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<4・Nonsense>
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「どどどどどどど、ドユコトデスカ!?」
意味がわからない。トーリスは思わずひっくり返った声を上げてしまう。
この基地に送られた時点で、自分は落ちこぼれのレッテルを貼られたのだということはわかっていた。そして、無能力者、なんて言われる最弱の指揮官の元でやめるまで腐らせるつもりなのだろうということも。でも。
「はははは破壊!?俺達だけで!?む、ムリデワナイデスカネ!?」
「はい、落ち着きましょー。気持ちはわかりますけどねえ」
どうどう、と少年にしか見えない司令官は、ニコニコ笑顔で言う。とても笑っている場合ではないと思うのだが。
説明しよう。
現在、この惑星は異星人の侵略を受けている。現在、人類が生活圏を確保できているのはこのセントラル大陸の、一部の土地のみ。この大陸の首都圏と一部の町だけをぐるっとバリアで囲って、それでどうにかこの土地だけは安全を確保しているというわけである。
このバリア、というのが実は元々この世界にあった技術ではなく、侵略して来た異星人から盗んだ技術であるというのは有名な話だ。電波塔のようなタワーを、特定のエリアを囲むように一定の距離間で建てる。そして、そこから特殊な電波を発することで、一部のエリアを強固なバリアで守れる――とか、大体そういう理屈であったはずである。現在は、そのバリアがあるおかげで、どうにか一部の土地だけは侵略されずにすんでいるというわけだ。
ちなみに、その十個ある塔の近くにそれぞれ建てられているのが、十個ある軍の司令基地であるというわけだ。先述したように、番号が若いほど新しい基地であり、この第十司令基地は最も新しいだと言っていい。
人類の悲願は、異星人をやっつけて惑星の主権を取り戻すこと――だが。
まずは、このセントラル大陸の土地を取り戻すことからスタートとなる。この大陸を取り戻せれば、人類の生活圏は大きく広がるし、町も畑も工場も住居も拡大することが可能。今のように、一部の町だけでひっそりと異星人に怯えて暮らす必要もなくなる、というわけだ。
「現在、我々が暮らしているのがバリアの内側の土地です。現在十個建っている塔とこのバリアが、我々の最後の砦と言っても過言ではありません」
それは知ってる、とトーリスは頷いた。
バリアそのものは非常に強固なものだが、それは塔があればこそ成立するもの。つまり、十個の塔のどれか一つでも壊されてしまえばバリアは崩壊してしまう。
ゆえに軍は、この塔を死守するため血眼になっているというわけだ。塔の破壊、即ちバリアの崩壊はそのまま、人類が完全に異星人に土地を奪われることを意味するのだから。
百年前、襲い来る異星人に人類はあまりにも無力だった。彼らは宇宙戦艦で空から執拗に攻撃を繰り返し、数多の町を焼き払い、人々を殺戮して回ったのである。そして、一部の人々は連れ去られてそのまま戻ってきていない。一体どんな目に遭わされているのか、彼らが生きているのか死んでいるのかもわからない状態。そして当時の人類の科学技術では、到底救出など叶うことなく――今に至るというわけである。
その人類が現在まで存続できた理由は、襲ってきた異星人の一部を味方に取り入れることができたからに他ならない。どうやら異星人の集団も一枚岩ではなかったらしい。一部の者達が人類を守るため、力を貸してくれたのだ。彼らのテクノロジーのおかげで、人類の生活圏を守る塔を建てることができたのである。
何故、異星人が侵略して来たのが。何が目的だったのか。人類に味方してくれた異星人の意図はなんだったのか――それらはまったくわかっていない。
ただ彼らの姿が蒼い肌に翼の生えた人間に近い見た目である、ということ。そして、現在膠着状態に陥っていること、だけがわかっているのみである。
