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18話:彼の元へと 1(side:ルナール)
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屋敷から猟犬を連れ、ルナールは森の中に居た。私欲の為に、他人の所有物を無断で使う。明確に聖道を外れた行為を、今の己は心苦しさを感じる事さえない。
唇を噛み締め、ポケットからハンカチを取り出すとルナールは自分に尾を振る猟犬へと腰を屈めて匂いを嗅がせた。
「さあ、これがヴィンスの匂いだ――アイツの所まで、案内してくれよ」
首筋を優しく掻いてやりながらルナールが語りかけると、猟犬の耳がピンと尖って駆け出した。子犬の頃から、この猟犬たちを世話してきた。この森がどんなに広大で深かろうとも、どれほどの数の狼が、この森に住んでいようとも。この犬達の遠吠えだけは、どんな遠い所からでも聞き取れる自信がルナールにはあった。そして、彼等だけにヴィンスを探させるつもりもない。ルナールは腰を落とすと、自然の中に紛れ込んでいる異物を、一つ一つ確かめ、ヴィンスの名残を探し始めた。
「……?」
木の幹に、小さなナイフで刻まれた新しい十字の傷がある。ヴィンスは、歩く際にも苦痛の表情を浮かべる程、身体に不具合を抱えている。おまけに慣れていない森の中を逃げるのだ。自分のように森に慣れた猟場管理者に見つからないよう痕跡を隠しながら、迷わないよう逃げるような真似は出来ない。それに、木々に刻まれたナイフの傷も随分浅く、随分とバランスも悪い。
(ヴィンスらしいな――このくらいしか、跡がつけられなかったなんて)
苦痛を抱えたまま、慣れない山道を逃げ隠れるヴィンスの焦燥を感じ取り、そっと十字の傷をルナールは撫でると、他の木々に付けられた傷も探し始めた。昔おとぎ話で聞いた、兄妹達を家まで送り届けた光る小石のように、木々に付けられた十字の傷は、ヴィンスの辿った道を記している。
早くあって、彼を安心させてやりたい。土の踏み跡や踏み荒らされた草を追いながらルナールが進んでいると、急に視界が開けた。
「――?」
泉の周りを歩いて確かめるが、自分が見つけた跡以外何も残っておらず、野営どころか争った痕跡さえもない。ただ、泉の涼やかな水の匂いが満ち、その恩恵に預かり水を飲む鹿が数匹いるだけだった。
「――」
それが意味する事は、森の歩き方を知っている人間がヴィンスの逃亡に力を貸したと言う事だ。ヴィンスの傍に、自分以外の人間が並び、彼に視線を向けている。夢想するだけでも荒れ狂う程の激情を生み、その衝動に身を任せてルナールは強く舌打ちした。
「……くそ……!!」
ルナールは木の幹を思い切り殴りつけた。木々が揺れる音と共に己の気配を感じたのか、鹿達が勢い良く逃げ出してしまう。
『悪魔憑き』の持つ魅力がどれほど抗いがたい力を持つか、自分が誰よりも何よりも知っている。あのずっと埋もれていたくなる程の惹きつける甘い香りを胸に吸い込み、誰も寄せ付けまいとする気高い光を放つニガヨモギ色の瞳に見つめられれば、聖道など忘れてしまう。
(ヴィンス――)
どうか、自分以外の人間を惑わせないでくれ。祈りながら胸中で強く名前を呼ぶと、自分の思いを聞き届けたように猟犬の遠吠えが微かに聞こえた。その瞬間、あれだけルナールの胸をかき乱していた焦燥や煩悶が消え、意識が獲物の喉笛へといかに素早く的確に牙を立てる『猟犬』へとシフトする。
「……」
音の方へと走り、木々の間を駆け、猟犬達の元へと近づく度に五感がより研ぎ澄まされて、空気の流れや、涼やかな気配に交じる甘やかな香りさえも感じ取れそうだった。
