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◾︎本編その後
あなたの手を放さない
しおりを挟む「そうだ、鳴瀬さん。これ、プレゼントです」
「んー?」
裸にシーツを巻きつけたままずるずるとベッドを降りて、琴香はハンドバッグをあさった。
底の方に大事にしまわれていたそれを手にベッドに戻って、はいと鳴瀬に手渡した。
「遅くなりましたが、コレどうぞ」
「え? ……あ、ありがとう……?」
「ぜひあとで感想教えてくださいね。それとも今から食べます?」
「これ、食べ物なんすか……?」
受け取った鳴瀬がなぜかあわあわとしているから、琴香は急いで説明した。
「チョコレートですよ、バレンタインの」
今日、池野と行ったショップで試食させてもらって一番美味しかったものを買ったのだ。たった四粒しか入っていないけど、宝石みたいに綺麗で、一目惚れだった。そう言うと鳴瀬はあからさまにほっとした様子で、小箱をくるくるとひっくり返した。
「なんだ……チョコかぁ……、良かった……」
「どういうこと?」
鳴瀬は「あはは」と気まずげに頬をかいている。
「いや、まさか、エンゲージリングまで先を越されたのかと思って、すげー焦りました……」
「ゆ、指輪だと思ったの?」
四粒入りの高級チョコレートの小箱はちょうど手のひらサイズで……たしかに言われれば、そう見えなくもない。
「そんな発想は、なかったです……!」
「そっかそっかぁ。じゃあ明日、ホンモノ見に行きます?」
包装を丁寧に開けながら、鳴瀬は上機嫌だ。
「ええっ、いいです、そんなつもりじゃ」
「でもほら、よく考えたらクリスマスもバタバタで終わっていきましたよね、俺たち」
「あのあたり、忙しすぎて全く記憶がないですね……」
「俺も。もったいなかったなぁって」
宝石のようなチョコレートを一粒、大事そうに指でつかんで眺めて鳴瀬は目を細めた。いただきますとひとくち。
「わ、うま」
ぱっと目を輝かせて鳴瀬は琴香を見た。
「ふほい、ほへ」
「ほんと!? 良かったぁ!」
「はべへみふ?」
「なぁに?」
聞き直すと、鳴瀬の手が後頭部に回される。あ、と思った時にはキスされていた。
舌と一緒に、とけたチョコレートが口内に流し込まれる。
「んん……っ」
とろとろに溶けていてもたしかに美味しい。けど、チョコレートの香りが消えてもまだ、しつこく口内を舐められて。
(──息、できない!)
強く胸を押したらようやく解放された。
ぺろりと口の端を舐めた鳴瀬は、「ね?」とにっこり笑った。
「すげーうまいっす」
「~~~っ、もうっ!」
「で、あと三粒ありますが」
どうする? と問われて琴香はウッと詰まった。
「……ほしい、です」
「ん、りょーかい」
二粒目のチョコが彼の口内に押し込まれるのを、琴香は熱っぽくなった顔を押さえて見ていた。
「あっ、あぁっ」
三粒めを食べ終わるころには、我慢ができなくなった鳴瀬に、背後から激しく突かれていた。
「ま、って、イく、イってる……っ、なるせさ……っああっ」
背をしならせる琴香の腰をつかんで、鳴瀬はなおも奥へ奥へと動きを激しくする。はぁはぁと忙しない呼吸を整える暇もなく、彼の手が胸を鷲掴みにした。
「や、きもちいいの、もうやぁ……っ」
イきながらイカされるなんて初めてで、琴香はベッドに顔を押しつけて叫んだ。
「あーっ……!」
がくがくと顎が震える。良すぎておかしくなりそう。こぼれた涙がシーツに吸い込まれていく。
「や、……なるせさん……わた、し、もうむり」
「まだ、もうちょっと」
後背位をやめた鳴瀬は、今度は琴香の片脚を持ち上げた。横向きに寝かされて、もう片脚は彼に押さえつけられていて……自分の力では逃げられない。
「あぁっ、ん、んっ」
「ん、これイイ」
「はぁっ……きもち、いい…….?」
