イービル・ゲート~退魔師・涼風夜空~

はじめアキラ

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<8・協力。>

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 大混乱。頭の中をまとめるためだけで精一杯。そんな花火に、最後の最後でかけられたなにやらとんでもない言葉。

「……へ?」

 今。自分に協力しろとと言ったのか、この男は?

「な、何故にそのようなことになったのですか?」
「何で敬語だ」
「う、うるせーよ!ぶっちゃけ話についていけてないんだよこっちは!」

 見てしまったモノがモノなので、オカルトやファンタジーも信じなければならない状態ではある。とにかく、非日常的で非科学的な事件が起きていることだけは間違いない、実際に自分が襲われたのだから。
 でもだからといって、何で花火に手伝えと、そういう話になってくるのか。

「異世界へ続く門が開いている。そこから出てきたモノがどういう存在か、お前だって見たはずだ。あれを野放しにしていいと思うのか?」
「そ、それは……!でも、お前がいるだろ。お前がそれを塞ぐためにやってきたんだろ?ならあたしみたいに、特別な術なんか何も使えない素人の手を借りる必要があるのかよ?」
「ある。というか、お前は気づかないうちにその“特別な術”とやらを使っているぞ」
「んあ?」

 こてん?と首を傾げる花火。本当に気付いていなかったのか、と夜空はやや呆れ気味に言う。

「異世界からやってくる魔物には何種類かいるが……過去に退魔師たちが、学校などの施設の下に封印して回った魔物は皆同じタイプの存在だ。生まれつき肉体がない、魂だけの怪物なんだよ。そんなものに普通の物理攻撃はほとんど効かない。幽霊みたいにするっと抜けてしまうことさえある。……その連中を、拳でぼこすかと殴り飛ばしていたのはどこのどいつだ?」
「え」

 まさか、と花火は自分の拳を見る。あの怪物は、ゾンビと同じように物理攻撃が効くタイプだとばかり思っていた。しかし実際は、そういうわけではなかったのか?自分が特別だったから、だとでも?

「魂だけの怪物に攻撃を通すことができるのは、自分の持つ生命エネルギーを操ってぶつける手段を持っている者だけだ。そう、退魔師と……その騎士くらいなもの」
「騎士……」



『せっかく見つけた騎士に、こんなところで死なれるなんて冗談じゃない。仕方ないから、助けてやるよ』



 助けてくれた時の、夜空の言葉を思い出す。ここでようやく話が繋がるというわけらしい。

「退魔師ってのは、お前の説明でなんとなく想像がついたよ。魔法みたいな力を使って、魔物と戦うってんだろ?じゃあ騎士ってのは?つか、あたしのことを見つけたって」

 まるで、花火が騎士だったから助けてやったみたいな口ぶりだったので、どうしても気になっていたのである。まったく身に覚えがなかったから当然だ。

「通常、退魔師の仕事は……退魔師と騎士の二人一組で行うものなんだ。ただ、その騎士は退魔師が自ら見つけてスカウトしなくちゃいけない。それが、一人前の退魔師として認められるための最後の修行みたいなものなんだよ」

 はあ、とこめかみを抑えて夜空が言った。

「俺は、退魔師としての最終過程を六歳でほぼ修了した……のに、騎士が六年も見つからなくて一人前の免許を貰えなかったんだ。こればっかりは運でしかない。騎士の能力を持つ人間は、退魔師と同じくらいレアだからな。まあ、騎士の力なしで今まで事件は解決してしまったんだが」
「幼稚園児でほぼプロってすごくね!?……って、それでまさか」
「そうだ、やっと見つけた。お前は騎士の力があるし、しかもそれを無自覚に使えている。拳や蹴りに自分の生命エネルギーを乗せて打つ方法を本能的に知っていて実行しているんだ。勿論、騎士として本格的に戦うなら、きちんと技や武器の修行も必要になってくるが……当面の戦力としては申し分ない。というわけで、俺と組んで奴らと戦え」
「いやいやいやいやいやいやいやいや!」

 何で命令形なんだよ!というところもツッコミたいが。せっかくピンチを脱出したと思った矢先に、何で自ら危険に飛び込んでいく話になっているのか。思わず首をぶんぶんぶんぶん!と回転する勢いで横に振りまくる花火である。

「なんでやねん!さっきの奴らと戦うって、命がけだろ!?ちょっとボコったりできたくらいで、何でそんな謎バトルにあたしが参戦しなくちゃいけねーんだよ!お前のさっきの力だけで充分じゃん!」