(早く――)
その白い喉笛に、自分の牙を埋め込ませたい。薄く滑らかで繊細な肌の下を流れる血は、きっとワインよりも甘く濃密に自分を酔わせてくれるだろう。歓喜と期待にルナールの胸が高まり、恍惚が身体を駆け巡る。
「ヴィンス」
木々が生い茂り太陽の光を遮った場所に居ても尚、彼を隠しきる事はできなかったのだろう。薄暗い森の中で、ただヴィンスのみが輝いていた。
「……ルナール」
優秀な猟犬達はいつもの狩のとおりに必要以上に傷を付ける事無く、獲物の体力のみを削っていた。着ている衣服は最後に見たものとは異なり随分と簡素で使い込まれたもので、ヴィンスの潜伏に手を貸した者が居るという事実を突きつけられ、ルナールは掌を強く握り締めた。
「くぅん……」
静かなルナールの怒りを感じ、猟犬達の輪が少し崩れ、懇願するような瞳でルナールに許しを請うような瞳で見上げていた。我に還ったルナールは、役目を終えた猟犬達に合図を送ると、ほっとした様に尾を垂らせて散り散りに去っていった。
「こうしていると、この世界に二人っきりになったみたいだな。ヴィンス」
寛いだ声色で、一歩一歩とルナールが近づいてくる。ゆっくりとした歩みではあるが、ヴィンスにとってはそれでも恐怖を覚えているのか、フルフルと足を震わせながら、ジリジリと後退する。
「お前……本当に――ルナールなのか?」
疑わし気な表情でヴィンスが名前を呼ぶと、その表情には恐怖がありありと込められている。きっと自分が、『悪魔付き』であるヴィンスを狩りに来たとでも思っているんだろう。
近づけば、自分がヴィンスを殺すとでも思っているのだろうか。見当違いの恐怖に怯えるヴィンスが可愛らしく、早く手元で守ってあげたくて。ルナールは笑みを浮かべた。
「ヴィンス、大丈夫。怖がらないでくれ」
笑みを深め、手を伸ばす。だが、ヴィンスは怯えたように身を強張らせ、身体の全てで己が伸ばす手を拒絶し続けている。恐ろしい魅力的な香りが、自分を惑わせる事を恐れているのだろうか? 己はとうに、ヴィンスという美しい毒に狂ってしまっているというのに。
「信じてくれ、ヴィンス。俺は――お前を救いに来たんだ」
ルナールの言葉に対しヴィンスは眉を潜めると、後退する足を止めた。ヴィンスは、今までの聖道を進むことが喜びである自分を知っている。安心させるように笑みを浮かべると、ルナールはヴィンスの両肩に手を置いた。
「ヴィンス――お前はまだ、間に合う。戻れるんだ」
慰めに聞こえる言葉は、子どもにでも言い聞かせるようなやんわりとした優しい口調だ。だが、肩に手を置くルナールの指は、まるで鎖のようにヴィンスの肩から離れない。だからせめて、ヴィンスは眉を吊り上げると、ルナールの顔を見上げて睨みつけた。
「この国で、一度でも『悪魔憑き』の疑いがかかったならば、どんな扱いを受けるか――お前だって知っているはずだ」
「お前の事は、お屋敷の連中には言ってない。痛みが酷いから、医者の所で療養してるって誤魔化してる」
「そんな一時しのぎで、万事うまくいくとでも? お前が口を噤んだ所で、他の人間に告発されれば――」
「俺がお前にそんな事をするはずないだろ?」
熱で浮かれたようなルナールの口調に、ヴィンスの背筋に怖気が立った。何かが、壊滅的なまでに噛合っていない。口調はこの上なく柔和で機嫌が良さそうなのに、愛おし気に己を向ける視線には、先程己を此処まで追いつめた猟犬達以上に鋭く、禍々しく、熱情と冷ややかな理性が入り混じっていた。
彼は、本当に己が知っているルナールなのか? それとも、己の身から漂う香りというものは――ここまで人を狂わせるものなのか?