「異星人の意図はわかりませんが。彼らは今、我々のバリアを攻撃してくる様子がありません。その代わり、“中立地帯”のを取り囲むように彼らの塔を建て、そこに防衛ラインを敷いて睨み合っているという状態です」
つまり、ドーナツのような状態、ということだ。
大陸の真ん中に、人類の“生活圏”があり。
その生活圏をぐるりと取り囲む塔の周りに、ドーナツ状態の中立地帯があるのである。この中立地帯は、異星人のものでも人類のものでもない。森や荒野、町だった廃墟など様々な場所があるが、現在人間は一人も住んでいないとされている。異星人はどうかはわからない。ただ、ドローンなどで確認したところによると、野生のシカや猿の姿は確認されているという。
そしてこの中立地帯を取り囲むのが、異星人たちが建てた塔だ。これは、人類が作った塔と同じ役割を果たしている。つまり、バリア。中立地帯からの攻撃を、塔がある限り完全に遮断することができるというものだ。そしてこのバリアより外側が、異星人の“支配域”というわけである。支配域で異星人たちが今どのような生活をしているのか、捕らえられた人間たちもまだそこで生きているのかどうか――それについては、殆どわかっていないというのが実情だ。
確かなことは。
この支配域から人類の土地を取り返すためには、なんとしてでも異星人の塔を壊し、バリアを破壊する必要があるということだ。
しかしこれは、言うほど簡単なことではない。異星人たちの塔も十個あるが、当然その近くには彼らの前線基地があり、中立地帯を通って塔に近づこうものならばあっという間にハチの巣にされること必至であるからだ。
「人類の住める土地を広げるためには、異星人の塔を最低一つ壊してバリアを弱め、そこから進軍する他ありません。……上層部はですね。我々第十司令基地の部隊に、その先陣を切れと命令してきているわけです」
「無茶言わないでくださいよ!」
トーリスは悲鳴を上げた。
「ここの戦力が今どれくらいのものかなんて知りませんけど……でも、それが簡単にできるなら、百年も睨み合いが続くはずがない!そもそも、俺の……第三突撃部隊が失敗した作戦。貴方も知ってるんじゃないですか!?」
そうなのだ。そもそも、トーリスがこの第十司令基地に送られる原因となった出来事――あの作戦の失敗。それは、十個ある的の塔のうち、C塔と名付けられた塔を攻略しようとして起きた出来事だったのである。C塔は、もっとも彼らの前線基地が塔から遠い。ゆえに、近づいてもすぐに増援が来ることはないだろうと睨んで、偵察もかねて歩兵部隊で塔に接近したのだ。
ところが中立地帯を進んでいる途中で攻撃が来た。
よりにもよって、百年前この惑星を蹂躙した巨大宇宙戦艦――グランノースが襲来。空から部隊がなすすべなくハチの巣にされることになったのである。
あの異星人たちは、この惑星以外にも侵略行動をしている。よその惑星にグランノースを持っていっているから、当分帰ってこない――という司令部が入手した情報があったからこそ、自分達も油断していたのだ。つまり、今奴らの航空戦力は手薄。そうそう上から攻撃されることはないだろう、と。
「万が一グランノースが出てきたら、その時点で詰み!オワタ式!でもって、この基地って見たところ陸軍しかいませんよね?航空戦力ほぼゼロですよね!?とてもじゃないですけど、塔の攻略なんてできっこないですよ……!」
あの時の絶望。
あの時の地獄。
到底忘れられるものでは、ない。再びグランノースと対峙するなんて、トーリスは絶対ごめんだった。自分はギリギリ生き残れたが、あれはたまたま立って位置が崖から近く、避難が間に合っただけだとわかっている。つまりは運。次はとても生還できる気がしない。
――しかも、あの戦艦に砲弾の雨降らされたら……間違いなく、すごく痛くて苦しくて、無惨な死に方をするしかないんだ……!
