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来世は空気を希望します!
29.お助け絵巻様の降臨です
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「美和さんこんにちは!」
「絵巻様……。こんにちは」
にこにこ笑う絵巻様に促されて向かいの座布団に座る。
動く私の姿は、やっぱり元の世界の自分の姿だ。
ちゃぶ台の上にはお茶の入った急須と湯呑がふたつに、おせんべいなどが入った菓子盆が準備されていた。
「最初の一週間お疲れさまでした。ちゃんと見てましたよ。体調もう大丈夫そうですか?」
「あ、はい。もうすっかり」
「それは良かった! 来週にはもう入寮で、入学式目前ですからね、張り切っていきましょう!」
「はい。あ、絵巻様、お聞きしたいことが」
「何でしょう?」
「ご覧になっていたかもしれませんが……」
私はあの恐怖体験を話した。見えない壁に阻まれたこと。人が全然いないこと。
それをうんうんと頷きながら聞いてくれた絵巻様は、私が一通り話し終えるとしょんぼりと肩を落とした。
「怖い思いをさせてしまいましたね……。ごめんなさい。実は、町を作る力が足らなかったんです。説明しておくべきだったのに、私ったらもう!」
「町を作る力?」
「はい。この箱庭、『ほしわず完全模倣世界』を造るために、私情報をたくさん集めたんです。箱庭は神の力とその対象事物の情報をあれやこれやしてえーいって造るんですが、どの媒体をどう探してもこの町に関する情報が全然無くて! それで情報不足が反映された仕上がりに……」
なるほど。神様も都合よく無から何でも作り出せちゃうわけじゃないんだな。要はあれやこれやしてえーいするための情報リソースが足りず、調べて分かったことだけで完成にしたから中途半端な仕上がりになったと。
「……ああそっか、この辺の景色はゲーム内でもスチルとか背景とか全然無いですもんね。分かってるのは言葉ちゃん家とその周辺くらいで」
「そうなんですよう……。ゲームだけじゃなくて、ファンブックとか雑誌とかいろいろ探し回って情報収集したのに、この町のことはほとんど分からなかったんです! だから、じゃあもうしょうがない、分かってる範囲だけでも作っておいて、説明きちんとしようって思ってた、んですが……」
「それを忘れて私を送り出してしまった、と」
「う、はい……。その通りです……。お伝えせねば! と気付いたときにはもうこの毎週日曜日の交信を決めてしまった後だったので、他の神から興ざめするから決めた以上の手出しはするなと反発されてしまって……」
「そっかー」
しょんぼりを通り越して申し訳なさそうに小さく背中を丸める絵巻様。
何だろう、可哀想になってきた。
「……まあ、直接的に何かされたわけでもないですし、もういいですよ。もう何か言い忘れていることはないですよね?」
「な、ないです! 本当に!」
「じゃあいいです。今後もよろしくお願いします」
「はいっ、こちらこそ! そうだそれから、学園ではもうこんなことは起きませんから安心してくださいね。学園はものすごく情報がたくさんあったので、かなりしっかりと造れています! でもあくまで舞台は学園内とその周辺の土地だけなので、全然知らない場所とかには行こうとしないでください。『星色ワーズ』という作品に出てこないものは造りようがないので、造れる限界の境界に見えない壁がありますから」
「分かりました。気を付けます。……あ、壁は分かったんですが人は? 学園内でも主要キャラ以外は誰もいない感じですか?」
「いえいえ、それでは学生生活を送りようがないでしょう? ちゃーんと全校生徒分のモブを準備してありますよ! 町はほら、人がいなくてもあんまり関係ないので……ね」
理解理解。そうだよね、シーンとシーンの切れ目だから本当なら一瞬で場面が飛ぶはずなんだ。それが飛ばずに時間経過してるから私は散策に出てしまったけど、本来ならあり得ない、起き得ないことだったんだ。
学園では授業受けて部活して寮に帰るをほぼ毎日繰り返す生活だからある程度モブも作るの楽そうだけど、町はそうもいかないよね。この端っこに見切れている家の住人はどんな生活をしているでしょう? ってことでしょ。それが分かるのどんな名探偵よ。