「いいよ、すごく。ずっとしてたい。琴香、いま、すごいかわいい顔してる」
「うそ、やだみないで」
「だぁめ。隠さないで」
電気をつけたままで、しかも琴香は今日、眼鏡じゃなくてコンタクトレンズだ。見えすぎている……鳴瀬が感じているときの顔も、愛おしそうに見つめてくれる視線の微妙な変化も、ぜんぶわかってしまう。
彼からも同じくらい見えているのかと思うとそれだけで興奮するし、余計に感じてしまう。
「あっ、ぁん、深いぃ……!」
「まだ、もっと……させて」
「ん、する、して……っ」
いつもより跳ねるベッドのせいか動きやすいんだと鳴瀬は笑った。
ゆっくりとした動きでナカを埋められる。彼は琴香の前髪を払って、額に何度かキスをした。
「もうちょっとできそう。琴香、したいことある? 俺ばっかり楽しんでるから」
そんなことない、すごく気持ちいい。
──でも、今したいことと言われたら。一つ思い浮かんで、琴香は息を整えた。
「……舐め、たい……」
「ん?」
「フェラ、してみたい……」
「お、おお……そうくる……」
鳴瀬は口元を覆ってつぶやいた。
「ちょ、っと待ってて……!」
「っあん」
引き抜かれた時の快感に酔っているうちに、どうやらあそこをさっと洗ってきてくれたらしい。
「ほんとイイんすか……大丈夫? 無理してない?」
「なんか、嬉しそう、鳴瀬さん」
「好きな子にされて嬉しくない男は……たぶん、いない……」
そういうものなのか。それならもっと早くに言えば良かった。
ベッドの端に座った鳴瀬に合わせて、琴香はベッドをおりた。そうしたらさっとバスタオルを床に敷いてくれて、細かな気遣いにうれしくなった。
「ね、おっぱいも、する?」
腕で寄せて見せつけると、鳴瀬は赤い顔でブンブンと首を振った。
「それはっ………………また今度……っ!」
(これは……して欲しそうだなぁ)
琴香はにっこり笑ってやった。
「えっちな鳴瀬さん」
「む。男はみんなえっちで……うわ」
髪を耳にかけながらそそり立つ男根に唇を寄せると、鳴瀬は慌てて腰を引いた。腹筋の震えに合わせてペニスもびくりと動く。
ホンモノの男性器をまじまじと見たのはこれが初めてだ。エチプチ掲載レベルだと、たいてい結合部は潰されてしまうから、ソコにリアルさを追求したことはなくて……。
「せんせ……見過ぎ……」
ツルツルした亀頭をつんつんとつついていると、鳴瀬のほうが照れ始めた。たしかにこれが逆の立場だったら……絶対、耐えられない。
それならば早くやってしまおうと、先端をぱくりと口に含んだ。
「わ、わわ」
唾液をたっぷり使って、舌の全面で撫でる。裏のすじがいいとか、そういうことを聞いたことがあったような気がする。わからないなりに舌を動かしていると、鳴瀬の手が髪を撫でた。
「は、ぁ……」
ちらりとうかがった彼の表情が──あまりに色っぽくて。
シてるときに、彼がしきりに顔を見たがる理由がやっとわかった。パートナーの感じてる表情って、すごく興奮する。
ますます大きく硬くなったそこをじゅるじゅると吸って、根本は指でつかんで上下にしごく。
「あ、……あ」
彼の吐息を聞くだけで、自分のナカが濡れるような感覚に襲われる。
「ん、ふ……」
「こと、か……腰、うごいてる」
言われてハッとした。だってこれ、すごく、したくなっちゃう。
もっと声が聞きたいし、もっと気持ちよくしてあげたい。
琴香は両手で胸を寄せ上げて、張り詰めたペニスを谷間にはさんだ。
「うわっ、こと……それ、」
先端に垂らした唾液を塗りつけるようにむにゅむにゅとおっぱいを動かして。濡れて滑りが良くなったところで、胸でぎゅっと押しつぶして上下にしごいた。
「うわ、あ、っやば、」
鳴瀬はベッドに後ろ手をついて自分でも腰を振り始めた。
「あったか……は、これ、やばい」
きもちよさそう。すごくうれしい。
先端に口付けると、鳴瀬は身を起こして琴香の頭を押さえた。
