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<6・平謝り、からの?>
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「ほんっっっっとうにごめん!!」
もう、平謝りである。もう慌ててシャワーを浴びて服を着て、いろいろ冷静になって。これはもう謝罪一択だ、と千愛は青ざめていた。
酔っぱらって浮かれていたが、何をやらかしたのかすっかり思い出している。記憶は完全に飛んでくれなかったらしい。
「ベッドの上で、私は一体君にナニを教えようとしたんだろーね!?いきなり同僚連れ込んでさあ、何わけわかんないことしてるんだっつーかもうこれセクハラどころじゃなくて訴えられてもおかしくないレベルのやばい案件だよねああああ本当にごめんタイムマシンがあったら今すぐ過去に戻って居酒屋の自分連れ出してジャイアンよろしくメッタメタのギッタギタにしたry」
「おおおお落ち着いてください梅澤先輩!梅澤先輩にボコられたら梅澤先輩が無事で済まな……あれ?」
「うん、段々私も何言ってるかわかんなくなってきた!!」
ピロートークもへったくれもない。とにかく服をしっかり着た状態でベッド挟んでお互いにわたわたしているというこの状況。思い出したらもういろいろと恥ずかしすぎて終わっている。穴があったら入りたい。そして埋まりたい。だれかもう思う存分土をかけて自分を埋めてくれないだろうか、できれば地下十メートル以上の深さで!
「……お、落ち着けてないのは俺も一緒ですけど、落ち着きましょう、うん」
千愛があんまりにテンパっているので、最初は同じくパニクっていたらしい成都も少しだけ冷静になったようだった。自分より混乱している人を見ると、人は少しだけ気持ちが落ち着く、というか自分が落ち着かねばならないという心理にかられるというのは本当のことであったらしい。
「そ、その。……まず、酔っていたとはいえ俺は此処に入ることを普通に同意しましたし、此処がどういう場所なのかも理解した上で来ました。その点は、同罪です。どっちか未成年ならともかく、いい年した大人が酔った勢いとはいえお互い了承の上で来てやったことなんですから、それはその、先輩が悪いなんて話にはならないかと。むしろその、男性である俺の方がごめんなさい、です……」
「いやそここそもう関係ないって。私力強いし、めっちゃ強引だった記憶あるし……」
両手を合わせて謝りまくるしか、ない。
確かに彼はもう恋人と別れているらしいので、これは浮気にはならないだろうが。
「なんかこう、すごくドSっぽいものを発揮してしまったのも、大変申し訳ないと思っている……」
そう言った途端、かああ、と成都の顔が真っ赤になった。あ、これはその、いろいろ思い出させてしまって実感させてしまったというやつ。
「……軽蔑、したんじゃないですか」
「え」
「俺は、別に……先輩がそういう趣向あっても気にしないというか、あんなのドSなうちにも入らないレベルだったし。でも、俺、俺の方はその……」
クッションを引っ張って来てだっこして、顔をうずめている。可愛い。
「その。……あんな、風になっちゃう、ていうか。……ほぼ一方的に気持ちよくしてもらった上、本番しないでトんじゃったし。あんな……いかにもマゾっぽいの……」
ああ、どうやらそこが気になって仕方なかったらしい。本番しないで終わったことに関しては、千愛も眠ってしまったから同罪である。酔いも回っていたし、言葉責めと自慰だけで本気で気持ちよくなってしまっていたからまあ仕方ないだろう。そもそも、男性が何度もイケないだろうことがわかっていた上で、本気イカせにかかっていた自分も悪いのだから何も問題あるまい。
ただ。
「軽蔑なんてしないって、私も寝ちゃったし。ただ、その、その……」
ちょっとだけ察してしまっただけだ。
前のカノジョと、どのようなプレイをしていたのかということを。
