旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

本編

プロローグ 突き付けられた離縁届

｢奥様、こちら旦那様よりお預かりしてまいりました。御記入を。｣

そういうのは執事長のアロン、侯爵家の執事に相応しく丁寧且つ正確で素早い仕事をする彼はそれはそれは私のことが嫌いで隙あらば責められない嫌がらせをしてくるのだ。さて、今日はなんだろうと示された書類を見ると『離縁届』

｢あら…離縁届？｣
｢はい、旦那様からの伝言でございます。これに記入した後即刻侯爵家から出ていくようにとの事です。｣

にこにこ、とそれはもう素晴らしい笑顔でそう伝えてくるアロンに一瞬…本当に一瞬頭が真っ白になったあと、思考が動き出す。
──まあ、そうよね。

私がアロンに嫌われている理由は私がランドロフ様に相応しくないから、というのも私は所謂平民で少しばかり裕福な商家に生まれただけの女だからだ。よく分からないけど、普通侯爵様ともなれば王家から王女様が降嫁してくることもあるのだから平民など以ての外。つまりはまあ…ついに私に飽きられて出て行けとのことなのだろう。

｢分かったわ。 ｣

ささっ、と書類にサインをして鍵が付いた引き出しを開ける。侯爵家に私の私物はない…このネックレスを除いては。だか私は母様の形見であるサファイアのネックレスを持って馬車に乗り込み侯爵家から去った。ランドロフ様が贈ってくださったものは沢山あるから処分は大変でしょうけど…まあいいでしょう。

せめて最後くらい会いに来てくれても…と思わなくはないけどいきなり叩き出されないだけマシと思わなければならない。平民の私にはまだ貴族のことはよく分からないけど貴族が平民に何もしても…罪にすらならないのだから。

文句や不満があっても言ってはいけない、相手の機嫌次第でこちらの命なんて軽く吹っ飛んでしまうのだから。でも、まあ我儘を心の中で言うのならやっぱり…私に飽きたのだとしても最後くらいは会いに来て欲しかった。私の方はまだまだランドロフ様が好きなんだから。

ランドロフ様に最後に会ったのは辺境に行かれる前、つまり2ヶ月前で、さらに言えば手紙も沢山送ってくださると仰ってたけどただの一通も届かなかった。こちらから送っても返事もなく、つまり辺境で新しい方が出来たのだろう。

｢…むぅ。｣