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本編
最終話 此れからも
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カトリーナとランドロフが暫く微笑みあった後、カトリーナが離れようとしてもランドロフは帰るどころか一向にカトリーナから離れようとしなかった。お目付け役とも言えるハワードがいない事を良いことにそんなことをしていたら日は空高く登っていたというのに今はもう傾いて空は赤く染っていた。
「ら、ランドロフ様…その、そろそろお帰りになられた方が…従者の方もお探しではありませんか?」
「そうだな…」
そう言いながらもランドロフが離れる気配はない。これも、もう何度目のやり取りか分からない。こればかりは恥ずかしくて兄でも誰でもいいから止めてくれないだろうか…いや、でも見られるのも恥ずかしい、などとカトリーナが思っているとランドロフはおもむろにカトリーナから離れて立ち上がった。
離れて欲しいと思ってはいたものの、実際離れられると寂しいと思ってしまった思考を振り払って正門まで見送ろうとカトリーナも立ち上がった瞬間、カトリーナの身体が宙に浮いた。否、浮いたのではなくランドロフによって抱き上げられていた。それも、カトリーナの身体に負担がかからないようにかなり気を使って。
「え、あの…ランドロフ様!?」
「やっぱり、我慢できない。…連れて帰る。」
カトリーナを抱きあげた後のランドロフは行動は速かった。応接室を出てずんずんと廊下を進み、正面から堂々と出ると待たせていた馬車に合図して呼び寄せる。その間、カトリーナは抱きあげられているのを何人かのメイドや商会の者に見られたことが恥ずかしくて顔をランドロフの肩に埋めていたのだが、それさえもランドロフを喜ばせる要因になっていることを知らない。
「兄様に怒られてしまいますよ…?」
「警備に限ってはこちらより侯爵家の別邸の方が安全なんだ、ハワード殿も明日からはカトリーナをこちらにと言っていたのだし、一日早まったところで問題は無い…はずだ。」
馬車に乗せられながら、ふと心配そうな顔でそう言うカトリーナにランドロフはそう頼りなく返すと馬車を出発させた。きっと、とても怒られてしまうだろうな、とは思いつつもカトリーナはランドロフを止めようとはしない。あまり口にこそ出さないがカトリーナもランドロフと離れたくないのだ。
「ふふっ…! では、もし兄様に怒られたら…私も一緒に怒られます。私も、ランドロフ様と一緒にいたいのですから共犯ですもの。」
すり、と軽くランドロフの腕に顔を擦りつけながらカトリーナがそう言うとランドロフはぱっと一瞬で顔を赤く染めて、愛おしさから若干震えてしまっている腕を伸ばして再びカトリーナを抱き締めた。
「カトリーナ…愛してる。君が出て行ってしまったかと思った時は本当に死ぬかと思ったんだ…ずっと、傍にいてくれ。」
「はい…私も、もう会えないと思った時とっても悲しかったんです。ずっと…離さないでください。」
ふたりは馬車が止まるまでずっと寄り添っていた、此れから何があってもそう在るように。
「ら、ランドロフ様…その、そろそろお帰りになられた方が…従者の方もお探しではありませんか?」
「そうだな…」
そう言いながらもランドロフが離れる気配はない。これも、もう何度目のやり取りか分からない。こればかりは恥ずかしくて兄でも誰でもいいから止めてくれないだろうか…いや、でも見られるのも恥ずかしい、などとカトリーナが思っているとランドロフはおもむろにカトリーナから離れて立ち上がった。
離れて欲しいと思ってはいたものの、実際離れられると寂しいと思ってしまった思考を振り払って正門まで見送ろうとカトリーナも立ち上がった瞬間、カトリーナの身体が宙に浮いた。否、浮いたのではなくランドロフによって抱き上げられていた。それも、カトリーナの身体に負担がかからないようにかなり気を使って。
「え、あの…ランドロフ様!?」
「やっぱり、我慢できない。…連れて帰る。」
カトリーナを抱きあげた後のランドロフは行動は速かった。応接室を出てずんずんと廊下を進み、正面から堂々と出ると待たせていた馬車に合図して呼び寄せる。その間、カトリーナは抱きあげられているのを何人かのメイドや商会の者に見られたことが恥ずかしくて顔をランドロフの肩に埋めていたのだが、それさえもランドロフを喜ばせる要因になっていることを知らない。
「兄様に怒られてしまいますよ…?」
「警備に限ってはこちらより侯爵家の別邸の方が安全なんだ、ハワード殿も明日からはカトリーナをこちらにと言っていたのだし、一日早まったところで問題は無い…はずだ。」
馬車に乗せられながら、ふと心配そうな顔でそう言うカトリーナにランドロフはそう頼りなく返すと馬車を出発させた。きっと、とても怒られてしまうだろうな、とは思いつつもカトリーナはランドロフを止めようとはしない。あまり口にこそ出さないがカトリーナもランドロフと離れたくないのだ。
「ふふっ…! では、もし兄様に怒られたら…私も一緒に怒られます。私も、ランドロフ様と一緒にいたいのですから共犯ですもの。」
すり、と軽くランドロフの腕に顔を擦りつけながらカトリーナがそう言うとランドロフはぱっと一瞬で顔を赤く染めて、愛おしさから若干震えてしまっている腕を伸ばして再びカトリーナを抱き締めた。
「カトリーナ…愛してる。君が出て行ってしまったかと思った時は本当に死ぬかと思ったんだ…ずっと、傍にいてくれ。」
「はい…私も、もう会えないと思った時とっても悲しかったんです。ずっと…離さないでください。」
ふたりは馬車が止まるまでずっと寄り添っていた、此れから何があってもそう在るように。
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