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9話:悪魔との取引※R18(お相手:ルンペル)
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草の上に倒れるように肩を押され地面に背中がつくと、今から行われる事がまざまざと想像してしまう。目の前に居る男の好色的な視線から意識を逸らそうと、顔を背けて強く目を閉じるヴィンスに、ルンペルはクツクツと喉を鳴らしながらゆっくりとシャツのボタンに手をかけた。
「寝台の上でなくてご不満かな? 威勢が良いと思ったが、中々に可憐だね」
「うるさい……さっさとしろ」
「私だけ楽しむのも味気ない、君にも楽しんで貰えるよう、手と心は尽くしてあげるよ」
「っ……」
知識を得るため取引で身体を差し出したために成される行為の、自分がどこに楽しむ要素があると言う。露になった首筋に唇を落としながら気遣いの皮を被ったなぶる言葉を放つルンペルを、ヴィンスは反射的に睨みつけた。
「花散らされる事を怖がる乙女のように、さめざめ泣くかと思っていたが、中々に気骨がある――君は本当に雄を煽るのが上手い」
「私はそんな事――っ……!!」
露になった胸の突起に、鋭い爪が立てられる。ピリピリとする痛みに言葉を失い、一度身体を跳ねさせたヴィンスに対して、ルンペルは捕食者の眼差しで見つめながら、日に焼けていない白い陶器のように艷やかな肌に赤黒い舌が近づいた。
「痛いのは少し刺激的だったかい? このくらいなら、どうかな?」
「……ぁ、っ……!!」
冷ややかで湿った舌が、肌をそっと這う感覚はまるで蛇に身体を這われているようで怖気立つ。この男が与えるものを、受け取りたくなんて無い。チクチクと背中を刺す葉の鋭さや歯を唇で噛んで生まれる痛みへ意識を向けようとすると、肋骨の隙間をグリグリと舌が抉るように押される
「っ、ぅ……!!」
いくら己が虚弱といえど、舌で貫かれる程柔らかな身体ではない。頭の中ではヴィンスは重々に承知しているものの、舌でゴリゴリと骨を押される感覚に、被食される草食動物のような心地にさせる。ルンペルもそれを承知しているのか、舌は段々と下腹部へと降り、内蔵を貪る狼を思わせる舌使いで臍の周辺を円を描きだす。
「ん、ふっ……ぁ、ぅっ……」
内臓を舌で押される事で生まれる疼きは内側を抉られ溶けるような疼きと異なり、死の予感を常に帯びていた。生存本能に突き動かされるままルンペルから逃げ出そうと腰を捩らせると、大きな褐色の手に両腰をしっかりと掴まれ動きを封じられた。
「そんな逃げ出すような反応をされると、益々逃したくなくなるだろう?」
「っ、ぁっ……!!」
ぐり、と臍の窪んだ箇所に舌の先端が入り込むと、胎の奥底が不規則に震え出す。痛みヴィンスは何度も息を吸おうと試みるが、肺に孔でも空いてしまったかのように、上手く身体に巡らせる事ができなかった。
息苦しさと痛みで表情を歪ませているヴィンスの様子を、ルンペルは暗褐色の瞳でじっくりと見つめ、愉しんでいる。腰を掴んでいた手の力を強めると、ギシリと骨が小さく軋み、白い肌にくっきりと青黒い手の跡が付く。
チラリとルンペルがヴィンスの様子を確かめると、強い痛みに動く事も出来ないのか、ヴィンスは薄緑色の瞳からジンワリと涙を滲ませてただ身を震わせて痛みに耐える事しかできない。
その様子は細首を徐々に締め上げるような楽しみを、ルンペルに与えていた。痛みと服従に心を蹂躙されるヴィンスの姿は、とても美しく、愉悦と満足を与えてくれる。ならば悦楽に溺れる姿はどうなのだろうか?
