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本編

1話 実家と隣国

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「カトリーナ? どうしたんだ、何か用事か?」

馬車から下ろしてもらって流石に侯爵邸には見劣りするがそれなりに大きな実家の屋敷に踏み入ると丁度兄様が書類の束を抱えているところだった。…言いたくない、けど言うしかない。

「兄様、私離縁されてしまって出戻りです。」

「そうか…って離縁!?」

なるべく平静を装ってそう言うと兄は手に持っていた書類の束を全て取り落とした。わかりやすい驚き方だ。

「はい、理由は聞かないでくださいね。私も教えられてないですから。」

落とした書類を拾うのを手伝いながらそう言うと兄様は何か感じ取ってくれたのかそれ以上詮索はしてこなかった。

「はあ、まあなんというか…まあ良い、お疲れ様。父様には俺から話しておくよ、それと俺からも話がある。手紙を書こうと思っていたんだが…この度、陛下から男爵位を賜った。やっと貴族の仲間入りだ。これでもっと手軽に事業が広げられるぞ!」

「えぇ! すごいタイミング…」

すごいタイミングだ、だって身分がふさわしくないとかなんとかっていう話だったのにこのタイミングで爵位を賜るなんて。まあ、男爵家と侯爵家でも釣り合いなんて全く取れない…って何を未練がましく考えているの!

「何か言ったか?」

「いえ、何も。じゃあ前から言っていた隣国への進出を始めるのですか?」

兄様と父様は前々からずっと隣国にも商会を広げられたら…なんてことを言っていた。しかし平民の商人では国を跨ぐ際にその度に面倒な手続きが必要であり、爵位を賜りでもしないと現実味は得られなかった話だったのだが…賜ったというのならこれ以上の好機はないだろう。そう思って問いかけると帰ってきたのは肯定だった。

「ああ、そうだ。だが父様はここの商会を経営しないといけないからな、俺が行く予定だ。」

「…それ、私もついて行っていい?」

隣国に行ってみたいのも勿論あるけど、爵位を賜ったなら社交界にも出るだろう。そうなると少なからず顔を見ることになることになるかもしれない。暫くは拗ねていたって文句は言われたくない。

「ああいいぞ、離縁になってしまった以上はそのつもりだ。俺はちっとも似ていないがお前は母様に瓜二つだからな、パーティやら茶会やらで母様の実家の侯爵家と顔を合わせた時に急に引き取るなんて言い出さないとも限らない。」

父様は平民だけど、母様は平民ではなく勘当された元侯爵令嬢だった。二人は駆け落ちの末に結ばれたそうだ、母様の方が最初に好きになったと聞いたけど今考えると中々行動的なご令嬢ね。まあ、元貴族令嬢と言っても勘当されていたから私たちは平民として育ったしランドロフ様と結婚していた時も私の実家が平民ということに変わりはないから社交界には一切出なかったから母様の実家の侯爵家の人達と顔を合わせたことは無かったけどこれからはそうもいかないだろう。母様にそっくりな私も見て引き取ろうと思わないという保証は何処にもない、念には念を入れて姿は見せないべきだろう。

「ああ…そうね。落ち着くまでは隣国に居て姿を見せない方がいいかもしれないわ。」

「そういう事だ、まあ父様が社交界に出るのも最初のうちだけさ。」

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