6 / 31
<第六話・見えない呪縛>
しおりを挟む
夏騎いわく。一度家に帰ると、夜抜け出すのは正直難しいだろう、というのだ。有純の家は緩いが夏騎の家はそうではない。下手をすれば捜索願を出されかねない、と真顔で言われて有純はひっくり返りそうになった。
「え、マジで?いなくなってすぐ?というか抜け出そうとした時点で?」
「元々過保護で教育ママというヤツだから、うちの親は。……特に、港の自殺を知ってからは余計心配されるようになった。それでも、不登校にはいい顔をされなくて、なんとか交渉して再登校は進級後まで伸ばして貰っていたんだけども」
「それは……」
ちょっと極端じゃないのか、と有純は眉をひそめる。昔は何度も夏騎の家に遊びに行ったため、夏騎の両親と顔を合わせたこともある。少しインテリ系で厳しそうなお母さんだなとは思ったが、遊びに行けば歓迎してくれたし手作りのお菓子も用意してくれた。そこまで頭の固い人、であるようには思えなかったのだが。
「いいんだよ、仕方ない。母さんが俺のことを心配してくれているのは知ってるし……子供のクラスでイジメがあって、自分の子供もそうなるんじゃないかと思ったら恐怖するのは当然だ。普通の親ならな。それで不登校には反対するっていうのは一見矛盾しているように思えるかもしれないけど、不登校っていうのが後々の評価に良い影響を与えないのも事実、子供の将来が心配になるのも事実。……そこは親としてもジレンマなんだろうし、俺は理解してるよ。不満もない。ただ必要があれば逆らうこともあるってだけで」
なんというか、とても小学五年生の少年の発言に聴こえないのだが――それが夏騎らしいと言えば、そうなのだろうか。確かに元々、話していると年齢が迷子になるような少年ではあったのだけど。復帰して、再び登校するようになってからはますます言動の達観ぶりに拍車がかかっているような気がする。
その原因もやはり、四年生の時の出来事に起因しているのだろうか。なんだかんだで有純は、未だに四年生の時のいじめの詳細をきちんと彼から聞けていない。教員が手を出せない理由があったという話もあるものの、それについても結局謎のままである。
有純としては、やはりクラスでイジメが発生しているのに、それを放置する教師なんてどうなんだという憤りは感じざるをない。確かに、先生の責任が重すぎるとか、仕事が大変すぎて問題になっているという話はちょいちょいと耳にするところではあるけれど。だからって、クラスの子供達を守るのは先生の仕事であるはずではないのか。その先生が、いじめ問題を全く解決しようとしない、できない理由というのはなんなのだろう?
「とりあえず、母さんのことはいいんだよ。俺がするべきことは一つだ。今日は学校に残って遊ぶから帰りが遅くなる、って親にメールしておくことだけ。あ、有純もメールしておいて。俺と一緒だって言っていいから」
「え、親に連絡しちゃうの?連れ戻されない?」
「連れ戻されるとしたら、それこそ本当に遅い時間になってからだろ。八時くらいになったらさすがにメールが来るか、あるいは学校に来られると思うけど。それまでは“行き先が分かっていてしかも学校、よく知ってる友達と一緒”ならすぐに探しに来ようとはしない。普通はね」
あえて行き先を教えておく。そんな発想があるのは意外だった。確かに自分達でタイムリミットを定めてしまうようなものだし、やっていることを知られたら大目玉を喰らうのも間違いないのだろうが。
「相変わらず、夏騎って頭いいんだなあ……」
思わず感想を漏らすと、ちょっとだけ夏騎は頬を染めた。
「あのさ、あんまり俺にだけ頼るのやめなよ。今日は有純にも頭働かせてもらわないと困るんだからさ」
「あーうん、でも頼むから期待はシナイデ」
「そこ、露骨に目逸らさない。とりあえず七時くらいまでは近くの公園で時間潰すから。ここでいつまでも立ち話してるのもなんだし」
「あ、あー……うん」
思わず公園デート!という言葉が頭の中を流れていった有純。正直ちょっと不謹慎というか、湧いているとしか思えない。自分のしょうもない頭をぽこんと叩いて、有純は夏騎の後ろを追いかけた。
***
「有純、みんなに話を聞いて回ったら、四組のやつらには軒並み避けられたって言ってただろ」
