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<第十話>

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 初音マイこと、基樹舞が小説を書き始めたきっかけは何であったのか。実のところ、自分でもよく覚えていないほど昔であったりする。幼い頃から、歌に興味があり、替え歌を作って遊ぶような子供であったのは確かだ。幼稚園のとある歌が大好きで、それを家に帰ってからも口ずさみながら――いつの間にか、二番までしかないその歌を、三番も四番もと続きを作って歌うようになったのが始まりであったように思う。
 舞の周囲には、ピアノを習っている子供が多かった。舞自信がせがんだのか母親がそのほうがいいと思ったのかは定かでないが、舞も子供の頃はピアノを習う少女だった。といっても、極端な練習嫌いの舞である。好きな事には熱心に打ち込む反面、ピアノを“演奏する”という行為にはさほど惹かれなかったのが原因だったのだろう。それよりも、“音楽”と“歌詞”を己で作るという方面に幼くして惹かれていたのである。替え歌も、そうやって無意識に始めた行為だった。
 もちろん幼稚園児の替え歌が、レベルの高い行為であろうはずがない。ましてや舞は、どこぞの音楽家のような天才児でもない一般的な子供である(ちょっと頭のネジが外れていた可能性はあるが)。しかし、そうやってリズムを取って替え歌を作るようになることから舞の“作詞”遊びが始まり――いつしかそれが、小説を書くという方向に結びついていったのは事実だ。
 小学校一年性の時には、もう小説まがいのものを書いていた。
 最初の頃はとにかくセリフだらけの、しかもセリフの前にキャラクターの名前を書かなければ誰が喋っているのかもわからないような悲惨なレベルであったのだが――本人的には“小説”であったし、生まれて初めて己の手で作った“物語”に違いなかったのだ。
 自分の手で、新しい世界を作る。舞の子供の頃には家にパソコンがなかった。暫くしてパソコンを買ってもらえたものの、使える時間は大きく制限され、とてもじゃないがパソコンで執筆をするようなことは不可能であった(そもそもパソコンで小説を安定して打てるようになるのは、。ローマ字を覚えてローマ字入力ができるようになってからのことである)。ゆえに、舞の最初の世界は、ノートの上にあった。誰にも読んで貰えない、舞だけが楽しい、舞だけのための世界。それでも満足であったように思う。自分の頭の中の世界を、小説という形で整えて完成させていく行為。舞にとってはそれそのものが、大きな目標であり夢のような時間であったのだ。

『ねえ、マイマイ。どうせならさ、ネットにうpってみなよー』

 そんな舞が、自分の作品を表に出そうと思うようになったのは、高校生になってからのことである。同じクラスの友人である園田乃香そのだのかに言われた言葉がきっかけだった。アニメ好き同士で気があった二人は、よくファミレスにこもって一緒にお絵かき大会をしていたのである。そんな折り、小説も書いている、ということをぽろっと舞が漏らしてしまったのがきっかけだった。
 せっかくなら読ませてよ!と乃香が言ってきたのである。人に評価を受けることが非常に怖く、同時に恥ずかしかった舞は最初拒んだのだが――そこは、乃香への信頼がものを言った形だった。明るく溌剌として、サバサバした気質の乃香は舞と正反対の性格である。一見物言いがはっきりしすぎてキツいようにも聞こえるが、実際はけして人を無下に傷つけるような行為をせず、むしろそういった者が許せない正義感に満ちた人物だった。批評を下す時も、全ては愛ゆえに。最終的に他人のためにならないなら、己の信用が落ちることを覚悟してはっきりとした批評も不満も口にする。舞が乃香と友人でありたいと願い、そうであったのは。そんな乃香の一本筋の通った性格に惹かれ、憧れていたからに他ならなかった。
 乃香なら、自分だけで閉じた世界を見せても、愛のない悪口は言わないし薄っぺらいお世辞も口にしないだろうと思ったのである。舞が高校になるまで、人に作品を見せることをしなかったのは。ネットの世界には、人を平気で傷つけて笑う人がたくさんいるらしい、と聞いて恐ろしくなってしまっていたのもあったのだ。

『小説を投稿できるサイトも増えてるしさ。マイマイも挑戦してみたら?』
『ええ……そんな、怖いよ。私の作品なんて自己満足でしかないし、載っけたってみんなの眼を汚しちゃうだけだよお……』
『眼を汚すってマイマイあーた……読んで貰えないとか評価されないとか以前にそれなのね……』
『だって……』

