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<13・解答。>
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相変わらず、勝手に話を進める輩である。行くべき場所は一箇所だけって、一体今の話のどのへんを聞いてそう思ったのか。
「あたしを置いて納得すんなよ。……今の話だけで、何で五つの怪談のうち、一つだけに行けばいいと思ったんだ」
花火がむすっとして尋ねると、夜空は“本気でわかってないのか”と目を丸くした。
「……頭を使うのが得意ではなさそうだと思ったが、もう少し動かす訓練をした方がいいぞ。戦いになったら、戦闘考察力もないと生き残れないんだから」
「へいへいへいへい!どうせあたしはあんたみたいに頭良くないですよ、悪うございましたね!!イヤミぬかしてねーでさっさと答え教えろやゴラ!」
「デカい上に口も悪いとモテないぞお前。ヤクザか」
「お前は一言どころか二言も三言も多いなオイ!」
このへらず口がなければイケメンだし目の保養に違いないというのに!とムカムカする花火である。やがて夜空は諦めたように、ため息をついて告げた。
「ホラーゲームや、ホラー小説、ホラー漫画で不思議に思ったことはないか。何でよってこいつら、夜に呪われた洋館に行くんだ、と。肝試しやお化けの撮影目的ならともかく、人探しだったり別の目的なのに何故か夜に行きたがる。まるで、怖い思いをするのが狙いと言わんばかりだ」
「あー、まあ……それは思ったことあるけど、仕方ないんじゃね、メタ的に。明るい昼間に呪われた洋館探索しても怖くならないだろ」
「そうだ、そういう理由だろう。……でもそういうのはフィクションの中であって、現実ではナンセンスだと思わないか?」
どういうこと、と言いかけて花火も気づいた。そういえば、美郷はなんでわざわざ七不思議スポットに、忘れ物を取りに行った七時半以降の時間に向かったのだろうか、と。
今の時期は日が落ちるのが遅い。とはいえ七時半ならば、ほとんど夜に近いくらい空も暗くなっていたはずだ。肝試しがしたかったわけではないのなら、夜に確認する意味はないが。
「美郷が、わざわざ夜にその場所に行った理由があるってこと、だよな?」
ただ七不思議スポットを確認するだけならば、忘れ物のついでに行く必要がない。学校に通っている昼間とか放課後に確認しにいってもいいはずだ。
もちろん、彼女は退屈な日常にちょっとした刺激を求めていたようだし、怖いもの見たさにわざわざ夜行った可能性も否定はできないのだが――。
「あ」
『で、それ以来掃除の時間に廊下で走ると、彼の幽霊に取り憑かれてしまうんだってさー。永遠に終わらない廊下に閉じ込められて、永遠に走らされ続けるんだと。場所は学校の廊下全般だろうな、正確に何処って明言されてないから』
一つ目の、“永遠に続く廊下”の解説をした自分の台詞を思い出した。
この怪談は、幽霊に憑りつかれる、つまり遭遇する時間が決まっている。つまり、掃除の時間、だ。この学校では掃除は毎日やるものではないので、特定の曜日の、特定の昼過ぎの時間ということになってくる。つまり、夜に実行しても意味がないのだ。
「理解したか?」
夜空が肩をすくめて言った。
「お前が教えてくれた七不思議の、“怪異に遭遇できる時間”を思い出してみろ。……夜に見つけることができそうなのは、一つだけだろう?」
『放課後に一階の男子トイレに一人でいると、かけっこの練習をしている少年を目撃することがあるらしい。洗面所の入り口から、クラウチングスタートで勢いよく窓の方まで走っていって、すーっと消えていくんだと。そいつを見た人は足が速くなってかけっこで一番になれる代わりに早死するようになるって言われてるって』
『で、手紙が入れられた放課後……特に逢魔時の時間。呪われた下駄箱の前に女子が行くと、中から腕が伸びてきて首を締められるって話。ものすごく作り話っぽいんだよなこれ』
『地下室を見つけてしまった人は、誘い寄せられるように地下の階段を降りてしまう。そして人体実験に使われて化け物になり、二度と人間に戻れなくやるって話だぜ』
