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<6・Paula>
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第十司令基地はド田舎ということもあって、部屋の数だけは無駄にあった。そして広かった。
入ったばかりの新人が寮で一人部屋を与えられるなんてそうそうないことだろう。まあ、階級の上では自分は中尉であるし、それで配慮されたということもあるのかもしれないが。
「本日、マイン中尉の案内役を仰せつかりました、ポーラ・ツイスト伍長であります!」
びしっ!と敬礼をして答えたのは、小柄な女性兵士だった。まだ少女でも通りそうなあどけない顔をした彼女は、ツインテールがよく似合っている。ついでに胸が結構でかい――なんてついつい見てしまうのは男の性というわけで。
童顔に見えるが、これでも二十二歳なんだという。彼女もクリス司令官ほどではないが、しょっちゅうお酒を買う時に免許の提示を求められるタイプなのだと笑った。
「このたびは、ようこそ第十司令基地においでくださいました!まあなんていうか、落ちこぼれの吹き溜まりなんて言われてるところではございますが、まあゆっくりしていってください。すぐに戦場に引っ張り出されてゆっくりする暇なんてないかもしれませんが!」
「……今の言葉だけで、君がどういう性格なのかなんとなくわかったよ」
「お褒めに頂き光栄でございます!」
彼女はニコニコで敬礼を続ける。褒めたつもりではないんだけど、とトーリスは苦笑いするしかない。
第十司令基地は“落ちこぼれが送られる無能力者の砦”なんて蔑まれてはいるが。それでも基地としてできてから、ちゃんとバリアを担う第十塔を守り続けてきたわけで。
何より、他の基地と違って建物が新しいのは魅力である。廊下もピカピカ、窓もピカピカ。白くつるっとした床は、磨かれすぎて足を滑らせそうなほどだ。
「やっぱ、新しい基地は綺麗だなあ。俺がいた第三司令基地より全然キレイ……」
思わずトーリスがそうぼやくと、ポーラは“新しいですからね!”と言った。なんというか、さっきから語尾が強い。うしろに“!”をつけて喋る癖があるのかもしれない。
「それに、クリスさんはとっても綺麗好きですから。ここでのスケジュールって貰いました?」
「いや、まだだけど」
「マイン中尉が正式に訓練に加わるのは多分明日からになるんじゃないかなーと思いますが!多分、掃除は今日からやれって言われますね!ここの規則にあります、“掃除しないやつは死ね”というのが!」
「死ね!?え、掃除しないやつは殺されるの!?」
「クリスさんに司令室に連れ込まれてナニされるかわからないって話です。以前同僚が掃除を怠って部屋に連れ込まれた時は、まるで呪詛のように“ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……”と呟き続けるお人形と化していました!何があったのか想像するととっても楽しいですね!」
「楽しくねえ、まったく楽しくねえよ!?」
なにそれこわい。トーリスはぶるる、と震えあがったのだった。
第十司令基地は広い。敷地面積も広いが、その上で地上六階、地下二階の広さがある。地下二階、はいざという時のシェルターもかねていると聞いている。
この基地そのものに航空戦力はない(航空基地は少し離れたところに別に存在している)が、格納庫に戦車なんかは収納されている。あとは対空砲とか、とにかく大型の銃やら剣やら爆弾やらがわんさかと。軍にいる以上全員がひとしきり武器の扱いを学び、訓練を行うのだが、スキルによっては特注の武器を使うことが許されるケースもあるという。
例えば、爆弾に関して特殊なスキルを持っているバラン。
彼は特別性の手榴弾の使用が許可されており、彼専用の火薬庫が存在しているとかなんとか。まあ、酔っぱらった拍子にその一部を持ち出して暴走するのはいかがなものだと思うが(むしろ、さっきの件で充分懲罰ものであるような。見逃していいものかどうなのか)。
ちなみに、トーリスの部屋は三階にある。ベッド一つ、棚と机が一つずつ、クローゼットが一つという実にこじんまりしたシンプルな部屋だったが、元々荷物が多い方でもない。一人で使うのには十分だと言えよう。