「前の、恋人さん?ものすごい、激しいタイプだったんだね……?」
千愛の言葉に、彼はクッションから顔を上げないまま“はいい……”と力なく返事を返してきた。
「もっとハードでしたけど、ああいう感じなのが多くて。でもって私生活とか精神面はともかく、ベッドの上でちょっと強引なのは嫌いじゃなくて。……胸だけでイケるようになっちゃったのも絶対あの人のせいだし、正直もっと言葉にするのが恥ずかしいようなこともいっぱいしてて。正直、普通のセックスでは物足りなくなっちゃってる、というか。だから……もう、あんな恥ずかしい姿見せて、俺どうしたらいいんだろうって思ってる、というか。あああああ本当に、本当にごめんなさい……!」
ああ、なんとなく分かってしまった。
『信じられなくなっちゃったんです、自分の価値ってやつが』
『俺は、あの人が本気で好きで、向こうも好きでいてくれてると思ってました。でもなんか、その両方がわからなくなってきちゃって……』
『なんていうかな。……本気で愛なんかなくても、セックスはできちゃうし。舞い上がっちゃえるもんなんですよね……。一方的にでも、尽くして、喜んでもらえて。そうすれば……好きになって貰える気になれてたってだけ、かなあ』
この優しい彼に、こんなことを言わせてしまうほど。その相手の存在は、彼の心に、生活に、体に大きな影響を齎していたというわけだ。自分じゃないと満足できないような心と体に調教して、きっと悦に浸っていたようなゲス女王様だったのだろう。いや、会ったこともないし名前も知らないし、想像だけであまり人を悪く言うのはよくないと思うが――酔っていたとはいえ、昨夜抱いた怒りが間違っているとは思えないのである。
例え自分と別れても。別の相手では満足できない、相手を不快にさせるに決まっている。だからまた自分のところに戻ってくるはずだ、という罠を仕掛けていたとでもいうのか。そこまで独占したいのなら、何でそんな成都の心を平然と踏みにじるような行いをしたり、別れた後でも傷つけるようなことを平気で言うのか。
いろいろな意味で、辛かっただろうに。
「……気にしなくていいって。本番しなかったけど、私もその、気持ち良かったし。引いてもいないよ。橘君、めっちゃ可愛かったもん」
大丈夫、と。千愛は彼の肩をぽんぽんと叩いて告げた。
「誰にも言わない。今夜のことは、私と君だけの秘密だ。約束する!」
「本当、ですか?」
「勿論。誰だって知られたくないヒミツの一つや二つ屋三つあって当たり前なんだから。ていうか、ぶっちゃけ昨夜の私のアレコレな言動と行動も黙って頂けると大変うれしいなというか……」
「言いませんよ!」
彼はばっと顔を上げた。泣いたせいか、目が赤い。でも、酔いはすっかり醒めている顔だ。
「そりゃ酔っぱらってたのはお互い様ですけど。それでも俺、凄く嬉しかったんです。あの人のことで悩んでるの、今まで誰にも言えなくて。誰かに気を使われて“お前は悪くないよ”って言われるのも嫌なのに、あの人は仕方ないからとかお前が悪いって言われて傷つくのも嫌だっていう我儘で……何より、秘密にしたいことが多すぎて。でも、先輩はまったく引かないで聴いてくれて、俺のために本気で怒ってくれたじゃないですか」
俺、と彼は小さく笑みを浮かべる。
「凄く、嬉しかったです。昨日は本番しなかったけど、でもすごく気持ちよかった。……ちゃんと自分のこと想ってくれる人とすると、気持ちも満たされるんだなって思ったんです。本当に、ありがとうございました。こんな俺を、受け止めてくれて」
ぺこり、と下げられる頭。なんつーええ子や、と千愛はこっちこそ涙が出そうになる。本当はオーバーリアクションさながらのハグの一つでもしたいところだが、いかんせん現在素晴らしいまでの二日酔いモードだ。吐き気が少ないからまだいいが、頭がガンガンしてちょっと派手に動いただけで眩暈がしそうな状況である。ああ、お酒の飲みすぎ、ほんとダメ。わかっていたのに何であんなに飲んでしまったのか!