友人達の、バラバラに吹き飛んだ手足を見た。ダルマになってなおまだ死にきれず、白目をむいてもがいている姿も。あるいは爆風に飛ばされて全身の骨が砕けて悶絶したり、炎に焼かれて大やけどした顔を抑え、声にならぬ声を上げて転がっている姿も。
あんな死に方をするなんて、冗談でも笑えない。
「例の作戦については、本当に気の毒だったと思います。正直、貴方に責任があるなんて私も思っていません」
クリスは眉を下げて、残念そうに言った。
「あれは貴方も思っている通り、完全に情報収集段階でのミス。ついでに作戦立案のミスです。まず、グランノースが別の惑星に遠征に出ているというのは事実でしたが、そもそもグランノースと呼ばれる戦艦が二隻以上あることは……過去の出現事例を鑑みればすぐに気づけたはずなんですよね。また、彼らの宇宙戦艦には超高速ワープ機能がついています。遠征に行ったばかりの船が、数分で戻ってきたなんて目撃例もありました」
「え、え。それじゃあ……」
「遠征に出てるから安全、なんて判断を下したのがまずおかしい。また、グランノースの件がなかったとしても、多分第三突撃部隊の作戦は失敗していたと思いますよ?私から言わせれば、不十分な装備しかない歩兵だけでC塔を狙うのが間違っています。過去の戦闘記録を見れば、C塔付近には大型の対戦車ミサイルが常備されている。近づいたことがバレた時点で、今度はそっちから一斉に狙い撃ちされるのが関の山でしたね。つまり、グランノースが出てこなくても、貴方がたの運命は変わらなかったということです」
「……そんな話聞いてないんですけど?」
「それだけ、第三司令基地の情報収集能力、および作戦立案能力がゴミだったということですね。ご愁傷様でした」
おう、この人存外毒舌か。トーリスは顔をひきつらせるしかない。ただ、少しだけ安堵したのも事実だ。可愛らしい見た目をしているが――彼の指摘は的を射ているし、情報もしっかり得ている。少なくとも、第三司令基地の指揮官よりよほど冷静で頭脳明晰であるのは間違いないようだ。
無論、それだけで塔の制圧なんてミッションがクリアできるほど、世の中が甘いとは思っていないが。
「……とりあえず、俺が生き延びられただけでも奇跡だった、ってことはわかりました」
はあ、とトーリスはため息をついた。
「しかし、だからって……この基地のメンバーだけで、塔のどれかを制圧しろなんて。そんなこと、できるんですか?」
「できる、と本部も思ってないでしょうね。貴方もお気づきの通り、この第十司令基地にはよそを追放された者達ばかりが集まっている。つまり、落ちこぼれの集団ばかり。その落ちこぼれを“飼う”にもお金が要ります。これを機会に大量殉職させて厄介払いをしようというのでしょう。そして私も司令官である以上、上の命令には逆らえません。貧乏くじをひかされている、というのは紛れもなく事実です」
ですが、とクリスはにやりと笑って言う。
「当然、私は部下たちをむざむざ殺させるつもりはないですし、私自身も死ぬつもりはありません。てゆーか、こんな扱いされてムカついてないわけがないです。ここは、絶対無理と思われてるミッションを是非とも成功させて、奴らに一泡吹かせてやりたい気持ちでいっぱいなんですよねえ」
「その気持ちはわかりますけど……」
つまり、クリスは本当に、自分達だけで塔の破壊作戦を成功させてやるつもりでいるのだ。
確かに、さっきのバランといいレナといい、面白いスキルの持ち主がこの基地にいるのは事実のようだ。それぞれ性格や素行に難はあれど、上手に能力を生かせばそれなりの戦果を上げることもできるのかもしれないが。
「厄介払いされた、落ちこぼれの集団。……そう思われてはいますが、実際この基地には面白い人材がそろっています。あとは、最後のピースを待つだけ。私はずっとそう思っていました。そして」
びし、とクリスは真っすぐトーリスを指さして告げた。
「それは、貴方。トーリス・マインなのです」
「お、俺?」