「ここでの起床は基本的には五時です。朝と夜の訓練の時間によっては、前後することもあるので注意してください。その場合は事前に通達がいきますが」
「朝礼は?」
「五時半です。三十分で支度して訓練場に集合ですね。ちなみにきちんとベッドの毛布を畳んで、服を着替えて、脱いだものはランドリーにちゃんと入れておかないといけません。もちろん髪の毛とかの身だしなみ、歯磨きもばっちりしておくこと!三十分も時間があるのはむしろ有情な方だと思います」
「あー、確かに」
第三司令基地にいた時は起床が五時半のかわりに、十分で支度して朝礼に出ろというスケジュールだった。五時起きはきついように思うが、支度の時間が長く取れるという意味ではこちらの方が楽なのかもしれない。
ポーラいわく、五時半に訓練場に出たら朝礼、点呼。そして体操をやって、それから朝食になるのだという。朝食は此処専属の調理師さんたちが腕を振るって作ってくれるので、味はかなり保障するのだそうだ。ポーラのおすすめはハンバーグ定食とのこと。朝からハンバーグが食べられるというのは、なかなか豪勢である。
「ご飯を食べたら、全員でまず食堂の掃除です!調理師さんに感謝しながら、お皿洗い以外はすべて自分達で行うんですね!」
言いながら、彼女は食堂へと案内してくれた。
食堂は二階。おお、トーリスは思わず声を上げる。食堂が広い。ものすごく広いし、席の数もテーブルの数も多い。第三司令基地もけして小さくないと思っていたが、ここは桁違いだ。
確かに、在籍人数自体が、ここの方が圧倒的に多いのは間違いない。第十突撃部隊だけで、人数は五十人いるという。小隊、と飛ばれる人数のほぼマックスだ。壊滅した第三突撃部隊は三十二人だったからここだけでも人が多いのが窺い知れる。
さらに、ここには五十人ずつ、第十調査部隊、第十後方支援部隊、などなど様々な部隊が在籍しているという。ひょっとしたら“落ちこぼれだけの司令基地”という噂は間違っているのかもしれない。いくらなんでもそれだけの人数がみんな落ちこぼれの烙印を押されてこの土地に追いやられるとは思えないからだ。
「……こんなに人がいるんだ」
思わずトーリスが声を上げると、それが凄いところなんですよ!とポーラは笑った。
「第三司令基地にいたんですっけ、マイン中尉は」
「ああ、うん。俺がいたところは、こんな食堂だけでも広くなかったよ」
「これだけのテーブルと席が必要なのはですね、在籍人数がそれだけ多いからです。何故多いのか?……ここでは、人が死ぬ確率が圧倒的に低いからなんですよ!」
「え」
トーリスは目を見開いた。
自分は自分のスキルでスカウトされたことと、家が貧しかったことから軍に入ることにしたが。正直入ってから、ここがどういう場所か知ってうんざりしたのである。
つまり、人をどんどん使い捨てる場所だ、ということ。
先日の第三突撃部隊の件だけでもわかるだろう。無茶な命令を下されて死ぬ兵士のなんと多いことか。自分のような十八歳の若造が、中尉なんてとんでもなく高い地位にいるのはつまりそういうこと。下も上も、人がバッタバタと死んでいくのである。なんなら高官でさえ死ぬ。主に、滅茶苦茶な命令を下して部下に恨まれて後ろから撃たれるというパターンで。
もうどの司令基地でもそんなものだと思っていたのだ。実際、異星人との闘いは日々苛烈を極めている。中立地帯を渡って時折侵入してくる異星人たちを見張り、即座に排除し続けなければいけないプレッシャー。さらに、自分達の土地を取り戻すため、異星人の塔の情報を得て破壊しなければいけないミッションのハードさ。
近年はやや向こうの攻撃が控えめになっているとはいえ、いつ敵がまた襲ってくるかわからない状態であるのは事実。
自分達の世界を守るため、兵士が命を捨てなければいけないのはある程度仕方ないことだと割り切っていたのだが。
「五年前。この基地がまだできて間もない頃のことです。……異星人たちのロボットが、中立地帯を渡って一斉に攻めてきた事件があったのをご存知ですか?」
「え?ま、まあ」
覚えている。その時、まだトーリスは兵士ではない、ただの学生だった。それでもニュースで見て震えあがった記憶がある。