ちゃんとシャワーは浴びたのに、まだ体が酒臭いような気がする。まあ、昨日と同じ服から着替えられてないせいもあるだろうが。
「……まあ、こんな私でもちょっとは役に立てたってなら……良かったというか、なんというか」
そのようにストレートにお礼を言われてしまうと、なんかこっちこそ照れてしまうというものだ。頬をぽりぽり掻きながら千愛が言うと、それで、と彼は続ける。
「昨夜、最後に言ってたのは本当、ですか?」
「んあ?」
「覚えてませんか」
彼はやや上目使いで、私におねだりするように言う。
「“君さえ良かったら、またいつでも好きな時に相手したげるよ”って言ってくれたじゃないですか」
『だから、さ。君さえ、良かった、ら……また好きな時に相手したげるよ。私も最高に気持ち良かったし』
――あああああああああああ!言った、言ったよ確かに、そんな超恥ずかしいこと!!
うおおお、と頭を抱えて悶絶する千愛。何故、あの段階で死ぬほど恥ずかしいのに、最後の最後で爆弾落とす元気があったのか自分は!
「……セックスじゃなくても、いいです」
が。成都が言ってきたのは、もっと純粋な意味だった。
「また、二人で会ってくれませんか。デートとか、派手なことじゃなくてもいい。居酒屋で、一緒に飲むだけでもいいし、なんならお酒がなくてもいいので」
「え」
「先輩と、一緒にいるの楽しいし、落ち着くんです。……嫌なこと、忘れられそうで。先輩が俺といて嫌じゃないなら、お願いします」
目をぱちぱちさせる、千愛。彼は本当に、本当の本当に昨夜の経験が嫌ではなかったのか。感謝しているというのもマジなのか。そして。
この誘い方はどう見ても、セフレになりましょう、というものではなくて。
「……つ、付き合うってこと?私と、君で?」
千愛の言葉に、ますますほっぺを茹蛸にする成都。
「……と、友達から、でもいいですし。先輩が、嫌じゃ、なけれ、ば……」
なんだ。
なんだその、乙女もかくやの反応は。社会人の恋愛というより、完全に純粋無垢な中学生みたいな顔は。昨夜お互い酔っぱらって素っ裸になって、そりゃあもう恥を晒し合うという既に爛れたスタートを切っているというのに。
不謹慎を承知で言うなら。ギャップに、完全に射抜かれてしまった。
――な、なんだ、この、可愛い生き物はああああ!
あかん、これ。
ある意味ものすごい、魔性の男だ。これを断れる奴いるのか?多分いない!
「わ、私で、良ければ、いつでも……どうぞ」
そんなわけで。梅澤千愛、超久し振りに彼氏ができました。しかも凄いイケメン、弟属性草食系の可愛い元後輩です。物凄く滅茶苦茶な始まり方で、果たしてこれを付き合っているなんて言っていいのかは怪しいところではあるけれど。
しかし、この時千愛は、すっかり華乃の忠告が頭からすっぽ抜けていたわけで。
このわりとすぐ後に思い知るわけである――何故彼女が、あんな警告を自分にしてきたのか、その本当の意味を。
もう、平謝りである。もう慌ててシャワーを浴びて服を着て、いろいろ冷静になって。これはもう謝罪一択だ、と千愛は青ざめていた。
酔っぱらって浮かれていたが、何をやらかしたのかすっかり思い出している。記憶は完全に飛んでくれなかったらしい。
「ベッドの上で、私は一体君にナニを教えようとしたんだろーね!?いきなり同僚連れ込んでさあ、何わけわかんないことしてるんだっつーかもうこれセクハラどころじゃなくて訴えられてもおかしくないレベルのやばい案件だよねああああ本当にごめんタイムマシンがあったら今すぐ過去に戻って居酒屋の自分連れ出してジャイアンよろしくメッタメタのギッタギタにしたry」
「おおおお落ち着いてください梅澤先輩!梅澤先輩にボコられたら梅澤先輩が無事で済まな……あれ?」
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ピロートークもへったくれもない。とにかく服をしっかり着た状態でベッド挟んでお互いにわたわたしているというこの状況。思い出したらもういろいろと恥ずかしすぎて終わっている。穴があったら入りたい。そして埋まりたい。だれかもう思う存分土をかけて自分を埋めてくれないだろうか、できれば地下十メートル以上の深さで!
