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<3・転入。>
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「えっと、紹介します。涼風夜空君です。仲良くしてあげてくださいねー」
「涼風夜空、です。よろしく」
先生がにこやかに言う。少年がぺこりと頭を下げてきた。途端、女子陣から絶叫にも似た声が響き渡る。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかんわいいいいいいいいいい!!」
「何処から来た!?何処から来たの!?ねえねえねえねえ!!」
「声も綺麗だ……まだ声変わりしてない系男子……」
「私の隣にどうぞどうぞどうぞおおおおおお!」
「はい!パンツの色教えてっ!あとトランクス派?ブリーフ派?それ以外派!?」
「萌え」
「うわぁぁぁぁんイケメンに飢えてたんだよおおとおおおとおおおおおおおおおおおおお!」
「ジェニーズ系だと……憎い、憎いぞ」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「うおおおあおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「このクラスに潤いがっ……潤いがぁっ!」
「おいそれどういう意味だよ!?」
「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」
「よろしくねえええええええええ!!」
花火は思った。このクラスは猛獣の群れかなにかなのか?そうなのか?と。
――さ、騒ぎすぎじゃね?あと、一部やばい叫びが混じってたような気がするのは気のせいだと思いたい!
とりあえず恨みの声をぶつけた男子とパンツの色訊いた変態は誰だよ、花火は白目を剥きたくなる。そして恐ろしいことに、当の夜空は全く微動だにしていない。慣れてるのかお前?そーなのか?
「はい、みんな静かにしてねー。元気すぎると他のクラスに迷惑ですよー」
そして、それを元気すぎる、で片付ける千代田先生もかなりの猛者である。手をパンパンと叩いて皆を黙らせると、夜空に席を指示した。少女漫画ならば、しれっと花火の隣が空いていてそこにイケメンが!となるのだろうが。生憎、この世界は少女漫画ではないし、花火はそのヒロインなんて柄ではない。彼が座った席は、花火の斜め前の席だった。
ちなみに、花火はほぼ席が一番うしろの列から動いたことがない。デカすぎて、後ろの子の邪魔になってしまうからである。視力も両方2.0以上あるのでなんら問題はないのだった。
――こりゃ、今日の休み時間から大変だな。お気の毒様。
きっと、イケメン大好きな女子達に囲まれて大わらわだろう。うちのクラスは人数的にも女子が多く、癖の強いメンバーも揃っているために圧倒的に男女のパワーバランスが偏っているのである。哀れな男子が女子に泣かされる場面をすでに何度見たことが。まだ六年生になって一ヶ月ちょいだというのに。
「それでは、転校生の紹介が終わったので……悪いニュースの方を話きますね。実は……」
そしてクラスのざわつきが少しマシになったところで、先生が切り出したのだった。
予想通り、球磨美郷がいなくなった件である。美郷の親は結構体面を気にするタイプだった。案の定、まだ捜索願は出していないらしい。さすがに今日帰ってこないようなら検討すると言っているようだが。
――中高生の不良少女がいなくなったんじゃねーんだぞ、まったく。
彼女の母とは何度か顔を合わせたことはある。悪い人ではない。ないのだが、少し教育方針が斜めに厳しすぎると思ったことは何度もあった。そもそも、成績の良い美郷を親は中学受験させたがっていたが、美郷自身が強引にそれを突っぱねたらしいと専ら噂である。友達と離れ離れになるのが嫌だったのだろう。この学校の生徒の大半は、同じ町内の公立中学にそのまま行くことになるのだから。
――体面気にしてる場合か。小学生がいなくなったんだからもっと心配しろつーの。
こうなったら、何が何でも自分が美郷を見つけてやる。花火は使命感に燃えていたのだった。