すぐ近くの公園のベンチに座り、作戦会議を始める。当たり前のように有純のすぐ隣に座る夏騎。隣に感じる体温に、思わずどきりとしてしまう。
男の子と女の子ではあるが、実際のところ有純の方がずっと身体が大きいしがっしりしている。外遊び大好き、喧嘩上等、リレーの選手で外されたことなどないという有純だ。普段からサッカークラブに所属してサッカーもしているし、ここ数年は趣味の範囲で柔道場にも通わせてもらっている。体格に差が出るのは当然で――時々それが、ちょっぴり悲しいと感じてしまうこともあるのだ。
別に、女の子が華奢で、男の子ががっしりしていて、そういうカップルが必ずしも理想だとは思っていない。確かに大人になれば男子の方が大きくなることが多いとも聞くけれど、それは“多い”であって必ずしもそうではないはずだ。ただ時々、自分の選択は本当にこれで良かったと思う時がないわけでもないのである。
夏騎や、誰かを守れるヒーローになりたくて身体を鍛えて、結果長身になった有純。
でも一般的に男の子にモテるのは、華奢でお淑やかな女の子らしい可愛い子だと聞いたことがある。実際、クラスの男子に人気が高い女子の多くはそういうタイプである印象だ。自分の名前が、ランキングの上位で上がったことなど一度もない。
別に、他の誰かに貶されようが、他の男子に女子扱いされなかろうがそれはどうでもいいのだ。ただ、夏騎がどうなのか、ということだけが気になって仕方ないのである。幼稚園の頃は、女の子らしさや男の子らしさというものを過度に押し付けない――男らしい装いをするようになった有純を肯定してくれている印象だった夏騎だったが、今は果たしてどうなのか。こんなガサツでデカい女など、女として一切眼中にないのではないか。
もし自分がもっと小柄で、華奢で、喧嘩なんて全然しないしできないような可愛い女の子なら。今頃幼馴染特権を大活用して、夏騎と付き合うようなこともできていたのではなかろうか、なんて。そんな、自分で選んだ道を否定するようなことも考えてしまうのである。
そして、そういう発想に行くたびに思うのだ。結局自分は、自分が愛されることしか考えていない、なんて醜い人間なんだろう、と。
「……有純、どうしたの?」
「へ」
「ぼんやりしてるけど。話、続けてもいい?」
怪訝な顔をする夏騎にはっとした。ああ、本当にどうかしている。今はそんなくだらないことを考えている場合じゃない。勝手に夏騎の体温を意識して、華奢な二の腕が綺麗だなとか思って、一人ドキドキしている場合などではないというのに。
「い、いいよ、うん!えっとその、四組の奴らに口を閉ざされたってのはそうなんだけど。それは仕方ないんじゃないか?去年のことは酷かったみたいだし、みんな話したくないんだろうし……」
慌てて意識をそちらにシフトさせ、同時に謎がそこにも一つ残っているのを思い出した。
彼らの態度がまるで、過去のトラウマを思い出して話したくないというより、誰かを恐れて口をつぐんでいるような印象であったことである。
「それは間違ってない。間違ってないけど、最大の理由はそこじゃない」
挙動不審な有純に気づいているのかいないのか、夏騎は静かに首を振る。
「なんとなくお察しだけど、学校はイジメ問題そのものをなかったことにしたかったんだろうね。俺が不登校になってる間に、校長自ら教室に来てみんなの口止めをしていったみたいなんだ。クラスでイジメがあった、なんてことになったら内申に響くとかなんとか、そういうことを言ったらしい。で、これが結構一部の生徒には効果があったんだよね。俺は普通に公立中学に行くつもりだけど、今は私立中学を受験する生徒も少なくない。四組にも多かった。いじめをするようなクラスにいた、もしかしたら主犯だったかもしれない……そういう疑惑をかけられたくない生徒は少なくなかったんだ。ただでさえその主犯がちょっと厄介なタイプの女子だったしね」
「おいおい、それ、学校側から圧力かけたってことなんじゃ……!ていうか、受験って四年生だろ?そんなに早くから勉強しなくちゃいけないもんなのかよ!?」
