそんな馬鹿な真似するわけないって、あたしは信じてる。何かの間違いに決まってる』

『舞を貶めたい人達の声なんかに耳を傾けちゃだめだからね』

『お願い、返信して。舞、心配だよ。お願い変なこと考えないで』

『悪くないんだから。舞は何も、悪くないんだからね』

 乃香の言葉は優しい。彼女が必死で自分を元気づけようとしてくれていることはわかっている。そして返信しない状況が、どんどん彼女に心配をかけてしまっているということも。
 でも。今の舞はもう、彼女の優しい言葉に応える余裕すらなくなってしまっているのだ。

――ごめん、ごめんね、舞。でもやっぱり……悪かったのは、私なんだ。

 元々自己肯定力が低い舞である。今思うのは一つだ――自分のような未熟者が、ネットに小説を投稿して、あまつさえコンテストなんかに応募したのが間違っていたのだ、と。
 だってそんなことなどしなければ――こんな風に大炎上して誰かに迷惑をかけることもなければ、サヨを傷つけてしまうことだってなかったはずなのだから。

――駄目だなあ、私は。本当に、本当に何やっても駄目なんだ。……なんで生きてるの、こんな出来損ない。

 誰も舞の言葉を信じてくれないのは、舞にそれだけの信頼がなかったからに違いない。信頼を築けなかったのは、説得力のある言葉を言えない舞自身が悪いのだ――そう思い始めれば、ネガティブ思考のループは留まるところを知らなかった。
 もうどうすればいいのかわからない。自分の人生も、ささやかな夢も、何もかもこれでおしまいなのだ――本気で舞がそう考え、絶望に落ちかけていた時だった。
 舞の携帯電話が、見知らぬメールの着信を告げるように震えた。

――乃香、じゃない。……迷惑メールかな。

 どうでもいい、と思いつつ。一応確認だけはすることにする。幸い、個人の携帯電話のメールアドレスはまだネット上に流出していないはずである。

「え……?」

 そして舞は、目を見開くことになる。
 そこに書かれていた内容は、予想外のものであったのだから。



『初めまして、初音マイさん。
 私は桜という者です。
 マイさんが、無実であることを知っている人間です。

 少しだけ、話をさせていただけませんか』

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