『……場所は一階の廊下のどこか、時間は夜の七時以降…でいいんだな?』
『ああ』
『恋人を失った少女は両親を憎み……両親を殺して自害した。以来、窓際には処分されたはずのホワイトボードか立てかけてあることがあるんだって。それには、彼女の恨みがこもった真っ赤な文字がいっぱいに書かれてて、見た人が呪われるんだとさ』
『四階の突き当りの窓だったな。北と南、どっちだ?それとホワイトボードが出現する時間は?』
『北の奥の窓らしいぞ。時間は……あー、やり取りしてたのが早朝だったから、早朝に出現することが多いって、莉紗が言ってたような』
永遠に続く廊下、は掃除の時間。
男子トイレから走り去る少年、は放課後。
下駄箱で掴まれる腕、は逢魔時。
あるはずのない地下への階段、は夜の七時以降。
窓際の赤いメッセージ、は早朝。
つまり――夜に怪異に遭遇できる可能性がある場所は、“あるはずのない地下への階段”だけということになるのである。
逢魔時というのが正確に何時だったかは忘れたが。確か夕方の、五時とか六時であったのではなかっただろうか。少なくとも七時以降ではなかったはずである。
「基本的にこの手の怪談は、子供達が面白がって作るものか、先生が子供達に教訓を与えるために作られる。永遠に続く廊下、なんかがいい例だ。これは恐らく、廊下を走って事故が起きないように先生達が作って流した噂だと考えられるからな」
「うん、それはあたしも思う。……そっか、だから放課後とか掃除の時間とか、生徒が学校に普通にいる時間が舞台になるのか。夜遅い時間に学校に来る用事って、忘れ物くらいしかねーもんな」
「そうだ。それに、そんな時間に怪談作ってみろ。面白がった生徒が学校にこっそり侵入してトラブルを起こしたりするじゃないか。先生達としても困るはずだ。それならまだ、朝早い時間に学校に来られた方がマシだろう」
「い、言われてみれば」
確かに、そういう“怪談を流したがる側”の事情を鑑みるなら、夜を舞台にした七不思議があること事態が異様といえば異様である。それに、内容がまるで先生というものそのものを悪者にしたいようなものだ。学校側としても、あまり看過したくない類の怪談なのではなかろうか。
それなのに、花火がちょっと調べただけで噂話として出てきたということは――そうとう根強く子供達人気があるか、噂が流れ続けているということに他ならないのである。
「その怪談が、恐らく白魔によっても都合が良かったんだろう。一部の生徒や教員に術をかけて、噂を白魔自身が流し続けている可能性もある。……いずれにせよ、この怪談の場所に白魔が潜んでいる可能性が高い」
そこまで語ると、彼はちらりと時計を見て立ち上がった。
「今日の夜の七時前、正門で待ち合わせ。うまく親を言いくるめて来い、いいな?」
「あ、ちょ」
「顔洗ってくる」
確かに話は理解したが、それで切り上げられては困る。教室を出て行こうとする夜空の左腕を、花火は慌てて掴んだ。
「――っ!」
え、と思ったのは。ポーカーフェイスに見えた夜空の顔が一瞬歪んだからだ。自分に障られたのがそんなに嫌だったのか?少しむっとしたものの、彼はいつものイヤミを言うこともなく“何だ”と返してきた。一瞬見えた怖い表情は、もうそこにはなかった。
「い、いや、何だ?じゃねえって!あたし、敵と戦う技とかなんも持ってないぞ!?必殺技とか、特別なアイテムとか何かねーの?」
「なくはないが、訓練していないお前にはまず使えないだろ。お前は敵が出てきたら、体育倉庫裏の時と同じように拳と蹴りで戦って相手を引きつけておいてくれればそれでいい。お前が囮になってる間に、俺が白魔にダメージを負わせて門の向こうに置い返し、門を封じる。安心しろ、昨日の様子からして今のお前でも式魔相手なら無傷で時間稼ぎくらいはできるだろ」
「結構無茶言ってくれてんなオイ!」
人をいきなり囮役にするな!と思う。こっちはそういう経験なんか一切ない、普通の女子小学生だというのに。まあ、夜空も小学生ではあるけれど。
――き、昨日のアレとまた戦うってだけで本当は気が進まないのに……!