「人によるけど、それこそ一年生から勉強する子はしてるよ。四年生なら大半は準備始めてるんじゃないの?……まあそれはいいや。今回のいじめ問題はいろんな意味で“普通のいじめ問題”で済まない事情があった。だから学校も、できる限りイジメはなかったってことで解決したかったんだと思う。皮肉なことに小倉港の家は父子家庭で、お父さんは仕事で家にいないことも多かった。そういう家庭環境のせいだ、って責任をなすりつけることも不可能ではなかったんだろうね」
「なんだよそれ……!」
子供が一人、自ら命を絶っているというのに。そんな馬鹿な話がまかり通っていいものなのか。有純は純粋に怒りを感じる。子供達を守るための先生、そのトップが何故そんな馬鹿な対応をすることになるのだろう。
そんなに責任問題されるのが怖かったというのか。自分達は悪くないとでも信じたかったというのか。
「校長がそこまでした理由は想像がつく。納得できることじゃないけど。……とりあえずこの件については、後でもう少し詳しく話すとして。もう一つの理由ね」
きっと、うんざりしてきたのは夏騎も同じなのだろう。心底疲れた顔で、彼は話を続けた。
「そうやって圧力かけられて……特に受験組はそうなると困るもんだから、友達にも“頼むから黙っていて”ってお願いするだろ。クラス全体がそれで、そういう空気になる。今更黙っても遅いところは正直あるけど、それでも言いたいことを言った人間はハブられる空気はできる。ただでさえ、イジメ主犯は裁かれないままクラスに存在してるわけだし、自殺者が出たからイジメがやむなんて状況でもなかったみたいだしね。……その上で、さらにもう一つ事件が起きた。多分そのせいで、みんな怯えてるんだろうね。なんといっても小倉港が自殺した翌月に“それ”は起こったんだから」
「それ?」
「イジメの主犯だった女王様の名前は“市川美亜”」
日が沈み、暗く陰っていく空を見つめながら――夏騎はその事実を口にする。
「港が飛び込んだのと同じ電車で、彼女も事故に遭った。そして、右腕を切断して、両目を失明してるんだ」
「え、マジで?いなくなってすぐ?というか抜け出そうとした時点で?」
「元々過保護で教育ママというヤツだから、うちの親は。……特に、港の自殺を知ってからは余計心配されるようになった。それでも、不登校にはいい顔をされなくて、なんとか交渉して再登校は進級後まで伸ばして貰っていたんだけども」
「それは……」
ちょっと極端じゃないのか、と有純は眉をひそめる。昔は何度も夏騎の家に遊びに行ったため、夏騎の両親と顔を合わせたこともある。少しインテリ系で厳しそうなお母さんだなとは思ったが、遊びに行けば歓迎してくれたし手作りのお菓子も用意してくれた。そこまで頭の固い人、であるようには思えなかったのだが。
「いいんだよ、仕方ない。母さんが俺のことを心配してくれているのは知ってるし……子供のクラスでイジメがあって、自分の子供もそうなるんじゃないかと思ったら恐怖するのは当然だ。普通の親ならな。それで不登校には反対するっていうのは一見矛盾しているように思えるかもしれないけど、不登校っていうのが後々の評価に良い影響を与えないのも事実、子供の将来が心配になるのも事実。……そこは親としてもジレンマなんだろうし、俺は理解してるよ。不満もない。ただ必要があれば逆らうこともあるってだけで」
なんというか、とても小学五年生の少年の発言に聴こえないのだが――それが夏騎らしいと言えば、そうなのだろうか。確かに元々、話していると年齢が迷子になるような少年ではあったのだけど。復帰して、再び登校するようになってからはますます言動の達観ぶりに拍車がかかっているような気がする。
その原因もやはり、四年生の時の出来事に起因しているのだろうか。なんだかんだで有純は、未だに四年生の時のいじめの詳細をきちんと彼から聞けていない。教員が手を出せない理由があったという話もあるものの、それについても結局謎のままである。
有純としては、やはりクラスでイジメが発生しているのに、それを放置する教師なんてどうなんだという憤りは感じざるをない。確かに、先生の責任が重すぎるとか、仕事が大変すぎて問題になっているという話はちょいちょいと耳にするところではあるけれど。だからって、クラスの子供達を守るのは先生の仕事であるはずではないのか。その先生が、いじめ問題を全く解決しようとしない、できない理由というのはなんなのだろう?