調査のためか、攻撃のためか。異星人たちが一斉に、大量のロボットを送り込んできた事件があったのだ。彼らはすべて、こちらのバリアを守る塔を目指してきていた。攻撃のためにせよ情報収集のためにせよ捨て置ける問題ではない。塔を守る十個の基地と航空部隊は、一斉にそれを迎え撃つことになったのだ。
ロボットたちは空を飛ぶタイプでこそなかったものの、いかんせん数が多かった。そしてそれぞれが機銃を備えていた。航空機はどんどん撃ち落され、ロボットを破壊しようと狙った戦車、歩兵も次々撃破される。塔の周辺には、無数の兵器の残骸と兵士の屍が積み上がったという。
「クリスさんは、その時もうこの基地の司令官だったわけですが」
ポーラは食堂の中を見つめて言った。
「第十司令基地で亡くなった人は、たった二人だけだったそうです。他の基地では数十人、多いと三桁の殉職者が出たにも関わらず」
「え!?」
たった二人。
いや、二人とはいえ人が死んでいるのだから喜ばしいことではないだろうが、それでも。
「あ、あの地獄絵図で、どうやって……それだけの犠牲で、第十の塔を守り抜いたんですか!?」
「それがクリスさんの凄いところなんですよ!」
誇らしげに、ポーラは振り向いて笑うのだった。
「あの方は無能力者だなんて蔑まれていますが、とんでもない。スキルこそ最弱でも私達にとっては最強の……最高の司令官なんです。だって、誰一人死なないための作戦を、それでいてちゃんと勝てる作戦を考えてくれる。人をけして使い捨てない!駒とはけして見ない!この食堂の机の数、椅子の数は……それだけたくさんの兵士が生き残り続けているという、素晴らしい証なんです!!」
「あの人が……」
「私は上官と揉めちゃって、それでこの基地に来ることになった兵士の一人ではありますが。それでも、ここに来て本当に良かったと思ってるんですよ。もしあのまま第五司令基地にいたら、私もおかしな戦場に送り込まれて死んでたかもしれないですから!」
だから、と彼女は真っすぐな目をトーリスに向ける。
自分はあの人を信じると決めたんだという、強い意思を感じさせる瞳で。
「トーリスさんも、クリスさんの命令にはちゃんと従ってくださいね。あの方は誰より、私達の命を守るために努力してくださる方ですから」
入ったばかりの新人が寮で一人部屋を与えられるなんてそうそうないことだろう。まあ、階級の上では自分は中尉であるし、それで配慮されたということもあるのかもしれないが。
「本日、マイン中尉の案内役を仰せつかりました、ポーラ・ツイスト伍長であります!」
びしっ!と敬礼をして答えたのは、小柄な女性兵士だった。まだ少女でも通りそうなあどけない顔をした彼女は、ツインテールがよく似合っている。ついでに胸が結構でかい――なんてついつい見てしまうのは男の性というわけで。
童顔に見えるが、これでも二十二歳なんだという。彼女もクリス司令官ほどではないが、しょっちゅうお酒を買う時に免許の提示を求められるタイプなのだと笑った。
「このたびは、ようこそ第十司令基地においでくださいました!まあなんていうか、落ちこぼれの吹き溜まりなんて言われてるところではございますが、まあゆっくりしていってください。すぐに戦場に引っ張り出されてゆっくりする暇なんてないかもしれませんが!」
「……今の言葉だけで、君がどういう性格なのかなんとなくわかったよ」
「お褒めに頂き光栄でございます!」
彼女はニコニコで敬礼を続ける。褒めたつもりではないんだけど、とトーリスは苦笑いするしかない。
第十司令基地は“落ちこぼれが送られる無能力者の砦”なんて蔑まれてはいるが。それでも基地としてできてから、ちゃんとバリアを担う第十塔を守り続けてきたわけで。
何より、他の基地と違って建物が新しいのは魅力である。廊下もピカピカ、窓もピカピカ。白くつるっとした床は、磨かれすぎて足を滑らせそうなほどだ。
「やっぱ、新しい基地は綺麗だなあ。俺がいた第三司令基地より全然キレイ……」
思わずトーリスがそうぼやくと、ポーラは“新しいですからね!”と言った。なんというか、さっきから語尾が強い。うしろに“!”をつけて喋る癖があるのかもしれない。
「それに、クリスさんはとっても綺麗好きですから。ここでのスケジュールって貰いました?」
「いや、まだだけど」