「……お、落ち着けてないのは俺も一緒ですけど、落ち着きましょう、うん」
千愛があんまりにテンパっているので、最初は同じくパニクっていたらしい成都も少しだけ冷静になったようだった。自分より混乱している人を見ると、人は少しだけ気持ちが落ち着く、というか自分が落ち着かねばならないという心理にかられるというのは本当のことであったらしい。
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「いやそここそもう関係ないって。私力強いし、めっちゃ強引だった記憶あるし……」
両手を合わせて謝りまくるしか、ない。
確かに彼はもう恋人と別れているらしいので、これは浮気にはならないだろうが。
「なんかこう、すごくドSっぽいものを発揮してしまったのも、大変申し訳ないと思っている……」
そう言った途端、かああ、と成都の顔が真っ赤になった。あ、これはその、いろいろ思い出させてしまって実感させてしまったというやつ。
「……軽蔑、したんじゃないですか」
「え」
「俺は、別に……先輩がそういう趣向あっても気にしないというか、あんなのドSなうちにも入らないレベルだったし。でも、俺、俺の方はその……」
クッションを引っ張って来てだっこして、顔をうずめている。可愛い。
「その。……あんな、風になっちゃう、ていうか。……ほぼ一方的に気持ちよくしてもらった上、本番しないでトんじゃったし。あんな……いかにもマゾっぽいの……」
ああ、どうやらそこが気になって仕方なかったらしい。本番しないで終わったことに関しては、千愛も眠ってしまったから同罪である。酔いも回っていたし、言葉責めと自慰だけで本気で気持ちよくなってしまっていたからまあ仕方ないだろう。そもそも、男性が何度もイケないだろうことがわかっていた上で、本気イカせにかかっていた自分も悪いのだから何も問題あるまい。
ただ。
「軽蔑なんてしないって、私も寝ちゃったし。ただ、その、その……」
ちょっとだけ察してしまっただけだ。
前のカノジョと、どのようなプレイをしていたのかということを。
「前の、恋人さん?ものすごい、激しいタイプだったんだね……?」
千愛の言葉に、彼はクッションから顔を上げないまま“はいい……”と力なく返事を返してきた。
「もっとハードでしたけど、ああいう感じなのが多くて。でもって私生活とか精神面はともかく、ベッドの上でちょっと強引なのは嫌いじゃなくて。……胸だけでイケるようになっちゃったのも絶対あの人のせいだし、正直もっと言葉にするのが恥ずかしいようなこともいっぱいしてて。正直、普通のセックスでは物足りなくなっちゃってる、というか。だから……もう、あんな恥ずかしい姿見せて、俺どうしたらいいんだろうって思ってる、というか。あああああ本当に、本当にごめんなさい……!」
ああ、なんとなく分かってしまった。
『信じられなくなっちゃったんです、自分の価値ってやつが』
『俺は、あの人が本気で好きで、向こうも好きでいてくれてると思ってました。でもなんか、その両方がわからなくなってきちゃって……』
『なんていうかな。……本気で愛なんかなくても、セックスはできちゃうし。舞い上がっちゃえるもんなんですよね……。一方的にでも、尽くして、喜んでもらえて。そうすれば……好きになって貰える気になれてたってだけ、かなあ』
この優しい彼に、こんなことを言わせてしまうほど。その相手の存在は、彼の心に、生活に、体に大きな影響を齎していたというわけだ。自分じゃないと満足できないような心と体に調教して、きっと悦に浸っていたようなゲス女王様だったのだろう。いや、会ったこともないし名前も知らないし、想像だけであまり人を悪く言うのはよくないと思うが――酔っていたとはいえ、昨夜抱いた怒りが間違っているとは思えないのである。
例え自分と別れても。別の相手では満足できない、相手を不快にさせるに決まっている。だからまた自分のところに戻ってくるはずだ、という罠を仕掛けていたとでもいうのか。そこまで独占したいのなら、何でそんな成都の心を平然と踏みにじるような行いをしたり、別れた後でも傷つけるようなことを平気で言うのか。