「とりあえず、母さんのことはいいんだよ。俺がするべきことは一つだ。今日は学校に残って遊ぶから帰りが遅くなる、って親にメールしておくことだけ。あ、有純もメールしておいて。俺と一緒だって言っていいから」
「え、親に連絡しちゃうの?連れ戻されない?」
「連れ戻されるとしたら、それこそ本当に遅い時間になってからだろ。八時くらいになったらさすがにメールが来るか、あるいは学校に来られると思うけど。それまでは“行き先が分かっていてしかも学校、よく知ってる友達と一緒”ならすぐに探しに来ようとはしない。普通はね」
あえて行き先を教えておく。そんな発想があるのは意外だった。確かに自分達でタイムリミットを定めてしまうようなものだし、やっていることを知られたら大目玉を喰らうのも間違いないのだろうが。
「相変わらず、夏騎って頭いいんだなあ……」
思わず感想を漏らすと、ちょっとだけ夏騎は頬を染めた。
「あのさ、あんまり俺にだけ頼るのやめなよ。今日は有純にも頭働かせてもらわないと困るんだからさ」
「あーうん、でも頼むから期待はシナイデ」
「そこ、露骨に目逸らさない。とりあえず七時くらいまでは近くの公園で時間潰すから。ここでいつまでも立ち話してるのもなんだし」
「あ、あー……うん」
思わず公園デート!という言葉が頭の中を流れていった有純。正直ちょっと不謹慎というか、湧いているとしか思えない。自分のしょうもない頭をぽこんと叩いて、有純は夏騎の後ろを追いかけた。
***
「有純、みんなに話を聞いて回ったら、四組のやつらには軒並み避けられたって言ってただろ」
すぐ近くの公園のベンチに座り、作戦会議を始める。当たり前のように有純のすぐ隣に座る夏騎。隣に感じる体温に、思わずどきりとしてしまう。
男の子と女の子ではあるが、実際のところ有純の方がずっと身体が大きいしがっしりしている。外遊び大好き、喧嘩上等、リレーの選手で外されたことなどないという有純だ。普段からサッカークラブに所属してサッカーもしているし、ここ数年は趣味の範囲で柔道場にも通わせてもらっている。体格に差が出るのは当然で――時々それが、ちょっぴり悲しいと感じてしまうこともあるのだ。
別に、女の子が華奢で、男の子ががっしりしていて、そういうカップルが必ずしも理想だとは思っていない。確かに大人になれば男子の方が大きくなることが多いとも聞くけれど、それは“多い”であって必ずしもそうではないはずだ。ただ時々、自分の選択は本当にこれで良かったと思う時がないわけでもないのである。
夏騎や、誰かを守れるヒーローになりたくて身体を鍛えて、結果長身になった有純。
でも一般的に男の子にモテるのは、華奢でお淑やかな女の子らしい可愛い子だと聞いたことがある。実際、クラスの男子に人気が高い女子の多くはそういうタイプである印象だ。自分の名前が、ランキングの上位で上がったことなど一度もない。
別に、他の誰かに貶されようが、他の男子に女子扱いされなかろうがそれはどうでもいいのだ。ただ、夏騎がどうなのか、ということだけが気になって仕方ないのである。幼稚園の頃は、女の子らしさや男の子らしさというものを過度に押し付けない――男らしい装いをするようになった有純を肯定してくれている印象だった夏騎だったが、今は果たしてどうなのか。こんなガサツでデカい女など、女として一切眼中にないのではないか。
もし自分がもっと小柄で、華奢で、喧嘩なんて全然しないしできないような可愛い女の子なら。今頃幼馴染特権を大活用して、夏騎と付き合うようなこともできていたのではなかろうか、なんて。そんな、自分で選んだ道を否定するようなことも考えてしまうのである。
そして、そういう発想に行くたびに思うのだ。結局自分は、自分が愛されることしか考えていない、なんて醜い人間なんだろう、と。
「……有純、どうしたの?」
「へ」
「ぼんやりしてるけど。話、続けてもいい?」
