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来世は空気を希望します!

23.転生?初日、全終了です

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 とりあえず今の魔法の行使について書いておこう。早くしないと忘れる。
 えーと、光の玉を「照らせ」で作れた。あったかい。ピンポン玉サイズ。ふわふわ浮いてた。触れない。魔法を使っている間、身体の中がぽかぽかしていた。意識を逸らしたら消えた。感動。……こんなものかな。もっと言いたいことはあるけど、感想でページ埋め尽くすのはちょっと。
 ふー……。ちょっと休憩。座ったままでぐっと伸びをする。ん~~、ぷは。
 ゲームでは言葉ちゃんのおうちでの様子はほとんど描写されない。だから今この時間はなんていうか、自由が利く感じがする。何となくだけど。シナリオとか考えなくていいから楽なのかな。別に学園が息苦しいという訳ではないけどね。これからは寮を基点に生活していくし、学園生活に慣れていかないといけないな。
 ていうか魔法……魔法かー! 私魔法使いか、えっへへへ!! 否応なしに気持ちが高揚していく。体の奥からむずむず興奮が湧き上がってきて勝手に顔がにやける。るんるん、うきうき、そわそわ。どんな言葉も微妙に当てはまらないし当てはまる。だって魔法だよ! 魔法使いだよ! 全人類の夢じゃんね! オタク特有クソデカ主語失礼します! 
 でも、自分で魔法を操ってみて、初めてこの世界における「魔法使い」についてちゃんと理解できた気がする。
 この世界は科学じゃなく魔術ありきだから、実は身の回り全てに企業の魔術式が仕込んである。
 詩穂さんが料理するキッチンも、枝折くんと乗った電車も、手や顔を洗った洗面所も。どういう魔術式かは企業秘密ってことで公にされていないことが多いけど、生活に欠かせないレベルまで魔術が浸透している。
 そうやって堅実に事象を積み重ねて発展してきた魔術の中に、突然それをガン無視して「想い」とか「願い」とか目に見えないふわっとした感情で影響を及ぼせる魔法が紛れ込むんだもん。
 何もしてないうちからテロリスト扱いされてもだよね、としか言えないよ。
 魔術を敷いている社会では、魔法使いの立場はとても脆い。だから「私は善良な力の制御ができる魔法使いですよ」ってことを主張できるように学ばなきゃいけないし、魔法使いであることを隠して魔術師として生きる必要があるんだ。うん、早めに気付けて良かった。
 それに魔術といっても、食器が踊り出したり呪文ひとつで瞬間移動したりできるわけじゃない。基本的には元の世界の科学で出来たことがそのまま魔術で出来ることに置き換わっただけ。
 この辺の感覚とか使用感が元の世界と同じで、実は私はそのことにひどく安心を覚えていた。
 蛇口を捻れば水が出て、電車のドアは自動で閉まる。
 ただそれだけのことにひっそりものすごく救われていた。
 やっぱりいきなり違う世界に放り込まれて、混乱というか、疲れていたみたい。
 というか、生活のことを言うなら、何ならこっちの方が便利すらある! 掃除とかお風呂とか、ちょっと面倒くさいことが一瞬で済むのほんと助かるー。
 もちろん自分で手づからこなすこともできる。湯船にじっくり浸かって疲れを癒したいなってときとか、一瞬で片付いちゃったら味気ないもんね。
 なんてことをつらつら考えていたら、ふわあとあくびが出た。
 うう、気が緩んだら眠たくなってきた。
 ……っと、そうだ。詩穂さんから荷造り始めとくように言われてたんだった。
 入寮の日までまだしばらくあるけど、後でバタバタしたくないしある程度の準備はしといた方がいいよね。
 クロゼットからキャリーバッグを引っ張り出す。わーい知らない推しの私物だあ!
 興奮しながら荷造りしてればあっという間に夜になり、お風呂や晩ご飯に呼ばれ。
 それらのやることを全部済ませて、少し休憩するつもりで自室のベッドに腰かけて……。
 そこで初日の記憶は途切れた。


 しゃらんしゃららんという音と、朝の光で目を覚ます。
 あれ、何かデジャブ。
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