「君の心を表すように、肌も身体も繊細だ――此処はどうなのかな?」
腰を掴んでいた手を離し。やんわりと問いかけながらズボンに手を掛けられ、ヴィンスは声を上げて上半身を起こそうとした。だが、腰と下腹部の痛みに襲われて身を再び身体を草の上に倒れ込ませる事しか出来ない。
「下腹部が痛むんだろう? 無理はせず、私の手に身を任せていたまえ」
『取引相手』のルンペルの言葉は案じるようでいてその実、抵抗は無駄だと突きつけているに過ぎない。それを理解したヴィンスが取れる手段は、自らに意識させようとするようにゆっくりとしたズボンを脱がされる冷えたルンペルの手を受け入れる事だけだった。
「ああ、控え目で可愛らしい形だ。濡れも反応もしてはいないようだが、よく啼いてくれてはいたけど、気持ちよくは無かったかい?」
「っ……こんな行為で、昂りを覚えるはずがないだろう……!!」
嘲るルンペルの言葉に、ヴィンスの敵愾心が煽られて声を荒げた。この男は己が心を擦り減らし、屈服させる事に悦びを感じている事は理解している。この己の反発は、ルンペルを楽しませるだけだと知ってはいても、反発せずにはいられない。
「そうか、それはすまない事をした。ならば君にも愉しんで貰えるよう、私も努力をしよう」
「っ……!!」
乱暴な仕草で腰を引き上げられた後、指先で尾骨をグリグリとした動きで撫でられる。小さく声を押し殺して身を強張らせているヴィンスの様子を、ヴィンスは目を細めて観察していた。そのまま冷ややかで野太い指はゆっくりと降りると、後孔の縁をゆるりと撫でられた。
「おや? 随分柔らかで緩んでいる。まるで、雄を受け入れた事があるかのようだ」
ルンペルの露骨な指摘に昨夜ベートを受け入れた情交を思い出し、苦痛と屈辱に青白く染まった顔が羞恥の紅色に染まる。これ以上、この男を愉しませてなるものか。何を言われようとも冷静に受け流せ。何度もヴィンスは自らに言い聞かせているが、一度羞恥を自覚してしまった身体は益々顔に血を登らせる事しかできない。
頑なに意識を逸らして触れられる感覚から、ヴィンスは目を閉じ心から追い出そうと必死に神経を傾け続けている。さっさと終われと祈りながらルンペルが後孔の周囲を撫でる指の冷たさを堪えていると、耳に毒のような甘い言葉がそっと忍び寄る。
「君は心や理性を重んじてる故に、自分の身体が思いどおりにならない事が不快なようだけど、自分の意思で心臓を止める事なんてできないだろう? 生物である以上、『本能』からは逃げられない。まずはそれを実感させてあげよう」
「な、ぁっ……!!」
ずぶりと二本の指が一気に付け根の部分まで入り込む。痛みが奔ると思っていたが、じっとりとルンペルの指を蜜で濡らしながら包み込んでいた。何故、自分の身体はこの辱めを受け入れる。何故、己の胎の内からひっきりなしにグチリと蜜が絡む淫猥な音が出る。
「っ……」
「君の身体は、刺激をこんなに切なく求めているんだ。無視をしたら可哀想だ」
中を広げて襞の一つ一つを確かめているような指の動きが、陽根の様に奥を突きたてる動きに変わった。最奥が疼き、間断なく責められる指の動きに合わせて下腹の奥が収縮を繰り返し、喉がつかえて息ができなくなる。
「く、ぅっ……ぁ、うっ……!!」
奥を責める動きから一気に引き抜かれ、堪らずヴィンスは首を仰け反らせた。水の上から取り出された魚のようにのたうちを繰り返す無様な姿を、ルンペル暗褐色の瞳がじっとりと嬲るように観察している。じっとりと締め付けられるような湿深い視線でさえも身体は過敏に反応し、尻の間を濡らす淫液が濡らす感触が堪らなく不愉快だった。
「あ、う……」
快楽でも痛みでもいい。ルンペルが齎す刺激から意識を逸らせる何かが欲しかった。自分の身体が心とひどく乖離しながらも断絶する事はできない苦しみから、解放されたかった。