今まで花火が“おばけなんかこわくない”スタンスでいられたのは、そういうものが存在しないと思い込むことで恐怖を誤魔化せていたからというのもあるのだ。――実際に、人あらざるモノが存在していると知ってしまった今、ビビらずに立ち向かえる自信は正直ないのである。
それでも今ここにいるのは、既に目をつけられていて逃げられないっぽいことと、美郷を助けたいという一心、そしてそれを麻巳子と莉紗に約束してしまった意地があるからに過ぎない。
「……仕方ない、気休めでしかないが、これを渡しておく」
流石に、素人に無理を言っているという自覚があったのか。やや呆れながらも、夜空はポケットから小さな銀色の何かを取り出してきた。それは、銀色の長剣の形をした掌サイズのキーホルダーである。なかなかクールでかっこいいデザインだが、お守りだろうか。
「これは?」
「騎士の剣。どうせ、お前にはまだ使えないだろうけどな。ポケットに入れて持ち歩くか、ズボンのベルトにでもひっかけておけ」
「剣って、こんなちっこいのがかよ!?」
「馬鹿。銃刀法に引っかかるししかさばるだろうが。基本はこういうアイテムは小さくして持ち歩けるようにしてあるんだよ。騎士はみんな、自分だけの特別な武器を持っている。剣は一番オーソドックスな武器だ。訓練して、この小さくしたやつに自分の生命エネルギーを注ぎ込めるようになると……使用可能な大きさに戻る仕組みになってるんだよ」
「うへえ……」
なんとも便利ですこと。とりあえず、彼からキーホルダーを受け取って自分のズボンのベルトにひっかけておくことにする。ランドセルにつけておくと、いざという時に手元にないという事態になりそうだったからだ。まあ、確かに今すぐ使えるようなアイテムではないだろうが。
「どうしても困ったら、神頼みのつもりでそれに気を込められるように頑張ってみろ。まあ、そんな事態になったらお前より先に俺が死んでそうだけどな」
「……物騒なこと言うのやめろよ。そういうの、冗談でも嫌いだ」
真顔でそう言い放ってやれば、夜空は何も答えず“それじゃあ”と言って今度こそ教室を出ていったのだった。
「放課後、よろしく。やると決めたからには、逃げるなよ?」
「あたしを置いて納得すんなよ。……今の話だけで、何で五つの怪談のうち、一つだけに行けばいいと思ったんだ」
花火がむすっとして尋ねると、夜空は“本気でわかってないのか”と目を丸くした。
「……頭を使うのが得意ではなさそうだと思ったが、もう少し動かす訓練をした方がいいぞ。戦いになったら、戦闘考察力もないと生き残れないんだから」
「へいへいへいへい!どうせあたしはあんたみたいに頭良くないですよ、悪うございましたね!!イヤミぬかしてねーでさっさと答え教えろやゴラ!」
「デカい上に口も悪いとモテないぞお前。ヤクザか」
「お前は一言どころか二言も三言も多いなオイ!」
このへらず口がなければイケメンだし目の保養に違いないというのに!とムカムカする花火である。やがて夜空は諦めたように、ため息をついて告げた。
「ホラーゲームや、ホラー小説、ホラー漫画で不思議に思ったことはないか。何でよってこいつら、夜に呪われた洋館に行くんだ、と。肝試しやお化けの撮影目的ならともかく、人探しだったり別の目的なのに何故か夜に行きたがる。まるで、怖い思いをするのが狙いと言わんばかりだ」
「あー、まあ……それは思ったことあるけど、仕方ないんじゃね、メタ的に。明るい昼間に呪われた洋館探索しても怖くならないだろ」
「そうだ、そういう理由だろう。……でもそういうのはフィクションの中であって、現実ではナンセンスだと思わないか?」
どういうこと、と言いかけて花火も気づいた。そういえば、美郷はなんでわざわざ七不思議スポットに、忘れ物を取りに行った七時半以降の時間に向かったのだろうか、と。
今の時期は日が落ちるのが遅い。とはいえ七時半ならば、ほとんど夜に近いくらい空も暗くなっていたはずだ。肝試しがしたかったわけではないのなら、夜に確認する意味はないが。
「美郷が、わざわざ夜にその場所に行った理由があるってこと、だよな?」