 断固拒否!を示すと。夜空は“わかってないな”と言わんばかりに肩をすくめた。

「そんな簡単な話なら苦労はない。退魔師はそもそも後方支援役なんだ。遠距離中距離から魔法を使う、黒魔導師みたいなもの。RPGとかやらないのか?前衛で殴る勇者とかモンクみたいなジョブがいないと困るだろ。魔法詠唱している時間にやられるだろうが」
「そ、その理屈はわからないでもないけど……!」
「基本的には、騎士が戦って時間を稼いでいる間に、退魔師がうしろで門を封印したり、トドメを刺す魔法を唱えるっていうのが基本的なバトルスタイルなんだ。さっきはあの魔物が俺の力を知らなかったから先手を打って攻撃してこなかっただけ。俺一人だったら、術を打つ前に倒されてるよ」
「ま、マジで……」
「そもそも、俺がお前みたいに体力や筋力があるタイプに見えるのか。自慢じゃないが紙装甲だ。ザコレベルの魔物に殴られただけでも致命傷になりかねないし、簡単に気絶する」
「そんな自慢げに言うなっつーの!」

 まあ確かに、花火よりもよほど小柄だし華奢に見える少年である。成長したら男らしい体格になるのかもしれないが、少なくとも今は“実は貧乳の女の子です”と言ってもまったく疑われることはないくらいだろう。声も高いから尚更に。

「あたしには無理だって!お前が来なかったら、囲まれて殺されてたかもしれないくらいなんだから!そりゃ、ああいう怪物が学校にのさばってるとなったら怖いと思うし、なんとかしたい気持ちはあるけど、でも……」

 と、そこまで言ったところで、ようやく花火は気が付いた。そもそも自分はどうして体育倉庫の裏手に行った?言うまでもなく、七不思議を調べるためだ。何故七不思議を調べようとしたのか?それは――いなくなった友人の、球磨美郷を探すためだ。美郷が七不思議に関わっていなくなったかもしれないと聞かされたために、その手がかりがないかと思ってひとまず自分が知っている七不思議のスポットにやってきたのである。
 ということは、もしや。

「……まさか、美郷が消えたことと、その異世界からのモンスターがこの世界に来てることって……関係があるのか?」
「そこの至るまで遅すぎるだろ。もう少し頭の回転早くしろ、デカ女」
「その呼び方すんじゃねえよ!それが人にものを頼む態度か!?」

 自分はデカ女って名前じゃない!とぷんぷんする花火である。が、どうやら、美郷が消えたことと、異世界のモンスターの存在は無関係ではないということだったらしい。

「球磨美郷の親は、警察に届けを出すのを渋っているようだが……仮に警察の助力があっても、彼女を見つけることはできないだろう。警察の中に退魔師がいれば話は別だろうが」

 嘘だろ、としか言いようがない。それはつまり、美郷を自分の手で助け出したいのならば、夜空に協力するしかないということではないか。

「本当の本当に、美郷は異世界の奴に……?」
「十中八九間違いない。裏を返せば、まだ取り戻すことができる可能性はある。今、この学校に来ているのは“|《白魔ハクマ》”と呼ばれる魔物だ。さっき見たのはその式神である“式魔シキマ”だったから……本体はまだどこかに隠れ潜んでいるんだろう。七不思議のどれかに擬態していると見ている。だから、俺はお前に七不思議に関わるなと言ったんだ、理解したか」
「うう……」

 ちなみにゲートの向こうに追放された魔物たちは、基本的に色の名前をつけられて識別される傾向にあるらしい。白魔、というのは本体とその式が白い色で見えることが多いから名づけられた名前なのだ、と夜空は教えてくれた。

「お前は友達に約束したんだろう、自分の手で球磨を助けると。……それならよく考えた方がいい。俺の助力なしで、一人であいつらを倒せると思ってるのか?まあ、お前が約束を反故にして、シッポ巻いて逃げるというなら止めないが」
「ああ、もう!お前なんでそういちいち癪に障る言い方すっかなあ!」

 そう言われてしまっては、美郷も後には退けない。自分にも意地があるのだから。

「わかったよ、お前の言う通りにすればいいんだろ!」
「懸命な判断だ。ちなみに、白魔にもお前が騎士候補なのはバレただろうから、俺に協力しなくても積極的に狙われただろうけどな。この学校に通う限り」
「がー!そういうことは早く言えよ、結局逃げられないんじゃねーか!」

 それならどっちみち戦うしかないではないか。こうなったらやけっぱちだ、と花火はベンチから立ち上がった。ぐいっとお茶の残りを飲みほして、夜空に問う。

「で、それでお前はあたしに何をしろっつーんだよ!言っておくけど、マジであたしは、さっきレベルのことしかできないんだからな?期待すんなよ!?」

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