***
案の定、二十五分休みは大変なことになっていた。夜空の周囲をぐるりと女子たちが取り囲んで質問攻め、それを男子たちが“ぐぬぬぬぬぬぬモテ男滅べ”と言わんばかりに悔しそうに見ているというなかなかの地獄絵図である。成長の早い女子たちに囲まれているせいで、座っている小柄な夜空の姿はすつわかり埋もれて見れなくなってしまっていた。
あれは、彼女たちが飽きるまであのモードだろう。コミュ障君だったら気の毒としか言いようがない。というか、花火であってもあの状態に長居するのはなかなかしんどいと思う。多分そのうち、誰かが彼を学校案内という名目で教室の外に連れ出すのだろう。
「なかなか大変でらっしゃるようで」
「そ、そだね……」
花火の言葉に、美郷の友人は苦笑いを浮かべた。ちなみに、今は目の前には一人しかいない。もうひとりの友人は、夜空の質問攻めグループに飲み込まれてしまっていた。彼女も存外ミーハーなタイプであったらしい。
「まあ、あいつがマジで困ってたらその時助けるよ」
クラスに馴染むためには、これも必要な儀式だろう。花火はあっさり結論を出した。
「それで、朝言ってた話したいことって?」
「あーうん……」
りっちゃん、こと長門莉紗は、曖昧に頷いて言った。もうひとりはその件をすっかり忘れてしまっているようだし、話は彼女から訊かねばなるまい。
「実は、美郷ちゃんがちょっと気になる話をしてたんだよね。友達から聞いたんだけどーって。この小学校って、実は怖い怨霊が封印されてて、その上に建ってるんだって」
「ふんふん?……って怨霊ぉ?」
「うん」
そう来たか、と花火は苦笑した。学校が昔は墓地でした、パターンの話は珍しくもなんともない。図書室に置いてある児童書向けのホラー小説も、そんな感じで始まるものが非常に多いからだ。
が、いきなり怨霊とは。
「や、ないない。怨霊封印した場所の上に小学校建てるわけねーべ?」
思わず正論でツッコミを入れてしまう。莉紗もわかっていたようで、“そりゃそうだよねえ”と肩をすくめた。
「私もそう思う。昔墓地だったならわかるんだよ、そういうところって土地代安いから、小学校とか建てやすいって話だし。でも、怨霊はないよね。そんなもの封印した場所に学校建てたら、生徒に危険が及ぶじゃん?」
「そらそーだ。ファンタジー的に言うならさ、そういつ土地って陰陽師みたいな人が“ハーッ!”ってパワー貯めて結界張って忌み地にして、人が絶対入り込めないようにしそうだろ。ほら、“転生の陰陽師”みたいに!」
「うんうん、私もまさにそんなイメージ」
転生の陰陽師というのは、最近子供達の間で流行している現代に蘇った陰陽師バトル漫画とそのアニメである。天才陰陽師である安倍晴明が現代の小学生に転生し、現代に蘇った悪霊や妖怪達と次々とバトルを繰り広げていくのだ。ちなみに、主人公の小学生(安倍晴明の転生者)は超イケメンで知られていて人気も高い。――ちょっと、あの涼風夜空に似ている、かもしれない。
「私も疑ってたから、話半分に聞いてたんだけど。なんていうか、美郷ちゃんはちょっと信じてたみたいなんだよね。信じてたというか、信じたかったというか。……厳しいお母さんとお父さん、退屈な毎日から開放されたい……みたいなこと、美郷ちゃん結構日頃から言ってたから。そういう、非日常の存在みたいなのに憧れてたんだって」
それは、わからないでもない。誰だって特別な存在になりたいし、何かに選ばれたり目覚めたりしてみたいもの。それが敵わないなら、普通の人間が体験できないような特別な経験をしたり、面白いものに出会ってみたいなんて夢想するものである。――異世界転生チート系のアニメやラノベが流行るのだって、結局は同じ理屈であるのだろうから。
ゆえに、刺激を求めてオカルト系に走る人間は子供も大人も少なくないのである。おまじないも、学校の怪談も、都市伝説も、根は同じというもの。まあ流石に、何も見えないのに霊能力者のふりをしてマウント取るような輩はどうかと思うが。
「で、その怨霊?っていうのがね。学校の七不思議の中に隠れてるっていうの」
「隠れてる?」