ただ七不思議スポットを確認するだけならば、忘れ物のついでに行く必要がない。学校に通っている昼間とか放課後に確認しにいってもいいはずだ。
もちろん、彼女は退屈な日常にちょっとした刺激を求めていたようだし、怖いもの見たさにわざわざ夜行った可能性も否定はできないのだが――。
「あ」
『で、それ以来掃除の時間に廊下で走ると、彼の幽霊に取り憑かれてしまうんだってさー。永遠に終わらない廊下に閉じ込められて、永遠に走らされ続けるんだと。場所は学校の廊下全般だろうな、正確に何処って明言されてないから』
一つ目の、“永遠に続く廊下”の解説をした自分の台詞を思い出した。
この怪談は、幽霊に憑りつかれる、つまり遭遇する時間が決まっている。つまり、掃除の時間、だ。この学校では掃除は毎日やるものではないので、特定の曜日の、特定の昼過ぎの時間ということになってくる。つまり、夜に実行しても意味がないのだ。
「理解したか?」
夜空が肩をすくめて言った。
「お前が教えてくれた七不思議の、“怪異に遭遇できる時間”を思い出してみろ。……夜に見つけることができそうなのは、一つだけだろう?」
『放課後に一階の男子トイレに一人でいると、かけっこの練習をしている少年を目撃することがあるらしい。洗面所の入り口から、クラウチングスタートで勢いよく窓の方まで走っていって、すーっと消えていくんだと。そいつを見た人は足が速くなってかけっこで一番になれる代わりに早死するようになるって言われてるって』
『で、手紙が入れられた放課後……特に逢魔時の時間。呪われた下駄箱の前に女子が行くと、中から腕が伸びてきて首を締められるって話。ものすごく作り話っぽいんだよなこれ』
『地下室を見つけてしまった人は、誘い寄せられるように地下の階段を降りてしまう。そして人体実験に使われて化け物になり、二度と人間に戻れなくやるって話だぜ』
『……場所は一階の廊下のどこか、時間は夜の七時以降…でいいんだな?』
『ああ』
『恋人を失った少女は両親を憎み……両親を殺して自害した。以来、窓際には処分されたはずのホワイトボードか立てかけてあることがあるんだって。それには、彼女の恨みがこもった真っ赤な文字がいっぱいに書かれてて、見た人が呪われるんだとさ』
『四階の突き当りの窓だったな。北と南、どっちだ?それとホワイトボードが出現する時間は?』
『北の奥の窓らしいぞ。時間は……あー、やり取りしてたのが早朝だったから、早朝に出現することが多いって、莉紗が言ってたような』
永遠に続く廊下、は掃除の時間。
男子トイレから走り去る少年、は放課後。
下駄箱で掴まれる腕、は逢魔時。
あるはずのない地下への階段、は夜の七時以降。
窓際の赤いメッセージ、は早朝。
つまり――夜に怪異に遭遇できる可能性がある場所は、“あるはずのない地下への階段”だけということになるのである。
逢魔時というのが正確に何時だったかは忘れたが。確か夕方の、五時とか六時であったのではなかっただろうか。少なくとも七時以降ではなかったはずである。
「基本的にこの手の怪談は、子供達が面白がって作るものか、先生が子供達に教訓を与えるために作られる。永遠に続く廊下、なんかがいい例だ。これは恐らく、廊下を走って事故が起きないように先生達が作って流した噂だと考えられるからな」
「うん、それはあたしも思う。……そっか、だから放課後とか掃除の時間とか、生徒が学校に普通にいる時間が舞台になるのか。夜遅い時間に学校に来る用事って、忘れ物くらいしかねーもんな」
「そうだ。それに、そんな時間に怪談作ってみろ。面白がった生徒が学校にこっそり侵入してトラブルを起こしたりするじゃないか。先生達としても困るはずだ。それならまだ、朝早い時間に学校に来られた方がマシだろう」
「い、言われてみれば」
確かに、そういう“怪談を流したがる側”の事情を鑑みるなら、夜を舞台にした七不思議があること事態が異様といえば異様である。それに、内容がまるで先生というものそのものを悪者にしたいようなものだ。学校側としても、あまり看過したくない類の怪談なのではなかろうか。
