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<第五話>
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トリアスが、この妙にちゃらけた雰囲気の赤髪男――フレイアの弁護を受けることにしたのは。どうやら彼が探偵ばりの洞察力を持っているのは確かだと思ったのもあるが――実際のところ、弁護士そのものに強く拘ったわけではなかったというのもある。
冤罪を晴らしたい気持ちがないわけではないが、晴れなくても自分は最後まで無実を訴え続け、処刑台に消えるつもりでいたのだ。どうせ無能な国選弁護士(国選弁護士にも優秀な人間がいるのは知っているが、たとえ実績があったところで魔王の世界征服案件でやる気を出してくるとは思えない)の弁護を受けるしかないと諦めていたところである。愉快犯でないなら、それよりはマシな結果が待っていることだろう。
トリアスの判断は、つまりそういうことだ。別に、まだフレイアを信用したとか、そういうわけではないのである。
「とりあえず、事件の概要をまとめようか。今回お前が逮捕されるにあたり、もっとも大きな事件は三つだ。まず先に報道されていた内容と罪状を説明するから、後でお前視点の補足を頼む」
「わかった」
「まず一つ目。アネモニ村の大虐殺事件。これが魔王が目覚めて最初に起こした事件だとされている。人口八十三人のアネモニ村にて、深夜何者かが鋭利な刃物を用いて村人達の寝込みを襲撃。村人のうち、八十二人が死亡……生き残った唯一の村人だったトリアス=マリーゴールドが犯人の疑い濃厚として指名手配された。目撃証言はない。犯行が深夜であったし、閉鎖的な村だったからな。商人も昼間にたまに訪れる程度だったそうだ。しかも、犯人は村に火を放って逃走している。凶器の刃物さえ見つかっていない。そもそも焼け野原じゃ特定できないってところだな。罪状は強盗殺人と、放火、器物破損ってところだ。村の有力者の有力者の屋敷を中心に大量の金品が盗まれていたのがわかっている」
知っている。そこは、トリアスの生まれ故郷だ。被害者にはトリアスの両親も含まれている。確かに村人達との折り合いが良かったとは言えない。それどころか、自分達は近いうちに村から出ていこうとしていたのである。両親と村人達が酷く揉めていたのは記憶に新しい。――自分さえ普通の子供であったなら、両親にあんな嫌な思いをさせることもなかったというのに。
トリアスが容疑者になったのは、村の全域が焼かれているのに軽度の火傷だけで一人助かったのが不自然であったことと、両親と村人が揉めているのを訪れた商人が目撃していたからである。
「次に、この事件の後数週間に渡って発生したアイリス地方の大災害だな。突如発生した竜巻により、複数の街が巻き込まれて甚大な被害をもたらした。その後の調べにより、竜巻が発生する少し前に複数の町でトリアスの目撃情報があったことがわかる。どれも、トリアスが宿屋に宿泊しようとしたのを門前払いしたってことらしいな。店主とトリアスが揉めているのを見た、と生き残った住人達が証言した。その後、竜巻により複数の街が壊滅的な被害を被ることになる。とある街の高台で魔法を操るトリアスの姿を商人の娘が目撃。またトリアスの魔力が感知されたことから、この事件もお前の犯行だと睨まれることとなった……。こちらも罪状は強盗殺人と魔法風紀法違反。器物破損ってところか」
魔法風紀法違反というのは、魔法を使える人間は正しく魔法を使いましょう、という何条もの規則に違反したことへの総称である。例えば、町中で魔法を使う場合は緊急時を除き中級魔法までに制限される、など。町中で蘇生魔法を使う場合には特別な許可がいる、というのもあったはずである。
竜巻による被害は、殺人の方が目立ちがちだが――魔法風紀法違反、という意味でも罪状が追加されることになるらしい。