困惑に口を噤んだヴィンスは、ルナールをただ見つめ返す事しかできなかった。ヴィンスの困惑に気づいたルナールが、両肩に置いた手を離はなし、宥めでもするように頬にそっと手を添えられる。
「っ……ぁっ……」
親指の部分が首の筋を愛おし気に撫でられ、まるで両首を強く締め付けられているかのように息苦しくて、仕方が無い。思わず声をヴィンスが上げると、宥めでもするように頬をそっと撫で続けた。
「もうお前が誰も惑わさないよう、罪を犯す事が無いように、俺がお前を守るよ」
「わたし、は――」
ルナールの言葉に、ヴィンスは口籠った。ルナールのここまでの変容は、恐らくは己の身体から放たれる香りによるものだろう。自分の意思に関係なく、自分の身体は一人の男を此処までも変容させてしまう。その脅威を目の当たりにして、何故これ程までにこの国が『悪魔憑き』を恐れ、そして排除しているのかをヴィンスは思い知った。
「ルナール……」
躊躇いながらヴィンスが呼びかけると、ルナールは愛おし気に目を細めて問いかけた。
「なあヴィンス。その服を貸した相手は、誰だ?」
唐突な質問に、ヴィンスは目を見開いた。
「その服、お前のにしてはサイズが違う。なあヴィンス、そいつにも、お前はこの匂いを嗅がせたのか? 俺だけじゃ飽き足らず、他の人間も堕落させようとしてたのか?」
「――」
「お前に人を堕落させる意図はない事は分かるよ。でも、意志に関わらずにそうしてしまうから『悪魔憑き』で、だからこそ、お前は俺に守られなくちゃいけない――これ以上、人を惑わせないために」
「違っ……アイツは、私を――」
否定しようとしたが今のルナールの鬼気迫る様子は、最初に出会った時のベートを思い起こさせる程に荒々しい。ベートは己を愛してくれている。だが、もしも己が『悪魔憑き』ではなかったら、果たして彼は己を愛してくれただろうか?
「アイツは……」
それ以上何も言えなくなるヴィンスの表情に、ルナールは苦々しい表情を浮べて無理矢理に顔を己へと向けさせた。
「今、お前の前に居るのは俺だ!! お前を救うのも、愛する事も出来るのも――俺だけだ!!」
「っ、ぁっ……!!」
強い力で押し倒され、背中を強く打ち付けられる。己を見下ろすルナールは、獰猛なまでの渇望を瞳に宿してヴィンスが纏う衣服を勢いよく引き裂いた。
唇を噛み締め、ポケットからハンカチを取り出すとルナールは自分に尾を振る猟犬へと腰を屈めて匂いを嗅がせた。
「さあ、これがヴィンスの匂いだ――アイツの所まで、案内してくれよ」
首筋を優しく掻いてやりながらルナールが語りかけると、猟犬の耳がピンと尖って駆け出した。子犬の頃から、この猟犬たちを世話してきた。この森がどんなに広大で深かろうとも、どれほどの数の狼が、この森に住んでいようとも。この犬達の遠吠えだけは、どんな遠い所からでも聞き取れる自信がルナールにはあった。そして、彼等だけにヴィンスを探させるつもりもない。ルナールは腰を落とすと、自然の中に紛れ込んでいる異物を、一つ一つ確かめ、ヴィンスの名残を探し始めた。
「……?」
木の幹に、小さなナイフで刻まれた新しい十字の傷がある。ヴィンスは、歩く際にも苦痛の表情を浮かべる程、身体に不具合を抱えている。おまけに慣れていない森の中を逃げるのだ。自分のように森に慣れた猟場管理者に見つからないよう痕跡を隠しながら、迷わないよう逃げるような真似は出来ない。それに、木々に刻まれたナイフの傷も随分浅く、随分とバランスも悪い。
(ヴィンスらしいな――このくらいしか、跡がつけられなかったなんて)
苦痛を抱えたまま、慣れない山道を逃げ隠れるヴィンスの焦燥を感じ取り、そっと十字の傷をルナールは撫でると、他の木々に付けられた傷も探し始めた。昔おとぎ話で聞いた、兄妹達を家まで送り届けた光る小石のように、木々に付けられた十字の傷は、ヴィンスの辿った道を記している。