「っ、もういいよ、琴香、ありがと。すごいよかった」
「でも……」
琴香は顔をあげて、唾液に汚れた自分の口元をそっと拭った。感じている鳴瀬の顔、もっと見ていたいのに。
「出そうで」
切羽詰まったように言われたら、またナカがキュンキュンとしてしまう。
「もう入れさせて……琴香のナカでイきたい」
ささやきとともに抱き寄せられて、ベッドに引き上げられる。そのまま脚を広げられて、濡れた入り口に熱をあてがわれた。
「すげー濡れてる……」
「ん……ああっ」
ぐぷん、と一気に押し込まれる。じんじんする熱い快感が涙が出そうなほどよくて、腰を浮かせて彼の動きに合わせて奥へと誘った。
「は……たまんないな……」
射精に向けての激しい抽送。激しくて、強くて、それがすごくきもちよくて。
「好きだ、かわいい、きもちいい……幸せすぎて死にそうっすよ、俺」
しんじゃだめ。ぎゅっと背を抱き締めると、鳴瀬が熱く息を漏らした。
激しいセックスのあとの倦怠感をまとわりつかせながら、二人は最後の一粒を口内で溶かしあった。
「チョコレート、美味しかったですね」
「ん……」
琴香を腕に抱いたまま、鳴瀬は眠そうに目を閉じた。
「琴香、あした……いや、もう今日か……俺も東京、一緒に帰ろうかな」
「えっ? ほんと?」
「ん。んで、俺の部屋おいで」
「どうして?」
「うちでもシよ。それと合鍵渡すから、寂しくなったらいつでも入って」
「でも、鳴瀬さんまだ出張中で……月曜朝イチはいつも会議って……」
「それは出なきゃだから、終電でまた大阪戻るけど……けどいま、離れたくない」
琴香の胸にぐりぐりと額を押しつける鳴瀬は駄々っ子のようだ。よしよしと頭を撫でると、同じように背中を撫で回される。
「あとマジで指輪買おう。ご両親に挨拶行って、近いうちに籍入れよう。そしたら転勤までに書類間に合うから……こっちの家は同棲用に広くして……、沿線と、部屋数どうすっかな……」
眠りに落ちそうになりながらも、彼はぼそぼそと喋り続けた。
「どうしたの、急に」
「楽しみで」
それっきり彼はすっと寝入ってしまったようだった。
「うん……そうですね、私も、すごく楽しみ」
髪を撫でて、しばらく寝顔を眺めていたけど、琴香はそろりとベッドを降りた。一緒に眠ってしまいたいけど、寝起きにちょっとでも綺麗でいたいから、ほんの少しだけ身支度を整えないといけないのだ。
ぴかぴかの洗面台の鏡にうつる自分の身体を見てびっくりした。こんなたくさんのキスマーク、いつの間に、と。
急いでコンタクトを外して、さっと歯を磨いて髪を整え、そそくさとベッドに潜り込んだ。
冷たい足先を鳴瀬の脚にぴっとりひっつけたら、小さく寝返りをうった彼に抱き寄せられる。無意識でも自分を求めてくれるのが嬉しくて、一人でにやにやしてしまう。
(あったかい……幸せ)
たくさんの可能性のなかから、一番素晴らしいものをきっと、琴香はつかみとったのだと思う。
二人の選んだ道の先に、おたがいの手を離さないでいられる幸せがたしかに見える。この先もずっとずっと続くように願っているし、やがてこの恋が静かな愛にかわるときにも、この選択をして良かったと、未来の自分が、彼が、そう思えるように。──努力はし続けないとな、と。
静かに決意した琴香は、シーツを手繰り寄せて、彼と一緒にすっぽりくるまった。
「おやすみなさい……鳴瀬さん」
いつか自分もそう呼ばれる日が来るのかと思うとくすぐったい。久しぶりに眺める寝顔はかわいくて愛おしくて、涙が出そうだ。
(寝なきゃ……明日も朝から一緒にいられるんだから)
夢の中でも彼が待ってる──そんな甘い想像に包まれて、今度こそ琴香は瞳を閉じた。
HappyEND.+*:゜+。.☆
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