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■本編 (ヒロイン視点)

レッスン1 緊張の味 -3-

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 内腿をつうっと撫でられ声をあげてしまいそうになる。慌てて口を手で押さえる。

(むり、声……息、できない…………!)

 琴香自身はぴくりとも動いていないのに、呼吸が乱れる。

 知らずのうちに、鳴瀬のバスローブの胸元をきつく握りしめていた。ぎこちなく指を広げると、視界いっぱいに、乱れた着衣と男性の胸がある。
 眼鏡をかけたままだから、なにもかもよく見える。見えるけど、彼しか目に入っていない。そんなこともわからないくらい、頭がいっぱいになっていた。

(や、やばくない? これ)

 ただ撫でられているだけ……なのに。

「なっ、……鳴瀬さん、あの」

 自分のささやき声さえ妙に甘ったるい。焦った琴香は鳴瀬の胸の上で身を起こして、自分のはだけたバスローブの前を慌てて掻き合わせた。

「わ、私……っ」

 起き上がっても、鳴瀬の手は止まらない。

「あの……!」

 タイム、タイムだ。いったん冷静になりたい。
 そんな琴香の気持ちは届かず、気まぐれに動く鳴瀬の指がついにショーツのサイドを引っ張った。

「ひ、ひえええっ!?」
「ちょ、なんちゅー声出すんすか」
「すすすすみませんすみませんっ」

 ひぃっと顔を覆った。
 鳴瀬は琴香を抱いたまま身を起こす。ちょうど膝の間に座らされて、あやされるみたいに背中をぽんぽんと叩かれる。

「あー、この続き、耐えられます? せんせ」
「……っ、……」

 何も言い返せないまま無言の時間が過ぎる。

 少しずつ動悸がおさまってくると、そうかこの『ハジメテ』のドキドキ感もメモを取らないといけないのかと思い当たって、琴香は心の中で「無理!」と叫んだ。モノローグを他人の目に晒すなんて羞恥の極みだ。

(こっ、これの続き、って……?)

 フリとはいえ、もっとすごいことが起きるのか。起きるんだろう。
 ちらりと鳴瀬を見やると、彼はあくまでのんきに琴香を見ている。余裕か。

(……、つら……)

 好きじゃない人とするセックスって、こんなに淡々とできるものなのか。勉強になった。
 さっきの決意はどこへやら、琴香の威勢は見る影もない。しゅんとなって、下を向いた。

「……す、すみません……だめ、かも……」

 たった数分、異性とひっついただけでこれだ。身体の震えがとまらない。恐怖ではなく、自分の浅はかな行為を恥じて。

「っぽい、すね」

 琴香をころんとベッドの上に転がすと、鳴瀬は起き上がってぽりぽりと頬をかいた。

「……ちょっと、考えましょっか」

 あくまで優しくそう言われてしまえば、恐縮しきった琴香は小さく丸まって「はい」と返事をするので精いっぱいだった。

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