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<15・狂気。>
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魔物が潜んでいる怪談を見つけたら、きっちり研究することが大切なのだ――夜空はそう語った。
『何故なら、相手はその怪談に擬態して襲ってくるからだ。そうすることで自分をこの世界の幽霊に見せかけると同時に、世界からの干渉を受けにくくしている』
『世界からの干渉?』
『そうだ、世界の意思とでも言えばいいのか。前に、桃太郎の世界に魔法少女が来て魔法で鬼退治をしたら物語がめちゃくちゃになってしまう……みたいな話をしだろう?それを防ぐために、異世界転移なんてものが簡単にできないように世界の壁は厚くなっているし、異世界転生するにしても必ず元の世界の記憶は失われるようにはなってるが……世界の防衛システムはそれだけじゃないんだ』
万に一つ、異世界の記憶を持って転生・転移してきた者がやってきた場合。世界は、その転生・転移者に対して強く抵抗するようにできているのだという。世界自体の意思が防衛システムを働かせている、と夜空たち退魔師は考えているようだ。
『さっきの例でいうなら、異世界転移してきた魔法少女は魔法が使えない、ただの少女になってしまったりする。もしくは、世界に大きな影響を与えないレベルの弱い魔法しか使えないくらいに弱体化するんだ。だから、実際ライトノベルのようなチート無双なんてのは現実にはまずありえないし、あってはいけない。むしろ弱くなるのが普通なんだよ。人間も魔物も、本来の力を発揮できるのは自分の生まれ故郷だけだと思っておくのが正しいんだ。まあ、ちょっとした並行世界レベルに軸の近い世界ならまだしもな』
なるほど、異世界からやってきた魔物たちが弱体化するというのは、そういう理由もあるらしい。世界に弾かれて、大きく力を削がれるのは異世界の邪神であっても同じというわけだ。
『なんとなくわかったよ。その防衛システムをある程度掻い潜る方法があるってなわけだな?それが怪談への擬態か』
『正解だ。怪談の存在、つまりこの世界の幽霊や妖怪になりすますことで人間達の眼を暗ますと同時に、世界の眼をも誤魔化しているというわけだ。擬態の完成度が高ければ高いほど、世界からの干渉が弱くなり、あまり弱体化せずに済むというわけだな。ゆえに、少なくともこの世界で完全な復活・再構築をするまでは白魔もかたくなに怪談への擬態を続けるだろう、と予想できる。なら、俺が言いたいことはわかるな』
――つまり、どの怪談に魔物がひそんでいるかわかったら……その怪談に応じた攻撃を仕掛けてくるってわけだな。それを予想しておけ、と。
昨日襲ってきた体育倉庫裏の式魔も、体育倉庫から遠く離れたらもう襲ってこなかった。あれは、追いかけることで怪談の範疇を大きく外れることで、世界に見つかることを恐れた結果だというわけだ。
――うう、そう思うと……この“あるはずのない地下への階段”ってめちゃくちゃ厄介な怪談なんじゃね……!?
本体は恐らく、マッドサイエンティストの先生とやらに化けているのだろうが(そんなもの実際にいなかったかもしれないというのに)、その攻撃の種類が性質に応じたものになりそうで非常に恐ろしい。メスとか実験道具を使って攻撃してくるだけではすまない。多分、生物兵器などを操って襲撃してくるだろう。どれだけゾンビ系ホラーなものがお目見えするか、わかったものではない。
しかし、行くと決めたのは自分なのだ。花火は気が進まないと思いつつ、ゆっくりとオレンジ色のランプが灯る階段を降りていった。
「敵は、地下室に降りるまでは攻撃してこないだろう。ただ、今度の怪談は相手が本体な上、物語の性質上地下室から俺達が逃げても追いかけてくる可能性が高い」
「なんで」
「怪談の内容をもう一度よく思い出してみろ」
「う」
『その先生は隠された地下室に迷い込んでしまった生徒を、口封じも兼ねて次々と実験材料にしていったんだって。……最終的には実験の失敗で本人も死んじゃって、残酷な実験の痕跡が生々と残る地下室は完全に封印されたんだけども……』
――理解した。マッドな先生は、地下室の存在を隠すために次々と生徒を実験材料にしてったっつー設定。そりゃ、地下室に来た生徒は死ぬ気で口封じしようとするわな……!