「心と身体の繋がりが離れていると、苦しいだろう? さぁ――この国で培った良識なんて捨てて、身体が味わうものを素直に受け入れてあげれば良い。そうすれば、楽になれる」
「ひ、ぁ……」
胎の壁のふっくらとしたしこりの部分を啄むような動きで挟まれながら語りかけられると、この男の言葉に染め上げられてしまいそうになる。自分の身体は、この毒々しい蹂躙を拒めない。そして、自分が尊んでいる理性と思考は、そんな弱くて浅ましい身体に呆気なく屈してしまう。
(弱くて、無様で、浅ましい――これが――私か)
諦念と共に身体から力が抜ける。雄に喰われる事を、自分の身体はあっけなく受け入れてしまう。ルンペルの手によって、充分以上にそれを思い知らされてしまった以上、抵抗する気力はヴィンスの心のどこを探しても残ってはいなかった。
「……」
未だ蜜を溢れさせ続ける後孔から指が引き抜かれ、汚れの始末をするように臍の下を指の腹で強く圧される。きっとこれから、充分に解し慣らされた肉筒で、ルンペルの雄を咥え込むことになるのだろう。
諦念が強く瞼を閉じる力さえも失って、ゆるりとヴィンスの目尻が緩んだ時、ルンペルの太腿に乗せられていた腰がはたりと草の上に落された。
「ゥゥゥゥゥ……!!」
狼を思わせる低い唸り声に目を開くと、ルンペルの顔へと向かって伸ばされた包帯に包まれた右腕が、鍛えた褐色の腕に掴まれている光景がヴィンスの視界に広がった。
「ベー……ト?」
震える声でヴィンスが問いかけると、食いしばったベートの唇の中からギリギリと歯が食いしばる音がした。
「おやおやベート、随分手荒い歓迎じゃないか。哀しくなる」
飄々と腕を掴んでベートを制するルンペルに対し、ベートの金色の瞳が燃えるように爛々と光った。
「うるさい……ヴィンスに……何をしている……!!」
「私が彼を手籠めにしていると思ったのかい? ならそれは誤解だ。私は彼と『取引』をしたに過ぎない。だろう? ヴィンス」
ルンペルに問いかけられ、ヴィンスは思わず顔を逸らした。自分の淫らさを重々に理解した今、自分をキラキラとした眼差しで見つめるベートの瞳が軽蔑に染まる様を見る覚悟ができない。小さく項垂れるヴィンスの耳に、純粋な怒りに染まった声が聞こえた。
「取引だからって、知るものか!! ルンペルはヴィンスを傷つけた!! だから許さない!!」
自分の為に激昂しているベートの言葉は、砕けそうなヴィンスの心を優しく抱きしめる様に暖かい。目頭が熱く鳴り、泣きだしそうになるのを静かに堪えているヴィンスと、怒りを帯びるベートの金色の瞳を交互に見比べていると、ルンペルは小さく肩を竦めた。
「君の怒りを『買う』のは得策ではないな。ヴィンス、今回払う君の対価は、これで終いとしよう。だから君からも説明してくれ」
ヴィンスはまだ、払った対価に相応しい『商品』を貰ってはいない。口惜しくはあるが、この場でルンペルを失ってしまっては、あの蹂躙が無駄になってしまう。ノロノロと起き上がると、ヴィンスはベートの包帯に塗れた右腕にそっと触れた。
「ベート、大丈夫だ。ルンペルから手を離してくれ」
「でも、ヴィンス……」
「私は平気だ。だから離せ」
二度念押しされると、怒りに染まったベートの金色の瞳が段々と理性を取り戻してゆく。包帯越しの腕から力が失った事を確認すると、ルンペルはベートの腕から手を離した。
「良い子だね、ベート」
「ゥゥゥ……」
まだルンペルを許した訳でも、警戒を解いたワケでもない、と意志を示すようにベートはまだ唸り声を上げている。だが、攻撃する意図は無い事は分かっているのか、ルンペルは実に余裕綽々とした態度で服を払うと、立ち上がった。
「さて、このまま此処で話すとしても、味気ない。ベート、良い茶葉を持って来たんだ。君の家でヴィンス君も交えて一緒に飲まないかな?」
ルンペルの提案に、ベートは周囲を伺い苦々しい表情を浮べた後、ヴィンスへと視線を向けた。
「ヴィンスは、それで良い?」