「うん。そのうちの一つを試すと、この学校に封印されている怨霊に会えるって話を知り合いから聞いたんだって。だから試してみようかなーって言ってた。……私もまーちゃんも、ほんと冗談半分に聞いたから突っ込んで尋ねたりしなくて。だから、どの七不思議なのかもわからないんだけど……」
それで、莉紗が何を言いづらそうにしているか悟った。
「その七不思議を試したせいで、美郷がいなくなったかもしれないって?」
花火が笑いを含んだ声で言えば、うん、と莉紗は渋い顔で頷く。本人も、本気でそう思っているわけではないのだろう。ただ、友達の失踪に少しでも関係があるのなら話しておくべきだと判断した、くらいではなかろうか。
確かに、もし美郷がその七不思議を試したのだとしたら。それが原因で消えたかどうかはおいておくとしても、忘れ物を取りに行くついでにその場所に立ち寄った可能性はあるということになる。ならば、オカルトを信じていなかったとしても調べる価値はあるだろう。
「……ま、わかったよ。七不思議の場所とやら、チェックしてみる」
「ありがとう、花火ちゃん」
「いやいや。あたしにとっても美郷は大事な友達だかんね。当然よー」
ふと、視線を感じた気がしてそちらを見た。そして、花火は目を見開くことになるのである。すぐそばに、ついさっきまで女子達に囲まれていた少年がいつの間にか立っていたのだから。
「!?」
いつからそこに?花火が呆気にとられていると、涼風夜空は相変わらず何を考えているかわからない無表情で告げたのだった。
「そこのデカ女、話がある」
「!!」
言うに事欠いて、突然なんて失礼な!驚きすぎて固まる花火。数秒後、じわじわと怒りが足元から這い上がってきた。そして。
「誰がデカ女だ!あたしにはなぁ、加賀花火っつー立派な名前があんだよ!」
「そうか、名前負けしてるな」
「んだと!?」
周囲の女子が“転校生君があの花火ちゃんに喧嘩売ってる!”と慄き、男子が“あの花火に喧嘩売れるなんてあいつ大物かもしれねー!”と謎の尊敬の眼差しを向けてきている。なんでやねん!と関西人よろしくツッコミたい気持ちになりながら花火は叫んだ。
「名字でも名前でもいいからちゃんと呼べや、失礼な奴!」
「そうか。じゃあそんなお前に忠告するが」
「無視すんな!」
「七不思議に関わるのはやめておけ」
は?と花火は眉を跳ね上げる。話がまったく繋がらない。何で、七不思議?さっきの自分と莉紗の話を聞いていたのか?
「やめておけ、死にたくないなら」
呆然とする花火に、彼はとんでもなく物騒なことを言ったのだった。
「わかったな。忠告はしたぞ」
「涼風夜空、です。よろしく」
先生がにこやかに言う。少年がぺこりと頭を下げてきた。途端、女子陣から絶叫にも似た声が響き渡る。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかんわいいいいいいいいいい!!」
「何処から来た!?何処から来たの!?ねえねえねえねえ!!」
「声も綺麗だ……まだ声変わりしてない系男子……」
「私の隣にどうぞどうぞどうぞおおおおおお!」
「はい!パンツの色教えてっ!あとトランクス派?ブリーフ派?それ以外派!?」
「萌え」
「うわぁぁぁぁんイケメンに飢えてたんだよおおとおおおとおおおおおおおおおおおおお!」
「ジェニーズ系だと……憎い、憎いぞ」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「うおおおあおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「このクラスに潤いがっ……潤いがぁっ!」
「おいそれどういう意味だよ!?」
「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」
「よろしくねえええええええええ!!」
花火は思った。このクラスは猛獣の群れかなにかなのか?そうなのか?と。
――さ、騒ぎすぎじゃね?あと、一部やばい叫びが混じってたような気がするのは気のせいだと思いたい!
とりあえず恨みの声をぶつけた男子とパンツの色訊いた変態は誰だよ、花火は白目を剥きたくなる。そして恐ろしいことに、当の夜空は全く微動だにしていない。慣れてるのかお前?そーなのか?
