来世は空気を希望します!~壁になって推しカプを見守りたい系オタクJK、目覚めたらヒロインでした解釈違いです!〜

小津 悠理

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来世は空気を希望します!

18.新しい美少年です

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「あっ……! ちょっと拾ってくる!」

 枝折くんに声をかけて、私はハンカチを追って並木へと走った。風に乗った薄いハンカチは十数メートルふわふわと飛ばされ、桜のそばの地面に着地した。
 なくさなかったことに安堵しつつ拾おうと足を早めれば、ふっと桜の陰から誰かが現れ先にハンカチを拾い上げた。誰かは辺りを緩慢な仕草で見回すと、走り寄ってきていた私に目を止めた。

「すみませんそれ私のです……!」

 声をかければすっとハンカチを持った手が差し出される。

「……はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」

 近くで見たその人は、私たちと同じ群青のネクタイを締めて制服を着ていた。同学年だ。
 霞みがかった森のような淡い緑の髪色に、湖の底の色をした瞳。神秘的な雰囲気を持った少年は、ハンカチを受け取った私をじっと見ている。

「あの……?」
「……その、ブローチ。……首席?」
「えっ? あ、ああはい」

 私を、というより胸元のブローチを見ていたようだ。それにしても不思議な間の人だな。ゆったりしてる。

「……今年の首席、きみ? ……すごい」
「ありがとうございます!」
「……僕、爽乃さわのまどか
「あっ、観月言葉といいます」
「……学年、いっしょ。……またね、観月さん」
「はい。入学したらまた会えたらいいですね。ハンカチありがとうございました、爽乃くん。じゃあ失礼します!」

 ふわふわ空間に取り込まれるかと思った。嫌な感じはしなかったけど、独特な人だったなあ。
 ゆるゆると手を振る彼にお辞儀を返して枝折くんの元へ走る。ちょっと待たせてしまったから急がなきゃ。

「ごめんね、お待たせ!」
「大丈夫。……今の人は?」
「ああ、ハンカチ拾ってくれたの。爽乃円くんっていって、同級生だった」
「新一年で俺たちの他にも今日学園に来てた人がいたのか」
「そうみたい」

 ハンカチをカバンにしまって再び歩き出す。綺麗な、印象的な人だった。クラス同じになったりするかなあ。
 爽乃円くんか。……待って、爽乃円? 
 歩き出して数歩、ばっと振り返る。もう柔らかな色彩を持つ彼の姿は見えない。

「どうかしたか?」
「あっううん、何でもない……」

 何でもなくない。爽乃円といえば、ほしわずでも屈指の人気キャラクター。ふわふわとした話し方と雰囲気、そこからは想像もつかないような高い魔術の実力。ギャップ萌えすごい。そして、枝折くん、綴くんに連なる言葉ちゃんガチ勢のひとりだ。
 枝折くんのように好き好きアピールが激しいわけでも、綴くんのように包容力があるわけでもない。円くんは子犬のように懐いて、言葉ちゃんのために動いてくれる。つまり忠犬可愛い枠だ。あのふんわりした緑がちょこちょこぴこぴこと自分のために働くさまはなんていうかこう……自尊心をくすぐられる。優越感みたいなものを感じる。この気持ちにハマって倒錯の道に進んで行ったオタク友だちが何人かいました。南無。
 じゃなくて。今のメインストーリーの円くんと言葉ちゃんの初遭遇のシーンだ! どうして気づかなかったんだろう。あんな美少年絶対忘れるはずもないのに。
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