とはいえ、地下室はやばい生物でいっぱいである可能性が非常に高いのでは。花火が言うと、その通り、と夜空も頷く。
「だから、地下室に降りて奴に見つかったら、即座に階段を逆走して校舎に戻るぞ。この時間ならもう先生以外に生徒はいないし、先生達も状況を知っているから職員室の外に出てこないはずだ。多少学校の壁やらモノやら壊しても構わない、気にせず廊下で戦え」
「うう、了解……」
もう腹を括るしかない。そうこうしているうちに、地下室のドアの前まで到着してしまった。古ぼけた木製のドアが見える。その前に立った瞬間、おぞましい声が聞こえてきた。中年くらいの、ややしゃがれた男性の声と――小さな少女らしき呻き声だ。
『ううう、うううううう!』
『ほら、大人しくしたまえ。手元が狂ってしまうじゃないか』
『うう、うううううううううう!』
『麻酔をかけると、痛みによる反射行動が見えないからやりたくないんだよ、理解してくれたまえ。君もせっかくならよーく見るがいい、自分のお腹の中身がどうなっているのかをね』
『ふぐ、ふぐうううううううううううううううううううううう!』
『猿轡をかませているのに、人間は存外声が出るものだ。というか、腹筋を切除していてもある程度声は出せるものなのだなあ。それに……おお、綺麗なピンク色の管だ。君も見たまえ。理科の授業でやっただろう?この中を君の食べたものが通って、うんちになってお尻から排泄されるんだ。こうしてほら、ふにふにと揉んでやると……』
『ん、んんんんんんんんんんんんんんん!!』
『ほら、よく動く。実に健康的でよろしい。うんちがいっぱい詰まってそうだね、中身をよく見てみようねえ』
狂っているとしか思えない。少女の声は美郷のものではなかった。多分、今本当に誰かが捕まっているわけではないのだろう。被害者も、恐らくは魔物が演じているものにすぎない――恐らくは。そう思っても、気分が悪いものには違いなかった。思わず花火は口元をおさえて呻く。
教師とおぼしき男の喋り方が、まるで小さな子供に授業を教えるかのように慈しみに満ちているのがますますサイコだとしか思えない。
「こんなものは珍しくもなんともない。安心しろ、本当に今誰かが捕まっているわけじゃない。全て、白魔が怪談通りに擬態して演じているだけだ」
が、吐き気をこらえているのは花火だけであるようだった。夜空は平気な顔で、あっさりと言い放ってみせる。
「少なくとも今回は、本物の死体を目にしなくて済むだけマシなんだよ。これくらいで吐きそうになってたらもたないぞ」
そんなこと言われても。眼で訴えるも、夜空は聞く耳を持つ気はないらしい。あっさりと木製のドアノブに手をかけ、回した瞬間。
『ふぐ、ぐ!ううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!』
殆ど絶叫にひとしい呻き声と。ぶしゅうううう、と液体が噴出すような音が聞こえてきたのである。あーあ、と中年男性が呆れるように言う声も。
『だから暴れるなと言ったのに……大きな血管を傷つけてしまったじゃないか。これは、長持ちしそうにないなあ。輸血用のパック、B型はまだ残っていたかねえ……』
そして、ドアがゆっくりと開いていく。その向こうにあったものは、想像以上に凄惨な光景だった。
「ええっと、輸血輸血……」
狭い部屋だった。精々広さは八畳間よりもう少し広いくらいだろうか――奥にもう一部屋あるようだ。窓のない地下室の左右の壁には棚があり、ずらずらと大量の硝子瓶が並んでいる。薬のラベルが貼ってあるものもあるが、中には何の肉塊かもわらないものが浮いていたり、人糞のようなものが水の中で浮いている気持ち悪いものもあった。他には目玉が一つしかないネズミが入っているものや、大量の毛虫がつまっているものまで。よく観察する勇気もないが、赤ん坊くらいはは入れそうなほどの大きなビンもあるようだった。
そしてその棚の中央のスペースには、大きな手術台が据え付けてあるらしい。ごそごそと作業する白衣に白髪交じりの男の背中が邪魔でよく見えないが、スカートを履いた少女の足がちらちらと見えていた。その足を、だらだらと赤いものが伝っている様も。
「おや……?」
そして。白衣の男が、自分の背後のドアに気づいたらしい。そのまるまった背中が動き、ゆっくりとこちらを振りかえる。
