1 / 18
<1・逃走。>
しおりを挟む
アレの正体は、一体何なのだろう。
何故自分を追いかけてくるのだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
球磨美郷は、ひたすら校舎の中を走り続けていた。走るたび、きゅっきゅっきゅっきゅ、とくたびれた上履きが廊下をこする音がする。もう、自分がどちらに向かって走っているのかもよくわかっていない。逃げなければいけない、その一心で足を動かし続けているもののそろそろ限界も近くなっている。
息が苦しい。肺をじりじりと焼かれているよう。
今すぐこの場に寝転んで休んでしまいたいほどだ。だが、立ち止まるわけにはいかない。どれほど逃げても追ってくる“アレ”がいる以上は。捕まったら、酷い目に遭わされるとわかっている以上は。
『ねえ、知ってる?うちらの小学校ってさ、大昔にやっばい怨霊を封印した場所だったんだってー!』
塾の友達から聞いた話。なんともありがちだな、と鼻で笑ったものである。学校があった場所が昔は墓地で、だから祟りがあって――なんてのはよくある話だ。昔墓地があったから、土地代が安くて学校が建つなんてケースは珍しくもなんともないからだ。小学生女子ってなんでこう怪談噺が好きなのかねー、なんて冗談交じりに笑っていた。自分のことは、すっかり棚に上げて。
本当は、ちょっとだけ興味があったのである。自分が通っているこのありきたりな小学校が、特別な場所だったらどれほど面白いだろう、と。
選ばれた人間しか通えない学校です、とか。
実は異世界へ繋がるゲートがあるんです、とか。
ものすごい忌み地で、やばい妖怪がどんどん集まってきちゃうんです、とか。
恐ろしい悪霊を封印した上に、学校を建てちゃったんです――とか。
学校に来て、つまらない授業を受けて、友達とちょっとしゃべったり遊んだりするだけの退屈な日々に、ちょっぴり刺激を齎してくれるかもしれないなんて。そう思うのは、別に悪いことでもなんでもないではないか。
そう、自分は何も罪を犯したわけではない。ただ失敗しただけだ――相手がまさかここまで厄介なものなんて、そもそも実在するなんて思ってもいなかったものだから。
――アレは、一体何なの?
忘れ物を取りに来た、元々用事はそれだけだったのである。
それでふと、友達の話を思い出しただけだ。そのやばい怨霊に出逢う方法が、実は学校の七不思議のひとつに紛れているという話を。
だから、言われた通りのことを試した。
ちょっとだけ面白いことが起きればいいな、なんて。ほんの少し、期待していただけだったのである。まさか、あんなとんでもないものを引っ張り出してしまうなんてどうして想像できただろうか。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
まだ、追いかけてきている。美郷のきゅるきゅるという上履きの音に混じって、確かに聞こえてくるのだ。明らかに、人間の足音とは思えないそれが。ずる、ずる、ずる、と重たいものを引きずるような音が。
月明かりの中で一瞬だけ見たその姿が、瞼の裏に焼き付いて離れない。いつも通っている学校に、あんな恐ろしいものが潜んでいるなんて。
――逃げないと、逃げないと、逃げないと、逃げないと!
だが、そろそろ体力も限界である。とにかくどこかに隠れてやり過ごして、体力を回復することが最優先だ。美郷は最後の力を振り絞って階段を駆け上がると、見慣れた女子トイレのマークがついたドアにとびついた。
残念ながら、洗面所へ続くドアには鍵がかけられない。それでも、トイレの個室には鍵をかけて閉じこもることができる。当然の人間心理だろう――鍵をかけて籠城できる場所に隠れたい、と思うのは。
「はっ……はっ、はあ……」
一番奥の個室に入り、急いで鍵をかけた。そして、ずるずると蓋の上から便座に座り込む。胸に手を当てて、息を整えようと必死だった。籠城できる場所に飛び込んだことで少しだけ気持ちは落ち着いたが、状況は何も良くなっていない。あいつは、美郷がどこに逃げても追いかけてきた。とすれば、此処に隠れていてもいずれは見つかってしまう可能性が高い。あくまで、時間稼ぎだと思っておくべきだ。
――考えなきゃ。
追いついて来る前に、体力を回復させなければ。息の音だけでも、相手にはきっと察知されてしまうのだから。
――このまま鬼ごっこを続けてても、いずれ捕まってしまう。なら、あいつから逃げおおせる方法を考えるか……もう一度、元の場所に帰って貰う方法を考えないと。
何で自分がこんな目に遭わなくてはいけないんだろう。じわり、と滲みそうになった涙をごしごしと拭った。怒りも悲しみも恐怖もあるが、それでもまだこの時の美郷には冷静に状況を見るだけの余裕が残っていた。逃げる途中でスマホは落としてしまったし、助けを呼ぶことなどできない。嫌でも、自分一人で状況を打破するしかない。そのためには、霊感なんて何もない自分にできる何らかの方法で、あの怪物に“帰って貰う”ことを考えるしかないのだ。
オカルトの王道で普通に考えるなら、自分がやったことの“逆打ち”で対処できそうなものだが、それには道具が必要である。果たして、この状況でできるかどうか――。
がちゃ。
「!」
洗面所のドアノブが、回る音がした。ああ、もう少し見逃してくれていてもいいのに。美郷は口元を両手で押さえて、必死で息を殺した。少し呼吸は整ったものの、まだ疲労が全然抜けていない状態である。正直苦しかったが、そんなことを言っている場合じゃない。呼吸音で居場所がバレてしまったら、元も子もないのだ。
――だ、大丈夫、大丈夫、大丈夫。
このトイレは、鍵が開いていてもドアが開かないようになっている。鍵があいているかどうかは、ドアを引っ張ってみるかドアの“しまる”という赤いマークが出ているかどうかで判断するしかない。しかし、このマークは壊れているドアや塗装が剥げてしまっているドアもある。自分がいる一番奥の個室はその後者だった。ドアを引っ張らない限り、鍵がかかっていることもわからないはずだ。
そして自分がここにいるとわかっても、鍵を開けられなければ入ってはこれないはず。――そんな希望的観測に縋って、美郷は祈るように洗面所のドアの方を見る。
トイレの個室の中からは、上の隙間から僅かに天井が見えるばかりとなっている。しかも電気を消しているので、トイレの中は非常に暗い。窓から月明かりが入ってくるせいで、辛うじて青く照らされているというだけだ。
――お願い、私に気づかないで。そのままどこかに行って……!
天井付近に、“それ”の影が黒く浮かびあがっている。ゆっくりと、ゆっくりと、影がこちらの個室の方へと近づいてくるのがわかった。やはり、自分がここにいるのがわかっているのか。耐えられなくなり、ぎゅっと祈るように手を握って目をつぶる。
自分は、何も悪い事なんてしていない。
ただ、友達に言われるがまま七不思議のひとつを試しただけだ。それで、ほんのちょっと刺激的なものを見たかっただけなのである。別に、動画を撮影してSNSにアップしようとか、そういう面白がるようなことをやろうとしたわけでもない。本当の本当に、ちょっとした出来心のようなものだったのである。
――お願い、神様!もう、懲りました。二度と、面白半分に七不思議に近づいたりしません!毎日がつまらないから、楽しいことが起きて欲しいとか、刺激的なイベントが欲しいなんて望みません!くだらない妄想したりとか、しません、だから!
だから、お願い助けて。
そう思った瞬間、ずるり、と這いずるような音が止まっていた。重苦しい気配。背中に、冷たい汗が伝う。見てはいけない――わかっていても、瞼を持ち上げることを止められなかった。
ドアには、一見、何の異変もないように見える。しかし。
――!!
個室のドアの前。下の隙間から、黒い影がちらちらと動いているのが見える。そう、明らかに蠢いているのだ。美郷は恐る恐る視線を上の方へと持ち上げていった。がくがくと足が、肩が、祈るように合わせた両手が震える。そして。
「ひっ」
トイレのドアの上から、こちらを覗いているものと目が合った。そいつはドアに手をかけて、真っ赤に血走った目でこちらを見下ろしている。
にたり、と真っ黒な影の中で、赤い口が三日月型に開いた。ずらりと並んだ歯が見え、鋭い牙が覗き、そして。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そこで、限界。
美郷は絞り出すように、凄まじい声で叫んでいたのである。
***
黒々とした空に、ぽっかりと丸い月が浮かんでいる。
こういう満月が近い。こういう夜は、大抵人も魔性も無駄に活力で溢れてしまうものなのだ。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
少女の絶叫は、学校の外にまで聞こえていた。否、自分だから聞こえたのかもしれない、と少年は思う。息を切らせながら正門の前に辿りついた時にはもう、辺りは沈黙に包まれている。
「遅かったか……」
ちっ、と舌打ちをする少年。今日、何かが動く。その予感を感じて、八時を回っているにも関わらず一人小学校の前まで来たというのに、どうやら間に合わなかったらしい。
既に、魔性の気配は消えている。
そいつは獲物を喰らって、さっさと自分達の世界へと帰ってしまったということらしい。――この世界に開いてしまった、あってはならない門を通って。
――魔性は消えたが、まだ門は残っている。これではまた、いずれ……。
時間がない。門が開いてしまったのなら、開いた魔物以外がこちらにやってくるのも時間の問題だろう。少なくとも本人は今回のことに味をしめてまた繰り返すはずである。
今ならまだ、攫われた少女を助ける方法もあるかもしれないが。
――早く見つけなければ。
少年は、拳を握った。
――何処にいる?俺の、相棒の騎士は。
夜の片隅。誰にも知られず、ひそかに舞台の幕は上がっていたのだ。
何故自分を追いかけてくるのだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
球磨美郷は、ひたすら校舎の中を走り続けていた。走るたび、きゅっきゅっきゅっきゅ、とくたびれた上履きが廊下をこする音がする。もう、自分がどちらに向かって走っているのかもよくわかっていない。逃げなければいけない、その一心で足を動かし続けているもののそろそろ限界も近くなっている。
息が苦しい。肺をじりじりと焼かれているよう。
今すぐこの場に寝転んで休んでしまいたいほどだ。だが、立ち止まるわけにはいかない。どれほど逃げても追ってくる“アレ”がいる以上は。捕まったら、酷い目に遭わされるとわかっている以上は。
『ねえ、知ってる?うちらの小学校ってさ、大昔にやっばい怨霊を封印した場所だったんだってー!』
塾の友達から聞いた話。なんともありがちだな、と鼻で笑ったものである。学校があった場所が昔は墓地で、だから祟りがあって――なんてのはよくある話だ。昔墓地があったから、土地代が安くて学校が建つなんてケースは珍しくもなんともないからだ。小学生女子ってなんでこう怪談噺が好きなのかねー、なんて冗談交じりに笑っていた。自分のことは、すっかり棚に上げて。
本当は、ちょっとだけ興味があったのである。自分が通っているこのありきたりな小学校が、特別な場所だったらどれほど面白いだろう、と。
選ばれた人間しか通えない学校です、とか。
実は異世界へ繋がるゲートがあるんです、とか。
ものすごい忌み地で、やばい妖怪がどんどん集まってきちゃうんです、とか。
恐ろしい悪霊を封印した上に、学校を建てちゃったんです――とか。
学校に来て、つまらない授業を受けて、友達とちょっとしゃべったり遊んだりするだけの退屈な日々に、ちょっぴり刺激を齎してくれるかもしれないなんて。そう思うのは、別に悪いことでもなんでもないではないか。
そう、自分は何も罪を犯したわけではない。ただ失敗しただけだ――相手がまさかここまで厄介なものなんて、そもそも実在するなんて思ってもいなかったものだから。
――アレは、一体何なの?
忘れ物を取りに来た、元々用事はそれだけだったのである。
それでふと、友達の話を思い出しただけだ。そのやばい怨霊に出逢う方法が、実は学校の七不思議のひとつに紛れているという話を。
だから、言われた通りのことを試した。
ちょっとだけ面白いことが起きればいいな、なんて。ほんの少し、期待していただけだったのである。まさか、あんなとんでもないものを引っ張り出してしまうなんてどうして想像できただろうか。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
まだ、追いかけてきている。美郷のきゅるきゅるという上履きの音に混じって、確かに聞こえてくるのだ。明らかに、人間の足音とは思えないそれが。ずる、ずる、ずる、と重たいものを引きずるような音が。
月明かりの中で一瞬だけ見たその姿が、瞼の裏に焼き付いて離れない。いつも通っている学校に、あんな恐ろしいものが潜んでいるなんて。
――逃げないと、逃げないと、逃げないと、逃げないと!