「ああ、人目につくのは困る――ルンペルの提案は合理的だ」
「じゃあ……そうする」
草の上に投げ出された自分のズボンを履き終えると、ヴィンスは立ち上がった。中を解された衝撃はまだ身体に残り、よろけそうになる身体をベートの腕が優しく包む。
「大丈夫? ヴィンス」
「ああ、平気だ」
心配に眉を歪ませるベートを安心させようと、ヴィンスは微かに笑みを向けるが、伏せられた眉は下がる事はない。ベートの腕から身を離れて数歩歩が、再びよろけて崩れ落ちた。
「ベート、ヴィンスは随分疲れているようだ。彼を担いであげたらどうだい?」
「……」
ルンペルの言葉に、ベートは一瞬不快そうな表情を浮べた。だが、腰と足を震わせながら懸命に立とうとして立てずにいるヴィンスの表情を見ると、心配そうなものに変わった。ヴィンスの方へと近づき、抱き上げようとベートは腕を伸ばすと、若草色の瞳が傷ついたように目を伏せられていた。
「寝台の上でなくてご不満かな? 威勢が良いと思ったが、中々に可憐だね」
「うるさい……さっさとしろ」
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「っ……」
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「花散らされる事を怖がる乙女のように、さめざめ泣くかと思っていたが、中々に気骨がある――君は本当に雄を煽るのが上手い」
「私はそんな事――っ……!!」
露になった胸の突起に、鋭い爪が立てられる。ピリピリとする痛みに言葉を失い、一度身体を跳ねさせたヴィンスに対して、ルンペルは捕食者の眼差しで見つめながら、日に焼けていない白い陶器のように艷やかな肌に赤黒い舌が近づいた。
「痛いのは少し刺激的だったかい? このくらいなら、どうかな?」
「……ぁ、っ……!!」
冷ややかで湿った舌が、肌をそっと這う感覚はまるで蛇に身体を這われているようで怖気立つ。この男が与えるものを、受け取りたくなんて無い。チクチクと背中を刺す葉の鋭さや歯を唇で噛んで生まれる痛みへ意識を向けようとすると、肋骨の隙間をグリグリと舌が抉るように押される
「っ、ぅ……!!」
いくら己が虚弱といえど、舌で貫かれる程柔らかな身体ではない。頭の中ではヴィンスは重々に承知しているものの、舌でゴリゴリと骨を押される感覚に、被食される草食動物のような心地にさせる。ルンペルもそれを承知しているのか、舌は段々と下腹部へと降り、内蔵を貪る狼を思わせる舌使いで臍の周辺を円を描きだす。
「ん、ふっ……ぁ、ぅっ……」
内臓を舌で押される事で生まれる疼きは内側を抉られ溶けるような疼きと異なり、死の予感を常に帯びていた。生存本能に突き動かされるままルンペルから逃げ出そうと腰を捩らせると、大きな褐色の手に両腰をしっかりと掴まれ動きを封じられた。
「そんな逃げ出すような反応をされると、益々逃したくなくなるだろう?」
「っ、ぁっ……!!」
ぐり、と臍の窪んだ箇所に舌の先端が入り込むと、胎の奥底が不規則に震え出す。痛みヴィンスは何度も息を吸おうと試みるが、肺に孔でも空いてしまったかのように、上手く身体に巡らせる事ができなかった。
息苦しさと痛みで表情を歪ませているヴィンスの様子を、ルンペルは暗褐色の瞳でじっくりと見つめ、愉しんでいる。腰を掴んでいた手の力を強めると、ギシリと骨が小さく軋み、白い肌にくっきりと青黒い手の跡が付く。
チラリとルンペルがヴィンスの様子を確かめると、強い痛みに動く事も出来ないのか、ヴィンスは薄緑色の瞳からジンワリと涙を滲ませてただ身を震わせて痛みに耐える事しかできない。
その様子は細首を徐々に締め上げるような楽しみを、ルンペルに与えていた。痛みと服従に心を蹂躙されるヴィンスの姿は、とても美しく、愉悦と満足を与えてくれる。ならば悦楽に溺れる姿はどうなのだろうか?