「驚いた。君達は、この学校の生徒だね?よく、この地下室を見つけたねえ……?」
その男は、何も知らなければ普通の痩せた中年男のように見えたことだろう。皺が刻まれた目はにっこりとほほ笑み、一見すると優しそうにさえ思えるほどだ。だが。
その両手も、白衣の全面も、真っ赤に染まっているわけで。
男の向こうには、生きたまま腹を裂かれた少女がびくびくと体を痙攣させているわけで――。
「じゃあ、そんな優秀な君達を歓迎してあげないと。君達もぜひ付き合ってくれたまえ……究極の生物を生み出す、我が実験に!」
次の瞬間。部屋のあちこちで、硝子が割れるような音がした。棚に置かれていたガラス瓶たちに一気に罅が入ったのである。
「走れ!」
言われるまでもなく、花火は階段を駆け上り始めていた。夜空が何か呪文を唱えて白魔を牽制したようだが、逃げるのに必死でよく聞こえなかった。一度ドアを閉めた彼は、すぐに花火の後を追って階段を上ってくる。
幸い、閉じ込められるということはなかった。一階の廊下に飛び出すも、すぐに夜空に腕をひっぱられることになる。
「休んでいる暇はないぞ、少しでも地下室から遠くまで走れ!」
「わ、わかってるよ!」
廊下を走るな、なんて言ってる場合じゃない。走り出してすぐ、花火はちらりとうしろを振り返ってしまった。そしてすぐに後悔することになる。
「待てよお、待て、待てえ」
楽しげな血まみれの白衣の男が。ぞろぞろと、大小様々な怪物を引きつれて追いかけてきていたのだから。
『何故なら、相手はその怪談に擬態して襲ってくるからだ。そうすることで自分をこの世界の幽霊に見せかけると同時に、世界からの干渉を受けにくくしている』
『世界からの干渉?』
『そうだ、世界の意思とでも言えばいいのか。前に、桃太郎の世界に魔法少女が来て魔法で鬼退治をしたら物語がめちゃくちゃになってしまう……みたいな話をしだろう?それを防ぐために、異世界転移なんてものが簡単にできないように世界の壁は厚くなっているし、異世界転生するにしても必ず元の世界の記憶は失われるようにはなってるが……世界の防衛システムはそれだけじゃないんだ』
万に一つ、異世界の記憶を持って転生・転移してきた者がやってきた場合。世界は、その転生・転移者に対して強く抵抗するようにできているのだという。世界自体の意思が防衛システムを働かせている、と夜空たち退魔師は考えているようだ。
『さっきの例でいうなら、異世界転移してきた魔法少女は魔法が使えない、ただの少女になってしまったりする。もしくは、世界に大きな影響を与えないレベルの弱い魔法しか使えないくらいに弱体化するんだ。だから、実際ライトノベルのようなチート無双なんてのは現実にはまずありえないし、あってはいけない。むしろ弱くなるのが普通なんだよ。人間も魔物も、本来の力を発揮できるのは自分の生まれ故郷だけだと思っておくのが正しいんだ。まあ、ちょっとした並行世界レベルに軸の近い世界ならまだしもな』
なるほど、異世界からやってきた魔物たちが弱体化するというのは、そういう理由もあるらしい。世界に弾かれて、大きく力を削がれるのは異世界の邪神であっても同じというわけだ。
『なんとなくわかったよ。その防衛システムをある程度掻い潜る方法があるってなわけだな?それが怪談への擬態か』
『正解だ。怪談の存在、つまりこの世界の幽霊や妖怪になりすますことで人間達の眼を暗ますと同時に、世界の眼をも誤魔化しているというわけだ。擬態の完成度が高ければ高いほど、世界からの干渉が弱くなり、あまり弱体化せずに済むというわけだな。ゆえに、少なくともこの世界で完全な復活・再構築をするまでは白魔もかたくなに怪談への擬態を続けるだろう、と予想できる。なら、俺が言いたいことはわかるな』
――つまり、どの怪談に魔物がひそんでいるかわかったら……その怪談に応じた攻撃を仕掛けてくるってわけだな。それを予想しておけ、と。
昨日襲ってきた体育倉庫裏の式魔も、体育倉庫から遠く離れたらもう襲ってこなかった。あれは、追いかけることで怪談の範疇を大きく外れることで、世界に見つかることを恐れた結果だというわけだ。
――うう、そう思うと……この“あるはずのない地下への階段”ってめちゃくちゃ厄介な怪談なんじゃね……!?