「マイン中尉が正式に訓練に加わるのは多分明日からになるんじゃないかなーと思いますが!多分、掃除は今日からやれって言われますね!ここの規則にあります、“掃除しないやつは死ね”というのが!」
「死ね!?え、掃除しないやつは殺されるの!?」
「クリスさんに司令室に連れ込まれてナニされるかわからないって話です。以前同僚が掃除を怠って部屋に連れ込まれた時は、まるで呪詛のように“ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……”と呟き続けるお人形と化していました!何があったのか想像するととっても楽しいですね!」
「楽しくねえ、まったく楽しくねえよ!?」
なにそれこわい。トーリスはぶるる、と震えあがったのだった。
第十司令基地は広い。敷地面積も広いが、その上で地上六階、地下二階の広さがある。地下二階、はいざという時のシェルターもかねていると聞いている。
この基地そのものに航空戦力はない(航空基地は少し離れたところに別に存在している)が、格納庫に戦車なんかは収納されている。あとは対空砲とか、とにかく大型の銃やら剣やら爆弾やらがわんさかと。軍にいる以上全員がひとしきり武器の扱いを学び、訓練を行うのだが、スキルによっては特注の武器を使うことが許されるケースもあるという。
例えば、爆弾に関して特殊なスキルを持っているバラン。
彼は特別性の手榴弾の使用が許可されており、彼専用の火薬庫が存在しているとかなんとか。まあ、酔っぱらった拍子にその一部を持ち出して暴走するのはいかがなものだと思うが(むしろ、さっきの件で充分懲罰ものであるような。見逃していいものかどうなのか)。
ちなみに、トーリスの部屋は三階にある。ベッド一つ、棚と机が一つずつ、クローゼットが一つという実にこじんまりしたシンプルな部屋だったが、元々荷物が多い方でもない。一人で使うのには十分だと言えよう。
「ここでの起床は基本的には五時です。朝と夜の訓練の時間によっては、前後することもあるので注意してください。その場合は事前に通達がいきますが」
「朝礼は?」
「五時半です。三十分で支度して訓練場に集合ですね。ちなみにきちんとベッドの毛布を畳んで、服を着替えて、脱いだものはランドリーにちゃんと入れておかないといけません。もちろん髪の毛とかの身だしなみ、歯磨きもばっちりしておくこと!三十分も時間があるのはむしろ有情な方だと思います」
「あー、確かに」
第三司令基地にいた時は起床が五時半のかわりに、十分で支度して朝礼に出ろというスケジュールだった。五時起きはきついように思うが、支度の時間が長く取れるという意味ではこちらの方が楽なのかもしれない。
ポーラいわく、五時半に訓練場に出たら朝礼、点呼。そして体操をやって、それから朝食になるのだという。朝食は此処専属の調理師さんたちが腕を振るって作ってくれるので、味はかなり保障するのだそうだ。ポーラのおすすめはハンバーグ定食とのこと。朝からハンバーグが食べられるというのは、なかなか豪勢である。
「ご飯を食べたら、全員でまず食堂の掃除です!調理師さんに感謝しながら、お皿洗い以外はすべて自分達で行うんですね!」
言いながら、彼女は食堂へと案内してくれた。
食堂は二階。おお、トーリスは思わず声を上げる。食堂が広い。ものすごく広いし、席の数もテーブルの数も多い。第三司令基地もけして小さくないと思っていたが、ここは桁違いだ。
確かに、在籍人数自体が、ここの方が圧倒的に多いのは間違いない。第十突撃部隊だけで、人数は五十人いるという。小隊、と飛ばれる人数のほぼマックスだ。壊滅した第三突撃部隊は三十二人だったからここだけでも人が多いのが窺い知れる。
さらに、ここには五十人ずつ、第十調査部隊、第十後方支援部隊、などなど様々な部隊が在籍しているという。ひょっとしたら“落ちこぼれだけの司令基地”という噂は間違っているのかもしれない。いくらなんでもそれだけの人数がみんな落ちこぼれの烙印を押されてこの土地に追いやられるとは思えないからだ。
「……こんなに人がいるんだ」
思わずトーリスが声を上げると、それが凄いところなんですよ!とポーラは笑った。
「第三司令基地にいたんですっけ、マイン中尉は」