「そして最後の三つ目が、フラワーメイル世界政府に対して国家転覆を狙い、魔王トリアスの宣戦布告映像が出回ったこと。現在この世界での映像技術はまだ発展途上だし、まだまだスフィアテレビより新聞で情報を得ている市民の方が多いが……それでも、スフィアテレビは各々の街の広場に設置されているし、大統領や高官の政権放送なんてのも流れるからそれなりに影響力はある。放送局はまだ国営放送の一つだけだけどな。トリアスは電波を一時的にジャックすると、この世界を自分が支配する旨、逆らう者は容赦なく殺害することを示唆する内容を放送。そして、サンフラワーシティ全域にテロ行為を仕掛けようとして潜んでいたところを、勇者一行に発見されて戦闘になり討伐された……。国家転覆罪、電波無許可使用罪、テロ計画罪、および勇者一行への傷害罪ってところだろうな、罪状は。他にも細々となくはないが、裁判で主に争われているのはこれらの事件だ。さて」
ぎしり、と椅子が大きく鳴る。フレイアが椅子に座り直した音だった。
「本題に入ろうか。まずお前は、これらの罪状の大半を否認している。それであってるか?」
「ああ。私が自らやったと認めているのは、最後の勇者達との戦闘における傷害行為のみ。そしてそれも、はっきり言って向こうが仕掛けてきてやむを得ず応戦したものだと言っておく。ゆえに、最後の件に関しても正当防衛を主張したいところだ。……あって、障害ではなく過剰防衛の範疇だと思っている」
「まあ、問答無用で襲いかかられたら戦うしかねーもんな……。今回の事件は、魔王が目論んだ世界征服案件にしてはスピード解決だったと言っていい。それは、魔王が自ら顔出しして宣戦布告したことと、魔王が町中に潜んでいることが早い段階で露呈したことで、早急な逮捕が可能だったからってところか。……このへんにも気にかかるところはいくつかあるけど、ひとつずつな。お前の目から見た事件の全容を話してほしい」
「わかった」
そこでトリアスは――少しだけ、迷った。話したくない内容もある。隠したいこともある。だが弁護士を相手に隠し事をすると、後々それがネックになってくるやもしれない。
とりあえず、話せる内容を慎重に選んでいった方が無難ではあるだろう。聞かれないことまで、話すかどうかは後で決めればいいことだ。
「まず、アネモニ村のことなんだが。私の両親が、村人達と揉めていたというのは事実だろう。私自らその現場を見たわけではないが、両親は村人達に対してかなり腹を立てていたからな」
両親自身は普通の人間だったし、祖父母もその前も代々アネモニ村に住み続けていたことを知っている。あんなことさえなれば、彼らだって村を出ていく選択など考えもしなかっただろうに――そう思うと、正直あまりにもやりきれない。
「揉めていたのは……私が原因だ。長い間私は村で、自分が魔王のジョブ保有者であることを隠していたんだが……それがついにバレてしまって。村にもリリー教の信者はそれなりの数存在していたからな。私は悪魔の子だと呼ばれるようになり、両親がそれに激怒した形だ。私達は近いうちに、自らの意思で家族揃って村から出ていく予定だった」
「焼け落ちていたお前の家も、家財道具が殆ど運び出されてたって聞いてたけど。そういうわけだったとか」
「ああ。家財道具を運び出すのには魔法を使っていた。引っ越し先の町に転送魔法で運んでいたんだが……座標があっているかどうか不安になってな。たまたまその夜は一人で引っ越し先の町に確認に行っていたんだ」
トリアスが無事だったのは、偶然トリアスだけが村にいなかったから、に他ならない。その引っ越し先の町で、トリアスを見た人間がいればアリバイになったのかもしれないが――残念ながら、時間も時間で場所も場所だったため目撃者は出てこなかった。みんなが寝静まった時間に、むしろ目撃者など簡単に現れたらそれもそれで不自然だと疑われたことだろう。
村に戻ってきたところで、トリアスは異変に気がついた。トリアスが帰ってきた時には、既に村は全域が焔に包まれていたのである。
「念のため、その町でもっかい目撃情報を洗うか。その引っ越し先の町ってのは?」
「アイリス地方のアイリスタウンだ」
「ありゃ」