早くあって、彼を安心させてやりたい。土の踏み跡や踏み荒らされた草を追いながらルナールが進んでいると、急に視界が開けた。
「――?」
泉の周りを歩いて確かめるが、自分が見つけた跡以外何も残っておらず、野営どころか争った痕跡さえもない。ただ、泉の涼やかな水の匂いが満ち、その恩恵に預かり水を飲む鹿が数匹いるだけだった。
「――」
それが意味する事は、森の歩き方を知っている人間がヴィンスの逃亡に力を貸したと言う事だ。ヴィンスの傍に、自分以外の人間が並び、彼に視線を向けている。夢想するだけでも荒れ狂う程の激情を生み、その衝動に身を任せてルナールは強く舌打ちした。
「……くそ……!!」
ルナールは木の幹を思い切り殴りつけた。木々が揺れる音と共に己の気配を感じたのか、鹿達が勢い良く逃げ出してしまう。
『悪魔憑き』の持つ魅力がどれほど抗いがたい力を持つか、自分が誰よりも何よりも知っている。あのずっと埋もれていたくなる程の惹きつける甘い香りを胸に吸い込み、誰も寄せ付けまいとする気高い光を放つニガヨモギ色の瞳に見つめられれば、聖道など忘れてしまう。
(ヴィンス――)
どうか、自分以外の人間を惑わせないでくれ。祈りながら胸中で強く名前を呼ぶと、自分の思いを聞き届けたように猟犬の遠吠えが微かに聞こえた。その瞬間、あれだけルナールの胸をかき乱していた焦燥や煩悶が消え、意識が獲物の喉笛へといかに素早く的確に牙を立てる『猟犬』へとシフトする。
「……」
音の方へと走り、木々の間を駆け、猟犬達の元へと近づく度に五感がより研ぎ澄まされて、空気の流れや、涼やかな気配に交じる甘やかな香りさえも感じ取れそうだった。
(早く――)
その白い喉笛に、自分の牙を埋め込ませたい。薄く滑らかで繊細な肌の下を流れる血は、きっとワインよりも甘く濃密に自分を酔わせてくれるだろう。歓喜と期待にルナールの胸が高まり、恍惚が身体を駆け巡る。
「ヴィンス」
木々が生い茂り太陽の光を遮った場所に居ても尚、彼を隠しきる事はできなかったのだろう。薄暗い森の中で、ただヴィンスのみが輝いていた。
「……ルナール」
優秀な猟犬達はいつもの狩のとおりに必要以上に傷を付ける事無く、獲物の体力のみを削っていた。着ている衣服は最後に見たものとは異なり随分と簡素で使い込まれたもので、ヴィンスの潜伏に手を貸した者が居るという事実を突きつけられ、ルナールは掌を強く握り締めた。
「くぅん……」
静かなルナールの怒りを感じ、猟犬達の輪が少し崩れ、懇願するような瞳でルナールに許しを請うような瞳で見上げていた。我に還ったルナールは、役目を終えた猟犬達に合図を送ると、ほっとした様に尾を垂らせて散り散りに去っていった。
「こうしていると、この世界に二人っきりになったみたいだな。ヴィンス」
寛いだ声色で、一歩一歩とルナールが近づいてくる。ゆっくりとした歩みではあるが、ヴィンスにとってはそれでも恐怖を覚えているのか、フルフルと足を震わせながら、ジリジリと後退する。
「お前……本当に――ルナールなのか?」
疑わし気な表情でヴィンスが名前を呼ぶと、その表情には恐怖がありありと込められている。きっと自分が、『悪魔付き』であるヴィンスを狩りに来たとでも思っているんだろう。
近づけば、自分がヴィンスを殺すとでも思っているのだろうか。見当違いの恐怖に怯えるヴィンスが可愛らしく、早く手元で守ってあげたくて。ルナールは笑みを浮かべた。
「ヴィンス、大丈夫。怖がらないでくれ」
笑みを深め、手を伸ばす。だが、ヴィンスは怯えたように身を強張らせ、身体の全てで己が伸ばす手を拒絶し続けている。恐ろしい魅力的な香りが、自分を惑わせる事を恐れているのだろうか? 己はとうに、ヴィンスという美しい毒に狂ってしまっているというのに。
「信じてくれ、ヴィンス。俺は――お前を救いに来たんだ」