 自分に全く自信がなく、ゆえに自己評価が恐ろしく低い。誰かさんとは正反対であったのが舞である。
 読んで貰えないことは、何も恐ろしくなどない。面白くなければ閲覧数が伸びないのは当然のことであるし、そもそも自分は“書くのが楽しいから書いている”であって“誰かに読んでもらいたいから書いている”わけではないのだ。己の自己満足のため、そのためだけの小説である。誰かの評価など完全に二の次。レビューもイイネも全くつかなくてもそれは問題ない。ただ――恐ろしい批判が噴出することだけは、どうしても避けたかったのである。
 読まれないのは怖くないが、叩かれるとなれば話は別なのだ。
 そしてウェブサイトに投稿すれば、どれほど底辺の作品であっても人目に付く機会は増えることになる。“そんな酷い作品だとは思わなかった!読んで損した、時間を返せ!”と言ってくる人もいるかもしれない。そんな人達が現れたら、一体どうすればいいというのだろう。舞にはただ“ヘタクソでごめんなさい”と謝罪するくらいしかできないのである。謝ったところで、その人の費やしてしまった時間など戻って来ないというのに。

『私がものすごい天才で、自信たっぷりにいい作品を書けてる!って胸を張れるレベルだったなら良かったかもだけど。……私、誰にも小説読んで貰ったことないし。文法も、義務教育レベルしかわかってないし。小説の書き方なんて……勉強してないし。自分が楽しいためだけに書いてる作品だから、きっと他の人が読んでも面白くないというか……ほんと、文章力とか表現力とかひっどいと思うし。……そんなの、晒せないよ。サイトの人達に迷惑かけちゃうだけだし、叩かれたら怖いよ……』

 こんな弱音を吐ける相手など、乃香くらいのものである。舞がしょんぼりと告げると、乃香はバーカ!と舞の頭にデコピンをしてきたのだった。

『確かにそりゃ、今読んだ感じだとプロのレベルとは程遠いよ。文章の粗も多いし、誤字脱字もあるし、ちょっと展開にムリあるなーってところもあるけどさ。でも、私はこの話、面白いと思ったから勧めてんのよ?』
『え……?』
『小説を書くのが楽しくてたまらない!もっともっとこの世界に色をつけたい!……そういうマイマイの気持ちがいっぱい詰まってるからじゃないかな。評価とか、誰かの眼とか、そういうものを全然気にしないで書くマイマイだからこそ書ける話だとあたしは思ったよ?……文章力だの技術だのなんてのは、書きながら学んでいけばいーの。でも、そういうセンスとか、“小説を書くのが好き”って才能は生来のものだと思うけどなあ。そういうの、潰したらもったいなくね?とあたしは考えたわけです。おわかり?』

 乃香のその言葉で、何もかも吹っ切れたわけではなかった。でも。

『心無いヤツに叩かれることもあるかもしれない。でも、そういうのはスルーでいいんだよ。こんなに文章が好きなマイマイだもん、“愛のある言葉”と“愛の無い悪口”の見分けはきっとつくと思う。愛のある批評だけ聞いて、レベルアップしていけばいーのよ。それそのものが、マイマイにとって間違いなく楽しいと思うんだよね。だって技術が上がるってことは、表現できる世界の幅が広がるってことでしょ。マイマイが一番欲しいものって、それじゃないの?』

 その言葉がなければ、きっと今でも舞はネットに小説を投稿しようとは思わなかっただろうし――小説家になる夢なんてものを、抱くこともなかっただろう。
 小説投稿サイト“セバスチャン”に投稿を始めたのは、それからしばらくしてのことである。
 当然ながら、無名で文章の粗い舞の小説は閲覧数など殆どつかなかったし、ついたと思ったら厳しい指摘が来たこともあった。しかし、乃香の言う通り――舞には“愛のある批評”とそうないかをおおまかに見分ける眼があったのである。実際、愛のある厳しい指摘や批評、アドバイスを聞いて参考にし、学んでいくにつれ――舞の作品の閲覧数は、少しずつ伸びていったのだった。
 WEB小説家、初音マイの誕生である。

『やったじゃんマイマイ!現代ファンタジーのランキングで、マイマイの“イービル・ディスコード”一位になってるよ!』

 大親友である乃香も、読み専でセバスチャンに登録していた。大人になっても親交は続いている。そんな彼女からの報告で、ランキングなど見たこともなかった舞は己の小説がいつの間にかそれなりの人気作になっていたことに気づいたのだった。それは、舞がセバスチャンに登録してから、おおよそ四年が経過した頃である。
 彼女からのメールに、舞は少し照れながらもこう返信している。