「目撃情報を探すのも今となっては難しいだろうな。おまけに私はアイリス地方を襲撃する理由がある。アイリスタウンに引っ越し予定で手続きも済ませていたのだが、指名手配された途端に全て白紙に戻された。まあ、殺人犯を好んで町に招き入れたい人間などいるはずもないからな。それは仕方ない」
事件は全て繋がっている。警察も、トリアスには故郷のアネモニ村とその住人達を恨む理由も、それからアイリスタウンを憎む理由もあることをきちんと調べていたわけだ。疑いが濃厚になるのは無理からぬことだろう。
「その後……アイリス地方の街の宿で、私が次々門前払いを食らったのは事実だ。持ち金も少なくて、声をかけられたのは格安の宿ばかりだったがな」
さすがに宿無しではいつまでも暮らしていけない。野宿を繰り返しながら北上し、どうにかリリー教とマスメディアの影響が及んでいない集落を見つけてしばらくはそこで生活させて貰った。まあ、その集落というのが盗賊(ジョブではなく、本職の)であったことを咎められたら苦笑いするしかないわけだが。
盗賊の集落の人々は、何も知らないとはいえよそ者のトリアスにかなり親切にしてくれて、有り難いと感じたものである。トリアスは盗みに加担こそしなかったものの、暫くは彼らに魔法を教えたり子供達に勉強を教えるかわりに衣食住を提供して貰っていたのである。
まさか、そんなことをしている間に――自分が訪れたアイリス地方が竜巻で壊滅的な打撃を受けるとは、思いもよらなかったが。
「宿に泊めてもらえずに門前払いを食らったのは確かだが、その後がわからない。私が竜巻の魔法で街を襲っていた?何でそんなことになるんだ。私はずっと盗賊の集落にいたというのに」
「襲っていたどころか、門前払いを食らってからはアイリス地方の方面にも近づいてなかったってことか?」
「そうだ。だから何故目撃情報が出たのかもわからないんだ」
そして何より一番わからないことがある。
それが三つ目の――宣戦布告放送の件、だ。
「フラワーメイル国営放送電波ジャックと、宣戦布告ビデオ。あれが一番謎なんだ。私は電波ジャックをする技術もないし、そんなものを撮影した覚えなど一切ないんだが」
一体誰が、なんのためにそんなことをしたのか。
何もわからないまま、トリアスは此処にいるのである。――両親と恋人を失った悲しみに浸るどころか、その犯人にされそうにさえなりながら。
冤罪を晴らしたい気持ちがないわけではないが、晴れなくても自分は最後まで無実を訴え続け、処刑台に消えるつもりでいたのだ。どうせ無能な国選弁護士(国選弁護士にも優秀な人間がいるのは知っているが、たとえ実績があったところで魔王の世界征服案件でやる気を出してくるとは思えない)の弁護を受けるしかないと諦めていたところである。愉快犯でないなら、それよりはマシな結果が待っていることだろう。
トリアスの判断は、つまりそういうことだ。別に、まだフレイアを信用したとか、そういうわけではないのである。
「とりあえず、事件の概要をまとめようか。今回お前が逮捕されるにあたり、もっとも大きな事件は三つだ。まず先に報道されていた内容と罪状を説明するから、後でお前視点の補足を頼む」
「わかった」
「まず一つ目。アネモニ村の大虐殺事件。これが魔王が目覚めて最初に起こした事件だとされている。人口八十三人のアネモニ村にて、深夜何者かが鋭利な刃物を用いて村人達の寝込みを襲撃。村人のうち、八十二人が死亡……生き残った唯一の村人だったトリアス=マリーゴールドが犯人の疑い濃厚として指名手配された。目撃証言はない。犯行が深夜であったし、閉鎖的な村だったからな。商人も昼間にたまに訪れる程度だったそうだ。しかも、犯人は村に火を放って逃走している。凶器の刃物さえ見つかっていない。そもそも焼け野原じゃ特定できないってところだな。罪状は強盗殺人と、放火、器物破損ってところだ。村の有力者の有力者の屋敷を中心に大量の金品が盗まれていたのがわかっている」
知っている。そこは、トリアスの生まれ故郷だ。被害者にはトリアスの両親も含まれている。確かに村人達との折り合いが良かったとは言えない。それどころか、自分達は近いうちに村から出ていこうとしていたのである。両親と村人達が酷く揉めていたのは記憶に新しい。――自分さえ普通の子供であったなら、両親にあんな嫌な思いをさせることもなかったというのに。
