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来世は空気を希望します!

26.怖い目に遭っています

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 あいた。結構固いものに半身がぶつかった。躓いたとかではなく、割とがっつり。壁とか扉に押し付けられたみたいな。
 枝折くんの家が気になってそこばっかり見て周りを注意してなかった私が悪いな。
 ところで何にぶつかったんだ? 枝折くんの家の向かいのお家の敷地とかかな。気付かないうちに下がり過ぎた? 
 でも、周囲をぱっと見渡してもぶつかるようなものはなさそうだ。今立っているのは道のど真ん中で、超往来。
 あれ?
 気のせいじゃなく何かにぶつかったんだということを、わずかに痛む左腕が主張している。
 ……ちょっと、怖い、かも。
 左腕をさすりながら思う。
 っいや! 女は度胸! 探索続行! さらばだ枝折くんのお家!
 来た道と反対側、枝折くんのお家のさらに奥へと進もう。住宅街を抜けたら言葉ちゃんが利用したであろうコンビニとか洋服屋さんとか見つかるかもしれない。ゲーム内でこの辺りの土地の描写は全然ないから、事実としてそんなことがあったかはさておき妄想して楽しむだけですけど。
 数歩踏み出したら、また何かにぶつかった。今度は真正面からいってしまって、おでこをごつ、と打った。ひゃああ言葉ちゃんの玉のようなお肌、宝石にも勝る顔面に傷を!? 土下座! 切腹もの! 
 慌てておでこをさすって確かめるけど、腫れも出血もなし。良かった……。そんなに勢いよくぶつかったってわけでもないから助かった。
 ぶつかったものの方に顔を向ける。さっきと同じくやっぱり周囲にはすぐにぶつかってしまいそうなものはない。ていうか、今見えてるの、思いっきり住宅街の道だし。舗装道路の両側に家が立ち並ぶ、本当に普通の現代みたいな町。
 ここでふと思い立って奥の方へ手を伸ばしてみた。道の真ん中でそんなことしてもただ真っ直ぐ手が伸びるだけのはずなんだけど、上げた腕は一定のところで何かに触れた。
 ぺたぺた触って確かめてみると、それは板の形をしているようだった。ガラスとかプラスチックの板みたいに、向こうの景色を透かしている。でも切れ目がない。地面と接しているところは屈んで、上の方もぴょんぴょん飛んで手の届く範囲で確かめてみたけど、必ずこの見えない壁に阻まれる。
 どういうこと……? こんなのあったら向こうに行けなくて、この付近に住んでる人たち不便じゃん。何もないみたいに見えるから、さっきの私みたいにぶつかっちゃう人も出るでしょ絶対。
 そこまで考えて、ふと気づく。
 私、家を出てから誰にも会ってない。ううん、今日だけじゃない。目覚めてからずっと、この町では詩穂さんと枝折くん以外の人間を見ていない。学園に行くために乗った電車には人がたくさん乗っていたけど、駅に着くまで誰か見た覚えがない。
 おかしいよ、だって三月の平日の真昼間だよ? 犬の散歩してる人とか、買い物袋を持ったご婦人とか、いないわけなくない? 
 待って。待って、待って。
 怖すぎる。
 日差しは変わらず暖かく降り注いでいるのに、冷や汗が流れる。口の中が乾く。喉が張り付いて、声にならない。
 『星色ワーズ』は「魔術師育成学園青春ゲーム」です! イベントストーリーで肝試しチックな雰囲気になることはあっても、ホラージャンルではありません! 
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