「ああ、うん。俺がいたところは、こんな食堂だけでも広くなかったよ」
「これだけのテーブルと席が必要なのはですね、在籍人数がそれだけ多いからです。何故多いのか?……ここでは、人が死ぬ確率が圧倒的に低いからなんですよ!」
「え」
トーリスは目を見開いた。
自分は自分のスキルでスカウトされたことと、家が貧しかったことから軍に入ることにしたが。正直入ってから、ここがどういう場所か知ってうんざりしたのである。
つまり、人をどんどん使い捨てる場所だ、ということ。
先日の第三突撃部隊の件だけでもわかるだろう。無茶な命令を下されて死ぬ兵士のなんと多いことか。自分のような十八歳の若造が、中尉なんてとんでもなく高い地位にいるのはつまりそういうこと。下も上も、人がバッタバタと死んでいくのである。なんなら高官でさえ死ぬ。主に、滅茶苦茶な命令を下して部下に恨まれて後ろから撃たれるというパターンで。
もうどの司令基地でもそんなものだと思っていたのだ。実際、異星人との闘いは日々苛烈を極めている。中立地帯を渡って時折侵入してくる異星人たちを見張り、即座に排除し続けなければいけないプレッシャー。さらに、自分達の土地を取り戻すため、異星人の塔の情報を得て破壊しなければいけないミッションのハードさ。
近年はやや向こうの攻撃が控えめになっているとはいえ、いつ敵がまた襲ってくるかわからない状態であるのは事実。
自分達の世界を守るため、兵士が命を捨てなければいけないのはある程度仕方ないことだと割り切っていたのだが。
「五年前。この基地がまだできて間もない頃のことです。……異星人たちのロボットが、中立地帯を渡って一斉に攻めてきた事件があったのをご存知ですか?」
「え?ま、まあ」
覚えている。その時、まだトーリスは兵士ではない、ただの学生だった。それでもニュースで見て震えあがった記憶がある。
調査のためか、攻撃のためか。異星人たちが一斉に、大量のロボットを送り込んできた事件があったのだ。彼らはすべて、こちらのバリアを守る塔を目指してきていた。攻撃のためにせよ情報収集のためにせよ捨て置ける問題ではない。塔を守る十個の基地と航空部隊は、一斉にそれを迎え撃つことになったのだ。
ロボットたちは空を飛ぶタイプでこそなかったものの、いかんせん数が多かった。そしてそれぞれが機銃を備えていた。航空機はどんどん撃ち落され、ロボットを破壊しようと狙った戦車、歩兵も次々撃破される。塔の周辺には、無数の兵器の残骸と兵士の屍が積み上がったという。
「クリスさんは、その時もうこの基地の司令官だったわけですが」
ポーラは食堂の中を見つめて言った。
「第十司令基地で亡くなった人は、たった二人だけだったそうです。他の基地では数十人、多いと三桁の殉職者が出たにも関わらず」
「え!?」
たった二人。
いや、二人とはいえ人が死んでいるのだから喜ばしいことではないだろうが、それでも。
「あ、あの地獄絵図で、どうやって……それだけの犠牲で、第十の塔を守り抜いたんですか!?」
「それがクリスさんの凄いところなんですよ!」
誇らしげに、ポーラは振り向いて笑うのだった。
「あの方は無能力者だなんて蔑まれていますが、とんでもない。スキルこそ最弱でも私達にとっては最強の……最高の司令官なんです。だって、誰一人死なないための作戦を、それでいてちゃんと勝てる作戦を考えてくれる。人をけして使い捨てない!駒とはけして見ない!この食堂の机の数、椅子の数は……それだけたくさんの兵士が生き残り続けているという、素晴らしい証なんです!!」
「あの人が……」
「私は上官と揉めちゃって、それでこの基地に来ることになった兵士の一人ではありますが。それでも、ここに来て本当に良かったと思ってるんですよ。もしあのまま第五司令基地にいたら、私もおかしな戦場に送り込まれて死んでたかもしれないですから!」
だから、と彼女は真っすぐな目をトーリスに向ける。
自分はあの人を信じると決めたんだという、強い意思を感じさせる瞳で。
「トーリスさんも、クリスさんの命令にはちゃんと従ってくださいね。あの方は誰より、私達の命を守るために努力してくださる方ですから」
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