トリアスが容疑者になったのは、村の全域が焼かれているのに軽度の火傷だけで一人助かったのが不自然であったことと、両親と村人が揉めているのを訪れた商人が目撃していたからである。
「次に、この事件の後数週間に渡って発生したアイリス地方の大災害だな。突如発生した竜巻により、複数の街が巻き込まれて甚大な被害をもたらした。その後の調べにより、竜巻が発生する少し前に複数の町でトリアスの目撃情報があったことがわかる。どれも、トリアスが宿屋に宿泊しようとしたのを門前払いしたってことらしいな。店主とトリアスが揉めているのを見た、と生き残った住人達が証言した。その後、竜巻により複数の街が壊滅的な被害を被ることになる。とある街の高台で魔法を操るトリアスの姿を商人の娘が目撃。またトリアスの魔力が感知されたことから、この事件もお前の犯行だと睨まれることとなった……。こちらも罪状は強盗殺人と魔法風紀法違反。器物破損ってところか」
魔法風紀法違反というのは、魔法を使える人間は正しく魔法を使いましょう、という何条もの規則に違反したことへの総称である。例えば、町中で魔法を使う場合は緊急時を除き中級魔法までに制限される、など。町中で蘇生魔法を使う場合には特別な許可がいる、というのもあったはずである。
竜巻による被害は、殺人の方が目立ちがちだが――魔法風紀法違反、という意味でも罪状が追加されることになるらしい。
「そして最後の三つ目が、フラワーメイル世界政府に対して国家転覆を狙い、魔王トリアスの宣戦布告映像が出回ったこと。現在この世界での映像技術はまだ発展途上だし、まだまだスフィアテレビより新聞で情報を得ている市民の方が多いが……それでも、スフィアテレビは各々の街の広場に設置されているし、大統領や高官の政権放送なんてのも流れるからそれなりに影響力はある。放送局はまだ国営放送の一つだけだけどな。トリアスは電波を一時的にジャックすると、この世界を自分が支配する旨、逆らう者は容赦なく殺害することを示唆する内容を放送。そして、サンフラワーシティ全域にテロ行為を仕掛けようとして潜んでいたところを、勇者一行に発見されて戦闘になり討伐された……。国家転覆罪、電波無許可使用罪、テロ計画罪、および勇者一行への傷害罪ってところだろうな、罪状は。他にも細々となくはないが、裁判で主に争われているのはこれらの事件だ。さて」
ぎしり、と椅子が大きく鳴る。フレイアが椅子に座り直した音だった。
「本題に入ろうか。まずお前は、これらの罪状の大半を否認している。それであってるか?」
「ああ。私が自らやったと認めているのは、最後の勇者達との戦闘における傷害行為のみ。そしてそれも、はっきり言って向こうが仕掛けてきてやむを得ず応戦したものだと言っておく。ゆえに、最後の件に関しても正当防衛を主張したいところだ。……あって、障害ではなく過剰防衛の範疇だと思っている」
「まあ、問答無用で襲いかかられたら戦うしかねーもんな……。今回の事件は、魔王が目論んだ世界征服案件にしてはスピード解決だったと言っていい。それは、魔王が自ら顔出しして宣戦布告したことと、魔王が町中に潜んでいることが早い段階で露呈したことで、早急な逮捕が可能だったからってところか。……このへんにも気にかかるところはいくつかあるけど、ひとつずつな。お前の目から見た事件の全容を話してほしい」
「わかった」
そこでトリアスは――少しだけ、迷った。話したくない内容もある。隠したいこともある。だが弁護士を相手に隠し事をすると、後々それがネックになってくるやもしれない。
とりあえず、話せる内容を慎重に選んでいった方が無難ではあるだろう。聞かれないことまで、話すかどうかは後で決めればいいことだ。
「まず、アネモニ村のことなんだが。私の両親が、村人達と揉めていたというのは事実だろう。私自らその現場を見たわけではないが、両親は村人達に対してかなり腹を立てていたからな」