それなのに、花火がちょっと調べただけで噂話として出てきたということは――そうとう根強く子供達人気があるか、噂が流れ続けているということに他ならないのである。
「その怪談が、恐らく白魔によっても都合が良かったんだろう。一部の生徒や教員に術をかけて、噂を白魔自身が流し続けている可能性もある。……いずれにせよ、この怪談の場所に白魔が潜んでいる可能性が高い」
そこまで語ると、彼はちらりと時計を見て立ち上がった。
「今日の夜の七時前、正門で待ち合わせ。うまく親を言いくるめて来い、いいな?」
「あ、ちょ」
「顔洗ってくる」
確かに話は理解したが、それで切り上げられては困る。教室を出て行こうとする夜空の左腕を、花火は慌てて掴んだ。
「――っ!」
え、と思ったのは。ポーカーフェイスに見えた夜空の顔が一瞬歪んだからだ。自分に障られたのがそんなに嫌だったのか?少しむっとしたものの、彼はいつものイヤミを言うこともなく“何だ”と返してきた。一瞬見えた怖い表情は、もうそこにはなかった。
「い、いや、何だ?じゃねえって!あたし、敵と戦う技とかなんも持ってないぞ!?必殺技とか、特別なアイテムとか何かねーの?」
「なくはないが、訓練していないお前にはまず使えないだろ。お前は敵が出てきたら、体育倉庫裏の時と同じように拳と蹴りで戦って相手を引きつけておいてくれればそれでいい。お前が囮になってる間に、俺が白魔にダメージを負わせて門の向こうに置い返し、門を封じる。安心しろ、昨日の様子からして今のお前でも式魔相手なら無傷で時間稼ぎくらいはできるだろ」
「結構無茶言ってくれてんなオイ!」
人をいきなり囮役にするな!と思う。こっちはそういう経験なんか一切ない、普通の女子小学生だというのに。まあ、夜空も小学生ではあるけれど。
――き、昨日のアレとまた戦うってだけで本当は気が進まないのに……!
今まで花火が“おばけなんかこわくない”スタンスでいられたのは、そういうものが存在しないと思い込むことで恐怖を誤魔化せていたからというのもあるのだ。――実際に、人あらざるモノが存在していると知ってしまった今、ビビらずに立ち向かえる自信は正直ないのである。
それでも今ここにいるのは、既に目をつけられていて逃げられないっぽいことと、美郷を助けたいという一心、そしてそれを麻巳子と莉紗に約束してしまった意地があるからに過ぎない。
「……仕方ない、気休めでしかないが、これを渡しておく」
流石に、素人に無理を言っているという自覚があったのか。やや呆れながらも、夜空はポケットから小さな銀色の何かを取り出してきた。それは、銀色の長剣の形をした掌サイズのキーホルダーである。なかなかクールでかっこいいデザインだが、お守りだろうか。
「これは?」
「騎士の剣。どうせ、お前にはまだ使えないだろうけどな。ポケットに入れて持ち歩くか、ズボンのベルトにでもひっかけておけ」
「剣って、こんなちっこいのがかよ!?」
「馬鹿。銃刀法に引っかかるししかさばるだろうが。基本はこういうアイテムは小さくして持ち歩けるようにしてあるんだよ。騎士はみんな、自分だけの特別な武器を持っている。剣は一番オーソドックスな武器だ。訓練して、この小さくしたやつに自分の生命エネルギーを注ぎ込めるようになると……使用可能な大きさに戻る仕組みになってるんだよ」
「うへえ……」
なんとも便利ですこと。とりあえず、彼からキーホルダーを受け取って自分のズボンのベルトにひっかけておくことにする。ランドセルにつけておくと、いざという時に手元にないという事態になりそうだったからだ。まあ、確かに今すぐ使えるようなアイテムではないだろうが。
「どうしても困ったら、神頼みのつもりでそれに気を込められるように頑張ってみろ。まあ、そんな事態になったらお前より先に俺が死んでそうだけどな」
「……物騒なこと言うのやめろよ。そういうの、冗談でも嫌いだ」
真顔でそう言い放ってやれば、夜空は何も答えず“それじゃあ”と言って今度こそ教室を出ていったのだった。
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