「君の心を表すように、肌も身体も繊細だ――此処はどうなのかな?」
腰を掴んでいた手を離し。やんわりと問いかけながらズボンに手を掛けられ、ヴィンスは声を上げて上半身を起こそうとした。だが、腰と下腹部の痛みに襲われて身を再び身体を草の上に倒れ込ませる事しか出来ない。
「下腹部が痛むんだろう? 無理はせず、私の手に身を任せていたまえ」
『取引相手』のルンペルの言葉は案じるようでいてその実、抵抗は無駄だと突きつけているに過ぎない。それを理解したヴィンスが取れる手段は、自らに意識させようとするようにゆっくりとしたズボンを脱がされる冷えたルンペルの手を受け入れる事だけだった。
「ああ、控え目で可愛らしい形だ。濡れも反応もしてはいないようだが、よく啼いてくれてはいたけど、気持ちよくは無かったかい?」
「っ……こんな行為で、昂りを覚えるはずがないだろう……!!」
嘲るルンペルの言葉に、ヴィンスの敵愾心が煽られて声を荒げた。この男は己が心を擦り減らし、屈服させる事に悦びを感じている事は理解している。この己の反発は、ルンペルを楽しませるだけだと知ってはいても、反発せずにはいられない。
「そうか、それはすまない事をした。ならば君にも愉しんで貰えるよう、私も努力をしよう」
「っ……!!」
乱暴な仕草で腰を引き上げられた後、指先で尾骨をグリグリとした動きで撫でられる。小さく声を押し殺して身を強張らせているヴィンスの様子を、ヴィンスは目を細めて観察していた。そのまま冷ややかで野太い指はゆっくりと降りると、後孔の縁をゆるりと撫でられた。
「おや? 随分柔らかで緩んでいる。まるで、雄を受け入れた事があるかのようだ」
ルンペルの露骨な指摘に昨夜ベートを受け入れた情交を思い出し、苦痛と屈辱に青白く染まった顔が羞恥の紅色に染まる。これ以上、この男を愉しませてなるものか。何を言われようとも冷静に受け流せ。何度もヴィンスは自らに言い聞かせているが、一度羞恥を自覚してしまった身体は益々顔に血を登らせる事しかできない。
頑なに意識を逸らして触れられる感覚から、ヴィンスは目を閉じ心から追い出そうと必死に神経を傾け続けている。さっさと終われと祈りながらルンペルが後孔の周囲を撫でる指の冷たさを堪えていると、耳に毒のような甘い言葉がそっと忍び寄る。
「君は心や理性を重んじてる故に、自分の身体が思いどおりにならない事が不快なようだけど、自分の意思で心臓を止める事なんてできないだろう? 生物である以上、『本能』からは逃げられない。まずはそれを実感させてあげよう」
「な、ぁっ……!!」
ずぶりと二本の指が一気に付け根の部分まで入り込む。痛みが奔ると思っていたが、じっとりとルンペルの指を蜜で濡らしながら包み込んでいた。何故、自分の身体はこの辱めを受け入れる。何故、己の胎の内からひっきりなしにグチリと蜜が絡む淫猥な音が出る。
「っ……」
「君の身体は、刺激をこんなに切なく求めているんだ。無視をしたら可哀想だ」
中を広げて襞の一つ一つを確かめているような指の動きが、陽根の様に奥を突きたてる動きに変わった。最奥が疼き、間断なく責められる指の動きに合わせて下腹の奥が収縮を繰り返し、喉がつかえて息ができなくなる。
「く、ぅっ……ぁ、うっ……!!」
奥を責める動きから一気に引き抜かれ、堪らずヴィンスは首を仰け反らせた。水の上から取り出された魚のようにのたうちを繰り返す無様な姿を、ルンペル暗褐色の瞳がじっとりと嬲るように観察している。じっとりと締め付けられるような湿深い視線でさえも身体は過敏に反応し、尻の間を濡らす淫液が濡らす感触が堪らなく不愉快だった。
「あ、う……」
快楽でも痛みでもいい。ルンペルが齎す刺激から意識を逸らせる何かが欲しかった。自分の身体が心とひどく乖離しながらも断絶する事はできない苦しみから、解放されたかった。
「心と身体の繋がりが離れていると、苦しいだろう? さぁ――この国で培った良識なんて捨てて、身体が味わうものを素直に受け入れてあげれば良い。そうすれば、楽になれる」
「ひ、ぁ……」
胎の壁のふっくらとしたしこりの部分を啄むような動きで挟まれながら語りかけられると、この男の言葉に染め上げられてしまいそうになる。自分の身体は、この毒々しい蹂躙を拒めない。そして、自分が尊んでいる理性と思考は、そんな弱くて浅ましい身体に呆気なく屈してしまう。
(弱くて、無様で、浅ましい――これが――私か)
