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美貌の魔法使いに溺愛される覚悟をしました。
しおりを挟む好きな人に求められることが、これほど心を落ち着かせてくれるとは知らなかった。そして、心が満たされると身体も素直になるらしい。
「ん……っあ、入って……!」
「ローズのなかは、やわらかくてあったかいな」
二度目の行為に性急さはなく、キールスはいちいちローズの反応をたしかめるようにゆっくり動いた。
「気持ちいいところあったら、教えて」
「わ、わかんない、そんなの……!」
「じゃあいっしょに探そう。何も隠さなくていい。キミは可愛いし、とてもいいよ」
「っ、」
「ここ?」
息をのんで首をそらしたローズの反応に満足げな彼は、不自由な右脚を肩にかついで、より深くを求めるようにぐいと奥に押しつけた。
「あっ、うぅ……」
「痛い?」
「痛く、ない……なんかそこ……ごりごりって、してる……」
「このあたり、僕もいいよ。ほら、ここ。当たるよね」
「あ、……あっ、わか、る……ん、はぁっ」
「でもたぶん、こっちのほうがもっと……」
抜けてしまいそうなほどぎりぎりの、浅い場所をこすられる。
「ひぁっ、あっ、あぁ……っ」
激しく出入りする雄の先端の、わずかな引っかかりがナカをえぐるのが、とてもイイ。でも、少しでもずれたら抜けてしまいそうで。
「や、やだやだ、キールス、抜けちゃう……そこ、もっとしてぇ……!」
無意識にきゅうきゅうと彼のものを絞めてしまう。そうすると、はっきりと彼のかたちを感じるのだ。太くて獰猛で、ローズの奥を限界まで押し広げるそれ。
キールスは答えない。ただ熱っぽくせわしない呼吸がローズの耳に吹き込まれる。
「ね、ローズ、気づいてる?」
体勢をかえて、真正面から深く抱き合う。やっぱりこれが一番あたたかい。人肌が気持ちいいし、心から愛しあっている気がする。
「君の右手、さっきから僕の手をつかんで、ずっと離さないんだよ」
無意識に求めていたらしい手が、キールスに強く包まれている。離さないとばかりにシーツに押し付けられているのを、視界の端で見ることができた。
「ん、……あ、あぁ……っ」
ローズはぎゅっと目を瞑った。あたたかな涙が一粒、目尻から滑り落ちる。
「あぁ、なんてかわいいんだ……イきそう、このまま……いっしょに」
「ぅん、うん……! あ、あぁっ……」
ぎゅっと手を繋いで、ふたりは同時に果てた。
情熱的な祭りの夜がふけて、深夜。
汗がひくにつれて、思考は冷静さを取り戻してくる。
「ねえ……、私、本当に本当に、あなたと生きていいの?」
シーツの冷たいところを求めて転がると、ふたりはちょうど向かい合わせになった。
「よく言うよ。僕のこと、キミがいないとダメなカラダにしておいて」
「言い方!」
べしんと額をひっぱたくと、眠たげにしていたキールスは幸せそうにふわふわと笑った。
「最初にキミを拾ったときから、僕だけのキミにするつもりだったんだ。誰にも愛情を注げなかった僕が、キミだけはかわいいと思えた……」
「かわいそう、じゃなくて?」
キールスは手を伸ばして、ローズの頭を胸元に引き寄せた。
「……運命の人がいるなら、やっぱりキミのことだと思うよ」
「う、嬉しいけど、そんな不確かな感覚で決めちゃダメよ! 人生がかかってるんだから。信じられるものっていえば、たとえばお金、とか。でも私、財産なんてないし」
しびれる右手をさすって、ローズは不安げにつぶやいた。
「これからの治療費だって……出会った頃のものも、まだ全然、返せてないのに」
「それは、ほら。腐るほどもってるし。僕は君に、いつか両腕で抱きしめてもらえたらそれでいいよ」
「……そんなこと、できると思う……?」
「できるさ。君がそうしたいと思うなら、世界中を旅してでも治してあげる」
どんと体当たりするように、ローズはキールスに抱きついた。
「う、うぇ……うぇぇ……」
ずっとずっと不安だった。いつかこの人に捨てられると覚悟することは、愛する彼自身を認められなくなるほどにつらいことだったのだ。
その憂いがなくなった今、彼は、ローズの持病にすら向き合ってくれるという。
「治したいよ、キールス……私、キールスと手を繋いで、一緒に歩きたいもん……!」
「そうだね、僕もそう思うよ」
一度あふれた涙は、なかなかおさまってくれない。
「ほら、泣かないで。そうだ、見て見てローズ、いいものあるよー」
「ひっ? な、なにこれ……なにこれぇえ……!」
「うーん、強いて言えば誕生日プレゼント。ちょっと遅れちゃったけどね」
「た、誕生日ィ?」
だれの、と尋ねる前に、キールスがそれをローズの動かない右手にはめた。
「もちろん、キミの。ローズって名前をあげて、旅に出て、もう一年だ。覚えてた?」
「そんなの……忘れるわけないじゃん……!」
今度こそローズの涙腺は決壊した。ひっくひっくと泣きじゃくる彼女の背を撫でて、キールスはにこにことしている。
きらりと光る、夜色の宝石。光に当てるとさまざまな色に変化するそれは、まさしくキールスそのものだ。
──ローズがただひとつ欲しかった星空に似ている。
「……っ、すごく、きれい……」
「似合うよ」
「指輪なんて、初めて……でも、落としたらどうしよう」
「大丈夫、サイズはぴったりだ。君の肌にとてもよく映える色だろう?」
真っ赤になったローズの頬に口づけて、彼は満足げだ。
「僕の魔力も宿してある。これだけの石はなかなか見つからないよ。少しは右手の補助になるんじゃないかな。毎日つけていてね」
「ほんとだ……不思議。あったかい感じがする」
こほん。キールスは小さく咳払いして、改めてローズの顔を見た。
「それでさ。明日は、朝から一緒に祭りを楽しもうよ」
「うん」
「それから、夜は一緒に酒場にも行ってみる?」
「い、いく」
「ちゃんと僕の横にいてね。ほかの男がキミのこと見てたら、僕きっとそいつの目をつぶしちゃうから」
「だ、だめ……やっぱり行かない。私だってきっと、キールスに触る女の人のこと刺しちゃうから」
「ははは、じゃあちょっと考えよう。この街にも腕のいい医者がいるらしいから、一度訪れてみようか。君が乗り気なら、だけど」
「……うん。行ってみる」
「腕と脚が良くなったら、できることも増えるし。もちろん今のままでも、充分だけどね」
「えっ? そ、それってそういう……ば、ばか、キールスはえっちだ!」
「あと、そうだ。その指輪を持って、大聖堂に行かなくちゃ」
「え? ……それって」
ローズは期待をこめて彼を見つめた。
月の女神、愛の化身。パシフローラの女神は、若い男女に格別の加護をもたらすという。
美貌の魔法使いはこの上なく美しい笑顔で、ローズだけに微笑みかける。
「女神ローズに誓わなくちゃ。僕らの、永遠の愛ってやつをさ」
(了)
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