人がいない理由が分かってほっとしたー。ホラーじゃなかったんだ。いやまあ今現在巻き込まれているこの異世界転生もどきも広くとらえればホラーかもだけど。
「分かりました。学園生活は賑やかに送れそうで安心しました」
「そうですね、わいわいがやがや楽しく一生懸命な生活になると思います!」
「良かったです。私からはもう何もないんですけど、今日はもうお助けの時間はおしまいでしょうか」
「うーん、どうしましょうか。私はもう少し美和さんのお話を聞きたいんですけれど……。怖かったこと以外にも、いろいろ体験なさったでしょう。初週の感想聞かせてほしいです!」
「……長くなっちゃいますよ?」
「どんとこいです! 神は暇ですし、たくさんお喋りしても大丈夫なようにお茶やお茶請けを用意したんですよ! 女子会しましょう! それに、キャラたちには言えないことを言って心のケアをするのもお助け内容のうちですから!」
「そういうことなら! えっと、やっぱりまずは目覚めたら推しの姿だったことから言いたいんですけど……」
絵巻様に相槌を打ってもらいながら、私はしばらくいろいろと喋り続けた。
体感で数時間は話してたかな。喋り疲れた頃に来週の約束をして解散した。
戻ってきた自室はの時計は午後九時を指していて、時間の経過がないのが不思議だなあと思った。
話していた疲れはあるから、早いけどもう寝ちゃおうか。
そう思ってベッドに入ったら、コンコンとドアをノックされた。詩穂さんだ。
「どうぞー」
返事をすると笑顔の詩穂さんが入ってくる。とても嬉しそうだ。
「言葉、綴くん明後日帰ってくるって! 今連絡があったわ」
「ほんと? 楽しみ!」
生徒会長観月綴。言葉ちゃんのお兄さん。
絵巻様によると、キャラは比較的自立的に造ってあるんだそうで。ストーリーから外れた行動はしないけど、それだけじゃ機械的過ぎるので、ある程度自分で考えて動くように設計したとか。
ゲーム内には「春休みに帰省した」としかなかったけど、実際に帰ってきて家で過ごすんだから行動や言動が伴うよね。
さて、どうなるやら。
「絵巻様……。こんにちは」
にこにこ笑う絵巻様に促されて向かいの座布団に座る。
動く私の姿は、やっぱり元の世界の自分の姿だ。
ちゃぶ台の上にはお茶の入った急須と湯呑がふたつに、おせんべいなどが入った菓子盆が準備されていた。
「最初の一週間お疲れさまでした。ちゃんと見てましたよ。体調もう大丈夫そうですか?」
「あ、はい。もうすっかり」
「それは良かった! 来週にはもう入寮で、入学式目前ですからね、張り切っていきましょう!」
「はい。あ、絵巻様、お聞きしたいことが」
「何でしょう?」
「ご覧になっていたかもしれませんが……」
私はあの恐怖体験を話した。見えない壁に阻まれたこと。人が全然いないこと。
それをうんうんと頷きながら聞いてくれた絵巻様は、私が一通り話し終えるとしょんぼりと肩を落とした。
「怖い思いをさせてしまいましたね……。ごめんなさい。実は、町を作る力が足らなかったんです。説明しておくべきだったのに、私ったらもう!」
「町を作る力?」
「はい。この箱庭、『ほしわず完全模倣世界』を造るために、私情報をたくさん集めたんです。箱庭は神の力とその対象事物の情報をあれやこれやしてえーいって造るんですが、どの媒体をどう探してもこの町に関する情報が全然無くて! それで情報不足が反映された仕上がりに……」
なるほど。神様も都合よく無から何でも作り出せちゃうわけじゃないんだな。要はあれやこれやしてえーいするための情報リソースが足りず、調べて分かったことだけで完成にしたから中途半端な仕上がりになったと。
「……ああそっか、この辺の景色はゲーム内でもスチルとか背景とか全然無いですもんね。分かってるのは言葉ちゃん家とその周辺くらいで」
「そうなんですよう……。ゲームだけじゃなくて、ファンブックとか雑誌とかいろいろ探し回って情報収集したのに、この町のことはほとんど分からなかったんです! だから、じゃあもうしょうがない、分かってる範囲だけでも作っておいて、説明きちんとしようって思ってた、んですが……」
