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20話:彼の元へと 3※R-18(お相手:ルナール)

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 ルナールの熱く滾った雄が、ゆっくりと自分の中に入り込む。慣らしもせずに挿入したため、身体が痛みを訴えるが、それ以上にヴィンスの心を傷付けていたのは、己の存在こそが父を死に追いやったという事実であった。
 
(殺すべき仇は――私、自身だった)
 
 自分が産まれなければ、父は『悪魔憑き』にはならなかった。火あぶりにされる事はなく、きっとその心根に相応しい優しく穏やかな人生を歩む事ができたのだろう。
 
 命を、安穏を、父の全てを奪い尽くしていたのは自分だ。その上、ルナールまで己の身体が放つ香りで惑わせ、あれだけ信心深かった彼に、道を踏み外させた。なら今こうして己が受けている痛みは、父を殺し友を狂わせた罰なのだろうか。
 
「っ、ぁ……く……」 
 
 足りない。最奥へと精を送り注ごうとする律動に衝き動かされる痛みでは、己が犯した罪への報いに遠く及ばない。罪を自覚してしまった今。己の胸を温めてくれていた光のような夢も、希望も、恋も。今はただ、全てが手放され、遥かに遠いものに感じられる。
 
「ヴィンス、っぁ、あ、ヴィンス――!!」
 
 陶然とした声で何度も何度も名を呼ばれる度に、瞼の裏側に抱く感情を鏡のように素直に表わす月のような金色の瞳が。慎ましく柔らかな愛情のこもった声が。宝物のように大切に触れてくれる手の感触が。堪らなく恋しかった。
 
「……ベー……ト」 
 
 思わずヴィンスが漏らした声に、ピタリとルナールの動きが止まった。
 
「……それが、お前を匿った男の名前か?」
 
「っ……」
 
 背中にぴったりとルナールの胸が重なり、一層奥深くまで陽根が埋め込まれる。柔らかな内臓を傷つけられる痛みに、くぐもった声をヴィンスは漏らすと、宥めるように骨ばった太い指が、先程漏らした名前を確かめるように喉仏を何度も撫でた。
 
「なあ、ヴィンス。そうなのか?」 
 
「ち、が……」 
 
 ルナールの問いかけはヴィンスを怖がらせまいとする配慮からか、穏やかな声色と口調であったが、隠し切れない程の殺意が込められていた。反射的にヴィンスは首を横に振りながら、必死になって否定し続けていたが、抉るように腰を突き動かされ、否定の言葉の代わりにくぐもった声に変じた。
 
「ヴィンスは本当に嘘が下手だな」
 
「ルナール、止めろ。私とお前の間の事に、アイツは関係ない」
 
「関係はあるさ。だって、ソイツはお前が『悪魔憑き』だって知っている。今は気づいていなくても、いつか気づくかもしれない。お前が『悪魔憑き』だって知っているのは、俺だけじゃないとお前が危ないだろう? だからこれは、お前の為に必要な事なんだ」
 
「っ!!」 
 
 震えるヴィンスの黒髪に、ルナールは小さくキスを落とす。深々と埋め込まれた雄が引き抜かれ背中から身を離すが、ヴィンスの胸には一層恐怖が込みあがる。
 
 ヴィンスから離れ、ルナールは身を整え始めた。ポケットの中から取り出した銀色のナイフの切れ味を確かめている姿に、ヴィンスは彼がこれから何をするつもりなのかを悟った。
 
「ルナール、待て。待ってくれ」
 
 内側を傷つけられた激痛を理性で制し、手を震わせながら上半身を起こすと、ヴィンスは必死に引き留めようと呼びかけた。その声へ応えてルナールは振り返り、狂的なまでの愛情と燃えるような妬心の混じった視線を向けた。
 
「ごめんなヴィンス。お前と『家族』になるのは、全ての危険を狩り終えた後だ」 
 
「ルナール!!」 
 
 自分が今こうして痛みを味わっているのは、父を死なせた罰なのだろう。ルナールの望みのとおりになることもまた、彼を狂わせた罰として受け入れる。だが、ベートが殺される。それだけは、ヴィンスは許容することは出来なかった。
 
 二人がかち合ってしまえば、どちらかが死ぬまで終わらない。一秒でも長く、ベートとルナールが邂逅する時を引き延ばすべく、身体を震わせながらズルズルと這いずってヴィンスはルナールの足へと近づく為に進んだ時、狼を思わせる唸り声が聞こえた。 
  
「っ……」
 
 小さく息を詰まらせたヴィンスの反応に、ルナールのきつね色の瞳が細まり、純然とした殺意に染まる。
 
「――お前か」 
 
 腰を落としナイフを構えるルナールに、人より鋭いベートの犬歯がカチカチと鳴った。
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