仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ

文字の大きさ
上 下
6 / 9

6話 舞踏会 ①

しおりを挟む
エルヴィラの誕生の日を祝うパーティはドルガシア王国内でも有数の名家であり、潤沢な資産を有するランヴァルド侯爵家らしく多くの招待客を招き、豪華絢爛に開催された。

「アラン第二王子殿下とエルヴィラ・ランヴァルドお嬢様のご入場です」

輝くシャンデリアの元で談笑する招待客らも今回の主役であるエルヴィラとその婚約者のアランが入場すれば途端に静まり、それぞれが腰を降り、二人を迎える。

会場の入口に位置する大階段をアランにエスコートされたエルヴィラが優雅な所作で降りる。やがてホールに到着すると軽く膝を折るだけの礼をとり、一斉に集まる視線に可憐に微笑む。

「今宵は、わたくしの誕生の日を祝いにお越しくださいましたことに心よりの感謝を。ファーストダンスが始まります、どうか楽しいひと時をお過ごしくださいませ」

エルヴィラが主催側の立場としての決まり文句を口にし終わると同時にファーストダンスの楽曲が始まる。途端に静謐な空気が霧散し、各々がファーストダンスをパートナーと踊るために中央に舞い出始める。

エルヴィラが音楽が始まっても微動だにしないアランを見上げると彼は眉間に深い皺を刻んでいた。見つめる視線の先には彼の兄、ヴェヴェルの姿があるが小柄なエルヴィラにヴェヴェルの姿は見えない。まるで石にでもなってしまったかのように虚空を見つめ、動きもせず反応も返さないアランの腕をエルヴィラが両手でぐい、と引くとようやっとアランはエルヴィラに目を向けた。

───ドルガシア王国の貴族には特殊な慣習がある。普通、令嬢からダンスに誘うことなく、紳士からの誘いを待つのが基本だが、誕生の日を祝うパーティだけは例外とされている。年にたった一度だけ、ファーストダンスの相手を自分で選ぶことができるのだ。

(何時もは、わたくしから誘えないのにアル様はどこかへ行ってしまわれるから壁の花が精一杯だったけれど、今日は違うもの)

当然、エルヴィラはその権利をアランに使うことを決めていた。だが彼はまるでそれを知らぬとばかりの言葉を口にした。

「…僕はバルコニーに行ってくる。エルは好きにしろ」

「アル様、お待ちを…ファーストダンスを、わたくしと踊って頂きたいのです」

そのままついと踵を返して本当に歩いていってしまいそうなアランをエルヴィラは目を丸くしながらも引き止める。

「兄上を誘え。今日はエルの誕生パーティーなのだから断らない」

(僕に気を遣っているのか。今日が最後なのだから、いくら僕の心が狭くても…好きにすればいいと言うのに)

アランは立ち止まりこそしたものの、目を合わせないまま何処か投げやりな、自棄を起こしたような表情でそう不満げに返す。そのあんまりな返答にエルヴィラは目尻を微かに上げる。こんな日にまで(生誕パーティ)ヴェヴェルに自分を押し付けようとするアランの言動が信じられなかったのだ。

「…っわたくしは、アル様と踊りたいのです。誕生の日の特権ですわ、踊ってくださいまし」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

初恋の幼馴染に再会しましたが、嫌われてしまったようなので、恋心を魔法で封印しようと思います【完結】

皇 翼
恋愛
「昔からそうだ。……お前を見ているとイライラする。俺はそんなお前が……嫌いだ」 幼馴染で私の初恋の彼――ゼルク=ディートヘルムから放たれたその言葉。元々彼から好かれているなんていう希望は捨てていたはずなのに、自分は彼の隣に居続けることが出来ないと分かっていた筈なのに、その言葉にこれ以上ない程の衝撃を受けている自分がいることに驚いた。 「な、によ……それ」 声が自然と震えるのが分かる。目頭も火が出そうなくらいに熱くて、今にも泣き出してしまいそうだ。でも絶対に泣きたくなんてない。それは私の意地もあるし、なによりもここで泣いたら、自分が今まで貫いてきたものが崩れてしまいそうで……。だから言ってしまった。 「私だって貴方なんて、――――嫌いよ。大っ嫌い」 ****** 以前この作品を書いていましたが、更新しない内に展開が自分で納得できなくなったため、大幅に内容を変えています。 タイトルの回収までは時間がかかります。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

処理中です...