両親自身は普通の人間だったし、祖父母もその前も代々アネモニ村に住み続けていたことを知っている。あんなことさえなれば、彼らだって村を出ていく選択など考えもしなかっただろうに――そう思うと、正直あまりにもやりきれない。
「揉めていたのは……私が原因だ。長い間私は村で、自分が魔王のジョブ保有者であることを隠していたんだが……それがついにバレてしまって。村にもリリー教の信者はそれなりの数存在していたからな。私は悪魔の子だと呼ばれるようになり、両親がそれに激怒した形だ。私達は近いうちに、自らの意思で家族揃って村から出ていく予定だった」
「焼け落ちていたお前の家も、家財道具が殆ど運び出されてたって聞いてたけど。そういうわけだったとか」
「ああ。家財道具を運び出すのには魔法を使っていた。引っ越し先の町に転送魔法で運んでいたんだが……座標があっているかどうか不安になってな。たまたまその夜は一人で引っ越し先の町に確認に行っていたんだ」
トリアスが無事だったのは、偶然トリアスだけが村にいなかったから、に他ならない。その引っ越し先の町で、トリアスを見た人間がいればアリバイになったのかもしれないが――残念ながら、時間も時間で場所も場所だったため目撃者は出てこなかった。みんなが寝静まった時間に、むしろ目撃者など簡単に現れたらそれもそれで不自然だと疑われたことだろう。
村に戻ってきたところで、トリアスは異変に気がついた。トリアスが帰ってきた時には、既に村は全域が焔に包まれていたのである。
「念のため、その町でもっかい目撃情報を洗うか。その引っ越し先の町ってのは?」
「アイリス地方のアイリスタウンだ」
「ありゃ」
「目撃情報を探すのも今となっては難しいだろうな。おまけに私はアイリス地方を襲撃する理由がある。アイリスタウンに引っ越し予定で手続きも済ませていたのだが、指名手配された途端に全て白紙に戻された。まあ、殺人犯を好んで町に招き入れたい人間などいるはずもないからな。それは仕方ない」
事件は全て繋がっている。警察も、トリアスには故郷のアネモニ村とその住人達を恨む理由も、それからアイリスタウンを憎む理由もあることをきちんと調べていたわけだ。疑いが濃厚になるのは無理からぬことだろう。
「その後……アイリス地方の街の宿で、私が次々門前払いを食らったのは事実だ。持ち金も少なくて、声をかけられたのは格安の宿ばかりだったがな」
さすがに宿無しではいつまでも暮らしていけない。野宿を繰り返しながら北上し、どうにかリリー教とマスメディアの影響が及んでいない集落を見つけてしばらくはそこで生活させて貰った。まあ、その集落というのが盗賊(ジョブではなく、本職の)であったことを咎められたら苦笑いするしかないわけだが。
盗賊の集落の人々は、何も知らないとはいえよそ者のトリアスにかなり親切にしてくれて、有り難いと感じたものである。トリアスは盗みに加担こそしなかったものの、暫くは彼らに魔法を教えたり子供達に勉強を教えるかわりに衣食住を提供して貰っていたのである。
まさか、そんなことをしている間に――自分が訪れたアイリス地方が竜巻で壊滅的な打撃を受けるとは、思いもよらなかったが。
「宿に泊めてもらえずに門前払いを食らったのは確かだが、その後がわからない。私が竜巻の魔法で街を襲っていた?何でそんなことになるんだ。私はずっと盗賊の集落にいたというのに」
「襲っていたどころか、門前払いを食らってからはアイリス地方の方面にも近づいてなかったってことか?」
「そうだ。だから何故目撃情報が出たのかもわからないんだ」
そして何より一番わからないことがある。
それが三つ目の――宣戦布告放送の件、だ。
「フラワーメイル国営放送電波ジャックと、宣戦布告ビデオ。あれが一番謎なんだ。私は電波ジャックをする技術もないし、そんなものを撮影した覚えなど一切ないんだが」
一体誰が、なんのためにそんなことをしたのか。
何もわからないまま、トリアスは此処にいるのである。――両親と恋人を失った悲しみに浸るどころか、その犯人にされそうにさえなりながら。
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