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本編

9話 前触れの手紙 ※前半ハワード(兄)視点

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「カトリーナ、ハウゼン侯爵からこちらに向かっていると前触れがあった。恐らくあと数日で到着されるだろう。…だが、あちらがなんと言おうがカトリーナに会わせるつもりはない。」

朝食を食べている途中、やはり体調が優れないのか全く手が進んでいないカトリーナを見て言うべきか迷ったがハウゼン侯爵、つまりはカトリーナの夫ランドロフ・ハウゼン侯爵から俺宛に手紙があった。
内容はまず今回のことを詫びる内容と、それらがハウゼン侯爵家の執事長による独断の行為で当主の意向ではないということ。それから数日後に到着するのでカトリーナに直接会って謝罪して連れ戻したいというものだった。
部下の勝手な行動? 自分の意思ではない?
そんなものは関係ない、元々カトリーナを泣かせない、悲しませないと…もしそのような事があれば即破談と約束した上での婚姻だったのにそれを破ったのだ。部下も御せないような男に可愛い妹は預けられない。

身分的にも下の執事長のアロンとかいう奴からカトリーナを守ることも出来ないくせに同格の侯爵家…つまりは母様の実家がカトリーナを狙った時、カトリーナを守れるわけが無い。カトリーナを帰したらこれからもずっと傷付くに決まっている。そうと分かっていて返すわけが無い。

「兄様、大丈夫でしょうか…? これ以上兄様や商会に迷惑をかけてしまうようなら私…」

「何も迷惑じゃないし、心配しなくていい…どうせすぐに追い返す。」

妊娠初期で、ただでさえ体調が優れない上に信頼していた夫に捨てられたと思っているカトリーナにこれ以上なんのストレスも掛けたくない。…カトリーナの体調が落ち着いたら港にでも連れていったら喜ぶだろうか、カトリーナは海を見た事がないから、きっと喜ぶだろうな。

「それよりも、落ち着いたら行きたい場所でも考えていておくといい。連れて行ってやる。」

「まあ! 兄様、ほんとう? 嬉しいわ。」

心配そうな顔が一転してぱっと華やいだ。
カトリーナには、何よりも笑顔が似合う。

─────────

ところ変わってアスファルタ王国の国境付近。カトリーナの兄であるハワードに送った手紙の返事が届いたとの事でドゥーリッヒが開封するとそこにはランドロフが期待する都合の良い言葉は並んでおらず、ただ一言『来るな』と書かれてあった。

「閣下…奥様の兄君から、来るなと返事が…。」

「…………カトリーナもそう思っているんだろうか?」

礼節も何もないその手紙に怒るでもなくランドロフはただただ沈み込んだ。初め、カトリーナと婚姻を結ぶ時も激しい反対と暴言を浴びせられた記憶がランドロフの脳裏に蘇る。確かに、カトリーナを悲しませないという約束は見事に破ってしまったわけでカトリーナにも嫌がられていたら…とランドロフは若干涙目になってくる。

「そんな泣きそうな顔をされないでください。閣下がやると気持ちが悪いです。」

本気で気持ちの悪いものを見る目でそう言い放つドゥーリッヒをランドロフは涙目で睨む。実際、体格の大きく顔つきの厳ついランドロフが半泣きでしょぼくれている姿は中々に悪寒がする。

「ドゥーリッヒ、お前はもう少し慰め方というものを学んでくれ。…押しかけても追い返されるだろうか。」

「そうでしょうね。奥様とのご婚姻当初もそうでしたが、あの方は身分の差を飛び越えた圧をお持ちなので…。まあ、実際は奥様との婚姻関係は取り消されていません。どうしても無理に連れ帰りたいのでしたら、可能です。手配致しましょうか?」

実際、ランドロフがサインしていない離縁届は完成しておらず、提出もされていのでランドロフとカトリーナは夫婦のままだ。なのでハウゼン侯爵の名を使ってカトリーナを無理やりに連れ帰ってくることも、夫だという理由で ハワードシスコンから奪うことは出来る。しかし、そんなことをすればカトリーナがランドロフに嫌悪感を抱く可能性─現在進行形で嫌がられている可能性は考えないことにする─がある。そんなことでは意味は無い、ランドロフの言う、戻って来てもらうというのは元通りの相思相愛な関係ごとなのだから。

「いや、いい。…カトリーナに嫌われたり嫌がられては意味が無いんだ。」


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