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来世は空気を希望します!

8.学園へ向かっています

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 こんなに格好良い幼なじみがいるのに簡単には靡かない言葉ことはちゃんマジで最高だな……。鈍いというか距離感バグってるんだろうな。ファイトだ枝折しおりくん。道は険しいぞ。
 さて、枝折くんと取り留めもないことを話しながら歩いているうちに駅に着いた。言葉ちゃん家から徒歩十分の駅まで行って、そこから電車に乗って七駅のところにあるのが我らが地天学園です。ファンブック参照情報より。
 改札を通りホームに並ぶ。この辺は全く資料にない知らない場所なので、枝折くんに着いていくことしかできない。いや本当に枝折くんいてくれてよかった……。ひとりだったら絶対迷子だった。
 自慢じゃないけど美和わたしは方向音痴です。でも絵巻様は今の私は言葉ちゃんの着ぐるみを着てるようなものだって言ってたしその辺の能力も上書きされてるのかも。人生で方向音痴じゃなかったことがないから何とも言えない。
 まあそんなことは今はどうでもいいんだ。ほんとどうでもいい。今一番問題なのは、さっき励ましの意味で繋がれた手がそのままだということです!! 
 手全体を繋いでいる訳じゃない。なんて言うんだろ、人差し指から小指までを揃えて柔らかく曲げて鉤みたいな形にして、同じ形になってる相手の指に引っかけてるっていうの? 曲がってる第一関節から第二関節までの部分が相手の手のひらに包まれててめちゃくちゃ温かい。そろそろ体温が同じになってきました! 手の温もりがすごい!
 温もりっていうか枝折くんの手は若干汗ばんでるすらある。ちらりとその顔を伺えば、表情こそ落ち着いているようだけどほんのり耳が赤い。わたししってるそれきみがてれてるときのやつ。うわーうわーかわいいな! 大好きな幼なじみと手を繋ぐの未だに恥ずかしいのね! 高校生だもんね! 
 すごーくにこにこしてしまった。かなり心の中では荒ぶってるのでにやけた顔になってる自覚がある。ああでもダメだ、今の私は言葉ちゃんなんだから。スーパープリティフェイスにオタクのにやけたツラなんかさせられない。気力で真顔に引き締める。すんっ。
 いやしかしあれだなあ。私は言葉ちゃんで言葉ちゃんは私というのが今の状況な訳だけど、本当に解釈違いだな……。私が行動を起こさなきゃそれこそ「観月言葉そのもの」に解釈違いを起こすからちゃんと頑張って演じますけども。この言葉ちゃんと枝折くんの焦れったい幼なじみラブ、普段の私だったら萌え転がって手の周りの空気とかどちらかの袖口になることは可能ですか!? ってなってたよ。何なら今も頭の片隅でなってるよ。推しの爪になりたい。ロマンが詰まってるから薬指がいい。出来れば左手希望。
 なんて考えてるうちに電車が来たので乗り込みます。三月で学生が乗ってないとはいえ、社会人はお仕事がある訳でして、それなりにぎゅうぎゅう詰めの、朝の満員電車でございます。足が浮いたりする程じゃないけど、どこに立っても隣に立つ人と肩が触れ合うくらいの混み加減。
 ……ふむ。満員電車。可愛い女の子。傍らには手を繋ぐような関係のイケメン。後は分かるな? 
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