本体は恐らく、マッドサイエンティストの先生とやらに化けているのだろうが(そんなもの実際にいなかったかもしれないというのに)、その攻撃の種類が性質に応じたものになりそうで非常に恐ろしい。メスとか実験道具を使って攻撃してくるだけではすまない。多分、生物兵器などを操って襲撃してくるだろう。どれだけゾンビ系ホラーなものがお目見えするか、わかったものではない。
しかし、行くと決めたのは自分なのだ。花火は気が進まないと思いつつ、ゆっくりとオレンジ色のランプが灯る階段を降りていった。
「敵は、地下室に降りるまでは攻撃してこないだろう。ただ、今度の怪談は相手が本体な上、物語の性質上地下室から俺達が逃げても追いかけてくる可能性が高い」
「なんで」
「怪談の内容をもう一度よく思い出してみろ」
「う」
『その先生は隠された地下室に迷い込んでしまった生徒を、口封じも兼ねて次々と実験材料にしていったんだって。……最終的には実験の失敗で本人も死んじゃって、残酷な実験の痕跡が生々と残る地下室は完全に封印されたんだけども……』
――理解した。マッドな先生は、地下室の存在を隠すために次々と生徒を実験材料にしてったっつー設定。そりゃ、地下室に来た生徒は死ぬ気で口封じしようとするわな……!
とはいえ、地下室はやばい生物でいっぱいである可能性が非常に高いのでは。花火が言うと、その通り、と夜空も頷く。
「だから、地下室に降りて奴に見つかったら、即座に階段を逆走して校舎に戻るぞ。この時間ならもう先生以外に生徒はいないし、先生達も状況を知っているから職員室の外に出てこないはずだ。多少学校の壁やらモノやら壊しても構わない、気にせず廊下で戦え」
「うう、了解……」
もう腹を括るしかない。そうこうしているうちに、地下室のドアの前まで到着してしまった。古ぼけた木製のドアが見える。その前に立った瞬間、おぞましい声が聞こえてきた。中年くらいの、ややしゃがれた男性の声と――小さな少女らしき呻き声だ。
『ううう、うううううう!』
『ほら、大人しくしたまえ。手元が狂ってしまうじゃないか』
『うう、うううううううううう!』
『麻酔をかけると、痛みによる反射行動が見えないからやりたくないんだよ、理解してくれたまえ。君もせっかくならよーく見るがいい、自分のお腹の中身がどうなっているのかをね』
『ふぐ、ふぐうううううううううううううううううううううう!』
『猿轡をかませているのに、人間は存外声が出るものだ。というか、腹筋を切除していてもある程度声は出せるものなのだなあ。それに……おお、綺麗なピンク色の管だ。君も見たまえ。理科の授業でやっただろう?この中を君の食べたものが通って、うんちになってお尻から排泄されるんだ。こうしてほら、ふにふにと揉んでやると……』
『ん、んんんんんんんんんんんんんんん!!』
『ほら、よく動く。実に健康的でよろしい。うんちがいっぱい詰まってそうだね、中身をよく見てみようねえ』
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教師とおぼしき男の喋り方が、まるで小さな子供に授業を教えるかのように慈しみに満ちているのがますますサイコだとしか思えない。
「こんなものは珍しくもなんともない。安心しろ、本当に今誰かが捕まっているわけじゃない。全て、白魔が怪談通りに擬態して演じているだけだ」
が、吐き気をこらえているのは花火だけであるようだった。夜空は平気な顔で、あっさりと言い放ってみせる。