『ありがとう。……でも私、どんなにたくさんの人に読んで貰うことより、そうやって乃香に応援してもらえることが一番嬉しいよ』

 投稿サイト、スターライツを知ったのは。舞が二十七歳になった時のことだった。舞が小説を書き始めて、既に二十年近くが経過した頃のことである。
 コンテストでの入賞そのものに興味があったわけではない。ただ、コンテストに入賞するということはつまり、自分の力量がプロの眼から見て“入賞させても恥ずかしくない”レベルであるということの証明にはなるだろう。力試しもかねて、そういうものに挑戦してみるのも悪いことではなかもしれない。舞がスターライツに登録したのは、そういう経緯であった。
 実のところ、コンテストの開催そのものはセバスチャンでも存在している。そして、挑戦したことがないわけではない。だが、その時点での舞は完全に無冠であり、どんな入賞数の多いコンテストに応募しても滑って転んでばかりの状況だったのである。スターライツのコンテストに惹かれた理由は一つだ。セバスチャンではまだ開催されていない、長編小説のコンテストが多く存在していたからである。
 そうやって足を踏み入れた、投稿SNSスターライツの世界。裏サイトで星をつけられて格付けされるその投稿サイトで、舞もまた揉まれていくことになる。スターライツは、投稿者も読み専もセバスチャン以上に自他に厳しいものが多かった。レビュー掲示板に投稿しては厳しい指摘を貰い、己の短所を見つめ直し、作品作りに活かせるよう積み上げる日々の始まりである。そして、そこで舞が出会った人物こそ――同じく無冠であった、彼女の存在だったのだ。
 綺羅星サヨ。
 六年間スターライツにいながら、まるで受賞できないと嘆いていた彼女のことがほっておけず――舞は、彼女に声をかけるようになったのだった。彼女の文章が、昔の自分によく似ていたのもあるし――なんだか羨ましいと思ったのもあるのである。
 彼女は、舞にはないものを持っていた。それはコンテストに受賞できなくて悔しいという強い熱意と、小説家になるという夢へのあくなき挑戦心である。その気持ち、そのものが才能であるはずだと舞は思ったのだ。かつてそうやって、自分は乃香に背中を押されたように。
 彼女が、人からの指摘を嫌がるタイプであるのはすぐに気づいた。だから舞は、彼女の小説に対してアドバイスをするようなことはしなかった。自分ごときがそんな高尚なアドバイスができる立場ではない、と思ったというのもある。舞にできたのはただ、彼女が落ち込んでいる時に励まし、小説以外の話題も踏まえて雑談をかわし、少しでも勇気づけるということだけだった。綺羅星サヨに、その強い気持ちを失って欲しくない。彼女の夢を応援したい。舞は心からそう思っていたのである。

『舞。悪いこと言わないから、あのサヨって人とはあんまり関わらない方がいいよ。あの人、ほんと評判悪いし。……少しでも舞が気に入らないことを言ったと思ったら、どんなふうに攻撃してくるかわかんないよ?』

 乃香には、そう忠告を受けた。

『前から思ってたけど、舞はちょっとお人好しすぎるっていうか。面倒な人ホイホイなところあるから、もっと気をつけた方がいいって。……舞が二ツ星扱い以上を上るようになったら、あの人嫉妬してやばいことになるかもよ?』
『そうかなあ。……ていうか、私ずっと一ツ星に決まってるから、その心配はないと思うけど』
『……あんたのネガティブぶりはほんと治んないのね、全く。そういう問題じゃないんだけどなあ……』

 彼女が何を言いたいのかは、なんとなくわかっていた。でも、舞はどうしてもサヨを見捨てるということができなかったのである。
 それは舞自身が、始めてスターライツで出来た作家仲間という存在に、どこか舞い上がってしまっていたというのもあるだろう。

『ありがとね、乃香。心配してくれるのは嬉しいよ。でも、やっぱりサヨさんはさ……私と似てるし。応援したいんだ、できる限り近くで』

 その言葉に、偽りはなかった。
 舞は本当に、サヨが夢に向かって羽ばたくのをこっそりと応援できる立場であるなら、それで十分幸せだったのである。
 そう、それだけだったというのに。

『あんたなんか、嫌い。大嫌いよ、初音マイ!』

 どうしてこんなことになってしまったんのだろう。舞は、今、暗い部屋で一人考え続けている。
 自分は一体何を、何処で間違えてしまったのかと。
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