諦念と共に身体から力が抜ける。雄に喰われる事を、自分の身体はあっけなく受け入れてしまう。ルンペルの手によって、充分以上にそれを思い知らされてしまった以上、抵抗する気力はヴィンスの心のどこを探しても残ってはいなかった。
「……」
未だ蜜を溢れさせ続ける後孔から指が引き抜かれ、汚れの始末をするように臍の下を指の腹で強く圧される。きっとこれから、充分に解し慣らされた肉筒で、ルンペルの雄を咥え込むことになるのだろう。
諦念が強く瞼を閉じる力さえも失って、ゆるりとヴィンスの目尻が緩んだ時、ルンペルの太腿に乗せられていた腰がはたりと草の上に落された。
「ゥゥゥゥゥ……!!」
狼を思わせる低い唸り声に目を開くと、ルンペルの顔へと向かって伸ばされた包帯に包まれた右腕が、鍛えた褐色の腕に掴まれている光景がヴィンスの視界に広がった。
「ベー……ト?」
震える声でヴィンスが問いかけると、食いしばったベートの唇の中からギリギリと歯が食いしばる音がした。
「おやおやベート、随分手荒い歓迎じゃないか。哀しくなる」
飄々と腕を掴んでベートを制するルンペルに対し、ベートの金色の瞳が燃えるように爛々と光った。
「うるさい……ヴィンスに……何をしている……!!」
「私が彼を手籠めにしていると思ったのかい? ならそれは誤解だ。私は彼と『取引』をしたに過ぎない。だろう? ヴィンス」
ルンペルに問いかけられ、ヴィンスは思わず顔を逸らした。自分の淫らさを重々に理解した今、自分をキラキラとした眼差しで見つめるベートの瞳が軽蔑に染まる様を見る覚悟ができない。小さく項垂れるヴィンスの耳に、純粋な怒りに染まった声が聞こえた。
「取引だからって、知るものか!! ルンペルはヴィンスを傷つけた!! だから許さない!!」
自分の為に激昂しているベートの言葉は、砕けそうなヴィンスの心を優しく抱きしめる様に暖かい。目頭が熱く鳴り、泣きだしそうになるのを静かに堪えているヴィンスと、怒りを帯びるベートの金色の瞳を交互に見比べていると、ルンペルは小さく肩を竦めた。
「君の怒りを『買う』のは得策ではないな。ヴィンス、今回払う君の対価は、これで終いとしよう。だから君からも説明してくれ」
ヴィンスはまだ、払った対価に相応しい『商品』を貰ってはいない。口惜しくはあるが、この場でルンペルを失ってしまっては、あの蹂躙が無駄になってしまう。ノロノロと起き上がると、ヴィンスはベートの包帯に塗れた右腕にそっと触れた。
「ベート、大丈夫だ。ルンペルから手を離してくれ」
「でも、ヴィンス……」
「私は平気だ。だから離せ」
二度念押しされると、怒りに染まったベートの金色の瞳が段々と理性を取り戻してゆく。包帯越しの腕から力が失った事を確認すると、ルンペルはベートの腕から手を離した。
「良い子だね、ベート」
「ゥゥゥ……」
まだルンペルを許した訳でも、警戒を解いたワケでもない、と意志を示すようにベートはまだ唸り声を上げている。だが、攻撃する意図は無い事は分かっているのか、ルンペルは実に余裕綽々とした態度で服を払うと、立ち上がった。
「さて、このまま此処で話すとしても、味気ない。ベート、良い茶葉を持って来たんだ。君の家でヴィンス君も交えて一緒に飲まないかな?」
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「ヴィンスは、それで良い?」
「ああ、人目につくのは困る――ルンペルの提案は合理的だ」
「じゃあ……そうする」
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「大丈夫? ヴィンス」
「ああ、平気だ」
心配に眉を歪ませるベートを安心させようと、ヴィンスは微かに笑みを向けるが、伏せられた眉は下がる事はない。ベートの腕から身を離れて数歩歩が、再びよろけて崩れ落ちた。
「ベート、ヴィンスは随分疲れているようだ。彼を担いであげたらどうだい?」
「……」
ルンペルの言葉に、ベートは一瞬不快そうな表情を浮べた。だが、腰と足を震わせながら懸命に立とうとして立てずにいるヴィンスの表情を見ると、心配そうなものに変わった。ヴィンスの方へと近づき、抱き上げようとベートは腕を伸ばすと、若草色の瞳が傷ついたように目を伏せられていた。
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けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
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