「そう。貴方の先ほどの分析能力、冷静な判断力。実に見事でした。敵の能力を正確に分析して生かすことができる……私の右腕として、これ以上欲しい人材はいません。貴方の情報分析と私の指揮があれば、この基地の部隊を……最強のチームとして輝かせることができる!」
さあ、と彼はその指を開き、手を差し出してきたのである。迷いのない、自信たっぷりな目で。
「我々に力を貸してください。落ちこぼれチームの意地、見せつけてやりましょう!」
意味がわからない。トーリスは思わずひっくり返った声を上げてしまう。
この基地に送られた時点で、自分は落ちこぼれのレッテルを貼られたのだということはわかっていた。そして、無能力者、なんて言われる最弱の指揮官の元でやめるまで腐らせるつもりなのだろうということも。でも。
「はははは破壊!?俺達だけで!?む、ムリデワナイデスカネ!?」
「はい、落ち着きましょー。気持ちはわかりますけどねえ」
どうどう、と少年にしか見えない司令官は、ニコニコ笑顔で言う。とても笑っている場合ではないと思うのだが。
説明しよう。
現在、この惑星は異星人の侵略を受けている。現在、人類が生活圏を確保できているのはこのセントラル大陸の、一部の土地のみ。この大陸の首都圏と一部の町だけをぐるっとバリアで囲って、それでどうにかこの土地だけは安全を確保しているというわけである。
このバリア、というのが実は元々この世界にあった技術ではなく、侵略して来た異星人から盗んだ技術であるというのは有名な話だ。電波塔のようなタワーを、特定のエリアを囲むように一定の距離間で建てる。そして、そこから特殊な電波を発することで、一部のエリアを強固なバリアで守れる――とか、大体そういう理屈であったはずである。現在は、そのバリアがあるおかげで、どうにか一部の土地だけは侵略されずにすんでいるというわけだ。
ちなみに、その十個ある塔の近くにそれぞれ建てられているのが、十個ある軍の司令基地であるというわけだ。先述したように、番号が若いほど新しい基地であり、この第十司令基地は最も新しいだと言っていい。
人類の悲願は、異星人をやっつけて惑星の主権を取り戻すこと――だが。
まずは、このセントラル大陸の土地を取り戻すことからスタートとなる。この大陸を取り戻せれば、人類の生活圏は大きく広がるし、町も畑も工場も住居も拡大することが可能。今のように、一部の町だけでひっそりと異星人に怯えて暮らす必要もなくなる、というわけだ。
「現在、我々が暮らしているのがバリアの内側の土地です。現在十個建っている塔とこのバリアが、我々の最後の砦と言っても過言ではありません」
それは知ってる、とトーリスは頷いた。
バリアそのものは非常に強固なものだが、それは塔があればこそ成立するもの。つまり、十個の塔のどれか一つでも壊されてしまえばバリアは崩壊してしまう。
ゆえに軍は、この塔を死守するため血眼になっているというわけだ。塔の破壊、即ちバリアの崩壊はそのまま、人類が完全に異星人に土地を奪われることを意味するのだから。
百年前、襲い来る異星人に人類はあまりにも無力だった。彼らは宇宙戦艦で空から執拗に攻撃を繰り返し、数多の町を焼き払い、人々を殺戮して回ったのである。そして、一部の人々は連れ去られてそのまま戻ってきていない。一体どんな目に遭わされているのか、彼らが生きているのか死んでいるのかもわからない状態。そして当時の人類の科学技術では、到底救出など叶うことなく――今に至るというわけである。
その人類が現在まで存続できた理由は、襲ってきた異星人の一部を味方に取り入れることができたからに他ならない。どうやら異星人の集団も一枚岩ではなかったらしい。一部の者達が人類を守るため、力を貸してくれたのだ。彼らのテクノロジーのおかげで、人類の生活圏を守る塔を建てることができたのである。
何故、異星人が侵略して来たのが。何が目的だったのか。人類に味方してくれた異星人の意図はなんだったのか――それらはまったくわかっていない。