「はい、みんな静かにしてねー。元気すぎると他のクラスに迷惑ですよー」
そして、それを元気すぎる、で片付ける千代田先生もかなりの猛者である。手をパンパンと叩いて皆を黙らせると、夜空に席を指示した。少女漫画ならば、しれっと花火の隣が空いていてそこにイケメンが!となるのだろうが。生憎、この世界は少女漫画ではないし、花火はそのヒロインなんて柄ではない。彼が座った席は、花火の斜め前の席だった。
ちなみに、花火はほぼ席が一番うしろの列から動いたことがない。デカすぎて、後ろの子の邪魔になってしまうからである。視力も両方2.0以上あるのでなんら問題はないのだった。
――こりゃ、今日の休み時間から大変だな。お気の毒様。
きっと、イケメン大好きな女子達に囲まれて大わらわだろう。うちのクラスは人数的にも女子が多く、癖の強いメンバーも揃っているために圧倒的に男女のパワーバランスが偏っているのである。哀れな男子が女子に泣かされる場面をすでに何度見たことが。まだ六年生になって一ヶ月ちょいだというのに。
「それでは、転校生の紹介が終わったので……悪いニュースの方を話きますね。実は……」
そしてクラスのざわつきが少しマシになったところで、先生が切り出したのだった。
予想通り、球磨美郷がいなくなった件である。美郷の親は結構体面を気にするタイプだった。案の定、まだ捜索願は出していないらしい。さすがに今日帰ってこないようなら検討すると言っているようだが。
――中高生の不良少女がいなくなったんじゃねーんだぞ、まったく。
彼女の母とは何度か顔を合わせたことはある。悪い人ではない。ないのだが、少し教育方針が斜めに厳しすぎると思ったことは何度もあった。そもそも、成績の良い美郷を親は中学受験させたがっていたが、美郷自身が強引にそれを突っぱねたらしいと専ら噂である。友達と離れ離れになるのが嫌だったのだろう。この学校の生徒の大半は、同じ町内の公立中学にそのまま行くことになるのだから。
――体面気にしてる場合か。小学生がいなくなったんだからもっと心配しろつーの。
こうなったら、何が何でも自分が美郷を見つけてやる。花火は使命感に燃えていたのだった。
***
案の定、二十五分休みは大変なことになっていた。夜空の周囲をぐるりと女子たちが取り囲んで質問攻め、それを男子たちが“ぐぬぬぬぬぬぬモテ男滅べ”と言わんばかりに悔しそうに見ているというなかなかの地獄絵図である。成長の早い女子たちに囲まれているせいで、座っている小柄な夜空の姿はすつわかり埋もれて見れなくなってしまっていた。
あれは、彼女たちが飽きるまであのモードだろう。コミュ障君だったら気の毒としか言いようがない。というか、花火であってもあの状態に長居するのはなかなかしんどいと思う。多分そのうち、誰かが彼を学校案内という名目で教室の外に連れ出すのだろう。
「なかなか大変でらっしゃるようで」
「そ、そだね……」
花火の言葉に、美郷の友人は苦笑いを浮かべた。ちなみに、今は目の前には一人しかいない。もうひとりの友人は、夜空の質問攻めグループに飲み込まれてしまっていた。彼女も存外ミーハーなタイプであったらしい。
「まあ、あいつがマジで困ってたらその時助けるよ」
クラスに馴染むためには、これも必要な儀式だろう。花火はあっさり結論を出した。
「それで、朝言ってた話したいことって?」
「あーうん……」
りっちゃん、こと長門莉紗は、曖昧に頷いて言った。もうひとりはその件をすっかり忘れてしまっているようだし、話は彼女から訊かねばなるまい。
「実は、美郷ちゃんがちょっと気になる話をしてたんだよね。友達から聞いたんだけどーって。この小学校って、実は怖い怨霊が封印されてて、その上に建ってるんだって」
「ふんふん?……って怨霊ぉ?」
「うん」
そう来たか、と花火は苦笑した。学校が昔は墓地でした、パターンの話は珍しくもなんともない。図書室に置いてある児童書向けのホラー小説も、そんな感じで始まるものが非常に多いからだ。
が、いきなり怨霊とは。
「や、ないない。怨霊封印した場所の上に小学校建てるわけねーべ?」
思わず正論でツッコミを入れてしまう。莉紗もわかっていたようで、“そりゃそうだよねえ”と肩をすくめた。
「私もそう思う。昔墓地だったならわかるんだよ、そういうところって土地代安いから、小学校とか建てやすいって話だし。でも、怨霊はないよね。そんなもの封印した場所に学校建てたら、生徒に危険が及ぶじゃん?」