「それを忘れて私を送り出してしまった、と」
「う、はい……。その通りです……。お伝えせねば! と気付いたときにはもうこの毎週日曜日の交信を決めてしまった後だったので、他の神から興ざめするから決めた以上の手出しはするなと反発されてしまって……」
「そっかー」
しょんぼりを通り越して申し訳なさそうに小さく背中を丸める絵巻様。
何だろう、可哀想になってきた。
「……まあ、直接的に何かされたわけでもないですし、もういいですよ。もう何か言い忘れていることはないですよね?」
「な、ないです! 本当に!」
「じゃあいいです。今後もよろしくお願いします」
「はいっ、こちらこそ! そうだそれから、学園ではもうこんなことは起きませんから安心してくださいね。学園はものすごく情報がたくさんあったので、かなりしっかりと造れています! でもあくまで舞台は学園内とその周辺の土地だけなので、全然知らない場所とかには行こうとしないでください。『星色ワーズ』という作品に出てこないものは造りようがないので、造れる限界の境界に見えない壁がありますから」
「分かりました。気を付けます。……あ、壁は分かったんですが人は? 学園内でも主要キャラ以外は誰もいない感じですか?」
「いえいえ、それでは学生生活を送りようがないでしょう? ちゃーんと全校生徒分のモブを準備してありますよ! 町はほら、人がいなくてもあんまり関係ないので……ね」
理解理解。そうだよね、シーンとシーンの切れ目だから本当なら一瞬で場面が飛ぶはずなんだ。それが飛ばずに時間経過してるから私は散策に出てしまったけど、本来ならあり得ない、起き得ないことだったんだ。
学園では授業受けて部活して寮に帰るをほぼ毎日繰り返す生活だからある程度モブも作るの楽そうだけど、町はそうもいかないよね。この端っこに見切れている家の住人はどんな生活をしているでしょう? ってことでしょ。それが分かるのどんな名探偵よ。
人がいない理由が分かってほっとしたー。ホラーじゃなかったんだ。いやまあ今現在巻き込まれているこの異世界転生もどきも広くとらえればホラーかもだけど。
「分かりました。学園生活は賑やかに送れそうで安心しました」
「そうですね、わいわいがやがや楽しく一生懸命な生活になると思います!」
「良かったです。私からはもう何もないんですけど、今日はもうお助けの時間はおしまいでしょうか」
「うーん、どうしましょうか。私はもう少し美和さんのお話を聞きたいんですけれど……。怖かったこと以外にも、いろいろ体験なさったでしょう。初週の感想聞かせてほしいです!」
「……長くなっちゃいますよ?」
「どんとこいです! 神は暇ですし、たくさんお喋りしても大丈夫なようにお茶やお茶請けを用意したんですよ! 女子会しましょう! それに、キャラたちには言えないことを言って心のケアをするのもお助け内容のうちですから!」
「そういうことなら! えっと、やっぱりまずは目覚めたら推しの姿だったことから言いたいんですけど……」
絵巻様に相槌を打ってもらいながら、私はしばらくいろいろと喋り続けた。
体感で数時間は話してたかな。喋り疲れた頃に来週の約束をして解散した。
戻ってきた自室はの時計は午後九時を指していて、時間の経過がないのが不思議だなあと思った。
話していた疲れはあるから、早いけどもう寝ちゃおうか。
そう思ってベッドに入ったら、コンコンとドアをノックされた。詩穂さんだ。
「どうぞー」
返事をすると笑顔の詩穂さんが入ってくる。とても嬉しそうだ。
「言葉、綴くん明後日帰ってくるって! 今連絡があったわ」
「ほんと? 楽しみ!」
生徒会長観月綴。言葉ちゃんのお兄さん。
絵巻様によると、キャラは比較的自立的に造ってあるんだそうで。ストーリーから外れた行動はしないけど、それだけじゃ機械的過ぎるので、ある程度自分で考えて動くように設計したとか。
ゲーム内には「春休みに帰省した」としかなかったけど、実際に帰ってきて家で過ごすんだから行動や言動が伴うよね。
さて、どうなるやら。
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