いろいろな意味で、辛かっただろうに。
「……気にしなくていいって。本番しなかったけど、私もその、気持ち良かったし。引いてもいないよ。橘君、めっちゃ可愛かったもん」
大丈夫、と。千愛は彼の肩をぽんぽんと叩いて告げた。
「誰にも言わない。今夜のことは、私と君だけの秘密だ。約束する!」
「本当、ですか?」
「勿論。誰だって知られたくないヒミツの一つや二つ屋三つあって当たり前なんだから。ていうか、ぶっちゃけ昨夜の私のアレコレな言動と行動も黙って頂けると大変うれしいなというか……」
「言いませんよ!」
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俺、と彼は小さく笑みを浮かべる。
「凄く、嬉しかったです。昨日は本番しなかったけど、でもすごく気持ちよかった。……ちゃんと自分のこと想ってくれる人とすると、気持ちも満たされるんだなって思ったんです。本当に、ありがとうございました。こんな俺を、受け止めてくれて」
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ちゃんとシャワーは浴びたのに、まだ体が酒臭いような気がする。まあ、昨日と同じ服から着替えられてないせいもあるだろうが。
「……まあ、こんな私でもちょっとは役に立てたってなら……良かったというか、なんというか」
そのようにストレートにお礼を言われてしまうと、なんかこっちこそ照れてしまうというものだ。頬をぽりぽり掻きながら千愛が言うと、それで、と彼は続ける。
「昨夜、最後に言ってたのは本当、ですか?」
「んあ?」
「覚えてませんか」
彼はやや上目使いで、私におねだりするように言う。
「“君さえ良かったら、またいつでも好きな時に相手したげるよ”って言ってくれたじゃないですか」
『だから、さ。君さえ、良かった、ら……また好きな時に相手したげるよ。私も最高に気持ち良かったし』
――あああああああああああ!言った、言ったよ確かに、そんな超恥ずかしいこと!!
うおおお、と頭を抱えて悶絶する千愛。何故、あの段階で死ぬほど恥ずかしいのに、最後の最後で爆弾落とす元気があったのか自分は!
「……セックスじゃなくても、いいです」
が。成都が言ってきたのは、もっと純粋な意味だった。
「また、二人で会ってくれませんか。デートとか、派手なことじゃなくてもいい。居酒屋で、一緒に飲むだけでもいいし、なんならお酒がなくてもいいので」
「え」
「先輩と、一緒にいるの楽しいし、落ち着くんです。……嫌なこと、忘れられそうで。先輩が俺といて嫌じゃないなら、お願いします」
目をぱちぱちさせる、千愛。彼は本当に、本当の本当に昨夜の経験が嫌ではなかったのか。感謝しているというのもマジなのか。そして。
この誘い方はどう見ても、セフレになりましょう、というものではなくて。
「……つ、付き合うってこと?私と、君で?」
千愛の言葉に、ますますほっぺを茹蛸にする成都。
「……と、友達から、でもいいですし。先輩が、嫌じゃ、なけれ、ば……」
なんだ。
なんだその、乙女もかくやの反応は。社会人の恋愛というより、完全に純粋無垢な中学生みたいな顔は。昨夜お互い酔っぱらって素っ裸になって、そりゃあもう恥を晒し合うという既に爛れたスタートを切っているというのに。
不謹慎を承知で言うなら。ギャップに、完全に射抜かれてしまった。
――な、なんだ、この、可愛い生き物はああああ!
あかん、これ。
ある意味ものすごい、魔性の男だ。これを断れる奴いるのか?多分いない!
「わ、私で、良ければ、いつでも……どうぞ」
そんなわけで。梅澤千愛、超久し振りに彼氏ができました。しかも凄いイケメン、弟属性草食系の可愛い元後輩です。物凄く滅茶苦茶な始まり方で、果たしてこれを付き合っているなんて言っていいのかは怪しいところではあるけれど。
しかし、この時千愛は、すっかり華乃の忠告が頭からすっぽ抜けていたわけで。
このわりとすぐ後に思い知るわけである――何故彼女が、あんな警告を自分にしてきたのか、その本当の意味を。
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