怪訝な顔をする夏騎にはっとした。ああ、本当にどうかしている。今はそんなくだらないことを考えている場合じゃない。勝手に夏騎の体温を意識して、華奢な二の腕が綺麗だなとか思って、一人ドキドキしている場合などではないというのに。
「い、いいよ、うん!えっとその、四組の奴らに口を閉ざされたってのはそうなんだけど。それは仕方ないんじゃないか?去年のことは酷かったみたいだし、みんな話したくないんだろうし……」
慌てて意識をそちらにシフトさせ、同時に謎がそこにも一つ残っているのを思い出した。
彼らの態度がまるで、過去のトラウマを思い出して話したくないというより、誰かを恐れて口をつぐんでいるような印象であったことである。
「それは間違ってない。間違ってないけど、最大の理由はそこじゃない」
挙動不審な有純に気づいているのかいないのか、夏騎は静かに首を振る。
「なんとなくお察しだけど、学校はイジメ問題そのものをなかったことにしたかったんだろうね。俺が不登校になってる間に、校長自ら教室に来てみんなの口止めをしていったみたいなんだ。クラスでイジメがあった、なんてことになったら内申に響くとかなんとか、そういうことを言ったらしい。で、これが結構一部の生徒には効果があったんだよね。俺は普通に公立中学に行くつもりだけど、今は私立中学を受験する生徒も少なくない。四組にも多かった。いじめをするようなクラスにいた、もしかしたら主犯だったかもしれない……そういう疑惑をかけられたくない生徒は少なくなかったんだ。ただでさえその主犯がちょっと厄介なタイプの女子だったしね」
「おいおい、それ、学校側から圧力かけたってことなんじゃ……!ていうか、受験って四年生だろ?そんなに早くから勉強しなくちゃいけないもんなのかよ!?」
「人によるけど、それこそ一年生から勉強する子はしてるよ。四年生なら大半は準備始めてるんじゃないの?……まあそれはいいや。今回のいじめ問題はいろんな意味で“普通のいじめ問題”で済まない事情があった。だから学校も、できる限りイジメはなかったってことで解決したかったんだと思う。皮肉なことに小倉港の家は父子家庭で、お父さんは仕事で家にいないことも多かった。そういう家庭環境のせいだ、って責任をなすりつけることも不可能ではなかったんだろうね」
「なんだよそれ……!」
子供が一人、自ら命を絶っているというのに。そんな馬鹿な話がまかり通っていいものなのか。有純は純粋に怒りを感じる。子供達を守るための先生、そのトップが何故そんな馬鹿な対応をすることになるのだろう。
そんなに責任問題されるのが怖かったというのか。自分達は悪くないとでも信じたかったというのか。
「校長がそこまでした理由は想像がつく。納得できることじゃないけど。……とりあえずこの件については、後でもう少し詳しく話すとして。もう一つの理由ね」
きっと、うんざりしてきたのは夏騎も同じなのだろう。心底疲れた顔で、彼は話を続けた。
「そうやって圧力かけられて……特に受験組はそうなると困るもんだから、友達にも“頼むから黙っていて”ってお願いするだろ。クラス全体がそれで、そういう空気になる。今更黙っても遅いところは正直あるけど、それでも言いたいことを言った人間はハブられる空気はできる。ただでさえ、イジメ主犯は裁かれないままクラスに存在してるわけだし、自殺者が出たからイジメがやむなんて状況でもなかったみたいだしね。……その上で、さらにもう一つ事件が起きた。多分そのせいで、みんな怯えてるんだろうね。なんといっても小倉港が自殺した翌月に“それ”は起こったんだから」
「それ?」
「イジメの主犯だった女王様の名前は“市川美亜”」
日が沈み、暗く陰っていく空を見つめながら――夏騎はその事実を口にする。
「港が飛び込んだのと同じ電車で、彼女も事故に遭った。そして、右腕を切断して、両目を失明してるんだ」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる