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7話 ドーラの気持ち
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「奥様! お嬢様が毒でお倒れに!」
娘のティアルーナを一人置いてある屋敷の使用人が礼節も何もかもすっ飛ばして部屋へ飛び込んでくる。何事かと思い立ち上がれば、食事に混入されていた遅延性の毒でティアルーナは倒れ、生死をさ迷っていると言う。
一体誰がヴェルガム公爵家の娘に毒を盛ったのか…旦那様に指示を仰ぐ為に報告を──と何時もなら、今までならそう思って冷静に行動していた。娘も息子も、そして私自身も、所詮公爵家の…旦那様の為に動く為の存在なのだから。
なのに、言葉も思考も全て止まってしまって足がみっともなくガタガタと震える。抑えようとしても震えは止まらないばかりか余計に激しくなって呼吸まで荒くなってくる。
聞けば、ティアルーナはいつ死んでしまってもおかしくはない状態だそうであまり回復に期待はしない方がいいと…覚悟をして欲しいと言われる。
覚悟…? ティアルーナを失う覚悟を?
失いたくない、こんな時になって…いなくなってしまいそうになってから大切だと、失いたくないと気が付くなんて、なんて愚かなんだろう。今まで、幼い頃教師に教えこまれた通りに旦那様の言葉にだけ従って愛情の欠片も注がずに見向きもせず…私は、何をやっていたの?
「王妃殿下に宮廷医師を、派遣して頂くよう…伝えて。」
側近にそう震える声で伝えて王城に向かわせてから、私は淑女としての何もかもをかなぐり捨てて旦那様の執務室へ全力で走った。
───────
青い顔で旦那様の執務室の扉を音を立てて走った勢いのまま開くと、助けを求めようとしていた夫の姿は何処にもなく、ただ全開に開かれたままの窓から吹き込む風に飛ばされて沢山の書類が散乱していた。
旦那様の側近の姿もない、ただ…こんな時に何故か執務机の上に置かれた黒い…見たことの無い本に手を伸ばした。
近くには投げられでもしたように、倒れた黒いインク壺から流れたインクが周囲の未決の書類に染み込んでいた。今までこんな乱雑な状態は見たこたがない。
手に取った黒表紙の本が濡れていないことを確認してから開いて、目を通して…私は本を取り落として再び走り出した。
本は、あれは…旦那様の日記だった。
子供たちが産まれてから今までの毎日が書き綴られている。稀に挟まっているのはティアルーナやロイスが書いた手紙や幼い頃描いたのであろう、何が書いてあるか分からないぐちゃぐちゃな絵。いつも、旦那様が言う言葉はこちらを人として思っていないような…道具として思っているような冷たい言葉だがあの日記に書かれていた言葉は全く違った。
私たちに言った言葉を後悔するものや、子供達を可愛いと、愛おしいと書き綴られたもの。そのどれもが私の知っている旦那様とは違っていて…旦那様は私の思っていたような冷たい人ではなかった。ただ、言葉が下手すぎて伝わらなかったり誤解してしまったり…それだけ。
すぐにティアルーナに毒を盛った犯人を捕らえるために、側近に詳しい情報を集めるよう指示を飛ばしながら思うことは一つだけ。
ティアルーナが助かって、こんな不甲斐ない私の近くにもし、いてくれるのなら…全て、やり直したい。
娘のティアルーナを一人置いてある屋敷の使用人が礼節も何もかもすっ飛ばして部屋へ飛び込んでくる。何事かと思い立ち上がれば、食事に混入されていた遅延性の毒でティアルーナは倒れ、生死をさ迷っていると言う。
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なのに、言葉も思考も全て止まってしまって足がみっともなくガタガタと震える。抑えようとしても震えは止まらないばかりか余計に激しくなって呼吸まで荒くなってくる。
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近くには投げられでもしたように、倒れた黒いインク壺から流れたインクが周囲の未決の書類に染み込んでいた。今までこんな乱雑な状態は見たこたがない。
手に取った黒表紙の本が濡れていないことを確認してから開いて、目を通して…私は本を取り落として再び走り出した。
本は、あれは…旦那様の日記だった。
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すぐにティアルーナに毒を盛った犯人を捕らえるために、側近に詳しい情報を集めるよう指示を飛ばしながら思うことは一つだけ。
ティアルーナが助かって、こんな不甲斐ない私の近くにもし、いてくれるのなら…全て、やり直したい。
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