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鵤牙之郷

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第4話【Under control…】

#4

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 気がつくと、メロは大きなカプセルの中に寝かされていた。

『おはよっ! よく眠れた?』

 カプセルの中でノーラの声がした。ここは地下研究所らしい。

「これは?」

『メロ君、だいぶお疲れだったから、今メンテナンスしてたの』



 研究所には広い部屋がひとつあり、メロが横たわっているものと同じカプセルが複数設置されている。
 ここは「メンテナンスルーム」ということになっている。戦いで消耗しきったメロの体を回復させるためのもの。超獣計画が完成する前からあったもののようだ。

 他のカプセルには、この数時間でメロが弱毒化したトキシムが眠らされている。ここで体内の群体の活動状況を調べている。ある程度沈静化したと確認出来た際には、病棟の病室に移送するらしい。
 今は眠ったまま。目覚めた時、人間に戻っているか、トキシムのままか、それはわからない。



「取り敢えずひと安心っすね。じゃあ、俺、もう大丈夫なので————」

『メロ君が飛び出してった後ね、アタシ、一生懸命お婆さんとメロ君を探して……心配で心配で、熱暴走しかけたんだよねぇ』

 ノーラの声が、いつもの明るいものから、段々と暗くなっていく。


『次、無茶したら……ただじゃ済まねぇからな?』

「すみません。あのっ、すみませんでしたっ!」

『わかればよし! じゃ、開けまーす』

 カプセルの天井がスライドして開いた。だが、メロは言いようのない恐怖を感じ、すぐには起き上がれなかった。

 迷路のように広い研究所。ノーラに案内され、メロは博士が待つモニタールームに入った。博士はあの仮面を外していた。目の下にくまが出来ている。


「起きたか」

 メロが黙って頷いた。

 研究所に戻った後、あの黒ずくめの集団の正体を探ろうとしたが、町のカメラに彼等の車は映っていなかった。ノーラもメロとの通信が途絶えたと言っていた。妨害電波でも出していたのだろうか。彼等が何者なのか、何のために動いているのか、依然としてわからないままだ。



「さて、話を変えよう」
 博士はエナジードリンクを飲むと、メロにこう告げた。
「しばらくの間、ここがお前の家になる」

「は?」

「現状、トキシムを殺さずに止められるのはお前だけだ。今後も町のトキシムの無力化を頼みたい」
「そりゃあ、そうだけど……」
「システムのコンディションを整えるため、トキシムの出現にすぐに対処するため、この研究所に身を置いてもらう。それに、その左腕もどうにかして隠さないとな」

 明らかに不自然な左腕。確かにこの姿では気軽に外も歩けない。
 少し考えた末、メロはここに留まることを決めた。
 だが、その前に、

「叔母さんに連絡させてほしい」

 ◇◇◇

 廃病棟エントランス。


 研究所にあった服を着せてもらい、メロは地上に上がって翠に電話をかけた。電話は研究所にあったものを使った。


 時刻は朝6時。
約2週間ぶりの甥からの電話。
当然、電話口の翠から質問攻めを受けた。今どこにいるのか、無事なのか、何があったのか。

「実は、大怪我しちゃってさ」

 嘘をついた。


「家から離れた病院にいるんだけど、まだ入院してなきゃ、その、ダメっぽくて」

『入院? どこの病院? 今からそっちに行く』

「いや、駄目なんだ」

『駄目って何よ?』

「いや、その、何かヤバいウイルスが見つかってさ。感染を防がなくちゃいけないんだ」


 何かの映画で観たシーンを思い出し、嘘を広げる。


 翠が不安そうな声をあげると、申し訳ない気持ちで一杯になった。


「また元気になったら、絶対戻るから。今は安心して」

『せめて病院の場所くらい教えなさい』

「病院……あっ、あれ? 何か電波が」


 下手な芝居を打って電話を切る。
 絶対に嘘だとバレている。長年共に暮らしてきたメロの勘がそう告げている。
とは言え、こんな状態で喫茶店に帰るわけにもいかないし、トキシムらを、引いては旧組織の幹部らを止めたい気持ちがあるのも事実だ。


「ごめんな、叔母さん」

 ◇◇◇

 メロが電話をかけている間、博士は彼の経歴を調べていた。

 運ばれて来た時に名前や住所、直近の健康診断の結果などは調べたが、彼の過去についてまだしっかりチェックしていなかった。


 博士が見つけたのは、ある事故のニュース。メロの両親が巻き込まれた事故だった。
 これはただの記事。メロの気持ちについては記されていない。それでも、他人のために体を張る強い正義感はここから来ているのだろう、と博士は悟った。


「準備は進んでいるか?」

 開いていたページを閉じ、博士がノーラに尋ねたのは、メロの左腕を隠す方法。

 手っ取り早いのは、服やら包帯やらで物理的に隠すことだが、形が歪なので不自然に見えてしまう。
研究所に遺された技術を用いて、もっと特殊な方法で隠さなければ。
『それならまずは、メロ君のコンディションを整えないとね~』

 超獣システムの力を解放したメロ。今後も激しい戦いが繰り広げられるだろうし、その都度メロの体に負担がかかる。
 
最も危惧しているのは暴走。銃撃を受けた際、間違いなくその兆候はあった。今後暴走しないという保証はどこにもない。



「課題は山積みだな。……ところでさ」

 ここで、博士が抱いていた疑問を投げかける。

「あいつ、お前には敬語使うのに、俺にはタメ口だろ? あれ、何でかなと思ってさ」

『あー、人望無いんじゃね?』

 ノーラが適当に返した。
冷たいひと言。それも、人間ではなくAIが言い放った。

「俺、人望無いの? 機械に負けてんの?」

『うるさいなぁ、もう! 気が散るから黙ってて!』

《警告、警告。システムの熱暴走を検知。冷却を行います》
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