ルナールの言葉に対しヴィンスは眉を潜めると、後退する足を止めた。ヴィンスは、今までの聖道を進むことが喜びである自分を知っている。安心させるように笑みを浮かべると、ルナールはヴィンスの両肩に手を置いた。
「ヴィンス――お前はまだ、間に合う。戻れるんだ」
慰めに聞こえる言葉は、子どもにでも言い聞かせるようなやんわりとした優しい口調だ。だが、肩に手を置くルナールの指は、まるで鎖のようにヴィンスの肩から離れない。だからせめて、ヴィンスは眉を吊り上げると、ルナールの顔を見上げて睨みつけた。
「この国で、一度でも『悪魔憑き』の疑いがかかったならば、どんな扱いを受けるか――お前だって知っているはずだ」
「お前の事は、お屋敷の連中には言ってない。痛みが酷いから、医者の所で療養してるって誤魔化してる」
「そんな一時しのぎで、万事うまくいくとでも? お前が口を噤んだ所で、他の人間に告発されれば――」
「俺がお前にそんな事をするはずないだろ?」
熱で浮かれたようなルナールの口調に、ヴィンスの背筋に怖気が立った。何かが、壊滅的なまでに噛合っていない。口調はこの上なく柔和で機嫌が良さそうなのに、愛おし気に己を向ける視線には、先程己を此処まで追いつめた猟犬達以上に鋭く、禍々しく、熱情と冷ややかな理性が入り混じっていた。
彼は、本当に己が知っているルナールなのか? それとも、己の身から漂う香りというものは――ここまで人を狂わせるものなのか?
困惑に口を噤んだヴィンスは、ルナールをただ見つめ返す事しかできなかった。ヴィンスの困惑に気づいたルナールが、両肩に置いた手を離はなし、宥めでもするように頬にそっと手を添えられる。
「っ……ぁっ……」
親指の部分が首の筋を愛おし気に撫でられ、まるで両首を強く締め付けられているかのように息苦しくて、仕方が無い。思わず声をヴィンスが上げると、宥めでもするように頬をそっと撫で続けた。
「もうお前が誰も惑わさないよう、罪を犯す事が無いように、俺がお前を守るよ」
「わたし、は――」
ルナールの言葉に、ヴィンスは口籠った。ルナールのここまでの変容は、恐らくは己の身体から放たれる香りによるものだろう。自分の意思に関係なく、自分の身体は一人の男を此処までも変容させてしまう。その脅威を目の当たりにして、何故これ程までにこの国が『悪魔憑き』を恐れ、そして排除しているのかをヴィンスは思い知った。
「ルナール……」
躊躇いながらヴィンスが呼びかけると、ルナールは愛おし気に目を細めて問いかけた。
「なあヴィンス。その服を貸した相手は、誰だ?」
唐突な質問に、ヴィンスは目を見開いた。
「その服、お前のにしてはサイズが違う。なあヴィンス、そいつにも、お前はこの匂いを嗅がせたのか? 俺だけじゃ飽き足らず、他の人間も堕落させようとしてたのか?」
「――」
「お前に人を堕落させる意図はない事は分かるよ。でも、意志に関わらずにそうしてしまうから『悪魔憑き』で、だからこそ、お前は俺に守られなくちゃいけない――これ以上、人を惑わせないために」
「違っ……アイツは、私を――」
否定しようとしたが今のルナールの鬼気迫る様子は、最初に出会った時のベートを思い起こさせる程に荒々しい。ベートは己を愛してくれている。だが、もしも己が『悪魔憑き』ではなかったら、果たして彼は己を愛してくれただろうか?
「アイツは……」
それ以上何も言えなくなるヴィンスの表情に、ルナールは苦々しい表情を浮べて無理矢理に顔を己へと向けさせた。
「今、お前の前に居るのは俺だ!! お前を救うのも、愛する事も出来るのも――俺だけだ!!」
「っ、ぁっ……!!」
強い力で押し倒され、背中を強く打ち付けられる。己を見下ろすルナールは、獰猛なまでの渇望を瞳に宿してヴィンスが纏う衣服を勢いよく引き裂いた。
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