上 下
2 / 21

小話 叱られたマルクと夜空

しおりを挟む
パプルグ商会に客人が来て、カトリーナがやむを得ず対応をしたその日。カトリーナに助けを求めたマルクはカトリーナの兄、ハワードに締め上げられていた。

「マルク! カトリーナは体調が悪いと言っただろう、客人くらい自分で対応しろ!」

「すみません、すみません! でも…アスファルタ国王のペンダントをお持ちだなんて高位貴族の方でしょう? しかも僕では会頭の代わりなんて務まりません…!!」

胸ぐらを掴まれているというのにまだ若干言い訳をするマルクにハワードはいっそう怒りが湧く。執務室の床に倒れてそのまま逃げようとするマルクを捕まえるとそのまま持ち上げて怒鳴りつけた。

「そんなのは関係ない! 俺が怒っているのはカトリーナに面倒をかけたことだ!」

「ひいいぃぃ!! すみません!!」

もう逃げられないマルクが長時間のお説教を覚悟した時、救いの天使カトリーナが現れた。

「に、兄様! 何をしてらっしゃるの?」

マルクがさらに締め上げられているところへ、開けられていた扉からひょっことりとカトリーナが姿を現す。肩には一枚ストールをかけてはいるが過保護でシスコンのハワードからすればそんなものはカトリーナの身を温めるに足りない。

愚か者マルクを叱っているんだ。それよりも、カトリーナ。こんな寒い夜に部屋の外に出るな、用事があるなら俺が行くから呼べと言っただろう。」

「ご、ごめんなさい…でも、今は体調も落ち着いているし…どうしても兄様と見たいものがあって。」

謝りつつ、ちらっとハワードと安堵に崩れ落ちるマルクを見ながら若干申し訳なさそうにそう言うカトリーナ。すぐさまカトリーナに駆け寄って望みを叶えようとするハワードにマルクは内心、ハワードが重度のシスコンであることに感謝した。

「見たいもの? すぐに行く。…マルク、この件は明日しっかりと反省してもらうからな。」

「終わってなかった…!!」

勝手に終わったと思っていたマルクが絶望するのを無視してハワードはカトリーナに手を引かれるままに部屋を出ていった。

───────

カトリーナに手を引かれて向かったのはテラスだった。それに気がついたハワードが嬉しそうに微笑むカトリーナに大量に毛布やストールをかけてからテラスに出る。

「テラスに何かあるのか?」

「ええ、ほら…空がとっても綺麗なの! 実家だとこんなに見えなかったのに…。」

嬉しそうに夜空を見上げるカトリーナにつられてハワードも見上げると夜空にはたくさんの星が煌めいていた。アスファルタ王国は元々、二人の祖国フェンシュタン王国よりも空気が澄んでいるが今日は格段と言える。

「そうだな…だが、見るなら窓越しにしておこう。ほら、中に入るぞ…顔が冷たくなってる。」

こんなに暖かな服装をさせておいてもまだ足りないのか…と思わなくもないカトリーナだったが、叱られるのは嫌なのでカトリーナは素直に部屋に入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください

みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。 自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。 主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが……… 切ない話を書きたくて書きました。 ハッピーエンドです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

window
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

window
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日

window
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」 「相手はフローラお姉様ですよね?」 「その通りだ」 「わかりました。今までありがとう」 公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。 アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。 三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。 信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった―― 閲覧注意

処理中です...