だが、そろそろ体力も限界である。とにかくどこかに隠れてやり過ごして、体力を回復することが最優先だ。美郷は最後の力を振り絞って階段を駆け上がると、見慣れた女子トイレのマークがついたドアにとびついた。
残念ながら、洗面所へ続くドアには鍵がかけられない。それでも、トイレの個室には鍵をかけて閉じこもることができる。当然の人間心理だろう――鍵をかけて籠城できる場所に隠れたい、と思うのは。
「はっ……はっ、はあ……」
一番奥の個室に入り、急いで鍵をかけた。そして、ずるずると蓋の上から便座に座り込む。胸に手を当てて、息を整えようと必死だった。籠城できる場所に飛び込んだことで少しだけ気持ちは落ち着いたが、状況は何も良くなっていない。あいつは、美郷がどこに逃げても追いかけてきた。とすれば、此処に隠れていてもいずれは見つかってしまう可能性が高い。あくまで、時間稼ぎだと思っておくべきだ。
――考えなきゃ。
追いついて来る前に、体力を回復させなければ。息の音だけでも、相手にはきっと察知されてしまうのだから。
――このまま鬼ごっこを続けてても、いずれ捕まってしまう。なら、あいつから逃げおおせる方法を考えるか……もう一度、元の場所に帰って貰う方法を考えないと。
何で自分がこんな目に遭わなくてはいけないんだろう。じわり、と滲みそうになった涙をごしごしと拭った。怒りも悲しみも恐怖もあるが、それでもまだこの時の美郷には冷静に状況を見るだけの余裕が残っていた。逃げる途中でスマホは落としてしまったし、助けを呼ぶことなどできない。嫌でも、自分一人で状況を打破するしかない。そのためには、霊感なんて何もない自分にできる何らかの方法で、あの怪物に“帰って貰う”ことを考えるしかないのだ。
オカルトの王道で普通に考えるなら、自分がやったことの“逆打ち”で対処できそうなものだが、それには道具が必要である。果たして、この状況でできるかどうか――。
がちゃ。
「!」
洗面所のドアノブが、回る音がした。ああ、もう少し見逃してくれていてもいいのに。美郷は口元を両手で押さえて、必死で息を殺した。少し呼吸は整ったものの、まだ疲労が全然抜けていない状態である。正直苦しかったが、そんなことを言っている場合じゃない。呼吸音で居場所がバレてしまったら、元も子もないのだ。
――だ、大丈夫、大丈夫、大丈夫。
このトイレは、鍵が開いていてもドアが開かないようになっている。鍵があいているかどうかは、ドアを引っ張ってみるかドアの“しまる”という赤いマークが出ているかどうかで判断するしかない。しかし、このマークは壊れているドアや塗装が剥げてしまっているドアもある。自分がいる一番奥の個室はその後者だった。ドアを引っ張らない限り、鍵がかかっていることもわからないはずだ。
そして自分がここにいるとわかっても、鍵を開けられなければ入ってはこれないはず。――そんな希望的観測に縋って、美郷は祈るように洗面所のドアの方を見る。
トイレの個室の中からは、上の隙間から僅かに天井が見えるばかりとなっている。しかも電気を消しているので、トイレの中は非常に暗い。窓から月明かりが入ってくるせいで、辛うじて青く照らされているというだけだ。
――お願い、私に気づかないで。そのままどこかに行って……!
天井付近に、“それ”の影が黒く浮かびあがっている。ゆっくりと、ゆっくりと、影がこちらの個室の方へと近づいてくるのがわかった。やはり、自分がここにいるのがわかっているのか。耐えられなくなり、ぎゅっと祈るように手を握って目をつぶる。
自分は、何も悪い事なんてしていない。
ただ、友達に言われるがまま七不思議のひとつを試しただけだ。それで、ほんのちょっと刺激的なものを見たかっただけなのである。別に、動画を撮影してSNSにアップしようとか、そういう面白がるようなことをやろうとしたわけでもない。本当の本当に、ちょっとした出来心のようなものだったのである。
――お願い、神様!もう、懲りました。二度と、面白半分に七不思議に近づいたりしません!毎日がつまらないから、楽しいことが起きて欲しいとか、刺激的なイベントが欲しいなんて望みません!くだらない妄想したりとか、しません、だから!
