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本編

6話 客人①

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「か、カトリーナ様! 失礼します、商会の方で会頭と話したいと仰る方がいらっしゃるのですがどうすれば…!」

のんびりと観光場所を眺めていて眠たくなってきた所へ激しいノックと共に部屋に転がり込んできたのは準備中の商会の店内を取り仕切らせているマルクだった。まだ若いながらも聡明で落ち着いているマルクがこんなにも大慌てするなんて、そんなに不味い方が来られたのかしら。

「落ち着いてマルク。何方が来られたのか分かる?」

「は…す、すみません。取り乱してしまい…その、アスファルタ国王のペンダントを持った方がいらっしゃいまして、とにかく会頭と話がしたいと…。」

誰かせっかちな貴族でも来たのかと思ったけど、アスファルタ国王のペンダントと聞いて私も血色が変わる。この辺りの周辺諸国では国王が信頼する者には身分問わず──と言っても殆どが高貴な身分だけど──それぞれの国の紋章が描かれたペンダントを渡すという慣習があり、そのペンダントだけでも十分な身分証明になるのだ。それを持った人物が会頭に、お兄様と話があると言っているのだ。無下にしてしまって不興を買えば商売どころではなくなってしまう。
アスファルタ王国での商会の会頭は兄様だが、今兄様はいないし意見を聞くことも出来ない。

「国王のペンダント…!? それは…私では判断できないわ。でも兄様は大事な会合中…連絡は取れないし、取り敢えず応接室にお通ししてなんの御用件か…は私が行った方がいいのかしら。」

「は、はい…私どもでは対応できません…!」

マルクを含め商会の者や近しい者にも私の懐妊は伝えておらず体調不良だと伝えてある。疑う訳では無いけどどこから情報が漏れるか分からないし、私の妊娠は兄様と父様、それからお医者さましか知らない話だ。
そうとは知らないマルクが助けを求めてくるのを拒むわけにもいかず後で兄様に叱られることを覚悟で私は付近にある準備中の商会へ向かった。


───────

吐き気に耐えながら急いで向かうとその人物は応接室で出された紅茶を優雅に飲んでいた。見覚えがない人物であることに少し安堵しつつ腰を落として挨拶をする。

「お待たせして申し訳ありません。会頭に代わりまして対応させていただきますカトリーナと申します。」

挨拶しながらもよろめきかけるのを耐えてにっこりと微笑む。しかし、あまり長くなると途中でぼろが出てしまいそうだ。

「…カトリーナ? ハウゼン侯爵家の奥方のカトリーナ・ハウゼン様かな。」

ハウゼン侯爵家は私が先日まで妻をやっていたランドロフ様を当主とする家だ。私の名がすぐに出てくるということは侯爵家と懇意にしている方か余程博識な方だ。前者である可能性がかなり高いことを思うと背中に嫌な汗が流れた。
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