ただ彼らの姿が蒼い肌に翼の生えた人間に近い見た目である、ということ。そして、現在膠着状態に陥っていること、だけがわかっているのみである。
「異星人の意図はわかりませんが。彼らは今、我々のバリアを攻撃してくる様子がありません。その代わり、“中立地帯”のを取り囲むように彼らの塔を建て、そこに防衛ラインを敷いて睨み合っているという状態です」
つまり、ドーナツのような状態、ということだ。
大陸の真ん中に、人類の“生活圏”があり。
その生活圏をぐるりと取り囲む塔の周りに、ドーナツ状態の中立地帯があるのである。この中立地帯は、異星人のものでも人類のものでもない。森や荒野、町だった廃墟など様々な場所があるが、現在人間は一人も住んでいないとされている。異星人はどうかはわからない。ただ、ドローンなどで確認したところによると、野生のシカや猿の姿は確認されているという。
そしてこの中立地帯を取り囲むのが、異星人たちが建てた塔だ。これは、人類が作った塔と同じ役割を果たしている。つまり、バリア。中立地帯からの攻撃を、塔がある限り完全に遮断することができるというものだ。そしてこのバリアより外側が、異星人の“支配域”というわけである。支配域で異星人たちが今どのような生活をしているのか、捕らえられた人間たちもまだそこで生きているのかどうか――それについては、殆どわかっていないというのが実情だ。
確かなことは。
この支配域から人類の土地を取り返すためには、なんとしてでも異星人の塔を壊し、バリアを破壊する必要があるということだ。
しかしこれは、言うほど簡単なことではない。異星人たちの塔も十個あるが、当然その近くには彼らの前線基地があり、中立地帯を通って塔に近づこうものならばあっという間にハチの巣にされること必至であるからだ。
「人類の住める土地を広げるためには、異星人の塔を最低一つ壊してバリアを弱め、そこから進軍する他ありません。……上層部はですね。我々第十司令基地の部隊に、その先陣を切れと命令してきているわけです」
「無茶言わないでくださいよ!」
トーリスは悲鳴を上げた。
「ここの戦力が今どれくらいのものかなんて知りませんけど……でも、それが簡単にできるなら、百年も睨み合いが続くはずがない!そもそも、俺の……第三突撃部隊が失敗した作戦。貴方も知ってるんじゃないですか!?」
そうなのだ。そもそも、トーリスがこの第十司令基地に送られる原因となった出来事――あの作戦の失敗。それは、十個ある的の塔のうち、C塔と名付けられた塔を攻略しようとして起きた出来事だったのである。C塔は、もっとも彼らの前線基地が塔から遠い。ゆえに、近づいてもすぐに増援が来ることはないだろうと睨んで、偵察もかねて歩兵部隊で塔に接近したのだ。
ところが中立地帯を進んでいる途中で攻撃が来た。
よりにもよって、百年前この惑星を蹂躙した巨大宇宙戦艦――グランノースが襲来。空から部隊がなすすべなくハチの巣にされることになったのである。
あの異星人たちは、この惑星以外にも侵略行動をしている。よその惑星にグランノースを持っていっているから、当分帰ってこない――という司令部が入手した情報があったからこそ、自分達も油断していたのだ。つまり、今奴らの航空戦力は手薄。そうそう上から攻撃されることはないだろう、と。
「万が一グランノースが出てきたら、その時点で詰み!オワタ式!でもって、この基地って見たところ陸軍しかいませんよね?航空戦力ほぼゼロですよね!?とてもじゃないですけど、塔の攻略なんてできっこないですよ……!」
あの時の絶望。
あの時の地獄。
到底忘れられるものでは、ない。再びグランノースと対峙するなんて、トーリスは絶対ごめんだった。自分はギリギリ生き残れたが、あれはたまたま立って位置が崖から近く、避難が間に合っただけだとわかっている。つまりは運。次はとても生還できる気がしない。
――しかも、あの戦艦に砲弾の雨降らされたら……間違いなく、すごく痛くて苦しくて、無惨な死に方をするしかないんだ……!
友人達の、バラバラに吹き飛んだ手足を見た。ダルマになってなおまだ死にきれず、白目をむいてもがいている姿も。あるいは爆風に飛ばされて全身の骨が砕けて悶絶したり、炎に焼かれて大やけどした顔を抑え、声にならぬ声を上げて転がっている姿も。
あんな死に方をするなんて、冗談でも笑えない。
「例の作戦については、本当に気の毒だったと思います。正直、貴方に責任があるなんて私も思っていません」
クリスは眉を下げて、残念そうに言った。
「あれは貴方も思っている通り、完全に情報収集段階でのミス。ついでに作戦立案のミスです。まず、グランノースが別の惑星に遠征に出ているというのは事実でしたが、そもそもグランノースと呼ばれる戦艦が二隻以上あることは……過去の出現事例を鑑みればすぐに気づけたはずなんですよね。また、彼らの宇宙戦艦には超高速ワープ機能がついています。遠征に行ったばかりの船が、数分で戻ってきたなんて目撃例もありました」
「え、え。それじゃあ……」
「遠征に出てるから安全、なんて判断を下したのがまずおかしい。また、グランノースの件がなかったとしても、多分第三突撃部隊の作戦は失敗していたと思いますよ?私から言わせれば、不十分な装備しかない歩兵だけでC塔を狙うのが間違っています。過去の戦闘記録を見れば、C塔付近には大型の対戦車ミサイルが常備されている。近づいたことがバレた時点で、今度はそっちから一斉に狙い撃ちされるのが関の山でしたね。つまり、グランノースが出てこなくても、貴方がたの運命は変わらなかったということです」
「……そんな話聞いてないんですけど?」
「それだけ、第三司令基地の情報収集能力、および作戦立案能力がゴミだったということですね。ご愁傷様でした」
おう、この人存外毒舌か。トーリスは顔をひきつらせるしかない。ただ、少しだけ安堵したのも事実だ。可愛らしい見た目をしているが――彼の指摘は的を射ているし、情報もしっかり得ている。少なくとも、第三司令基地の指揮官よりよほど冷静で頭脳明晰であるのは間違いないようだ。
無論、それだけで塔の制圧なんてミッションがクリアできるほど、世の中が甘いとは思っていないが。
「……とりあえず、俺が生き延びられただけでも奇跡だった、ってことはわかりました」
はあ、とトーリスはため息をついた。
「しかし、だからって……この基地のメンバーだけで、塔のどれかを制圧しろなんて。そんなこと、できるんですか?」
「できる、と本部も思ってないでしょうね。貴方もお気づきの通り、この第十司令基地にはよそを追放された者達ばかりが集まっている。つまり、落ちこぼれの集団ばかり。その落ちこぼれを“飼う”にもお金が要ります。これを機会に大量殉職させて厄介払いをしようというのでしょう。そして私も司令官である以上、上の命令には逆らえません。貧乏くじをひかされている、というのは紛れもなく事実です」
ですが、とクリスはにやりと笑って言う。
「当然、私は部下たちをむざむざ殺させるつもりはないですし、私自身も死ぬつもりはありません。てゆーか、こんな扱いされてムカついてないわけがないです。ここは、絶対無理と思われてるミッションを是非とも成功させて、奴らに一泡吹かせてやりたい気持ちでいっぱいなんですよねえ」
「その気持ちはわかりますけど……」
つまり、クリスは本当に、自分達だけで塔の破壊作戦を成功させてやるつもりでいるのだ。
確かに、さっきのバランといいレナといい、面白いスキルの持ち主がこの基地にいるのは事実のようだ。それぞれ性格や素行に難はあれど、上手に能力を生かせばそれなりの戦果を上げることもできるのかもしれないが。
「厄介払いされた、落ちこぼれの集団。……そう思われてはいますが、実際この基地には面白い人材がそろっています。あとは、最後のピースを待つだけ。私はずっとそう思っていました。そして」
びし、とクリスは真っすぐトーリスを指さして告げた。
「それは、貴方。トーリス・マインなのです」
「お、俺?」
「そう。貴方の先ほどの分析能力、冷静な判断力。実に見事でした。敵の能力を正確に分析して生かすことができる……私の右腕として、これ以上欲しい人材はいません。貴方の情報分析と私の指揮があれば、この基地の部隊を……最強のチームとして輝かせることができる!」
さあ、と彼はその指を開き、手を差し出してきたのである。迷いのない、自信たっぷりな目で。
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