だから、お願い助けて。
そう思った瞬間、ずるり、と這いずるような音が止まっていた。重苦しい気配。背中に、冷たい汗が伝う。見てはいけない――わかっていても、瞼を持ち上げることを止められなかった。
ドアには、一見、何の異変もないように見える。しかし。
――!!
個室のドアの前。下の隙間から、黒い影がちらちらと動いているのが見える。そう、明らかに蠢いているのだ。美郷は恐る恐る視線を上の方へと持ち上げていった。がくがくと足が、肩が、祈るように合わせた両手が震える。そして。
「ひっ」
トイレのドアの上から、こちらを覗いているものと目が合った。そいつはドアに手をかけて、真っ赤に血走った目でこちらを見下ろしている。
にたり、と真っ黒な影の中で、赤い口が三日月型に開いた。ずらりと並んだ歯が見え、鋭い牙が覗き、そして。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
そこで、限界。
美郷は絞り出すように、凄まじい声で叫んでいたのである。
***
黒々とした空に、ぽっかりと丸い月が浮かんでいる。
こういう満月が近い。こういう夜は、大抵人も魔性も無駄に活力で溢れてしまうものなのだ。
「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
少女の絶叫は、学校の外にまで聞こえていた。否、自分だから聞こえたのかもしれない、と少年は思う。息を切らせながら正門の前に辿りついた時にはもう、辺りは沈黙に包まれている。
「遅かったか……」
ちっ、と舌打ちをする少年。今日、何かが動く。その予感を感じて、八時を回っているにも関わらず一人小学校の前まで来たというのに、どうやら間に合わなかったらしい。
既に、魔性の気配は消えている。
そいつは獲物を喰らって、さっさと自分達の世界へと帰ってしまったということらしい。――この世界に開いてしまった、あってはならない門を通って。
――魔性は消えたが、まだ門は残っている。これではまた、いずれ……。
時間がない。門が開いてしまったのなら、開いた魔物以外がこちらにやってくるのも時間の問題だろう。少なくとも本人は今回のことに味をしめてまた繰り返すはずである。
今ならまだ、攫われた少女を助ける方法もあるかもしれないが。
――早く見つけなければ。
少年は、拳を握った。
――何処にいる?俺の、相棒の騎士は。
夜の片隅。誰にも知られず、ひそかに舞台の幕は上がっていたのだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
春風くんと秘宝管理クラブ!
はじめアキラ
児童書・童話
「私、恋ってやつをしちゃったかもしれない。落ちた、完璧に。一瞬にして」
五年生に進級して早々、同級生の春風祈に一目惚れをしてしまった秋野ひかり。
その祈は、秘宝管理クラブという不思議なクラブの部長をやっているという。
それは、科学で解明できない不思議なアイテムを管理・保護する不思議な場所だった。なりゆきで、彼のクラブ活動を手伝おうことになってしまったひかりは……。
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~
丹斗大巴
児童書・童話
どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!?
*☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*
夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?
*☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*
家族のきずなと種を超えた友情の物語。
霊感兄妹の大冒険 古城にはモンスターがいっぱい⁉
幽刻ネオン
児童書・童話
★あらすじ
ある日、冬休みに別荘へお泊りをすることになった仲良し皇兄妹(すめらぎ きょうだい)。
元気で明るく心優しい中学二年生の次女、あやね。
お嬢さま口調で礼儀正しい中学一年生の末っ子、エミリー。
ボーイッシュでクールな中学三年生の長女、憂炎(ユーエン)。
生意気だけど頼れるイケメンダークな高校二年生の長男、大我(タイガ)の四人。
そんな兄妹が向かったのは・・・・・なんと古城⁉
海外にいる両親から「古城にいる幽霊をなんとかしてほしい」と頼まれて大ピンチ!
しかし、実際にいたのは幽霊ではなく・・・・・・⁉
【すべてを知ったらニゲラレナイ】
はたして兄妹たちは古城の謎が解けるのだろうか?
最恐のミッションに挑む霊感兄妹たちの最恐ホラーストーリー。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる