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6話 舞踏会 ①
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エルヴィラの誕生の日を祝うパーティはドルガシア王国内でも有数の名家であり、潤沢な資産を有するランヴァルド侯爵家らしく多くの招待客を招き、豪華絢爛に開催された。
「アラン第二王子殿下とエルヴィラ・ランヴァルドお嬢様のご入場です」
輝くシャンデリアの元で談笑する招待客らも今回の主役であるエルヴィラとその婚約者のアランが入場すれば途端に静まり、それぞれが腰を降り、二人を迎える。
会場の入口に位置する大階段をアランにエスコートされたエルヴィラが優雅な所作で降りる。やがてホールに到着すると軽く膝を折るだけの礼をとり、一斉に集まる視線に可憐に微笑む。
「今宵は、わたくしの誕生の日を祝いにお越しくださいましたことに心よりの感謝を。ファーストダンスが始まります、どうか楽しいひと時をお過ごしくださいませ」
エルヴィラが主催側の立場としての決まり文句を口にし終わると同時にファーストダンスの楽曲が始まる。途端に静謐な空気が霧散し、各々がファーストダンスをパートナーと踊るために中央に舞い出始める。
エルヴィラが音楽が始まっても微動だにしないアランを見上げると彼は眉間に深い皺を刻んでいた。見つめる視線の先には彼の兄、ヴェヴェルの姿があるが小柄なエルヴィラにヴェヴェルの姿は見えない。まるで石にでもなってしまったかのように虚空を見つめ、動きもせず反応も返さないアランの腕をエルヴィラが両手でぐい、と引くとようやっとアランはエルヴィラに目を向けた。
───ドルガシア王国の貴族には特殊な慣習がある。普通、令嬢からダンスに誘うことなく、紳士からの誘いを待つのが基本だが、誕生の日を祝うパーティだけは例外とされている。年にたった一度だけ、ファーストダンスの相手を自分で選ぶことができるのだ。
(何時もは、わたくしから誘えないのにアル様はどこかへ行ってしまわれるから壁の花が精一杯だったけれど、今日は違うもの)
当然、エルヴィラはその権利をアランに使うことを決めていた。だが彼はまるでそれを知らぬとばかりの言葉を口にした。
「…僕はバルコニーに行ってくる。エルは好きにしろ」
「アル様、お待ちを…ファーストダンスを、わたくしと踊って頂きたいのです」
そのままついと踵を返して本当に歩いていってしまいそうなアランをエルヴィラは目を丸くしながらも引き止める。
「兄上を誘え。今日はエルの誕生パーティーなのだから断らない」
(僕に気を遣っているのか。今日が最後なのだから、いくら僕の心が狭くても…好きにすればいいと言うのに)
アランは立ち止まりこそしたものの、目を合わせないまま何処か投げやりな、自棄を起こしたような表情でそう不満げに返す。そのあんまりな返答にエルヴィラは目尻を微かに上げる。こんな日にまで(生誕パーティ)ヴェヴェルに自分を押し付けようとするアランの言動が信じられなかったのだ。
「…っわたくしは、アル様と踊りたいのです。誕生の日の特権ですわ、踊ってくださいまし」
「アラン第二王子殿下とエルヴィラ・ランヴァルドお嬢様のご入場です」
輝くシャンデリアの元で談笑する招待客らも今回の主役であるエルヴィラとその婚約者のアランが入場すれば途端に静まり、それぞれが腰を降り、二人を迎える。
会場の入口に位置する大階段をアランにエスコートされたエルヴィラが優雅な所作で降りる。やがてホールに到着すると軽く膝を折るだけの礼をとり、一斉に集まる視線に可憐に微笑む。
「今宵は、わたくしの誕生の日を祝いにお越しくださいましたことに心よりの感謝を。ファーストダンスが始まります、どうか楽しいひと時をお過ごしくださいませ」
エルヴィラが主催側の立場としての決まり文句を口にし終わると同時にファーストダンスの楽曲が始まる。途端に静謐な空気が霧散し、各々がファーストダンスをパートナーと踊るために中央に舞い出始める。
エルヴィラが音楽が始まっても微動だにしないアランを見上げると彼は眉間に深い皺を刻んでいた。見つめる視線の先には彼の兄、ヴェヴェルの姿があるが小柄なエルヴィラにヴェヴェルの姿は見えない。まるで石にでもなってしまったかのように虚空を見つめ、動きもせず反応も返さないアランの腕をエルヴィラが両手でぐい、と引くとようやっとアランはエルヴィラに目を向けた。
───ドルガシア王国の貴族には特殊な慣習がある。普通、令嬢からダンスに誘うことなく、紳士からの誘いを待つのが基本だが、誕生の日を祝うパーティだけは例外とされている。年にたった一度だけ、ファーストダンスの相手を自分で選ぶことができるのだ。
(何時もは、わたくしから誘えないのにアル様はどこかへ行ってしまわれるから壁の花が精一杯だったけれど、今日は違うもの)
当然、エルヴィラはその権利をアランに使うことを決めていた。だが彼はまるでそれを知らぬとばかりの言葉を口にした。
「…僕はバルコニーに行ってくる。エルは好きにしろ」
「アル様、お待ちを…ファーストダンスを、わたくしと踊って頂きたいのです」
そのままついと踵を返して本当に歩いていってしまいそうなアランをエルヴィラは目を丸くしながらも引き止める。
「兄上を誘え。今日はエルの誕生パーティーなのだから断らない」
(僕に気を遣っているのか。今日が最後なのだから、いくら僕の心が狭くても…好きにすればいいと言うのに)
アランは立ち止まりこそしたものの、目を合わせないまま何処か投げやりな、自棄を起こしたような表情でそう不満げに返す。そのあんまりな返答にエルヴィラは目尻を微かに上げる。こんな日にまで(生誕パーティ)ヴェヴェルに自分を押し付けようとするアランの言動が信じられなかったのだ。
「…っわたくしは、アル様と踊りたいのです。誕生の日の特権ですわ、踊ってくださいまし」
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