「そらそーだ。ファンタジー的に言うならさ、そういつ土地って陰陽師みたいな人が“ハーッ!”ってパワー貯めて結界張って忌み地にして、人が絶対入り込めないようにしそうだろ。ほら、“転生の陰陽師”みたいに!」
「うんうん、私もまさにそんなイメージ」
転生の陰陽師というのは、最近子供達の間で流行している現代に蘇った陰陽師バトル漫画とそのアニメである。天才陰陽師である安倍晴明が現代の小学生に転生し、現代に蘇った悪霊や妖怪達と次々とバトルを繰り広げていくのだ。ちなみに、主人公の小学生(安倍晴明の転生者)は超イケメンで知られていて人気も高い。――ちょっと、あの涼風夜空に似ている、かもしれない。
「私も疑ってたから、話半分に聞いてたんだけど。なんていうか、美郷ちゃんはちょっと信じてたみたいなんだよね。信じてたというか、信じたかったというか。……厳しいお母さんとお父さん、退屈な毎日から開放されたい……みたいなこと、美郷ちゃん結構日頃から言ってたから。そういう、非日常の存在みたいなのに憧れてたんだって」
それは、わからないでもない。誰だって特別な存在になりたいし、何かに選ばれたり目覚めたりしてみたいもの。それが敵わないなら、普通の人間が体験できないような特別な経験をしたり、面白いものに出会ってみたいなんて夢想するものである。――異世界転生チート系のアニメやラノベが流行るのだって、結局は同じ理屈であるのだろうから。
ゆえに、刺激を求めてオカルト系に走る人間は子供も大人も少なくないのである。おまじないも、学校の怪談も、都市伝説も、根は同じというもの。まあ流石に、何も見えないのに霊能力者のふりをしてマウント取るような輩はどうかと思うが。
「で、その怨霊?っていうのがね。学校の七不思議の中に隠れてるっていうの」
「隠れてる?」
「うん。そのうちの一つを試すと、この学校に封印されている怨霊に会えるって話を知り合いから聞いたんだって。だから試してみようかなーって言ってた。……私もまーちゃんも、ほんと冗談半分に聞いたから突っ込んで尋ねたりしなくて。だから、どの七不思議なのかもわからないんだけど……」
それで、莉紗が何を言いづらそうにしているか悟った。
「その七不思議を試したせいで、美郷がいなくなったかもしれないって?」
花火が笑いを含んだ声で言えば、うん、と莉紗は渋い顔で頷く。本人も、本気でそう思っているわけではないのだろう。ただ、友達の失踪に少しでも関係があるのなら話しておくべきだと判断した、くらいではなかろうか。
確かに、もし美郷がその七不思議を試したのだとしたら。それが原因で消えたかどうかはおいておくとしても、忘れ物を取りに行くついでにその場所に立ち寄った可能性はあるということになる。ならば、オカルトを信じていなかったとしても調べる価値はあるだろう。
「……ま、わかったよ。七不思議の場所とやら、チェックしてみる」
「ありがとう、花火ちゃん」
「いやいや。あたしにとっても美郷は大事な友達だかんね。当然よー」
ふと、視線を感じた気がしてそちらを見た。そして、花火は目を見開くことになるのである。すぐそばに、ついさっきまで女子達に囲まれていた少年がいつの間にか立っていたのだから。
「!?」
いつからそこに?花火が呆気にとられていると、涼風夜空は相変わらず何を考えているかわからない無表情で告げたのだった。
「そこのデカ女、話がある」
「!!」
言うに事欠いて、突然なんて失礼な!驚きすぎて固まる花火。数秒後、じわじわと怒りが足元から這い上がってきた。そして。
「誰がデカ女だ!あたしにはなぁ、加賀花火っつー立派な名前があんだよ!」
「そうか、名前負けしてるな」
「んだと!?」
周囲の女子が“転校生君があの花火ちゃんに喧嘩売ってる!”と慄き、男子が“あの花火に喧嘩売れるなんてあいつ大物かもしれねー!”と謎の尊敬の眼差しを向けてきている。なんでやねん!と関西人よろしくツッコミたい気持ちになりながら花火は叫んだ。
「名字でも名前でもいいからちゃんと呼べや、失礼な奴!」
「そうか。じゃあそんなお前に忠告するが」
「無視すんな!」
「七不思議に関わるのはやめておけ」
は?と花火は眉を跳ね上げる。話がまったく繋がらない。何で、七不思議?さっきの自分と莉紗の話を聞いていたのか?
「やめておけ、死にたくないなら」
呆然とする花火に、彼はとんでもなく物騒なことを言ったのだった。
「わかったな。忠告はしたぞ」
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