「少なくとも今回は、本物の死体を目にしなくて済むだけマシなんだよ。これくらいで吐きそうになってたらもたないぞ」
そんなこと言われても。眼で訴えるも、夜空は聞く耳を持つ気はないらしい。あっさりと木製のドアノブに手をかけ、回した瞬間。
『ふぐ、ぐ!ううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!』
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『だから暴れるなと言ったのに……大きな血管を傷つけてしまったじゃないか。これは、長持ちしそうにないなあ。輸血用のパック、B型はまだ残っていたかねえ……』
そして、ドアがゆっくりと開いていく。その向こうにあったものは、想像以上に凄惨な光景だった。
「ええっと、輸血輸血……」
狭い部屋だった。精々広さは八畳間よりもう少し広いくらいだろうか――奥にもう一部屋あるようだ。窓のない地下室の左右の壁には棚があり、ずらずらと大量の硝子瓶が並んでいる。薬のラベルが貼ってあるものもあるが、中には何の肉塊かもわらないものが浮いていたり、人糞のようなものが水の中で浮いている気持ち悪いものもあった。他には目玉が一つしかないネズミが入っているものや、大量の毛虫がつまっているものまで。よく観察する勇気もないが、赤ん坊くらいはは入れそうなほどの大きなビンもあるようだった。
そしてその棚の中央のスペースには、大きな手術台が据え付けてあるらしい。ごそごそと作業する白衣に白髪交じりの男の背中が邪魔でよく見えないが、スカートを履いた少女の足がちらちらと見えていた。その足を、だらだらと赤いものが伝っている様も。
「おや……?」
そして。白衣の男が、自分の背後のドアに気づいたらしい。そのまるまった背中が動き、ゆっくりとこちらを振りかえる。
「驚いた。君達は、この学校の生徒だね?よく、この地下室を見つけたねえ……?」
その男は、何も知らなければ普通の痩せた中年男のように見えたことだろう。皺が刻まれた目はにっこりとほほ笑み、一見すると優しそうにさえ思えるほどだ。だが。
その両手も、白衣の全面も、真っ赤に染まっているわけで。
男の向こうには、生きたまま腹を裂かれた少女がびくびくと体を痙攣させているわけで――。
「じゃあ、そんな優秀な君達を歓迎してあげないと。君達もぜひ付き合ってくれたまえ……究極の生物を生み出す、我が実験に!」
次の瞬間。部屋のあちこちで、硝子が割れるような音がした。棚に置かれていたガラス瓶たちに一気に罅が入ったのである。
「走れ!」
言われるまでもなく、花火は階段を駆け上り始めていた。夜空が何か呪文を唱えて白魔を牽制したようだが、逃げるのに必死でよく聞こえなかった。一度ドアを閉めた彼は、すぐに花火の後を追って階段を上ってくる。
幸い、閉じ込められるということはなかった。一階の廊下に飛び出すも、すぐに夜空に腕をひっぱられることになる。
「休んでいる暇はないぞ、少しでも地下室から遠くまで走れ!」
「わ、わかってるよ!」
廊下を走るな、なんて言ってる場合じゃない。走り出してすぐ、花火はちらりとうしろを振り返ってしまった。そしてすぐに後悔することになる。
「待てよお、待て、待てえ」
楽しげな血まみれの白衣の男が。ぞろぞろと、大小様々な怪物を引きつれて追いかけてきていたのだから。
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