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来世は空気を希望します!

5.神様だそうです

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「わっまぶし……」

 玄関開けてみて初めて気付いたんだけど、言葉ことはちゃんちの玄関には階段が三段ある。立派な一軒家です。言葉ちゃんのお父さん、文明ふみあきさんが高給取りなのですよね。
 枝折しおりくんは階段の一番下で待っててくれていたから階段を挟んで会話をしていた。微妙に距離がある。
 さて行くぞと階段降りて枝折くんの隣に並んだところで突然目を開けていられないほどの真っ白な光に包まれた。あまりの眩しさに驚いてぎゅっと固く目を閉じる。次に目を開けたら目の前にはいかにも神様ですと言わんばかりの和装のお姉さんが正座で待機しておられました。訳が分からない。
 気付けば辺りは私とお姉さんのふたりきりになっていて、枝折くんも家の周りの景色もない。ただただ真っ白な空間に座布団二枚とちゃぶ台が一つ。謎に古風だな……。しかも私の姿は言葉ちゃんから元の自分、女子高生高垣美和の容姿に戻っていた。鏡も何も無いけれど、これまで慣れ親しんできた自分の身体だ。すぐに分かった。しばらくは混乱が勝ってしまって悲鳴のひとつもあげられなかったけど、身体に気付いてようやく声が出ました。

「なにこれ……」

 私が声を上げるなり座布団の横で正座していたお姉さんは私に向かって綺麗な土下座を披露した。

「ごめんなさい! 謝っても謝りきれないけど、本当にごめんなさい!」

 そう言ってばっと土下座の姿勢から顔を上げたお姉さんは言葉ちゃんとは系統の違う美人さんだ。日本人形みたいに整っている、『怜悧な美貌』ってフレーズが似合いそうな人。真っ直ぐな黒髪を姫カットに切り揃えていて、すっとした一重の黒い瞳が印象的。めちゃくちゃ混乱しているけどそんなクールビューティー美女が私に向かって土下座かましている様子に妙に冷静になったので対話を試みる。

「あの……土下座はもういいですからとりあえずお話聞かせてもらえませんか。たぶん、えっと……あなたは神様……ですよね?」

 色彩こそド日本人だけど、こんな美しい人が人間であってたまるか。そう思って話しかけるとお姉さんは洗練された仕草ですすすっと向かいの座布団の上に座り直した。

「はい……いわゆる神様です……。そのう、本当にごめんなさい! あなたをこんな目に遭わせたのは私です!」

 神様はそう言うと私たちを隔てるちゃぶ台に向かってまた頭を下げて、おでこをぶつけました。すごい音した。

「いったー……!」

「だ、大丈夫ですか」

「大丈夫です、大丈夫です……すみません……」

 あ、おでこ赤くなってる。痛そう。
 おでこをさすりさすり、神様はまた口を開いた。

「高垣美和さん。あなたの人生は」

「はい」

「正しく終わることが出来ませんでした。私のせいです本当にごめんなさい!」

 またがばっと頭を下げられたけどあんまりよく飲み込めなかった。というかこの人すごく冷たそうな見た目なのにもしやドジっ子さんか? かわいいな。
 どうぞおかけください、と空いている方の座布団を手で示されたので座る。
 それにしても、正しく終われなかったってどういうこと?

「すみません。よく分かりません。どういうことですか……?」

「ですよね……。あの……何からお話すればいいのか……私は八百万の神の一柱で、名を絵巻えまきと申します。私とても人間が好きでですね? 人間が好きなものも好きでですね? 今凝っているのがガーデニングでして。現世で人に化けて人間としてアパートを借りて、そのベランダで花を育ててたんですけど、置いてた位置が悪かったのか鉢植えのひとつがベランダから落っこちまして」

 おっと? 何となく次何言われるか読めるぞ。鉢植えと私とごっつんこしたんだろそうなんだろ。

「鉢植えが落っこちたその先ちょうど真下にいたのが美和さんです! 鉢植えが頭に直撃してほぼ即死でした重ね重ね申し訳ありません!」

 ほーらそうだった。そしてまた深々頭を下げられる。
 それにしてもなんて地味な死因。こういうときはトラックに撥ねられるのがお決まりなんじゃないの。

「つまり私は運が悪かった感じですかね……?」

「運、というか運命だったというか……」

 あれ。私の人生は正しく終わることが出来ませんでした、と言われたはずだけど。この言い方ってまだ人生が終わる予定じゃなかったように聞こえるぞ。びっくりしてたけどちゃんと聞いてました偉いので。

「本当なら美和さんはこれを回避できるはずだったんです。神と人間とは必要以上に接触しませんし出来ませんから。神が手ずから育てた鉢植えなんて以ての外です。でも何故か、運命がズレてしまって……。うう。……それでここからが本題なのですが、即死だったので今美和さんは現世で死んでらっしゃる訳ですけども、生き返る手段があります」

 えっほんとに? 

「はい。私のミスで死ぬはずじゃなかったのに随分早く人生を終えさせてしまいましたから。手違いの償いはきちんとさせていただきたく思います。……それで、ですね。生き返るに当たりまして、あー……うー……そのう……えーと……。」

 なんだかすごく言いにくそうに絵巻と名乗った神様は手を所在なさげに絡ませ、視線をあちこちに落ち着きなく彷徨わせている。

「……はい、あの、ちょっと言いにくいんですけども、神の悪いところが出まして……。私以外の日本の八百万の神から『神と接触するチャンスを得た人間とは珍しい! もう少し見ていたいなー?』との声が出まして、美和さんには本当に申し訳ないんですが、生き返るのに条件を付けて、その条件を達成しようと頑張る美和さんの挙動を見守ることになりました。現世でそれをすると問題がいろいろあるので我々が創り出した仮初の世界でです」

 何それ……。日本の神様ってすごい自分勝手なんだ。

「その仮初の世界なんですけども、美和さん『星色ワーズ』お好きでしたよね!? あらかた世界のことを知っている状態なら多少は楽しく臨機応変に対応できるんじゃないかなと思いまして! 私が創りました! 『ほしわず完全模倣世界』こと『神の箱庭』で! メインストーリークリアを目指してください! 我々神はそれを見守っています! そして美和さんが無事『箱庭』をクリアできた場合には何のしがらみもなく死はなかったことにされます。全力で神の力で何とかします。しかしクリア出来なかった場合、神で多数決がとられ、『箱庭』でループ……つまりゲームをコンティニューして観月言葉としてまた最初からやり直すか、高垣美和は死亡で処理した後美和さんの全ての記憶を消して輪廻転生の輪に戻すかの二択が採決されます。神は気まぐれで自由な存在なので美和さんにこの辺の道行きは選べません。本当にすみません……! でもお助けキャラとして私がお声がけというか対話というかサポートしてもいいことになったので! こうなってしまったのは私のミスですから全力でお手伝いさせていただきます!何の罪もない美和さんを死なせてしまった上に『箱庭』なんてふざけたシステムに巻き込むことを止められなかったお詫びです! 何でも言ってください!」

 怒涛の説明だった。頭パンクしそう。そして神様長ゼリフお疲れ様です。お茶飲む? 
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